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NO.114


2006年6月発行 神奈川県衛生研究所


新しい結核感染診断技術“QFT”

―QFT:クォンティフェロン®TB-2Gについて―

結核を過去の病気と思っていませんか? 今でも、最大級の感染症の一つです。今回は最近開発され、結核感染診断法として従来のツベルクリン反応検査よりも確実で、結核予防対策上有用性が期待されるクオンティフェロン®TB-2G (QFT)について紹介します。
           

微生物部 大屋 日登美

Ⅰ 結核の現状

 世界では、年間 800万人が新たに結核を発病し、200万人が死亡しています。その多くは開発途上国での発生ですが、日本は国際的にみても他の先進国に比べ罹患率(対人口10万)が23.3と高く、結核中蔓延国とされています。日本における2004年の結核新登録患者(新たに結核と診断され登録された患者)も全国で29,736人と、結核は依然として国内最大級の細菌感染症なのです。

神奈川県における 2004年の新登録患者は1,941人、罹患率は22.2と報告され、罹患率の高い大都市(東京都、川崎市、横浜市)と隣接する県域でも集団発生時の対応や接触者検診の強化が必要となります。当衛生研究所では、新しい結核感染診断技術であるQFTを導入し、昨年11月から結核の接触者検診において、補助診断法の一つとして本検査を実施しています。

Ⅱ 新しい結核診断技術

1  QFTとは

 


  被験者から採取された血液に結核菌特異抗原を混ぜて培養し、T細胞から遊離するインターフェロン -γ(INF-γ)をサンドイッチ免疫酵素法(ELISA)で測定する方法です。その大きな特徴として「BCG接種の影響をうけない」ということがあげられます。

2 ツベルクリン反応(ツ反)と QFTの違い

ツ反に使われる抗原(PPD)は、 結核菌培養液から精製された製剤を使用しており、牛型結核菌から作成した BCGワクチンとアミノ酸配列が類似(99.95%)しています。日本においては、BCG予防接種が広範囲で実施されているため、ツ反陽性が結核感染によるものなのか、BCGの影響によるものなのか、判定に困るという問題がありました。そういう状況の中で、不要な予防内服が行われることがあると、被験者の負担になるとともに医療経費もかかることになります。
   QFTでは、結核菌に特異的な2種類の抗原(ESAT-6/CFP-10)を用います。これら抗原は、BCGには存在しないので、BCG接種の影響を受けることなくより確実な結核感染診断が可能になります。ただ、試薬が高価であること、5mL の血液が必要であること、一定の検査技術レベルと設備が必要であること等が難点です。

3 結核接触者検診における QFTの流れ


血液をヘパリン採血管にて5 mL採血します。リンパ球(Th1細胞)の免疫活性を低下させないために室温(17~27℃)で血液を搬送し、QFTを実施します。 
  検査には2日間を要し、 1日目は①結核菌抗原で血液中のリンパ球を刺激し、2日目は②血漿を回収し、③ELISA法にてINF-γを測定し、④データを解析し、得られた結果を保健所に報告するという流れになります。

4  QFT の実際

1) 1日目:抗原刺激および血液培養

 

①採血後、 12時間以内にP2実験室の安全キャビネット内で血液を分注し、②刺激抗原(ESAT-6/CFP-10)、陰性コントロールの生理食塩水、陽性コントロールのマイトジェン(PHA)溶液を滴下します。③ミキシングシェーカーで混和し、④加湿で37℃16~20時間(18時間推奨)培養します。

2) 2日目:ELISA(IFN-γの測定)

①血漿の回収を行い、遠心して血球を除きます。②得られた検体(血漿)と酵素標識抗体をマイクロプレートに添加し、③ふらん器にて 22℃±5℃で120分反応させます。④マイクロプレートウォッシャーで洗浄し、⑤発色試薬を加え正確に30分反応させます。反応時間が長くなると発色が進み、測定値が高くなることがあります。

3)データ解析


① 反応停止液を加えたら直ちにマイクロプレートリーダーで吸光度(主波長 450nm,副波長620または650nm)を測定します。
② 測定した吸光度データは解析ソフトを使用し、データ解析を行います。

4)測定結果の判定

  下表の判定基準は、日本結核病学会予防委員会の「クオンティフェロン® TB-2Gの使用指針(結核;81:393-397,2006)」に基づいたものです。測定値は、ESAT-6抗原又はCFP-10抗原に対する測定値の内の大きい方とします。陽性対照の測定値が基準より低い場合(0.5IU/mL)は、測定値が0.35IU/mL以下でも判定保留、陰性とせずに「判定不可」とします。なお、判定保留は、日本だけの判定基準で米国などでは設定されていません。国内においては、判定保留を疑陽性とする意見もあります。

測定値

判定

0.35IU/mL以上

陽性

結核感染を疑う

0.1IU/mL以上~0.35IU/mL未満

判定保留

感染のリスクの度合いを考慮し、総合的に判断する

0.1IU/mL未満

陰性

結核感染していない

5 神奈川県衛生研究所における QFT 検査の実施状況

  当所では、平成 17年11月から18年3月末までの5か月間に、結核定期外検診のツ反検査で結核感染が疑われる168検体についてQFT検査を実施したところ、陽性(+)5件、判定保留(±)9件で、他は陰性(-)でした(下表参照)。

検体数

陽性(+)

判定保留(±)

陰性(-)

168

5

9

154

表 QFT 検査(平成17年11月~18年3月)

今回の QFT検査は、ツ反検査で結核感染が疑われる例を対象としており、結果は91.67%が陰性を示し、被験者負担と医療経費等をかなり軽減可能であることを示すものでした。
  このように神奈川県では、定期外健診の強化策の一つとして、 QFT検査を接触者検診に応用し成果を上げつつあります。また、このような応用例は、BCG接種が広範囲に実施されている日本においては地域住民を結核から守るための貴重なデータとなると思われます。
  QFT検査は、結核予防対策推進のための新技術として、米国CDCで2005年12月にガイドラインが発表され、日本でも2006年5月に日本結核病学会予防委員会でQFTの使用指針が提示されました。今後、これらに基づいた多くのデータが蓄積され、現状の課題を解決した精度の高い検査法の開発・普及が期待されます。

   
衛研ニュース NO.114 2006年6月発行
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