どうすれば、キラリと光る「良い人材」と出会えるか?
~事例から考える~

就職氷河期世代の特性を活かす採用活動を

就職氷河期世代の採用にあたっては、人手不足の解消という点から取り組む会社も多くありますが、目線を変えた採用活動によって売上をあげる会社もあります。

和菓子を製造販売するA社もそうした会社のひとつです。かつては多くの観光客を乗せた観光バスが国道沿いの店舗に立ち寄り、多くの人で賑わっていたそうです。しかし、団体旅行から個人旅行へトレンドが移り変わるにつれて活気は失われ、この10年ほどの間は、店舗スタッフからも余裕と笑顔がなくなり、さらなる客離れが起きてました。また、ショッピングモールに出店すれば、確かに多くのお客様は集まるのですが、高い固定費を補うだけの利益は出せずに、慢性的に販売不振となっていました。
こうした状況を変えたのは、長年にわたって非正規で働いてきた就職氷河期世代にあたる40代の男性でした。この会社がハローワークで募集していた販売職の求人に応募して面接した際、個人が気軽に出品できるインターネット販売サイトで日常的に売り買いをしている経験を語ったところ、人事担当者や経営者が強い興味を示したのです。

多くの就職氷河期世代の人たちは、10代後半や20代前半からインターネットに慣れ親しみ、現在では様々なアプリを使うほか、インターネットで売り買いすることについても心理的な障壁を感じている人は少ないと思われます。
A社はインターネットを用いた通信販売に関心がなかったわけではありませんでした。しかし、きっかけが無かったことや、ノウハウや人材がいなかったことから、本腰を入れて取り組んできたことがなかったのです。
この就職氷河期世代の男性が入社して、インターネット販売を強化することで、ショッピングモールに集まっていたお客様が継続的にA社の和菓子を購入したり、SNSでシェアされたりするなどして、事業は回復基調へ転換しました。

もし、就職氷河期世代は総じてスキルが低い、経験があまりない、という認識のまま採用活動を進めていれば、経歴書だけを見て面接には至らなかったかもしれませんし、その後の事業成長はなかったかもしれません。面接を設定し、職務上の経歴だけではなく、その人物の得意なことや、仕事に活かせそうな経験などを聞くことが重要です。
出会った人材をどのように活かすことができるのか、求人企業で採用の現場に立つ人のセンスや考え方次第で、とりわけ目立たない人材を、キラリと光る「良い人材」として採用することができると考えています。

就職氷河期世代のことは就職氷河期世代が知っている

就職氷河期世代は多様な経験を積んできていると感じています。キャリアを通じて苦しかった時期を長く生きてきている人が多く、100社にエントリーシートを送って、面接にたどりつけたのは数社、内定はゼロという人も、ザラにいるのではないでしょうか。昨年度はコロナ禍の中で学生の就職活動が厳しかったように感じられますが、大手ニュースサイトのコメント欄には『「20社エントリーして20社ともお祈りメールが来た」って普通じゃない!? お祈りメールが来るだけマシで、書類選考でダメだったらスルーが普通だった』といった、就職氷河期世代からの意見があふれていました。

とはいえ、就職氷河期世代ではない世代の人たちから見ると、「自分たちの時代だって就活は大変だった」や「就職できなかったことや、その後もずっと非正規だったのは自己責任じゃないか」という声もあげられています。しかし、ここでもっとも言いたいのは、世代間論争を議論するのではなく、その世代のことはその世代の人が一番知っているし、共感を覚えるということです。

昨年度、就職氷河期世代を対象としたいくつかのマッチングイベントに関わりました。その中で、就職氷河期世代の注目や共感を多く得ていたのは、話し手が、自分たちと同じ就職氷河期世代で、同じように苦労を重ねてきた採用担当者がいる会社でした。

地方にある食品包装資材の製造販売を行う従業員50人ほどのB社は、採用担当者が就職氷河期世代で、非正規で様々な職を経験したのちに、現在の会社に製造職で入社しました。その会社ではいくつかの部署をローテーションで経験できる人材育成制度を導入していたのですが、この採用担当者は製造職よりも工程管理をする仕事の面白さに気づき、ポジションが変わり、その後、会社の事業企画も担当することになって、いまは採用活動を含む総務の仕事をされています。この会社はこれまで知名度もあまりなく、採用活動がうまく進んでいませんでしたが、就職氷河期世代の担当者が、自分の体験に基づき、自分の言葉で同じ世代に話しかけることで、「自分のような境遇の人でも採用してもらえる。活躍の場が与えられるかもしれない」と感じることができ、応募者が殺到しました。

求職者目線に立って、採用活動を考える

就職氷河期世代の採用担当者でなければ、就職氷河期世代にはメッセージは響かないのでしょうか。そのようなことはありません。物流大手のC社は、自社ホームページの求人ページに、「就職氷河期世代に向けたメッセージ」を部長の署名入りで掲載しています。

求人に熱心な企業の多くは、自社サイトや求人サイトに、新卒者向けのメッセージを掲載しています。しかし、就職氷河期世代に向けたメッセージを掲載している会社はほぼありません。

求職者の目線に立てば、「自分はこの会社に求められている、歓迎されている」と感じてもらえることが大変重要です。最近、事業企画やマーケティングの現場では、プロダクトアウト発想(商品ありきの企画やマーケティング)ではなく、マーケットイン発想(顧客ありきの企画やマーケティング)の重要性が叫ばれています。採用にも同じことが言えるはずです。就職氷河期世代は、しっかりと戦力になります。就職氷河期世代の目線に立って、彼ら彼女らを現場でキラリと輝かせるべくメッセージを発し、面接の場では、どこにその人の良さがあるか、コミュニケーションを通じて発見して頂きたいと思います。

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。