アフターコロナの人材マーケットにおける就職氷河期世代の重要性

就職氷河期世代支援の集中支援期間に位置づけられた2020年度からの3年間は、折り悪く新型コロナウイルス感染症の蔓延と時期が重なりました。この3年間、雇用環境全体を振り返ると、飲食業や観光業など幅広い業種で就業者が減り、また雇用調整助成金の効果もあり失業には至らなかったものの休職せざるをえない状況に追い込まれた人が数多くいました。事業者からすると、新規の雇用どころではなく、既存の従業員の雇用維持に、四苦八苦されてきたのではないでしょうか。

そうした中にあっても、就職氷河期世代支援施策そのものの一定の成果は見えてきています。筆者自身も先日、企業と就職氷河期世代人材のマッチングに取り組みましたが、その場でも施策が一歩ずつ前に進んでいることを感じています。

しかし、就職氷河期世代の中には、意欲やポテンシャルを持ちながらも、機会に恵まれず、現在の働き方や生き方の中で、もがいている方も多くいます。そうした方一人一人の就労がうまくいくように、事業者の皆様のさらなるご理解や、就職氷河期世代に対する可能性を実感して頂ける機会の創出が必要だと考えています。

アフターコロナを論じるのは、少し気が早いかもしれませんが、本稿では、コロナ禍後の人材マーケットにおける就職氷河期世代の重要性について筆を進めます。

少し前のことになりますが、2021年12月に『就職氷河期世代支援に関する行動計画2021』(以下、「行動計画」という。)が内閣官房により公表されました。行動計画では、就職氷河期世代支援に関する「現状認識」、「経緯」に続き、「基本的考え方」が記載されており、この中で3年間の集中支援期間後の取り組みの方向性についても示唆されています。以下、行動計画からの抜粋です。

『支援プログラムは、3年間を集中的に取り組むべき期間と定めているが、他方で、就職氷河期世代の方々はそれぞれに事情が多様であり、就職氷河期世代への支援は、セーフティーネットによる支援や再就職・人材育成支援をはじめ、息長く取り組んでいくべき課題である。
今後とも、全国及び地方のプラットフォームを通じて、社会全体の気運醸成や好事例の横展開を図りつつ、地方自治体や関係支援団体、当事者団体、さらには労使双方の産業界を含め、最前線で取り組む職員・相談員一人一人まで、思いを一つにして就職氷河期世代の方々の活躍の機会が広がるよう継続的な取組を推進する。』

3年間の集中支援期間後も、息長く就職氷河期世代支援には取り組んでいくべきであり、今後とも就職氷河期世代の活躍の機会が広がるように、継続的な取り組みが必要であると述べています。こちらは、就労支援の側から見た「就職氷河期世代支援」の重要性です。 確かに社会全体で見ると、現在、就職氷河期世代の中心となっている40歳代の人材は、現役世代として生産活動や社会保障を維持するとともに、子育てや介護も担う世代です。この世代の困窮や社会参画の欠如は大きな問題だと言えます。また同時に、貯金も少なく年金も少ない人が多いこの世代の老後を想像すると、コロナ禍後も引き続き、重点的な施策として、取り組む必要があることがわかります。

事業者にとってはいかがでしょうか。「人材」として必要性を認識できなければ、雇用したり、活用したりすることには至りません。筆者も小さいながら会社経営をしてきたので、事業者の立場をよく理解できます。就労支援側のいうこともよく分かるのですが、実際のところ、この世代を採用して成果を出してくれるのだろうか、と。

就職氷河期世代の採用に関しては、実際に採用したことがある事業者と、そうではない事業者との間で、イメージのギャップがあるように思われます。筆者が就労支援に携わる自治体で採ったアンケート調査結果によれば、これまで採用したことがない事業者からは、「就職氷河期世代は扱いづらい」や「人手不足解消にはなるかもしれない」という回答が多かったのに対して、これまで同世代を採用・活用してきた事業者からは、「就職氷河期世代は、他の世代と変わらない」「これまで培った経験を仕事で活かしてくれる」という回答が多く寄せられました。

これまで経験したことがない新しいことに挑戦しようとするとき、人も会社も慎重になります。しかし一歩踏み出してみると、心配事は何事もなかったかのように過ぎ去ります。就職氷河期世代採用に躊躇されてこれまで採用・活用したことがない事業者の方は、ぜひ一度、彼ら彼女らに活躍の機会を与えて頂きたいと考えています。

こうした社会背景の中で、「諦め」や「しらけ」といった価値観が幅広く根付いていることを、筆者は就労支援の現場で感じています。右図はモチベーション理論の一つでポーター氏とローラー氏が提唱したモデルです。就職氷河期世代に当てはめて考えてみると、非正規雇用形態や経済低迷などの社会要因により、本人の努力や労力の割に(また本来持っている能力や資質の割に)、成果や業績が上がらず、収入などの外発的報酬だけに限らず、成長や承認などの内発的報酬も得ることが少なく、満足感を得られずに、次の行動へのモチベーションが高まらないという状態を長く経験してきたと思われます。

実際のところ、アフターコロナを見据えて、業種によってはすでに求人倍率はコロナ禍以前を上回っています。思い出してください。コロナ禍以前は大変な人手不足でした。雇用調整助成金などで人員調整を図るフェイズから、今まさに事業再構築を経て、どの事業者も求人活動を積極的に展開していこうとするフェイズです。若手人材には若手人材としての良さがあり、就職氷河期世代人材には就職氷河期世代人材の良さがあります。多くの事業者の目が若手人材に集まるのであれば、わざわざ過当競争に参加するのではなく、就職氷河期世代人材のマーケットに目を向けるのも一つではないでしょうか。

 

就職氷河期世代の採用市場に目を向ける際、気にしておきたいポイントとしては、単に人手不足解消のための採用ではなく、プラスアルファとして、就職氷河期世代が有する経験や知見に目を向けることだと考えます。
採用活動の先にある事業運営を考える上で、就職氷河期世代の多種多様な経験の存在感は、人材マーケットの中で、今後ますます大きさを増していくと考えています。

次回、就職氷河期世代は、「人材」としてどのような点が評価できるのか。そしてどのように育成していくべきかをまとめていきます。

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。