第1回 2026年、氷河期世代支援は新たなステージへ

コラムを全8回にわたって担当します藤井です。私自身もいわゆる就職氷河期世代の一人で、2000年代に就職氷河期世代に特化した就労支援サービスを起業し、2020年代からは国の就職氷河期世代活躍支援の政策動向を受けて、全国各地で支援事業の立ち上げや、企業人事担当者に向けて就職氷河期世代の人材確保セミナーに多数登壇してきました。

企業で人事や採用にたずさわる方、そしてこれから新しい一歩を踏み出そうとしている方に、お役に立つ情報をお届けできればと思います。

就職氷河期世代支援、新たなステージへ

2026年は、就職氷河期世代をめぐる支援が大きく動いた年になりました。国は2019年度に就職氷河期世代支援プログラムを立ち上げ、数年にわたって集中的な支援に取り組んできました。その取り組みは2024年度で一つの区切りを迎えています。私もこれで支援は終わるのかと思っていましたが、実際には次の段階へと施策は進みました。

2026年4月、国は新たな就職氷河期世代等支援プログラムを決定し、2028年度までの3年間、改めて重点的に取り組むことを打ち出しました。

図1 就職氷河期世代支援プログラムの歩みと新たなステージ

図1 就職氷河期世代支援プログラムの歩みと新たなステージ

集中的な支援が行われたこれまでの7年間で、この世代の正社員は着実に増えてきたように考えられます。国の集計では、正規雇用と会社役員を合わせて、およそ31万人の処遇改善が進んだとされています。世代の中心層に占める正社員の割合は直近で71.2%です。多くの方が、安定した立場で持ち味を発揮できる環境に近づいてきたことがうかがえます。これは、就職氷河期世代の活躍に期待し採用してきた企業経営者や人事担当者、施策推進に関わった方々、そして何より働く方自身の頑張りが実を結んだ成果だと言えます。働く人を取り巻く環境にも明るい変化が見られます。完全失業率は2.5%前後と落ち着いた水準で推移し、2026年5月の有効求人倍率は1.17倍と、企業が人材を求める動きは買い手市場の傾向があるものの、コロナ禍終息以降、継続していると考えられます。

新しいプログラムでは、相談から就職、その後の職場への定着までをハローワークの専門窓口が一貫して伴走する体制や、働きながら受けられるオンライン職業訓練の全国展開など、就労と処遇改善に向けた支援がいっそう充実します。さまざまな事情から一歩を踏み出しづらい方に、あせらず段階的に寄り添う支援も続きます。就職して終わりではなく、その先の働き続ける毎日までをともに見守ろうという姿勢が、全体を貫いています。

神奈川の企業も、高い関心を寄せています

先日、神奈川県内で開かれた企業向けセミナーの参加企業アンケートでは、9割を超える企業がセミナーを有意義だったと回答しました。自由記述には、「経験が豊富で即戦力になる」、「忍耐力や適応力が高い」、「コミュニケーション能力に優れている」といった、この世代への前向きな評価が数多く寄せられています。もちろん率直な悩みの声もありました。本シリーズでは、そうした企業の生の声にも一つひとつ向き合いながら、採用と活躍のヒントをお届けしていきます。

いま改めて、就職氷河期世代の価値を考える

本コラムで思い描いている就職氷河期世代は、苦しい20代・30代を乗り越えてきた人が多いのではないでしょうか。逆に言えば、多様なバックグラウンドを持つ40代・50代の方々です。新卒で入った会社に定年まで勤め上げるという働き方がまだ当たり前とされた時代に、必ずしも一本道ではないキャリアを歩んできた方も少なくありません。けれども回り道に見える経験の一つひとつが、人を見る目や、現場で粘り強くやり抜く力、相手の立場に立って考える力として、その人のなかに確かに蓄えられています。「ライフ・エクスペリエンス」(職業上のスキルだけに限らない、その人が本日まで培ってきた経験全体)は、企業にとっての大きな価値だと考えており、人的資本経営の重要性が増してきている中で、生きてくる考え方だと考えています。本シリーズではこの視点を繰り返しお伝えしていきます。

図2 回り道の経験が育む、この世代ならではの強み

図2 回り道の経験が育む、この世代ならではの強み

たとえば、いくつかの職場で接客や製造の現場を渡り歩いてきた方は、お客さまの気持ちを敏感に察したり、立場の違う人どうしの間を取り持ったりすることに長けている場合が少なくありません。一つの会社にいるだけでは得がたい、現場で磨かれた知恵です。とりわけ地域を支える中小企業にとって、経験を重ねたこの世代は、長く腰を据えて活躍してくれる心強い仲間になり得ます。こうした力は履歴書の一行だけでは伝わりにくいものですが、企業が丁寧に耳を傾ければ見えてきます。いま、人手不足は多くの職場で当たり前の風景になりました。求人が活発ないまは、これまで持ち味を十分に発揮する場に出会えずにきた方にとっても、新たな一歩を踏み出しやすい時期です。企業と働き手、双方にとっての好機だと言えるでしょう。

AI(人工知能)の普及はどのように影響するのだろうか

さらに2026年は、AIが私たちの働き方を具体的に大きく変えはじめた年でもあります。一見すると経験を重ねた世代には逆風のようにも思える変化です。けれども私は、この変化こそがこの世代の強みをむしろ引き立てると考えています。AIは人の仕事を奪うだけのものではなく、人が積み重ねてきた経験を引き立てる道具にもなり得るからです。

次回は、そのAIが労働市場をどう変え、そのなかでこの世代の経験がなぜ効いてくるのか、そんな話をお届けします。その後も、多様な経験を活かせる職場のつくり方、AIを武器にする学び直し、行間を読む採用、辞めない職場づくり、使える助成金の最新ガイドと続き、最終回では会社の未来を一緒に展望します。全8回を通じて、企業が多様な経験を持つ人材とどう出会い、どう活躍してもらうかを一緒に考えていきます。どうぞ最後までお付き合いください。

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。