結核新登録患者は、高齢者が年々増加する傾向がみられます(図-1)。結核流行時(1940年代)に若い世代であった人の中には、結核に感染していても発病せずに過ごし、高齢期を迎え、体力・抵抗力が低下してきたことによって、肺胞内で休眠状態にあった結核菌が活性化し発病すること(再燃)があります。高齢者は発病しても明瞭な症状が出にくく、診断確定が遅れ重症化すること、さらに、様々な高齢者施設を利用する機会が多くなってきていることなどから、高齢化社会における結核の増加や集団発生が懸念されています。
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20歳代は社会的行動範囲も広くなるとともに、ストレスやダイエットなどが結核に感染するリスクを増大させています。また、大都市を中心に青年層の感染率は高くなっています。この理由のひとつとして、不特定多数が利用する施設を介しての感染が考えられ、壁で閉鎖された換気の悪い個室が感染拡大の場となっているようです。さらに、若い世代の多くは結核に対する免疫が低いため、感染すると比較的早い時期(6ヶ月~2年以内)に発病する傾向があります。
このように、高齢者の結核が問題視されると同時に、20歳代の罹患率もその前後の年齢層より高いことは、わが国の結核の問題として無視できない状況になっています。
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結核は結核菌を排出する患者から、咳などで空中に飛散した飛沫核を吸入し、結核菌が肺胞に定着することにより感染します(空気感染)。しかし、感染者のすべてが結核を発症するわけではなく、発症するのは感染した人の10人に1人程度です。初期症状は風邪に似ており、微熱が続き、咳、痰、胸痛、倦怠感、体重減少、喀血等の症状が現れます。咳や痰が2週間以上続いた場合には医療機関で受診し、検査を受けることが勧められます。
結核菌は抗酸菌に属し、酸にもアルカリにも抵抗性があるため、抗酸性染色により他の細菌と明瞭に区別することができます(図-2)
咳、痰等の自覚症状が現れてから4週間以内に結核と診断された場合には、排出した痰の中に結核菌が顕微鏡で観察される割合(結核菌塗抹陽性率)は低いのですが、それ以降に診断された場合には塗抹陽性率が高くなるとともに、咳により結核菌が排出され人に感染させる可能性が高くなるため、入院する必要があります。
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患者から分離された結核菌の遺伝子を型別することで、結核集団感染であるかどうかの確認ができます。最近では従来法のRFLP法※1に代わってVNTR法※2による解析が進められています。VNTR法はPCRをベースとした遺伝子型別法であり、迅速・簡便で、結果が数値化されるので結核菌株の比較を容易に行うことができる特徴があります。
当所において、初発患者と続発した患者(2名)からの結核菌株をVNTRおよびRFLP解析した事例を示します。VNTR法(表-1)では3菌株すべて数値化のパターン(表の列の数字の並び)が同じで、RFLP法(図-3)では1本のバンドの違いでした(1本の相違は同一型と考えられる)。したがって、この3名が感染した結核は同じ結核菌であったと判定され、集団感染として厚生労働省に報告されました。
現在、VNTR法の標準化が進められており、広域の発生時には他機関とのデータの比較により迅速な行政対応ができ、また、通常の疫学調査では探知できない隠れた感染経路の発見が可能となるなど、結核予防対策に大きく貢献できると思われます。
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結核に感染しているかどうかを診断する方法は、従来のツベルクリン反応検査(ツ反)に代わり、新しい検査として、クォンティフェロン○RTB-2G(QFT※3)が開発されました。QFTの結果は、BCG接種の影響を受けることがないため、ツ反より正確に結核感染を診断できます。
当所で経験した結核集団感染事例におけるツ反とQFTの関係をみてみると(図-4)、ツ反発赤径が30mm以上であると感染が疑われ、薬を飲む対象となりますが、QFTが陰性であるため、薬を飲まずにすみました。QFTは結核感染を知る有用な方法と思われます。
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最近の傾向として、咳や痰の症状が出ても、自身が結核に罹っているとは気付かずに受診しないことや、受診しても病院で結核を疑わず診断までに日数がかかり結核発見の遅れがみられます。このような診断の遅れにより、患者が重症化し、大量の菌を排出して周囲に感染させてしまうことも少なくありません。
外国に目を向ければ、発展途上国では結核が蔓延しており、それらの国から多くの海外労働者や留学生が来日しています。中には母国で結核に感染して日本に入国後に発症することがあり、このような例が大都市および外国人労働者を受け入れている地域で多くみられます。
急性の感染症に比べ、慢性感染症である結核は感染場所の特定が難しいことや潜伏期間が長いことなどが壁となり、即効性の対策は困難となっています。そこで、患者の早期発見とともに、QFTで確実な感染診断を行い、結核菌が分離された場合は遺伝子型別で結核の伝播状況を知り感染経路を断つことが、感染拡大の防止に役立つ取り組みとなると考えます。
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※1:RFLP法;結核菌が持つ特異的な塩基配列の数とその位置により結核菌を型別する方法
※2:VNTR法;結核菌DNA中の繰り返し塩基配列数により結核菌を型別する方法
※3:QFT;被験者の血液に結核菌特異蛋白抗原を作用させ、そこから産生されるインターフェロンγを測定する方法
(微生物部 高橋智恵子) |
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