更新日:2025年3月4日

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本を通して人とつながる楽しさ知ってほしい

東京から箱根町仙石原へ転居。二匹の愛猫を伴い夫の実家へ移り住んだ。2021年にブックカフェ「本喫茶わかば」を開業し、看板猫とともに店を切り盛りする日々。地域コミュニティの活性化活動や野良猫に不妊去勢手術を施すボランティア活動にも取り組む。

箱根町廣田さん

水のおいしさに感動。自宅で温泉も

結婚を機に、夫の実家がある箱根町へ転居したのは2017年。もちろん転居前から箱根町のことは知っていた。独身時代に観光客として訪れた経験もある。「夫と知り合う前は、観光地としてのイメージしかありませんでした。民家はあるようだけど住めるのかな?皆さん、どんなお仕事をしているのだろう、と不思議に思っていたほどです」と当時を懐かしむ。
転居後は仙石原にある夫の実家で、夫の両親とともに暮らしている。義母と夫の勤務地は小田原。廣田家のように周辺市町村への通勤者もいるが、町外から働きに来る人のほうが多く、夜間人口と比べて昼間の流入人口が圧倒的に多いのが箱根町の特徴だ。「当たり前のことですが、皆さん普通に仕事をしながらこの町で暮らしています。自然豊かで緑が多く、空気がきれい。自宅に温泉を引くこともできます。何より水がおいしいことに驚いて、東京から持ってきた浄水器は処分しました」

居心地の良い「まちの読書室」開業を目指して

箱根と聞けば、だれもがわかる知名度の高さも利点のひとつだ。「日本だけでなく海外にもその魅力が伝わっており、それどこ?という説明なしに話が通じるのはうれしい。離れて暮らす友達も気軽に遊びに来てくれます」
しかし、観光地だからこそ感じるデメリットもある。そのひとつが、町民からよく聞かれる「住民の遊ぶ場所がない」ということ。「ファーストフードやファミリーレストランなど、日常的に楽しめる場所が少ないため、ささやかな娯楽を求めて皆、近隣の御殿場へ出かけています」。本好きの廣田さんにとっては、近くに書店がないことも寂しさを覚える点だった。「この街に、一人でも入れる『まちの読書室』のような場所を作りたい、住む人が気軽に遊びに行ける場所になれたら」。そう思ったのが、「本喫茶わかば」開業のきっかけだ。
場所は、自宅の隣にある築80年の日本家屋。夫の祖父が「若葉畳店」、祖母が「若葉みやげ店」を営業していた建物だ。二人が他界したあとは約10年間、空き家となっていた。「使っていいよ」と夫に背中を押され、6カ月後の開店を目指して急ピッチで準備に取り組んだ。もともとインテリア周りを工夫するのが好きだという廣田さんは、自分で壁の塗装やふすま紙を新調。シンクの増設やカウンターの設置など、工事が必要な箇所以外の作業はDIYで進めながら、小田原箱根商工会議所が低料金で提供する「起業スクール」へ参加し、ビジネスの基礎知識を身につけた。

店内の様子

ポジティブな気持ちを生む本をラインナップ

2021年3月、晴れて「本喫茶わかば」がオープン。古い家具をそのまま生かした空間に北欧風の雑貨や小物が配された和モダンな店内には、600冊以上の本が収蔵され、ゆったりと寛ぎながら読書を楽しめる。本の種類は、“暮らし”や“ライフスタイル”をテーマとする女性向けの書物を中心に、子どもも楽しめる児童書や絵本も充実。女性をメイン顧客層とする方針は、開店前から決めていた。もっと女性に世の中に出てほしい、力をつけてほしい。ポジティブな気持ちになれそうな本をラインナップし、自分だけの時間をゆっくり楽しめる場所を提供したい。そう考えるのは、就職活動で味わったジェンダーギャップが今も心に影を落としているからだ。「就活時は“超就職氷河期”。男子学生の就職先がどんどん決まっていく一方で、女子だけ企業からの資料が届かない、エントリーシートの段階で落とされるなど、数々の場面で苦汁を飲まされ、社会の現実を痛いほど思い知らされました。当時、味わった理不尽な思いは今も忘れられません。店で過ごす時間や主催イベント、ワークショップなどを通じて、女性が前向きに人生を切り拓いていくための一助を担えたらうれしいです」
店の人気メニューは、「里芋グラタン」。バター、生クリーム、小麦粉を使わない、さっぱりとした風味が“胃もたれしない”と好評だ。「私自身、胃腸が弱いので、体に負担をかけないやさしく安全なメニュー開発を目指しています」

箱根まちなか図書館

女性の可能性を広げられる場でありたい

現在、店の運営とともに力を入れているのが、箱根町における様々なコミュニティづくりに取り組む「箱根あそびネット」の活動だ。飲食店や公共施設など、子どもたちが立ち寄りやすい場所に一箱サイズの本棚を設置する「箱根まちなか図書館」をはじめ、マルシェの開催や学習支援など、活動の幅はどんどん広がっている。東京で校正者として働いていた2013年当時から参加する小田原市での活動、「一箱古本市」も継続中。
本を通して人とつながる楽しさにのめり込んだのは、この小田原での活動がきっかけだった。「読書体験は、未知への案内人。悩みを解決し、ときには秘密を共有して、未来への一歩を踏み出す勇気を与えてくれる頼もしい味方です。“この本、面白いよ”の一言が会話のきっかけとなり、人と人が関係性を深めていく場面を何度も見ました。子どもと子ども、大人と子どもの出会いの場を創出し、地域コミュニティを盛り上げていきたいです」
経営者として心に決めているのは「わかば」の屋号を守っていくこと。「『わかば』は、家族の想いが詰まった大切な場所。改装を最小限に抑えたのも、家族みんなの思い出を大切にしたかったからです」。最近は、店の常連客から“私もお店を開きたい”という声が聞こえてくることもある。「自分の経験を生かして、ノウハウをお伝えする機会を作ることも考えています。『わかば』を通じて、女性たちに可能性やひらめきを与えられるような活動をしていきたいですね」

質問コーナー

Q 箱根町のおすすめスポットは?

「本喫茶わかば」以外なら(笑)、仙石原のすすき草原がおすすめです。訪れた際は、ぜひ、遊歩道の一番上まで登ってみてください。仙石原の集落を一望でき、夕暮れどきは特にロマンチックです。金時山もおすすめ!山頂では、すぐ目の前に富士山を一望でき、その雄大で壮麗な姿に圧倒されます。

Q お店を開きたい方へ伝えたいことは?

まず、お金の勉強をしましょう(笑)。実現したいことを自分の言葉で説明できるプレゼン力も必要です。また、知らない土地で開業する場合は、地域の方との関係性構築も重要。私は開業前に義母が「お店の趣旨を説明して皆さんにご挨拶しましょう」と町内会の会合へ連れていってくれたおかげで、スムーズに仕事を始められました。商店会があるなら所属し、活動に協力するのも大切。猫のボランティア活動に参加したことも、地域の方とのつながりを促進できた要因のひとつでした。

Q 二拠点生活や移住希望者へ伝えたいことは?

やっぱり、いきなり飛び込むはリスキーです。まずは現地をしっかりとリサーチ。どの市町村、自治体にも移住担当の部署があると思うので、その窓口に相談するのがおすすめです。懸念点を解決してから実行に移せば、こんなはずじゃなかった、という事態を防げるのではないでしょうか。

廣田さんと愛猫

廣田いとよさん

ブックカフェ「本喫茶わかば」店主。茨城県守谷市に生まれ、都内の大学へも実家から通学。卒業後に上京し、ベーカリー勤務、校正者の仕事を経て、2017年より箱根町在住。“猫が趣味”と言い切る生粋の猫好きで、東京で暮らしていた頃から保護猫活動に携わっている。現在、3匹の愛猫、なぎさ・タビ・トランと同居中。

年代

40代

家族構成

移住スタイル

Iターン

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活動場所 お名前

関わり方

(移住スタイル)

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