更新日:2025年3月4日

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横須賀の谷戸で薪焼成によるアート作品を創作

横須賀市が谷戸地域の再生推進事業として手がけるアーティスト村。2018年に“村人”第一号として入居したのが陶芸家・土器作家として活動する薬王寺さんだ。敷地内に手作りの穴窯を開き、地元の土を使った薪焼成による作品を中心に創作活動を行っている。

薬王寺さん

“豊かに生きるとは何か”を自問してたどり着いた道

幼い頃からバイオリンを習い、吹奏楽部でホルンを演奏するなど、音楽を通じて表現する楽しさを知った。大学では社会学を専攻。社会学は、社会と人間の関係性をテーマに、あらゆる社会現象を紐解く学問だ。中でも薬王寺さんが特に興味を覚えたのが、「哲学」の領域。生きるとはなんぞや、豊かさとはなんぞやと自問しながら、進みたい道を探る中でたどり着いたのが「土」を使う創作活動だった。人は、土から生まれ土へ還る、と言われる。「陶作品は、土・火・水・気など、自然のエレメント全てを使い、人の掌を介して創り出されるもの。焼き物や土器は、人間が化学変化を利用してものづくりをした最初のプロダクト、とも言われています。“豊かに生きる”という命題と、“表現活動が好き”という想いが線で結ばれたような気がして、在学中から国内の窯業地を回り始めました」

心を奪われたメソアメリカの土器と土偶

大学卒業後、山梨・佐賀の窯元での修行を経て、20代後半で海外へ渡る。イタリア・リトアニアなどで創作活動を進めながら個展を開き、築窯に携わったり、アートプロジェクトへ参加したりするかたわら、ヨーロッパ各地を巡り、多彩なアートの世界に触れた。ある日、南仏ヴァロリスの博物館で出会ったメソアメリカの土器や土偶に大きな衝撃を受ける。奇抜で斬新な作品をたくさん見て、もうお腹いっぱいと感じていた矢先のこと。素朴で朴訥とした“土の塊”が、得も言われぬ力強さと圧倒的な存在感で薬王寺さんの心を鷲掴みにした。「売るためでも、見せるためでもない。ただ、ものを作る、という原始的な営みから生まれたであろう焼き物が、何千年もの時を超えて今なお、たじろぐほどの生命力を放っている。表現の本質、アートの根源はこれなのではないか、と心を打たれました」
プリミティブな表現に心を奪われ、日本の土器や土偶についても改めて勉強し直したという。「日本の土器に見られる造形美や死生観、精神性の高さなどは世界でも類を見ないレベル。技術力もずば抜けています。“日本ってすごい”と再認識させられました」

土器の写真

横須賀美術協会の推薦で「アーティスト村」へ

帰国後は横浜市で暮らし、埋蔵文化財の調査補助や整理作業、陶芸の指導などに携わりながら、自身の作品を個展やコンテストを通じて発表。独創性あふれる作品は数々の賞にも恵まれた。薬王寺さんが手がける作品は、薪焼成による土器やオブジェが中心だ。穴窯焼成や野焼きによる焼き締めは、炎の作用で土の味が引き出され、機械を使う加熱では得られない独特の美しさと味わいを生む。電気窯やガス窯のような利便性がない分、焼く場所が限られるのが悩みどころだった。「焼く場所を貸してもらうために遠方まで足を運ぶしかなく、長い間、穴窯を作れる場所を探していました」
横須賀美術協会の推薦により、横須賀市から「アーティスト村」への入村を打診されたのは2018年。現地を訪れ、自然豊かな環境に惚れ込み、入村を即決した。「最寄駅から徒歩わずか20分で、これほど山深い谷戸の環境が得られるなんて、まるで夢のような話。ワークショップやイベントで訪れる地元の方も“こんなところがあるんだ”と驚きます」

穴窯の写真

非日常を体感できる場を提供したい

入村後は、地域の方々や陶芸仲間の手を借りて念願の穴窯を自作。自然から得たインスピレーションを反映して創作活動に励むかたわら、ワークショップの開催をはじめ、地元の小・中学校の総合学習や高校の課外活動などのサポートも自ら提案して実践し、積極的に地域交流を図っている。「近所にホタルの名所があるので、鑑賞会も主催しています。最初の年は参加者が15名ほどでしたが、今では約400名が訪れてくれるんですよ」と顔をほころばせる。
海と山に囲まれる横須賀市は、米軍横須賀基地やどぶ板通り、『古事記』『日本書紀』に記される神話をもつ古い神社など、異国情緒と歴史ロマンに彩られる街だ。「ペリーが来航し、製鉄や造船の技術がいち早く発展して、日本が近代社会へ歩み始める最初の地となったのが横須賀。そんな黎明期の香りが色濃く残り、人が生きてきた足跡を強く感じる点も、創作活動の刺激になっています」
便利だけど都会過ぎず、ヒューマンな付き合いが残るのも横須賀市の魅力。「皆さん、フレンドリーに接してくれますし、米軍関係者との交流も盛んです。私もこの地に根ざして創作活動を続け、アーティスト村から様々な情報を発信していきたいです。緩衝地帯のようなこの場所で、“土を掘る、薪を割る、火を見る、薪で焼き締めて新たな物が生み出される”という非日常のストーリーを多くの方に体感していただき、豊かな時間を紡いでいけたらうれしいですね」

質問コーナー

Q横須賀市のおすすめスポットは?

数えきれないほど多くの見どころがあります。東京湾に浮かぶ唯一の自然島、「猿島」は深い緑に覆われ、まるでジブリの世界。国史跡に指定される砲台跡もあります。塚山公園、ヴェルニー公園、うみかぜ公園、観音崎公園など、景観や地形を生かした公園が多いのも魅力。ドック、ビーチ、漁港、軍港と、海岸の表情も多彩です。潜水艦を眺めながらのカフェタイムは、他ではなかなか体験できません。おすすめですよ、横須賀!

Q趣味はありますか?

ダイエットのために始めた筋トレにはまっています。週に2回、公営のジムへ通い、1年で体重が約10kg落ちました。毎朝、20~30分のウォーキングも日課にしています。

Q移住希望者へ伝えたいことは?

一番大事なのは、周りの人とのコミュニケーション。見知らぬ人がよそから越して来たら不安に思われる方もいるでしょうから、きちんと挨拶をして、その土地のことを知りたい、というスタンスで対話の機会を増やしていくとよいのではないでしょうか。私は、“こんな活動をしています”と最初にこちらから情報を開示し、よろしければご一緒にいかがですか?と積極的にお声がけしました。

写真

薬王寺太一さん

田浦和泉窯窯元、陶芸家・土器作家。東京都品川区出身、横浜市育ち。大学卒業後、山梨・佐賀の窯元での修行を経て、イタリア・リトアニアへ。留学中に出会ったメソアメリカの土器や土偶に大きな衝撃を受けて以来、よりプリミティブな表現・創造・生き方に傾倒。2018年より横須賀市に移住し、「アーティスト村(YOKOSUKAARTVALLEYHIRAKU)」を拠点に、主に間伐材を燃料とした野焼きと穴窯焼成による焼締め作品の創作を中心に活動中。

移住時の年代

40代

家族構成

単身

移住スタイル

Iターン

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活動場所 お名前

関わり方

(移住スタイル)

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