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2024年1月29日更新

結核

結核は、細菌の一種である結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によりおきる病気です。結核菌は長さ1~4μm、直径0.3~0.6μmの細長い形をしています(図参照)。

結核は過去の病気と思われがちですが、世界中で流行しています。日本において結核に新たに感染した人の割合(罹患率)は2021年に人口10万人あたり9.2で、前年に比べて0.9減少し、米国をはじめとする先進国の水準に年々近づき、近隣アジア諸国に比べても低い水準にあります。※1

高齢者において、昔に感染した結核が再び活動性をもつようになったり、若い世代において、医療機関への受診が遅れるケースが増えていたりすることによって、患者数の減少が妨げられています。感染症法では全数把握対象疾患2類感染症に定められています。 
(※1:厚生労働省「2021年 結核登録者情報調査年報集計結果について」より)


図:喀痰塗抹検査(チール・ネルゼン染色)
(赤:結核菌、青:上皮細胞)


(諸外国のデータはWorld Health Organization "TB country, regional and global profiles"より2020年のデータを引用)

目次

「感染」と「発病」について

結核は、「感染」と「発病」の違いを理解することが大切です。

「感染」とは

結核菌が体内に存在しますが、症状は現れていない状態をいいます。この状態では人へ結核をうつすことはありません。医療機関や保健所では、この状態を潜在性結核感染症(Latent Tuberculosis Infection : LTBI)として扱っています。

「発病」とは

結核菌が体内で増え、咳などの症状が現れた状態をいいます。症状が進行すると、咳や痰の中に結核菌が排出され、人へ結核をうつすようになります。感染した人のうち、発病に至るのは1割から2割程度とされています。高齢、糖尿病、癌、疲労などで身体の免疫が低下すると、過去に感染して体内に定着していた結核菌が活発になり、発病に至ることがあります。

(参考)非結核性抗酸菌症について

結核菌に似た細菌に非結核性抗酸菌があり、これによって引き起こされる病気をいいます。非結核性抗酸菌には多くの種類がありますが、人に病原性があるとされているのは10種類ほどです。主に土や水などの自然環境に広く存在し、結核菌と異なり人から人へうつすことはありません。主な症状は咳や痰で、ひどくなると血痰や全身倦怠感が現れます。結核に比べて薬が効きにくく、治療期間が長引いたり再発したりすることもあります。

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感染経路

結核菌を排菌している人の、咳やくしゃみなどによる飛沫に含まれる菌を直接吸い込むことによって感染する場合(飛沫感染)と、飛沫周囲の水分が蒸発し、空気中に漂った状態の菌を吸い込むことによって感染する場合(飛沫核感染)があります。飛沫核となった結核菌が空気中に漂う時間は、身体の外に結核菌が出されてから数十分程度といわれています。

症状

典型的な症状は、感染後半年から2年以内に、咳や微熱、食欲低下、体重減少などの症状が現れます。特に、2週間以上の長引く咳がある場合は、結核の可能性を考えることが大切です。肺以外の臓器(骨や腸、リンパ節等)にも感染が及ぶ場合があり、感染した部位によって様々な症状が現れます。

診断について

診断には結核の「感染」を調べる検査と、「発病」を調べる検査があります。
「感染」を調べる検査には、QFT(キューエフティー)検査※2やツベルクリン検査※3があります。ツベルクリン検査はBCG接種の影響を受けるため、本来は陰性なのに陽性となる(偽陽性)ことがあります。一方、QFT検査ではBCG接種による結果への影響がありません。
「発病」を調べる検査には、痰などから結核菌を検出する方法(塗抹検査、分離培養、PCR法)と、胸部エックス線による肺病変の確認があります。塗抹検査では、痰を顕微鏡でみて結核菌が見つかると、排菌した状態であることが分かります。

※2:QFT(キューエフティー)検査
採取した血液と結核菌の抗原(ESTAT-6と、CFP-10、TB7.7という3種類の抗原を使用します)を混ぜて、血液中のリンパ球を刺激します。その結果、リンパ球が産生するインターフェロン-γ(INF-γ)というたんぱく質をELISA法(抗原と抗体を反応させる検査)で測定する検査です。BCGで使用する抗原とは異なるため、BCG接種の影響を受けないことが特徴です。小児ではQFT検査のデータが不足していること、また高齢の方では過去の結核感染によってQFT検査が陽性となる場合が多いことから(新たに感染した結核か、過去に感染した結核かの判定が困難)、これらの年代に対してはそれぞれ、ツベルクリン検査、胸部エックス線にて結核の感染を判断することが多くなっています。

※3:ツベルクリン検査
結核菌から精製したたんぱく抗原(ツベルクリン)を皮膚に注射し、48時間後に注射した部位の皮膚の変化を調べる検査です。結核菌に感染していると、注射されたツベルクリンに対してからだの免疫応答が起こり、注射した部位に強い発赤や硬結(こうけつ)が生じます。結核に感染していなくても、BCGと同じ抗原を用いているためにBCG接種を行っている場合には陽性に判定されることがあります。

参考 : 結核の感染を知る方法 ― 結核感染診断技術“IGRA” ―

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治療について

入院または通院で治療を行います。通常、結核菌を排出している場合は入院し4種類の抗結核薬(多剤併用療法)を、排出していない場合には通院で同様の治療を行います。治療期間は6ヵ月が標準的ですが、状況によって、延長されます。また、LTBIに対しては、通院で1種類の抗結核薬を6ヵ月、または2種類の抗結核薬を4か月内服します。治療の中断や不適切な治療によって、結核の再発や耐性菌※4の出現のおそれがあります。

※4:耐性菌
治療の中断や不適切な治療によって、結核菌は薬に対して耐性(薬が効かなくなること)を持つようになります。耐性を持つ菌を耐性菌といいます。その中で、結核の薬の主役であるINH(イソニアジド)とPEP(リファンピシン)の両方に耐性を持った菌を多剤耐性結核菌といいます。耐性菌の確認は、薬剤感受性試験という試験で行います。結核の薬(抗結核薬)の入った培地と、抗結核薬の入っていない培地それぞれに結核菌を接種・培養し、菌の発育状態を比較することによって判定します。抗結核薬が入った培地で一定以上菌の発育が認められた場合、その抗結核薬に対して「耐性」と判定します。


1%小川培地による標準法(比率法)
(公益財団法人結核予防会結核研究所ホームページより)

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届出基準

届出基準・用紙(厚生労働省)外部サイトを別ウィンドウで開きます

県所管域の保健福祉事務所・センターへの届出の際には、「結核発生届」に加え、以下のリンクから「別紙様式」をダウンロードし、添付していただきますようお願いします。感染症サーベイランスシステムで「結核発生届」を提出される際は、備考欄に「別紙様式」の内容の入力をお願いします。
結核に係る届出様式について(神奈川県)外部サイトを別ウィンドウで開きます

行政対応

予防・早期発見のために

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遺伝子型別検査

結核菌の遺伝子情報(塩基配列)を調べ、結核菌を型別する検査です。遺伝子型別検査には、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法※5やVNTR(Variable Number of Tandem Repeats)法※6があります。

※5:RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法
制限酵素という、DNAを切断する作用のある酵素を使用して結核菌のDNAを切断し、切断されたDNAの長さを比較する方法です。切断されたDNAの長さは結核菌の株によって異なることを利用して、菌株を型別する方法です。

※6:VNTR(Variable Number of Tandem Repeats)法
結核菌のDNAには、塩基配列(DNAを構成するヌクレオチドに結合する塩基:アデニン、グアニン、シトシン、チミンの4種類の並ぶ順番)が繰り返される特定の部位があります。繰り返される回数が結核菌株によって異なることを利用して、菌株を型別する方法です。塩基配列が繰り返される部分のDNAを、PCRという方法で増やし、電気泳動によってそのDNA数を数値化し、菌株を型別します。

これらの検査は、結核が集団で発生した時など、感染の拡がりやまん延状態を調べるために行われます。2013年4月より、神奈川県衛生研究所微生物部では結核菌分子疫学調査事業において遺伝子型別検査を実施しています。下図はVNTR法を用いてMinimum spanning tree解析を行った結果で、数字は菌株の番号を示しています。同じ型であれば一つの円に入り、菌株間の距離が離れるほど異なる型であることを示し、結核菌の動向の把握を図り、結核対策に役立てています。

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神奈川県の発生状況

結核は、全国・神奈川県ともに毎年の患者報告数が最も多い感染症となっています。
神奈川県での過去10年間の推移をみると、2014年から減少傾向となっていますが、報告数は毎年、1,000件以上となっています。

2014年から2022年にかけて、神奈川県の結核患者報告数は年々減少傾向となっていますが、毎年の報告数は1,000件以上と、依然として高い推移を示しています。

全国の罹患率と比較すると、神奈川県の罹患率は、全国と同様に年々低下していることが分かりました。

神奈川県内の罹患率を比較すると、横浜市と川崎市は毎年、神奈川県の罹患率を上回っていますが、神奈川県の罹患率と同様に、低下傾向となっていることが分かります。

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結核Q&A

Q: 結核の症状はどのようなものですか?
A: 初めのうちは、痰や微熱、全身倦怠感などの症状が現れます。進行すると、痰に血が混じったり、肺に広がった結核菌によって呼吸困難を生じるようになります。また、肺以外に結核菌が及んだ場合には、その部位によって様々な症状が出てきます。
   
Q: 結核が感染するのは肺だけですか?
A: 結核菌は、肺以外にも骨や腸、リンパ節、腎臓、皮膚など全身を侵します。結核菌が血液の中に入って全身に広がった結核を、粟粒(ぞくりゅう)結核といいます。
   
Q: 感染後発病しない場合も、菌は残るのですか?
A: 発病しない場合であっても、菌は体内に封じ込められたまま残ります。免疫が低下すると、再び結核菌が活発になり結核を発病する場合があります。
   
Q: 結核の治療はどのように行うのですか?
A: 痰や咳の中に結核菌を排出している(排菌)限りは、他人に感染させる恐れがあるために入院して治療を行います。痰の検査を繰り返し行い、結核菌が排出されなくなり、胸部レントゲンでも問題がないと判断された時点で退院し、自宅で治療を続けます。通常、3~4種類の抗結核薬を6カ月から9カ月内服します。排菌していない場合は、外来で治療を行うことが可能です。
   
Q: どのような時、結核が集団感染したというのですか?
A: 感染が2家族以上にわたり、20人以上の感染者が生じた場合をいいます。ただし、発病者1人は感染者6人として計算します(例:感染者が8人、発病者が2人の場合は感染者が8+2×6=20人となり、集団感染したとされます)。
   
Q: 小学校のツベルクリン検査がなくなったのはなぜですか?
A: 以前は、ツベルクリン検査で陽性となったお子さんは結核に対する免疫があると判断し、BCGを接種しないことになっていました。しかし、ツベルクリン検査は反応に個人差があるため、本来結核の免疫が十分でないお子さんにBCGが接種されないこともありました。現在は、誰もが結核にならないよう、乳児期に全員BCG接種を行うことになっています。

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参考リンク

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