初期公開日:2025年3月26日更新日:2025年3月26日

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認知症の予防・健康づくりに関する学会指針セミナー

経済産業省と日本医療研究開発機構(AMED)で進める予防・健康づくりに関する指針研究について、神奈川県の認知症未病改善事業と連携し、認知症領域の指針について、解説セミナーを行いました。

認知症の予防・健康づくりに関する学会指針セミナー開催記録

セミナー配信

趣旨:経済産業省とAMEDで進める最新の研究成果をもとに、認知症予防関連の開発事業者が「どのようにエビデンスを構築すべきか」といった課題や、自治体や住民など認知症予防関連サービスの利用者が「サービス選択時に、そのサービスについてどのようなエビデンスを確認すれば良いか」といった課題に対して、具体的な課題解決に役立つ指針の説明及び知識の習得を目指すセミナーを開催。

  • 開会挨拶、神奈川県事業紹介(アーカイブ動画)
    神奈川県政策局いのち・未来戦略本部室 未病産業担当部長 牧野義之、主任主事 成田悠亜
    prefkanagawa
  • AMED研究事業の紹介(アーカイブ動画)
    予防・健康づくりに関する医学会発「指針」とエビデンス構築
    日本医療研究開発機構(AMED) 医療機器・ヘルスケア事業部 ヘルスケア研究開発課 阿野泰久 様
    amedanosama
  • 基調講演(アーカイブ動画)
    ヘルスケアサービス利用者・事業者も使用可能な認知症に対する非薬物療法指針の作成
    高知大学医学部 神経精神科学講座 數井裕光 教授
    kochidaikazuisama

質疑応答・ディスカッション(議事概要)

makinosama anosama kazuisama

(牧野未病産業部長) (AMED:阿野様) (高知大学:數井先生)

  • makinosama
    Q:牧野部長
     今回の話をベースとして、様々な企業の技術サービス等を通じて、社会とキャッチボールしながら、現場で実践していくことが重要であり、まず「その道しるべ」が、「指針」という形で構築されつつあるという実感ができました。
     はじめに、神奈川県から何点かご質問させていただきます。
     まず阿野さんに、今回のセミナー以外にも、AMED主催で指針に関するワークショップを開催されていると思いますが、参加企業等の反応をお伺いできればと思います。
  • anosama
    A:阿野様
     ありがとうございます。
     我々も指針事業を立ち上げた当初から、行動変容介入に対するエビデンスの評価がされると、一つの参考になるのではないかなと思っていました。
     一方で、ワークショップなどを通じて、事業者の方から、フューチャーリサーチクエスチョン(FRQ)で、今後、医療領域の先生たちがどういう考え方を持っていらっしゃるのかというところが開発の参考になる、というお声をいただきました。
     新たな領域でのビジネスを立ち上げていこうとする際、チャレンジ意識の高い事業開発者の方々にとっては、むしろ、これからやっていく余地の多い研究領域で、先生方が特に重要だというところのポイントを重視したいという声が、非常に印象的でした。
  • makinosama
    Q:牧野部長
     ありがとうございます。
     では、続きまして、數井先生にご質問で、神奈川県もよく市町村と議論する中で、特に認知症や介護の分野では、どういった企業のサービスや指標を選べばいいかが非常にわかりにくいという声が多く、そこに対して、本指針は羅針盤的にすごく参考になる、基本的な方向性を示していただいたと思っています。
     今後、各現場において、サービスや指標を導入する際の留意点や着目ポイントがあれば、補足コメントなどいただきたいと思います。
  • kazuisama
    A:數井先生
     はい、ありがとうございます。
     まず、目的を何にするかということが大事です。
     指針作成の際に、高齢者施設やサービス利用者を対象として実施した調査でも、認知機能の改善とか認知症予防を重視される方もいましたが、楽しい、良い時間を過ごしたいという方も多かったです。なので、そのサービスで何を目的にするかを少し意識して選ぶことで、認知機能改善だけでなく、楽しさなども選択肢になるのではないかと思います
     具体的に、実践しやすくて、エビデンスが比較的集まっているもので例示すると、運動療法や音楽療法、回想法、施設や自宅で実施する栄養療法なども含まれるかと思います。
     それから、認知訓練などを通じて、認知機能を高めようと本気で思うのであれば、サービスのエビデンスが個々にあるかを確認するといいですね。
     サービスの確認ポイントは、「認知症予防に関する民間サービスの開発・展開にあたっての提言」日本認知症官民協議会 認知症イノベーションアライアンスワーキンググループ)という形でまとめているのですが、その訓練がどのような検証がされているか。対象群があるのか、認知症の方に効果があるのか、健常者に効果があるのか、MCIの方に効果があるのかなど、誰を対象にしているか。そういったところを見て、選択するということが大事だと思います。
  • makinosama
    牧野部長
     ありがとうございます。
     本日のセミナーテーマで非常に重要なところをコメントいただいたと思います。
     症状がある程度出ているなど、医療に近い、効果を明確に求めるところでは、エビデンスの明確性、妥当性が非常に重要で、そういう意味では、やはり、安全性が担保される中で、有効性を追求していく。
     たとえば、学会から強く推奨されている介入などを実践するところかと思います。
     あとは、認知症の特性を捉えたときに、エビデンスが明確な介入と連携しながら、もう一つの選択肢として、生活の中で楽しみながら長く続けるもの
     これは、今回のテーマで言うと、有効性というよりも有用性や、誰がどういった形で使うのかというところもすごく重要だと思います。
  • Q:牧野部長
     行政の健康、医療施策として未病改善を進める際にも、県民とコミュニケーションを取りながら、楽しみながら長く続ける介入と、必要に応じて医療やエビデンスが明確な介入との組み合わせがすごく重要だと思います。
     一方で、おそらく産業界も含めて、悩んでいるところで、有用性などは、なかなか目に見えて分かりにくい課題があると思います。
     そういった時には、中長期的にモニタリングを行っていくフィールドが重要になってくると思うのですが、お二人はどうお考えでしょうか?
  • anosama
    A:阿野様
     ありがとうございます。
     指針を通じてエビデンスの現状を把握しつつある中で、実際に、有用性のエビデンスを取る際には、どういった手法を取ればいいのか?特に予防・健康づくりの領域については、生存率や死亡率などのハードアウトカムが設定しにくいところが課題としてあると思っております。
     デジタル領域においては、日常の健康情報というものは、比較的収集しやすい領域でもあるかと思います。
     継続的にデータを取っていくことで、科学的な有用性をどう評価していくかというところは、AMEDとしても非常に注目しています。
     また、疾患の発症の有無だけではない、評価指標として、労働生産性や医療費削減への効果などは、自治体や健康経営などサービスを活用する皆様が、より利用者に貢献していくために求めているエビデンスかと思います。
     予防・健康づくり領域で指標となるようなマーカーの開発も重要だと考えています。
  • kazuisama
    A:數井先生
     はい。私から二点、回答したいと思います。
     まず一つ目が、予防的な活動において、行動心理症状あるいは精神面にとても大事なポイントがあります
     例えば、怒りやすいという症状が出ている際には、怒るような状況にならないようにするということが大事です。
     そういう面でも、生活の中で、楽しいと思える時間を提供するということになります。
     楽しい時間を提供していることが、行動心理症状が出にくくなるというアウトカムを設定すると、少し長期の研究になります。楽しい時間を作ることによって、症状が発生しにくくなるという考え方です。
     それから二つ目は、ICTの活用です。
     どういう条件があると効果が増したり、継続性が増したりするのかということが非常に大事です。
     非薬物療法の研究が曖昧な結果になりやすいのは、やはり、継続性が保てないということが多いところにもあると思います。
     ICTを使ってモニタリングをしていただき、より多くの方が楽しく続けられる方法は何かということ、つまり、個別化がうまくいけば、非薬物療法の効果は一段と結果が出てくるのではないかと、僕自身は期待をしております。
  • 参加者コメント:
     講演ありがとうございます。
     未病やヘルスケアと創薬の違いは様々ある中で、その一つとして、サービスを社会実装する際に、創薬の場合、医師がいるということだと思います。
     ヘルスケアの場合は、社会実装するのは、実際に使うユーザー側だと思うので、そこを評価する手法が必要になると考えています。
     有用性評価とエビデンス評価の両方をしっかりと行っていくことと、最後は医療経済だと思います。なので、有用性評価とエビデンス評価、医療経済の評価、この三本柱をしっかりと実施していくことが必須だと思いますが、未病・ヘルスケアにおいては、そこがまだまだ未成熟だと考えています。
  • kazuisama
    A:數井先生
     確かに薬物療法においては、医師という資格を持った人が、その人に適切だと考えられる薬を処方し、経過観察が行われますが、未病改善や予防・健康づくりなどでは、そういった仕組みの構築はされていないです。
     予防・健康づくりにおける介入を上手に実践するコツの共有など、専門職の方などのサポートがあることも大きなポイントになると思います。
  • makinosama
    牧野部長:
     ありがとうございます。
     技術を提供する方と使う方、両方にとってイノベーションが必要で、両者キャッチボールをしながら、良いものを作っていく。
     多くの選択肢の中から自分で選択することができる未病において、より良い選択をするための少し専門的なサポートの必要性についても言及いただいたかと思います。
  • anosama
    A:阿野様
     サービスに関する信頼性確保という意味でも、エビデンスを非常に重視しているところですが、日本の特徴的な保険制度の中で、自分たちでお金を払って予防・健康づくりを行うとなると、エビデンスだけでの社会実装は難しく、マーケティングやプロモーションも重視する必要があると認識しています。
     一方で、エビデンス抜きでプロモ―ションのみを重視していいのかというと、現状の予防・健康づくりの有象無象のサービスが多いという社会的な課題があると思います。
     そこでまずは、エビデンスは現状こういったものがあります。と医学会から明らかにしていただいたのが今回の指針です。
     今後は、指針を基に、支払者やユーザーが求めるエビデンスを構築し、実用化までつなげていく新規事業を立ち上げまして、来年度以降の伴送支援という形で公募を開始します。
     また、サービスの使い方や継続率も非常に重要だと思っており、サービスを続けていただいて、効果を発揮してもらうためには、どういった要素が重要で、使い方の説明や人の介入の必要性など、介入のアドヒアランスという観点での研究も次年度、成果が出てまいります。
  • makinosama
    Q:牧野部長
     自治体の施策効果や地域での面的な効果という観点から、ICTを使ってモニタリングを行っていくことが非常に重要になると思いますが、行政側の悩みとして、中長期的なモニタリングを行政だけで行うのは、なかなか難しく、精緻なデータを検証していく場合には、例えばアカデミアのコホート研究などとの連携で、縦の時間軸でデータを見ていくことが必要なのかと思います。
     この点についてもコメントいただければと思うのですが、いかがでしょうか?
  • kazuisama
    A:數井先生
     現場の方々は、非常に多くの業務を遂行されていますので、ICTをうまく活用して、できるだけ 簡便にデータを計測できるものが良いと思います。
     目的に応じて取るデータの深さを分けて、精緻なデータを取るパターンと、楽しみや使用感など有用性を評価するパターンと上手に分けるなどの工夫を行ってもいいと思います。
     また、自治体施策として、一度に多くのデータを得ようとするのではなく、多くの方に少しずつ参加していただいて、データ数を積み上げていくというスタンスもあるかと思います。
  • makinosama
    牧野部長:
     ありがとうございます。
     その人が生活している環境や、地域とのコミュニケーションの中で、楽しみながら生活の一部として、自然体で実践していく介入の価値も非常にあると考えています。
     そういった日常の行動変容と並行しながら、必要に応じて、強めの介入として医学的な介入や、指針で示されるエビデンスの推奨された介入を組み合わせていく。
     ICTやPHRを活用し、その人の生活状況を踏まえて、地域コミュニティや専門的なサポートも入れながら、全体をコーディネートしていき、最終的には、日常のPHR情報から医療情報に繋がっていく。この連続性が重要だと考えています。
     神奈川県では、認知症未病改善プロジェクトという形で、生活習慣から、フレイル、認知症という、時間軸に沿って、各人が年を取っていく流れの中で、できるだけ早期の発見と介入を、地域の中で自然と実施していくこと。
     その際には、地域や行政の健康づくりの取組と共に、企業の技術サービスについて、明らかになっているエビデンスを踏まえて、有用性や使いやすさなど、多角的な観点から質の良いものにしていくためのキャッチボールを、現場でサービスを使いながら実施していくことが重要だと思っています。
     今日お二人の先生方からお話しいただいた内容は、それを進めていく上で、非常に参考になる旗印になる内容だったと思っています。
     最後に先生方からお一言ずつお願いします。
  • anosama
    A:阿野様
     ありがとうございます。
     本日私から、指針の全体像を紹介させていただきましたが、この医学会の先生たちに作っていただいた指針は、自治体の皆様やサービスを使われる健康経営を目指す企業の皆様だけでなく、サービスを提供する事業者の方々も含めて、皆様に使っていただくことが非常に重要になってくると思います。
     AMEDとして、次年度以降も指針を使ったサービス創出やサービス選択に関するセミナー、ワークショップなどを開催させていただきます。
     また、開発という観点でも、今後、研究公募という形での支援をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
     本日はありがとうございました。
  • kazuisama
    A:數井先生
     私からは、今回、この指針を作成して、まだまだエビデンスが不足しているということを実感いたしました。
     ICTなどを上手く活用していくことで、今まで難しかった継続的なデータの収集などができるようになることで、適切な方に適切な介入が届けることも実現しやすくなると思います。
     こういった指針などは大体5年くらいの頻度で更新することが多いとおもいますので、皆さまが取り組んでいただいたデータを基に、次回更新時には、より多くのことが記載できればと思っております。
     ありがとうございました。

以上(議事概要まとめ(PDF:1,594KB)

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