就職氷河期世代の効果的な育成方法について

アフターコロナでは再び、人手不足が常態化することが見込まれます。とはいえ、1990年代にパソコンやインターネットが普及するのにつれて、求められるスキルや考え方が変わったのと同様に、新型コロナウイルス感染症が蔓延してきたこの間、求められるスキルや考え方も大きく変容してきました。
そうした時代にあって、就職氷河期世代は、「人材」としてどのように評価することができるのでしょうか。そしてどのように育成していくべきなのでしょうか。

2022年4月、厚生労働省が「就職氷河期世代の活用方法〜企業を元気にする12の好事例集〜」(以下、「事例集」)を発表しました。
事例集URL:https://www.mhlw.go.jp/shushoku_hyogaki_shien/common/images/example12_20220323.pdf

事例集で述べられている就職氷河期世代採用のメリットは、「就職氷河期世代が橋渡し役となって世代間コミュニケーションを円滑にすることができる」、「社会経験や人生経験を活かしながら、顧客やサービス利用者とのコミュニケーションも円滑にできる」、「異業種からの転職も多い就職氷河期世代なので、職場に新たな視点をもたらし、人材の多様性につながる」といったことのほか、「就職氷河期世代の見せる落ち着きや他者に寄り添う姿を見て若手層が成長する」といった事柄です。

筆者が関わったケースから、そうしたメリットが本当に当てはまるのか考えてみます。
2000年頃に大学を卒業して就職したものの、体調を崩しそのまま家事手伝いとして無就業状態が続いてこられた女性のケースです。家事を手伝いながら、親の高齢化によって介護もされるようになりました。2021年、その女性の親が亡くなられて、年金収入もなくなり、生活基盤を作るために再び働き始めようとされました。引きこもっていたわけではありませんが、職務経歴としては数年間の正社員経験があるのみで、その後の20年近くは記載できるような職務経歴がありませんでした。一般的には、この職務経歴書で求人応募しても採用されるのは厳しいように思われます。

しかし、この女性は、最初に応募した介護福祉施設の調理補助の求人で、正社員として就職されました。事業者は、職務経歴書のみで評価したのではなく、この女性の経験を評価したのでした。女性は高齢となった親の介護や毎日3食の調理、掃除などをする中で、何が高齢者にとって求められているのかを学んでこられたのです。

こうした社会経験、人生経験が顧客へのサービスに活かされていますし、職場においては家族を介護した視点が、サービスの改善をもたらします。

この女性の場合は自宅での親の介護経験が、スキルとして評価されましたが、同様に育児や趣味のほか、地域活動や参加しているオンラインコミュニティでの活動なども、仕事で必要となるスキルへ転換できる経験かもしれません。

コロナ禍の影響もあり、社会や価値観は変わってきています。しかし、人と人とのコミュニケーションや、商慣習やビジネススキルという基本的な部分は、コロナ禍前後を比較しても、それほど大きな変化は見られないように考えられます。(オンラインで話をするか、しないかといった違いはあるかもしれませんが。)
専門的なスキルや特別な技能は育成して伸ばすことができます。そうであるならば、基本的なビジネススキルを身に付けている就職氷河期世代は、コロナ禍後においても、人材として評価し、職場で活かしていくことができるのではないでしょうか。

ここからは、就職氷河期世代をどのように育成をしていけば良いのか、どのようにして戦力となって頂くのかを考えます。
非正規や無業の状態が長かった方に職場で活躍して頂くためには、時間(暦)をかけて仕事に慣れて頂くとともに、不足している職能や専門性があれば、その部分を補うための育成が求められます。
これは就職氷河期世代だから必要というわけではなく、どの世代に対しても言えることでしょう。筆者が行ってきた企業へのインタビューでは、就職氷河期世代であっても若手人材であっても、教える内容(育成内容)に違いがないという意見が大半でした。特別に何か研修を施したり、人事制度を調整したりしたということもほとんど耳にしません。
実際のところ就職氷河期世代であってもそうでなくとも、人材の育成をしていくことは必要です。そうした点では現在、就職氷河期世代人材の採用や育成のための各種助成金が準備されており、この世代を採用したり育成したりすることは、有利と言えるかもしれません。助成金は例えば、「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」などが挙げられます。
厚生労働省URL:https://www.mhlw.go.jp/shushoku_hyogaki_shien/for-business/

また、育成とは別の視点となりますが、“配慮”について考えてみます。重要となるキーワードは“周囲のサポート”です。

就職氷河期世代は、多種多様な経験をしてきたものの、新しい職場に来て、戸惑うことも多いと考えられます。例えば、業務上使用するクラウドサービスであるチャットアプリやストレージサービスなどのデジタルツールは事務職や営業職では仕事をする上で使えることが一般的となりつつあります。もし、こうしたツールを使った経験がなければ、きっと本人は戸惑うでしょう。そんな時、周囲がしっかり使い方を教えることができたり、会社として快適に働ける環境を整備したりすることができるかどうかがポイントになります。
この世代はデジタルツールに疎いという誤解を招くかもしれないので、少し補足しておきますと、就職氷河期世代は幼少期からテレビゲームや、青年期にはパソコンやスマホ等をほぼネイティブに扱ってきた世代です。ビジネスにおける新しいデジタルツール、ITツールの活用も、慣れの問題だと考えられます。
デジタルツールの活用事例以外では、例えば、職場に就職氷河期世代人材が少ない場合の日常的な話し相手や相談相手の存在の必要性、子どもの育児や親の介護との両立の問題、健康上の問題などが配慮すべき事柄に挙げられます。

就職氷河期世代の人材が持っている経験、スキルを存分に発揮できるように、会社としてはフレンドリーに迎え、入社後当面の間は、上司や同僚からのサポートを意識して行って頂きたいと思います。

育成および配慮について、本稿では述べさせて頂きました。就職氷河期世代は今まさに働き盛りです。この世代を社会や会社のために活かさない手はありません。長く非正規や無業の状態であった人たちも、必死で就職活動やキャリアップに取り組んでいます。そうした人たちが、もし本稿を読んでくださっている事業者の門を叩かれた時は、ぜひ職務経歴書のみで判断するのではなく、実際に会って、その方が歩んできた中で得た経験や知見を聞き出して頂きたいと思います。キラリと輝く人材かもしれません。

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。