就職氷河期世代が活躍できる職場風土とは?

昨年度、筆者も企業訪問を通じて多くの採用担当者と対話をしてきました。よく聞く質問として、「就職氷河期世代って採用するのはいいけど、本当に職場で活躍してくれるの?」というものがあります。結局のところ、雇用した人が活躍してくれれば、年齢がどうであっても、それまでの経験がどうであっても、採用意欲が社会に伝播するはずですが、現在、必ずしもそういう状況になっていないのは、就職氷河期世代が活躍している事例や実態があまり世の中に浸透していないからだと考えています。

おそらく世間では、就職氷河期世代は「なんとなくフリーターなどの非正規経験や無業状態が長く、雇用したとしても職場での活躍は見込めないのではないか」という認識が一般化されているのかもしれません。
これまで5回にわたり、就職氷河期世代の採用・活用メリットや、採用を成功させるためのポイントについて、筆者が経験してきたことを踏まえて述べてきましたが、6回目となる今回は、どうすれば就職氷河期世代が活躍できるのかをまとめたいと思います。

就職氷河期世代が活躍するために

就職氷河期世代が活躍できるかは、就職氷河期世代の当事者のがんばりはもちろん必要ですが、そうした人材を活かすことができるかは受け入れ企業の考え方による部分も大きな比重を占めています。

これは何も就職氷河期世代だけのことを述べているのではなく、新入社員であってもそうでしょうし、すごい実績を持つ凄腕人材であっても同じでしょう。人材を活かす風土や制度、働く環境や仲間がいなければ、どんな優秀な人材でも活躍することは至難の業だと思います。

逆に考えると、活躍できる就職氷河期世代を採用するのではなく、自社で就職氷河期世代がどのように活躍できる環境を整えるのかを考える方が、事業の成長や会社の経営にとっては早道だと言えます。 以下、就職氷河期世代の動機づけ要因について考え、そのあと、就職氷河期世代が活躍できる職場風土や環境について考えていくことにします。

就職氷河期世代の仕事への動機づけは何か?

仕事につながるモチベーション(動機付け)は、その人が生まれてきた社会背景や有している価値観が影響しています。コロナ禍の中で「新たな就職氷河期世代」を生み出してはいけないと、政府による各種取り組みも進められています。最近、新しく社会人生活を始める世代は、「Z世代」と呼ばれることがあります。デジタルネイティブ(生まれた時からインターネットが日常の中にある)であり、性差をあまり意識することなく、自分らしさを大切にする。そして、あまり「欲」がないとも言われています。このZ世代の採用には、従来のように財務指標や仕事の楽しさを訴える採用活動ではなく、企業の社会的価値(たとえば、SDGsに熱心であるなど)や、自分の生活も大切にできるなどの価値観を共有できるかどうかを伝えていくことが求められてきています。

一方、就職氷河期世代の価値観はどうでしょうか。世代的には団塊ジュニア世代を含む、いわゆる「X世代(ジェネレーションX)」に当てはまります。1960年代後半から1970年代後半までを対象としたカテゴリーのため、X世代の中でも価値観に違いはあるものの、生まれ育ってきた社会背景として総じて言えることは、①幼少期に高度経済成長期の余韻やバブル期などの時代を知っていること、②生きてきた時代のほとんどが経済的なダウントレンド期だったこと、③インターネット、スマホなどのデジタル環境や、人口減少や社会的価値観などの激変を社会に出る前後のタイミングから経験していること、などが挙げられるはずです。

こうした社会背景の中で、「諦め」や「しらけ」といった価値観が幅広く根付いていることを、筆者は就労支援の現場で感じています。右図はモチベーション理論の一つでポーター氏とローラー氏が提唱したモデルです。就職氷河期世代に当てはめて考えてみると、非正規雇用形態や経済低迷などの社会要因により、本人の努力や労力の割に(また本来持っている能力や資質の割に)、成果や業績が上がらず、収入などの外発的報酬だけに限らず、成長や承認などの内発的報酬も得ることが少なく、満足感を得られずに、次の行動へのモチベーションが高まらないという状態を長く経験してきたと思われます。

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ここから見えるのは、就職氷河期世代の仕事への動機づけは、これまで得ることができなかった「仕事の成果/実績」ということが言えるのかもしれません。

また併せて考えなければならないのは、有名なマズローの欲求階層理論でいう「生存欲求」や「安全安心の欲求」の部分です。40代に入ってくると健康リスクも高まってきたり、親の介護や子育てとの両立を考えたりと、本人の想いとは別にライフスタイルを見直さざるを得ない状況となってきます。そうしたことから、必要な収入を得ながら、本人や家族との関係性の中で安定的なライフスタイルを築くことができるかということも、重要な動機づけのひとつに数えることができるはずです。

就職氷河期世代が活躍できる職場風土・環境

これは就職氷河期世代に限った話ではありませんが、人事担当者や経営者が基本的に採るべき事柄は、本人が望む最低限の処遇が得られて、職場内に自分の居場所があり(孤立しておらず、自分を認めてくれる人がいる)、さらにキャリアアップや成長の実感を持てる風土や環境を作ることにあります。
その上で、ここまで検討してきた就職氷河期世代の動機づけ要因などを踏まえると、次のような施策が有効ではないかと思われます。

 

① 失敗が許され、前向きに取り組むことが許される
がんばっても報われないことを痛感している就職氷河期世代にとって、活躍のための最初の突破口は、「小さな成功体験」に結び付く環境整備です。失敗が許され、前向きに仕事に取り組むことが許される環境づくりです。

② 小さな成功を認め、報いることができる
そして「小さな成功」を本人が達成すれば、それを評価することが必要です。評価されなければ結局、「がんばっても報われない」という諦めの境地から脱することはできません。給与や待遇などの直接的な評価でもいいでしょうし、本人に過度な負荷がかからない程度の承認も効果があると思います。「小さな成功」を評価されることで、それは体験となって、次へのモチベーションにつながります。

③ 本人や家族の都合で仕事を休んでも挽回できる
「小さな成功体験」を回し続けるためには、この世代特有の健康管理面や家庭環境面への配慮が必要となるかもしれません。本人や家族の都合で仕事を休んでも挽回できる、そんな職場環境や制度、雰囲気があると良いと考えます。

以上、就職氷河期世代が活躍できるために、どのような取り組みが求められるかを考えてきました。とりわけ特別な施策が必要だとは思いません。また、筆者が考えること以外に、施策は数多く考えられると思います。ぜひ貴社にとって、就職氷河期世代が活躍できる取り組みを一度、検討していただけるきっかけになればと思っています。

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。