[ 2014.6.16 掲載 ]

結核の感染を知る方法

― 結核感染診断技術“IGRA” ―

結核を過去の病気と思っていませんか? 結核は今でも罹患率の高い感染症のひとつです。結核感染診断法としてIGRA(Interferon-gamma release assay)が開発され、現在国内ではQFT(クオンティフェロン®TB-ゴールド:QFT-3G)とT-SPOT(T-スポット®.TB)が使用されています。これらは、従来のツベルクリン反応検査よりも信頼性が高く、結核予防対策上の有用性が期待されています。今回は、IGRAの原理と当所で実施しているQFT-3Gの実施状況についてご紹介します。

● 内容

  1. 結核の現状
  2. 結核感染症診断技術
    1. IGRAとは
    2. ツベルクリン反応とIGRAの違い
    3. 結核接触者健診におけるQFT検査の流れ
    4. QFT検査
    5. 神奈川県衛生研究所におけるQFT検査の実施状況

Ⅰ 結核の現状

世界では、年間約 870万人が新たに結核を発病し、140万人が死亡しています。その多くは開発途上国での発生ですが、日本は国際的にみても他の先進国に比べ結核罹患率が16.7(2012年)、結核新登録患者(新たに結核と診断され登録された患者)は全国で21,283人(2012年)と、依然として患者数が多く結核中蔓延国とされています。
神奈川県における2012年の新登録患者は1,395人、罹患率は15.4と報告され、大都市とも隣接するために集団発生時の対応や接触者健診の強化が重要となります。「結核に関する特定感染症予防指針2011年5月改正」における「結核に係る健康診断」の項で「必要かつ合理的な範囲において対象を広げるほか、IGRA及び分子疫学的調査手法を積極的に活用することが重要である」とされています。
QFTは、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の改正(2007年)により潜在性結核感染症の診断検査法の一つとなり、感染症法に基づく結核の接触者健康診断の手引き(改訂第4版 2010年)の中ではQFTが第一優先の検査法と位置づけられました。現在では、QFT-3G(第三世代)が使用されています。 その後、ヨーロッパにおいて早くから使用されていたT-SPOT が健康保険適用となり、QFTとともに広く実施されるようになってきたのを踏まえて現在では手引の内容が修正されています(改訂第5版 2014年3月)。
※年間の結核新登録患者数を人口10万人あたりの人数で表したもの

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Ⅱ 結核感染診断技術

1.IGRA とは

IGRAとは、被験者から採取された血液に結核菌特異抗原を混ぜて培養し、血液中のリンパ球(Th1細胞)から遊離するインターフェロン -γ(INF-γ)を測定する方法の総称です。既に製品化されているものにQFTとT-SPOTがあります。QFTはINF-γの濃度をサンドイッチ免疫酵素法(ELISA)で測定し、T-SPOTは、INF-γを産生したリンパ球の数をスポットとして測定します。これらの検査は、特異度・感度が高いことが知られていますが、測定条件や結果の解釈にも十分気を付ける必要があります。

2.ツベルクリン反応とIGRAの違い

結核感染診断については、長い間ツベルクリン反応(結核抗原PPD皮内注射反応)が用いられていましたが、近年になってIGRAによる検査がおこなわれるようになりました。ツベルクリン反応に使われる抗原(PPD)は、 結核菌培養液から精製された製剤を使用しており、牛型結核菌から作製した BCGワクチンとアミノ酸配列が類似(99.95%)しています。日本においては、BCG予防接種が多くの人に実施されているため、ツベルクリン反応陽性が結核感染によるものなのか、BCGの影響によるものなのか、判定に困るという問題がありました。その問題は、不必要な予防内服による患者の負担や無駄な医療費につながります。
IGRAに使用される結核菌に特異的な抗原は、QFT-3Gで3種類(ESAT-6/CFP-10/TB7.7)、T-SPOTで2種類(ESAT-6/CFP-10)が用いられています。これらの抗原は、BCGには存在しないので、BCG接種の影響を受けることなくより確実な結核感染診断が可能になります。

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3.結核接触者健診におけるQFT検査の流れ

保健福祉事務所は、結核患者の登録に伴い、患者に接触した人の健診の中で必要に応じてQFT検査を実施します。
保健福祉事務所で採血を行い、検体が当所に搬送されてきます。その後検査を実施し、結果を保健福祉事務所へ報告します。

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4.QFT検査

1)抗原刺激および血液培養 (1日目)
血液をヘパリン採血管セット(陰性コントロール、刺激抗原入り、陽性コントロール)3本に各1 mL採血します。QFT-3Gでは、刺激抗原入りの採血管内にはあらかじめ3種類(ESAT-6/CFP-10/T.B7.7)の刺激抗原が噴霧されています。リンパ球の免疫活性を低下させないため、検体搬送にあたっては、採血後16時間以内、室温(17~27℃)で行います。 
①採血管内に噴霧されている刺激抗原、陽性コントロールのマイトジェン(PHA)※※と血液を反応させるため、②採血管を上下に5秒間又は10回振って混合し、③37℃で16~24時間(18時間)培養します。
※※マイトジェン(PHA):リンパ球を刺激させる物質

2)血漿回収及びELISA(IFN-γの測定) (2日目)

①1検体3本の採血管を遠心します。②血漿をマイクロチューブへ移します。この際に、血球が混ざらないように注意が必要です。③マイクロプレートを用いて血漿と酵素標識抗体を④17~27℃で120分反応させます。マイクロプレートウォッシャーで洗浄し、⑤発色試薬を加え、正確に30分 反応させます。

3)データ解析
反応停止液を加えたら①直ちにマイクロプレートリーダーで吸光度(主波長 450nm,副波長620または650nm)を測定します。②測定した吸光度データは解析ソフトを使用し、データ解析を行います。

4)測定結果の判定
下表の判定基準は、日本結核病学会予防委員会の「クオンティフェロン® TBゴールドの使用指針(結核;86:839-844,2011)」に基づいたものです。測定値は、ESAT-6/CFP-10/T.B7.7抗原に対する測定値から陰性コントロールの値を差し引いて求めます。陽性対照の測定値が基準より低い場合(0.5IU/mL)は、測定値が0.35IU/mL未満でも判定保留あるいは陰性とせずに「判定不可」とします。

測定値 判定 解 釈
0.35IU/mL以上 陽性 結核感染を疑う
0.1IU/mL以上~0.35IU/mL未満 判定保留 感染のリスクの度合いを考慮し、総合的に判断する
0.1IU/mL未満 陰性 結核感染していない

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5.神奈川県衛生研究所における QFT検査の実施状況

神奈川県(横浜市・川崎市・相模原市・横須賀市及び藤沢市を除く)では、検体数が年々増加してきています。2013年には229事例1,151検体の依頼があり、前年(295事例、1,156検体)より事例数においては減少傾向がみられましたが、検体数は同程度でした。結果は、陽性が100検体(8.6%)、判定保留が100検体(8.6%)、陰性が943検体(81.6%)、判定不可が8検体(0.7%)でした(下表参照)。

表 結核接触者健診におけるQFT検査結果(2012~2013年)
検体数 陽性 判定保留 陰性 判定不可
検体数 検体数 検体数 検体数
2012 1156 126 10.9 95 8.2 930 80.4 5 0.4
2013 1151 100 8.6 100 8.6 943 81.6 8 0.7

また、次に示すグラフは、2009年から2013年の5年間における被験者と結核患者の接触場所別の事例数(図1)、および2012~2013年の1事例あたりの検体数(図2)を示したものです。2013年を接触場所別にみると延べ281事例となり、その内訳は、前年同様に家庭が最も多く、次にその他(友人等)と職場、医療機関、学校の順でしたが、1事例あたりの検体数は、学校が17.0検体と最も多く、医療機関9.5検体、職場6.2検体、その他2.5検体で、家庭は2.1検体と最も少ないことがわかりました。
陽性率が最も高かったのは学校29.4%で、次いで家庭14.5%、職場、その他がそれぞれ7.9%、医療機関4.5%の順でした。

このように当所では、結核予防対策の一つとして、接触者健診にQFT検査を導入し、接触者の結核感染の有無を診断する材料とすることで、結核の蔓延防止に役立てています。
QFT検査は、結核予防対策推進のための技術として、米国CDCで2005年12月にガイドラインが発表され、その後日本においてもQFT-2G、3Gと普及してきました。
2011年には、日本結核病学会予防委員会でクオンティフェロンTB-ゴールドの使用指針が提示されています。また、T-SPOTについても欧米での実績を踏まえ、国内でも2012年から普及してきていることが報告されています。これらの検査法についてはこれからも改良された方法や新しい方法が生まれることが期待されます。
当所では、今後、さらに多くのデータを蓄積し、より精度の高い検査法の導入により結核対策へ貢献できるよう取り組み続けていきます。

(微生物部 大屋日登美)

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