更新日:2015年5月3日

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第42号(平成26年度/2014)

体育センターレポート。事業部の4班が行った研究と、体育センター長期研修員の授業研究により構成されております。これらの研究につきましては、抄録のみの掲載となっておりますが、研究報告書を掲載しておりますので、併せてご活用いただければ幸いに存じます。

発刊のことば

神奈川県立体育センター所長 田中 不二夫

 

このたび「体育センターレポート第42号」を発刊する運びとなりました。

本号は、平成26年度に当センター事業部が行った体育・スポーツに係る調査・研究、及び当センター長期研究員による体育の授業研究の抄録により構成されています。研究報告書の全文につきましては、当センターのホームページに掲載しますので、併せて御活用いただければ幸いに存じます。

さて、2020年のオリンピック・パラリンピックが東京開催となり、本県においてもオリンピックパラリンピックを見据えた取組が始まり、現在は、オリンピック開催を契機として、開催国に生み出される持続的な効果「オリンピックレガシー(遺産)」を、たくさん残せるように、知恵を出し合っているところです。

一方で、「子どもの体力向上に向けた取組」、「運動スポーツを気軽に行える環境作り」、「3033運動による健康寿命を延ばすための取組」、及び「それらの取組に係る調査研究」といった、当センターがこれまで取り組んできている事業においても、オリンピック・パラリンピックの恩恵を十分に受けられるように、再構築を検討しているところでもあります。

そして、これまでと同様、当センターは、子どもから高齢者まであらゆる年齢層の方たちが、各自のライフステージにおいて、心身共に明るく豊かで活力ある生活を営むことができるよう、県の体育・スポーツ振興の中核機関として県民のスポーツライフを総合的にサポートしていく所存です。今後も、益々の御指導、御鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

最後に、本号掲載の研究を進めるにあたり、御協力を賜りました皆様に厚くお礼申し上げ、発刊のことばといたします。

 

 


 

目次

所員による研究

《研修指導班》

《調査研究班》

《スポーツ推進班》

《スポーツ情報班》

 

長期研究員による研究

《小学校》 横須賀市立池上小学校 伊東 誠司

《中学校》 厚木市立厚木中学校 宮崎 友子

《高等学校》 神奈川県立津久井浜高等学校 有働 貴行

《特別支援学校》 神奈川県立相模原養護学校 荒井 佑輔

 


県立体育センター長期研究員による授業研究の総括
-学習カードによる効果的な授業の実現を目指して-
(2年継続研究の2年目)

研修指導班 富澤桂子 原 康弘 奥田五成 松ヶ野文絵 都丸利幸 田所克哉

【はじめに】

国立教育政策研究所が考える、21世紀型能力1)は、「基礎」、「思考」、「実践」の観点で再構成した日本型資質・能力の枠組みであり、実践力を重視している。今後、これまでの「教えて考えさせる授業」から、「思考力を中核とした授業」への変革が求められ、「思考・判断」の学習については、教員による一方向の指導だけでなく、子どもたちが、自ら学習に取り組むことが、一層必要となると考える。

ところで、高等学校、教科「保健体育」科目「体育」では、すでに、これから求められる力の育成に沿った指導が行われており、工夫された学習活動を通して、機能的に学ぶことができていると考えられる。しかし、学習評価では、「現在の考え方に基づく実践について小・中学校ほど十分な定着は見られない」2)ことが挙げられている。

現在、「思考・判断」の評価方法では、学習カードや学習ノートが主要となっているが、生徒の「思考・判断」にかかわる取組みに着目して作成されたカードは、数が少ないと考える。そこで、本年度、「思考・判断」にかかわる学習カードについて、現在の教育の動向と長期研究員の「思考・判断」にかかわる研究で使用した学習カードについて検討し、その書式を明らかにすることとした。

 

【研究内容及び方法】

1 これから求められる力についての文献研究とテーマ設定の理由

2 現在の高等学校、教科「保健体育」科目「体育」の学習評価・評価方法についての検討

3 長期研究員の「思考・判断」にかかわる学習カードの項目についての比較・検討

4 高等学校、教科「保健体育」科目「体育」の「思考・判断」にかかわる学習カードの書式及び書式例の作成

 

【研究の成果】

1 これから求められる力についての文献研究とテーマ設定の理由

21世紀型能力では、これから身に付ける資質・能力として、「思考力を中核とし、それを支える基礎力と使い方を方向付ける実践力の三層構造」1)となっており、いかなる授業でも3つの資質・能力を意識して行うよう示されている。

また、中央教育審議会(諮問)では、「必要な力を子供たちに育むためには、『どのように学ぶか』という、学びの質や深まりを重視することが必要であり、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆるアクティブ・ラーニング)3)や、そのための学習・指導方法等を充実させていく必要がある」とし、検討が進められている。さらに、子供たちが身に付けた力を見とるための評価規準・評価方法の研究開発の推進2)も図られており、「思考・判断・表現力」について、生徒の変容を見とるためのパフォーマンス評価2)などが挙げられている。

これらのことから、これから求められる力は、「思考力・判断力」の中核であり、これを育むための様々な取組みが検討されていることから、本研究では、「思考・判断」に着目し、学習カードを検討することとした。

2 現在の高等学校、教科「保健体育」科目「体育」の学習評価・評価方法についての検討

中央教育審議会(平成22年3月)では、「高等学校においても、学校教育法や新しい学習指導要領を踏まえ、基礎的・基本的な知識・技能に加え、思考力・判断力・表現力等、主体的に学習に取り組む態度に関する観点についても評価を行うなど、観点別学習状況の評価の実施を推進し、きめの細かい学習指導を生徒一人一人の学習の確実な定着を図っていく必要がある」と述べている。

そうした中、国立教育研究所から出された評価規準の作成、評価方法の工夫改善のための参考資料【高等学校 保健体育】では、「評価を適切に行うという点でいえば、できるだけ多様な評価を行い、多くの情報を得ることが重要」と述べている。また、「ワークシート等への記述内容は、『知識・理解』の評価だけでなく、『関心・意欲・態度』、『思考・判断・表現』、『技能』の評価にも活用することが可能であり、生徒の資質や能力を多面的に把握できるように工夫し、活用することが考えられる」としている。

ところで、評価方法の一つとして使用される学習カード等については、生徒が記述する内容としては、「知識・理解」の評価だけでなく、「関心・意欲・態度」、「思考・判断・表現」、「技能」の評価に活用することが可能であるが、現在、生徒の「思考・判断」にかかわる取組に着目して作成されたカードは数が少ないと考える。そこで、本研究では、「思考・判断」にかかわる学習カードの書式を明らかにし、「生徒の課題解決の方法を活用するなど、知識を実践に活用する学習活動」4)の中で、生徒が取り組んだ様子を記録することができるように作成することとした。

3 長期研究員の「思考・判断」にかかわる学習カードの項目についての比較・検討

これまでの長期研究員の学習カードの中から、「思考・判断」に着目している学習カードを分析したところ、次のことが明らかになった。(表1)

表1 学習カードの「構成」「項目数」「形式」
構成 普遍的
「学習のねらい」「本時の学習」「学習活動(方法)」「自己評価」
項目数 総数の変化なし
「教師の質問に対する生徒の記述」が増加
「生徒の自由記述(感想)」が減少
形式 「思考・判断」と「知識・理解」
学習内容に基づき、具体的な学習活動を振り返って記述する形式
「自己評価の評価項目」は4観点

 

(1)抽出した長期研究員の「思考・判断」にかかわる学習カードについて(表2)

次の2例は、単元全体を通して「思考・判断」の学習活動が盛込まれていたことから抽出することとした。

表2 抽出した長期研究員の「思考・判断」にかかわる学習カード
領域・領域の内容 校種・学年 思考・判断の指導内容
17 ハンドボール 高1 チームや自分の能力に応じた課題を設定し、その解決のために練習の仕方を工夫できるようにする
24 バスケットボール 中2 バスケットボールの課題に応じた運動の取り組み方を工夫できるようにする

また、比較するにあたり、学習カードは、学習指導計画の流れの中で、「思考・判断」にかかわる生徒の学習のねらいが変化していくことから、使用時期を「導入」、「展開」、「まとめ」で区分して、検討した。

(2)結果と考察

ア 学習カードの使用時期と教師の設定項目数について表3のように、ハンドボールとバスケットボールの学習カードでは、教師が項目を設定し、生徒に記入させることが多かった。

表3 学習カードの使用時期と教師の設定項目数
学習カードの
使用時期
教師の設定あり 教師の設定なし 合計
導入 11 2 13
展開 12 3 15
まとめ 9 7 16

イ 「思考・判断」にかかわる学習カードの項目について

表4のように、学習カードの使用時期に応じた項目の設定がされており、意図的に生徒の「思考・判断」を促していた。

表4 「思考・判断」にかかわる学習カードの項目
学習カードの
使用時期
「思考・判断」にかかわるカードの項目
導入 「自分の課題」「単元での自分の目標」「次時の目標」
「自己評価」
展開 「活動の様子の振り返り」「動きのポイント」
「発見した自分の課題」「選択した練習」「次時の課題」
「次時の目標」「自己評価」
まとめ 「活動の様子の振り返り」「発見した自分の課題」
「選択した練習」「動きの選択のポイント」「次時の課題」
「次時の目標」「自己評価」

ウ 長期研究員による学習カードの考察について

中学校と高等学校の長期研究員による学習カードの考察から、次の学習カードの利点が明らかになった。(表5)

表5 学習カードの利点

  • 生徒が学習を振り返り、学習内容の理解の定着を図ることができる。
  • 生徒が、仲間との会話のツールとして使用することができる。
  • 教師が生徒の学習の状況を把握することができる。
  • 教師が生徒に個別のアドバイスをすることができる。
  • 教師と生徒のコミュニケーションを図ることができる。

以上のことから、「思考・判断」にかかわる学習カードの書式は次のとおりとした。(表6)

表6 「思考・判断」にかかわる学習カードの書式

1 学習のねらい

  • 学習指導と評価の計画から記入する。

2 学習

  • ねらいに即した学習活動を活動順に記入する。

3 学習活動(方法)

  • 学習活動の詳細を図説、解説して、記入する。
  • 「思考・判断」にかかわる学習活動では、指導内容に関わる質問を設け、生徒が選択したり、回答したりする欄を設ける。

4 学習の振り返り

(1)自己評価

  • 指導内容に合わせた評価項目を記入し、生徒が、学習の達成状況を評価できるよう設定する。(教師が、生徒の学習の達成状況を捉えやすいように、3段階の評価とする。)

(2)今日の一言

  • 教師の質問により、学習したことで、分からないこと、分かってできないことを記入する欄を設ける。

(3)先生からのアドバイス

  • 教師が生徒の記入した内容について、アドバイス等を記入する欄を設ける。

注)1から4について、教師が設定し、記入します。

4 高等学校、教科「保健体育」科目「体育」の「思考・判断」にかかわる学習カードの書式と書式例の作成

研究で明らかにした書式に基づき、表7を参考に学習活動(方法)を取り入れて、書式例を作成した。

表7 学習カードの使用時期と取り入れる学習活動(方法)
学習カードの使用時期 「思考・判断」にかかわる学習カードに取り入れる学習活動(方法)等
導入 生徒の復習を基にした知識を把握できる「学習活動(方法)」
展開 生徒を課題解決に向かわせる「学習活動(方法)」とその自己評価
まとめ 学習の振り返りができる「学習活動(方法)」

作成にあたっては、体育学習ハンドブック(P.1から8)4)を使用した。始めに、「学習指導と評価の計画」を作成し、「導入」、「展開」、「まとめ」のカードを作成した。図1は、「導入」のカード(高等学校入学年次 球技:ゴール型〈バスケットボール〉である。


図1 「導入のカード」

 

【まとめ】

本研究では、長期研究員の授業研究を総括する中で、「思考・判断」にかかわる学習カードについて検討し、単元の中で使用できる書式を明らかにした。しかし、学習カードは、様々に作成することができる。教師は生徒の実態に応じて、生徒自身の学習のねらいを明確にし、学習内容を身に付けさせるために、学習カードを工夫し続けることが大切であると考える。

本研究が、体育における「思考・判断」にかかわる指導と評価の手立てとなり、学習カードによる効果的な授業の実現の一助となれば、幸いである。

 

【引用・参考文献】

1)国立教育政策研究所教育課程研究センター長 研究代表者 勝野 頼彦、社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理、平成25年3月

2)中央教育審議会、児童生徒の学習評価の在り方について(報告)、平成22年3月

3)中央教育審議会、初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)、平成26年11月

4文部科学省、言語活動の充実に関する指導事例集から思考力、判断力、表現力等の育成に向けて【高等学校版】、平成26年2月

5)神奈川県立体育センター、高等学校保健体育 体育学習ハンドブック、平成25年3月

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学校体育に関する児童生徒の意識調査
―小学生の意識ー

調査研究班 野秋貴浩 天野裕介 倉茂伸治 入江祐子 鈴木秀夫

 

【はじめに】

体育センターでは、学習指導要領の改訂に伴い、平成6年、平成17年と過去2回、概ね10年ごとに小学生を対象に学校体育に関する意識を明らかにしてきた。そこで、今回の学習指導要領(小学校)導入後3年が経過したことを契機に、平成26年度は3回目のアンケート調査を行うことにした。

今年度の調査では、現在の学校体育に関する児童の意識の現状を把握するとともに、過去の調査と比較分析することにより意識の変化を明らかにし、これからの、体育指導の改善を図るための基礎資料を得ることとした。

 

【内容及び方法】

1 研究内容

児童の学校体育に関する意識の調査・分析

2 研究方法

(1)調査期間 平成26年7月下旬から9月下旬

(2)調査方法 質問紙によるアンケート調査 (マークシート方式による回答)

(3)調査対象 各地区公立小学校(20校) 1校につき2・4・6学年の児童

(4)選出校数

横浜市5校 川崎市3校 相模原市2校 横須賀市2校
湘南三浦教育事務所管内2校 中教育事務所管内2校
県央教育事務所管内2校 県西教育事務所管内2校

(5)調査人数

  2年生 4年生 6年生 合計
男子 862 910 865 2,637
女子 833 725 859 2,444
合計 1,695 1,662 1,724 5,081

 

【結果と考察】

1 体育授業の現状と課題

体育の授業については、「好き」と回答した児童は、学年が上がるにつれて減少傾向であった。さらに、体育の授業が好きな理由は「思いきり身体を動かすことができるから」がもっとも多く、純粋に体を動かすことが楽しいと感じている児童が多い傾向にあった。「できないことができるようになるから」と回答した児童は9択中、女子では4年生3番目、6年生4番目に多い回答数であったが、男子では4年生3番目、6年生4番目に少ない回答数であった。

体育授業への取組の設問の中で、「いつもしている」と回答した児童の割合については、「その日取り組むべきことをはっきりさせて活動している」より「その日取り組むべきことをもとに考えながら学習している」方が3から4ポイント下回った。

これらのことから、多くの児童は純粋に体を動かすことが楽しいと感じている。また、授業では「その日取り組むべきこと」は示されているが、そこから自分自身の具体的な目標を捉え、考えながら活動している状況は多くない現状が示唆された。


図1 体育の授業が好きですか(4・6年生)

体育の授業では、児童が「体を動かすことが楽しい」と感じる気持ちを大切にしながら、様々な運動の機会を通して「やった。できた!」という喜びを感じさせることが重要である。そのためには、運動の行い方など「わかる」指導をすることも必要な要素である。また、児童が「できる」ようになるためには、「その日取り組むべきこと」について、児童に具体的な目標を設定させ、それに向かって工夫させるような授業展開も大切である。児童が「楽しくて夢中になって取り組み」「もっと楽しむために工夫」していけるような指導法を検討する必要がある。


図2 取組むべきことをもとに考えながら活動している(4・6年生)

2 仲間づくりが運動のきっかけ

休み時間に体を動かして遊ぶ活動は、学年が上がるにつれて減少傾向にあり、この運動実践の減少は特に女子において顕著であった。また、遊ぶ理由としては、「体を動かすことが好きで楽しいから」「いっしょに運動する仲間や友だちがいるから」と回答した児童が上位を占め、休み時間や学校行事での異年齢交流については、全体の70から80%の児童は常には行っていない傾向にあった。

これらのことから、児童の運動実践にとって、一緒に運動する「仲間」が重要な要素であり、運動する「仲間」が増えることにより、休み時間の運動実践の減少の改善につながると考えられる。

休み時間の活動は、クラスや学年などの“ヨコのつながり”となる「仲間」との活動が多いと考えられるため、運動実践の改善のためには、授業や学校行事等で運動をする児童としない児童を関わらせる工夫などの、クラスや学年での取組が必要ではないか。また、現在の学校では縦割り班など“タテのつながり”となる異年齢交流が行なわれている。「仲間」を増やし、運動実践の改善のきっかけとするためには、課外活動として「遊びや掃除」、学級活動として「低学年の児童から高学年の児童に手紙を書く」など、異年齢で関わる取組を積極的に行い、学校として“ヨコのつながり”と“タテのつながり”両方から、運動する「仲間」を増やすための活動をする必要がある。


図3 休み時間に校庭や体育館で遊びますか。(4・6年生)


図4 休み時間に体を動かして遊ぶ理由(6年生)


図5 休み時間の異学年交流(4・6年生)

3 子供達に必要な幅広い運動経験

全体平均で60.0%の児童がスポーツクラブに加入しており、加入理由としては、「うまくなりたい種目があるから」と回答した児童がもっとも多かった。

このことから、学校以外のスポーツクラブでの運動経験は、限られた種目に特化する傾向にあることが考えられる。

学校以外のスポーツクラブでの活動は、様々な運動種目を経験できるシステムや環境が整っているとはいえないため、小学校の体育の役割としては、子ども達の生涯スポーツの実践に向けて、様々な運動経験を保障し、種目の特性に触れ、児童に運動の楽しさと喜びを伝えることが必要である。


図6 スポーツクラブへの加入状況(4・6年生)

4 健康意識の向上には、保健学習と運動実践のつながり

保健の授業が「好き」と回答した児童は、学年が上がるにつれて減少傾向であった。「好きではない」理由としては、「授業の内容がつまらない」「健康について興味がないから」であった。

これらのことから、健康について興味がない児童にとって、保健の授業は元々つまらないイメージを生むものとなっていることが考えられる。

子ども達の健康意識を向上させ、さらに、健康の保持増進につなげるためには、保健と体育との関わりや、実生活とのつながりを積極的に取り入れるなどの授業の工夫と、健康に関する学級活動や学校行事のような特別活動を通した指導など、保健学習と保健指導の両面の充実を図り、児童の健康意識に働きかける必要がある。


図7 保健の授業が好きですか(4・6年生)


図8 保健の授業が好きではない理由(6年生)

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「かながわシニアスポーツハンドブック」の作成
ー健康寿命日本一の実現に向けてー

スポーツ推進班 池田 剛 大内良臣 山内辰徳 千葉正範

 

【テーマ設定の理由】

平成26年1月1日現在の神奈川県の高齢化率1)は22.5%であり、内閣府の調査によると、平成47(2035)年の高齢化率は33.4%で3人に1人が、平成72(2060)年には39.9%で2.5人に1人が65歳以上の高齢者になることが推測されている。2)

超高齢社会の到来は、生産年齢人口の減少や社会保障費、介護負担の増大が予想される。そのため、高齢者の生活を支える社会システムの整備や、要介護者を支援する仕組みの構築が課題となるが、その一方で、高齢者が自ら健康寿命を延ばし、要介護者にならないための活動支援も重要である。

健康寿命の延伸を図るため、運動・スポーツの実践・継続による生涯スポーツ実践者の増加を図る以外に、栄養や休養等、健康の保持増進に係る要素も併せて考える必要がある。

そこで、理想的な食生活、質の高い睡眠、運動・スポーツを始めるために必要な知識や用具、場所等について、高齢者に特化した内容を掲載し、さらに、体育センター事業の紹介を加えた「かながわシニアスポーツハンドブック」を作成、提供することで、高齢者の健康の保持増進を図り、生き生きとした日常生活を送ることができるよう、本テーマを設定した。

 

【研究目的】

高齢者の運動・スポーツの実践を促す「かながわシニアスポーツハンドブック」を作成し、広く県内高齢者に頒布することにより、運動・スポーツによる健康の保持・増進、運動・スポーツ実施率の向上、健康寿命延伸の一助とする。

 

【研究内容及び方法】

1 研究の期間

平成26年4月から平成27年3月

2 研究の内容

(1)高齢者を取り巻く状況や、からだの特徴、高齢者スポーツ等に関する資料を収集・分析し、「かながわシニアスポーツハンドブック」に掲載するコンテンツの検討及び集約を行う。

(2)掲載するコンテンツに係る有識者による協力や、関係部署への資料提供等を依頼し、「かながわシニアスポーツハンドブック」を作成する。

(3)「かながわシニアスポーツハンドブック」の効果的な広報・頒布方法を検討する。

3 研究の方法

(1)文献研究

(2)コンテンツの検討及び集約

(3)情報提供協力者の選考及び情報提供協力者・関係部署への協力依頼 

(4)コンテンツのとりまとめ及び編集

(5)「かながわシニアスポーツハンドブック」(以下ハンドブックという)の作成及び提供方法の検討

 

【研究の成果】

1 文献研究

(1)健康寿命の延伸に向けた取組について

誰もが健康で生き生きとした生活が送れるよう、県民一人ひとりの取組みや社会全体の取組みを掲げた「かながわ健康プラン21(第2次)」の「目指す姿」3)に示されている、「(新)かながわ健康づくり10か条」を、高齢者一人ひとりが実践できるように構成する必要がある。

(2)県民の健康・スポーツに対する意識

50代以上の回答4)より、健康・体力の維持増進のために心掛けていることの上位は、「食生活」「睡眠・休養」「運動・スポーツ」の3項目であった。これらの取組みを支援したい。

運動・スポーツをしなかった理由の上位は、「忙しくて時間がない」、「機会がない」だった。スポーツ実施率の向上に向け、気軽にできる運動や、負荷の少ない運動・スポーツを提供する必要がある。また、「年をとったから」という理由の割合も多いことから、高齢期になっても、健康の保持増進を図るために、運動・スポーツの実践・継続の有効性を説明する必要がある。

今後も行いたいスポーツについて、比較的軽いスポーツでは、「ウォーキング(散歩などを含む)」が半数以上を占め、比較的広域にわたる野外スポーツでは、「ハイキング」「サイクリング」「ゴルフ」「釣り」「登山」が上位を占めた。

(3)国民の運動・スポーツに対する意識

50歳以上の回答5)より、過去1年の間に実施した種目で、今後も行ってみたいと回答した種目(継続希望率)は、「散歩(ぶらぶら歩き)」、「ウォーキング」、「体操(軽い体操)」「ハイキング」「サイクリング」「筋力トレーニング」が上位となっている。また、過去1年の間には実施していないが、今後行ってみたいと回答した種目(開始希望率)では、「サイクリング」「ハイキング」「ウォーキング」が上位となっており、継続希望率の種目にはなかった「ヨガ」「社交ダンス」「ダーツ」「太極拳」が、今後行ってみたい種目に入っていることから、これらの運動・スポーツを新たに取り組みたい方が多いことがわかる。

全国で200万人以上の潜在需要人口がある種目は、男性が「サイクリング」「筋力トレーニング」「登山」。女性が「アクアビクス(水中運動)」「ヨガ」「社交ダンス」「水泳」「サイクリング」「ダーツ」「ハイキング」と推定された。

2 コンテンツの検討及び集約 及び 3 情報提供協力者の選考及び情報提供協力者・関係部署への協力依頼

文献研究で得られたことから、掲載するコンテンツは、以下の要件を満たすものが有効であると集約した。

  • 健康増進の3要素である「運動」「栄養」「休養」に関するものであること。
  • 一人でも気軽で安全にできる比較的負荷の少ない運動・スポーツであること。
  • 継続需要率や潜在需要率の高い運動・スポーツであること。

この要件を満たす具体なコンテンツを構成し、高齢者の運動・スポーツの実践に係る高度の知識・経験を有し、全国的・全県的な指導実績等を有する情報提供協力者の選考を行った。

(1)巻頭(はじめに)

順天堂大学名誉教授 武井正子氏

(2)ヘルスコンテンツ

ア 一般健康概論

県保健福祉局 保健医療部 健康増進課

同福祉部 高齢社会課

イ 栄養(食事)

県立保健福祉大学 保健福祉学部 栄養学科

教授 鈴木志保子氏

ウ 休養(睡眠) 

西川産業株式会社 日本睡眠科学研究所 

スリープマスター 長谷川夏美氏

(3)スポーツコンテンツ

ア サイクリング

株式会社アスロニア 代表取締役 白戸太朗氏

神奈川県自転車商協同組合 事務局長 越田憲氏

イ 水泳・アクアビクス

株式会社GSPR事業提携水泳プロコーチ

立石諒専属コーチ 高城直基氏

横浜YMCAスポーツ専門学校 

非常勤講師 冨士隆枝氏

ウ 登山・ハイキング

神奈川県登山学校財団 代表 東昭一氏

エ 筋力トレーニング

特定非営利活動法人 日本Gボール協会 

事務局長 沖田祐蔵氏

オ ヨガ

株式会社アイアンドオン取締役 伊藤玲子氏

カ ダンススポーツ

公益社団法人 日本ダンススポーツ連盟

国際本部選手派遣部部長 渡辺和昭氏

国際本部国際派遣業務部 渡辺裕美氏

キ 太極拳

特定非営利法人 神奈川県武術太極拳連盟

理事長 矢島孝一郎氏

4 コンテンツの取りまとめ及び編集

情報提供協力者及び関係部署より提出された原稿及び資料を基に、全コンテンツの体裁に一貫性・統一感が保持されるよう、編集を行った。

5 「かながわシニアスポーツハンドブック」の提供方法の検討

ハンドブックが広く県内の高齢者に行き渡るよう、提供方法を検討した結果、以下のとおりとなった。

(1)体育センターホームページによる提供

(2)メールマガジン(体育センター通信)による情報提供

(3)かながわスポーツタイムズによる広報

(4)マスメディアによる広報

(5)ソーシャルメディアによる広報

(6)各種研修・運動講習会・イベント等における広報

(7)情報提供協力者・県内市町村スポーツ主管課への送付

(8)高齢者を対象とした事業を展開している総合型地域スポーツクラブ等への送付

(9)スポーツ振興に係る各種会議において配付を依頼

(10)県高齢社会課と連携を取り、県内市町村高齢福祉関係部署への送付

 

【まとめ】

健康寿命を限りなく平均寿命に近づけることは、多くの県民が、いつまでも健やかで生きがいのある生活を送ることにほかならない。「栄養」と「休養」に触れ、高齢者が「運動・スポーツ」を実践・継続するためのきっかけとなるハンドブックの提供により、健康の保持増進へと向かう生活習慣の定着を促し、元気な高齢者が増えることを願っている。

実施希望の回答率が高い運動・スポーツについて、個人種目が上位だったのは、1人で気軽に取り組む事ができるためと考えられる。個人種目でも、競技会や講習会等に参加すると、同じ目的や考え、趣味を持つ者同士が接する機会が増える。「次回また会いましょう」と再会を約束し、互いを認め励まし合うことで、自己のモチベーションが高まり、日常のスポーツ活動が楽しくなる。これも立派な「社会参加」である。

「私もこのハンドブックを見て○○を始めました。」と、多くのシニア世代が運動・スポーツを実践し、元気で生きがいのある生活を送ることができたら幸いである。

 

【引用、参考資料】

1)平成26年1月1日現在神奈川県年齢別人口統計調査結果

2)内閣府平成26年度版高齢社会白書

3県民健康づくり運動 かながわ健康プラン21(第2次)

4)神奈川県立体育センター平成22年度県民の体力・スポーツに関する調査結果報告書

5)財団法人健康・体力つくり事業財団「2008アクティブエイジング全国調査」


3033運動モバイル・アプリケーション・プログラムの開発等に関する研究
(2年継続研究の2年目)

スポーツ情報班 齋藤清美 須田敏弘 小林周太郎

 

【研究テーマ設定の理由】

急速な高齢化が進む中、平成13年、神奈川県では、県民が運動やスポーツに親しみ、健康で明るく豊かな生活を送るために、1日30分・週3回・3ヶ月間継続して運動・スポーツを行うことを啓発する3033運動キャンペーンをスタートさせた。これ以降、神奈川県教育委員会教育局生涯学習部スポーツ課及び神奈川県立体育センター(以下、「体育センター」という。)生涯スポーツ課スポーツ情報班は、様々な視点から3033運動推進事業を展開してきた。しかし、これまでの事業における目標は、3033運動の県民への“周知”が主眼となっており、その後の運動実践者の実態や運動習慣の定着度等は十分に把握できていないのが現状であった。

一方、近年の情報発信の主流は、「マスメディア」から「パーソナルメディア」へ、「単方向」から「双方向」へとシフトしつつある。また、情報の伝達においても、情報端末が設置してある場所で情報を送受信する時代から、情報端末そのものを携行する時代になった。このような情報発信技術の進化に適応するため、行政機関が扱う情報についても、モバイル端末に特化した発信形態の創出が今後不可欠になると考えられる。

そこで、本研究では、3033運動の“周知”から“実践・継続”へとシフトしたモバイル・アプリケーション・プログラム(以下、「モバイルアプリ」という。)を開発し、急速に普及しているモバイル端末による情報発信・提供を通じて県民の日常生活の運動化を図ることで、運動・スポーツ実施率の上昇や健康・体力の向上、健康寿命の延伸、生涯スポーツ社会の実現といった目標達成の一助になるものと考え、本テーマを設定した。

平成25年度は、県民の3033運動及びモバイル端末の活用等に関する意識調査を行い、この調査結果をもとにモバイルアプリの開発を行った。

続いて平成26年度は、モバイルアプリの改善及び提供、モニタリング調査による効果測定を行った。

 

【研究目的】

3033運動を実践・継続するための具体のツールとして、3033運動普及啓発用モバイルアプリ(以下、「3033モバイルアプリ」という。)を開発し、広く県民に配信提供することにより、運動・スポーツ実施率の向上や健康寿命の延伸を目指す取組みの一助とする。

 

【研究の期間】

平成25年4月から平成27年3月

 

【研究内容及び方法】

1 3033モバイルアプリの開発

<平成25年>
4月 研究計画の確認、岩崎学園への訪問
6月 岩崎学園情報科学専門学校・横浜医療情報専門学校との連携開始

3033モバイルアプリ開発プロジェクトチームの発足

学生向け3033運動説明会の開催

7月 3033運動アンケート調査の実施(総回答数757)

3033運動アンケート調査の結果集計・分析

アンケート結果のプロジェクトチームへの情報提供

8月 開発プログラム披露・検討会の開催

プログラム案の絞り込み

9月 3033モバイルアプリの開発
10月 体育センターと岩崎学園情報科学専門学校・横浜医療情報専門学校との連携協力協定の締結
<平成26年>
2月 3033モバイルアプリの完成(一部)、岩崎学園研究発表会の開催
4月 3033モバイルアプリ開発作業の継続及びプログラムの修正

 

2 3033モバイルアプリの提供

<平成26年>
5月 「岩崎学園ISCプログラミングコンテスト」の開催
6月 3033モバイルアプリの中間評価
7月 新規プロジェクトメンバーの参入及び3033モバイルアプリの提供に向けたプログラムの修正
8月 3033モバイルアプリ(β版)のアンドロイド市場への参入
10月 3033モバイルアプリプログラムの更新

 

3 3033モバイルアプリの改善

<平成26年>
11月 3033モバイルアプリ モニタリング調査の実施

(モニター数149)

<平成27年>
1月 3033モバイルアプリ モニタリング調査の結果集計・分析
2月 課題整理及びプログラムの改善

 

【結果・考察】

1 3033モバイルアプリのインストール数及び利用者数

アンドロイド市場に参入した平成26年8月より平成27年2月にかけて、それぞれの3033モバイルアプリの月別インストール数、月別利用者数及び累積インストール数を調査した。

「3033モバイルアプリのモニタリング調査」を実施した11月に月別インストール数が増加した。また、12月の県のたより「未病特集号」に記事が掲載されたため、月別インストール数が増加した。特に「めざせ芦ノ湖!」が取り上げられたことが数字として顕著に表れた。

なお、3033モバイルアプリは、そのプログラムの特性により、使用可能なアンドロイドバージョンがそれぞれ設定されている。「Let’s大また歩き!」は他の2つのアプリに比べて高いバージョンとなっており、古いバージョンのモバイル端末ではインストールできないため、累積インストール数に差が出ていると考えられる。

表1

「Let’s大また歩き!」の月別インストール数、月別利用者数、累積インストール数

  8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月
月別インストール数 2 3 3 64 5 3 3
月別利用者数 2 4 6 62 42 40 37
累積インストール数 2 5 8 72 77 80 83

表2

「めざせ芦ノ湖!」の月別インストール数、月別利用者数、累積インストール数

  8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月
月別インストール数 5 2 9 76 180 17 4
月別利用者数 5 5 14 80 172 147 125
累積インストール数 5 7 16 92 272 289 294

表3

「みんなの3033運動」の月別インストール数、月別利用者数、累積インストール数

  8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月
月別インストール数 8 11 12 95 39 26 11
月別利用者数 8 10 16 92 79 75 61
累積インストール数 8 19 31 126 165 191 202

 

2 3033モバイルアプリ モニタリング調査対象団体

  • 神奈川県職員
  • 綾瀬市役所職員
  • 岩崎学園 情報科学専門学校/横浜医療情報専門学校
  • 神奈川工科大学関係団体(厚木市民)
  • その他

3 考察

(1)「Let’s大また歩き!」

カエルのキャラクターを成長させるという設定や大また歩きを意識させるという点でアイデアの評価が高かった。一方、GPSの不具合が発生する点やバージョンが高いためインストールすることができない機種も多く、課題が残ったが、現在これまでのアイデアを踏襲し、新チームがプログラムを修正中である。

(2)「めざせ芦ノ湖!」

目的地をめざしてバーチャルで歩けるというアイデアやボタン操作が少ない手軽さの面で高い評価を受けた。一方、バックグラウンドでスリープ状態になり、歩数がカウントされなかったり、突然モバイルアプリが終了してしまうなどの不具合が発生している。考えられる原因としてはスマートフォンが機能の優先順位を自動的に決めており、歩数を測定する機能の優先順位は低いため、スリープ状態になったときに自動的に終了してしまうということが挙げられる。そのため、それぞれの機種に対応するためのプログラミングが必要であると考えられる。また、改善点として、全体像や現在の歩いている位置を把握できるような地図機能、目的地の追加などの提案も多くあった。

(3)「みんなの3033運動」

ワンタッチで動かせる手軽さの面と一週間の運動履歴をみることができるアイデアの面で高い評価を得た。一方、累計カロリーが表示されないことやバックグラウンドで動作確認ができないことなどの不具合が発生している。また、改善点として、画像のバリエーションの追加や画面の表示・操作に工夫をして欲しいなどの要望もあった。


図1 Playストア上の3033モバイルアプリインストール画面

3033モバイルアプリに関しては現在、開発途上版(β版)として提供していることもあり、改善すべき点は多々あるが、モニタリング調査の「運動を継続するためにモバイルアプリを利用することは効果的か」という質問に対して、「思う」「どちらかというと思う」と回答された方が過半数を占めた。モバイル端末は常に持ち歩くため、目標ができて意識的に運動することができるなどの理由が挙げられた。一方、「どちらかというと思わない」「思わない」と回答された方の中には、スマートフォンのバッテリーを懸念される方や運動に対する個人の意識の問題であるなどが挙げられた。

「体の変化」、「意識の変化」に関する質問では、いずれも「あまり変わらない」と回答された方が過半数であった。しかし、3週間という短い期間でのモニタリング調査であったが、体調がよくなったり、運動することを意識したりする方がいた。また「変わらない」と回答された方の中には、元々スポーツをしているという方や、すでに万歩計を利用しているという方が多かった。他には、モバイルアプリの機能の向上を指摘される方が多かったので、改善次第で効果が期待される。

 

【まとめ】

今回、岩崎学園の学生に開発を依頼した理由として、モバイルツールの利用率が高い若い世代の柔軟な発想をアプリに反映させることや、県の公的機関と連携し、学生自らがアプリを作成することで、学生の教育的・経験的効果が促進されることなどが挙げられる。

2年継続研究として、1年目に3033モバイルアプリを作成・提供し、2年目には、運動効果を見取ることができる長期のモニタリングを行い、そのアンケート結果をプログラムに反映し、改善を図ることを計画していた。しかし、3033モバイルアプリの開発が遅れ、長期間のモニタリングを行うことができず、また、開発途上版(β版)でのアンドロイド市場参入となったため、全県的に3033モバイルアプリの利用を促す広報には至らず、現時点ではいずれのアプリも低い利用数にとどまっている。

本研究内におけるモバイルアプリの開発については、アプリ利用者の確保や運動習慣の改善といった具体の成果にはつながらなかった。しかし、モバイル端末を利用して運動促進を図ることの意義や、運動に対する体や意識の変化などにおいて肯定的な意見も多く見られたことから、3033モバイルアプリについては、プログラムの改善を継続することで、日常生活で運動を実践・継続させるための具体のツールになりうるものと考える。

今後も岩崎学園との連携を図りながら、運動・スポーツの実施率の向上や健康寿命の延伸を目指す取組みの一助となるよう、アイフォン市場への参入検討も含め、より汎用性・拡張性の高いアプリへと昇華させていきたい。

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オーバーハンドスローの基本を身に付ける「多様な動きをつくる運動」
7つの観点を踏まえ特定した動きを学ぶ分習法的教材の活用を通してー

横須賀市立池上小学校 伊東誠司

【はじめに】

子供の体力低下が問題視される中、文部科学省は平成25年度体力・運動能力調査について、投能力の低下が著しいことを報告している。1)実際、体育の授業においても、オーバーハンドスローの基本が身に付いていないため、ベースボール型の授業等で種目の特性を十分味わえないまま、小学校を卒業していく児童が多くいると感じられる。

投能力の問題について、岩田は「体力的問題というより、動きそのものの獲得に大きな課題が存在している」2)「『投げる』というのは、いくつもの課題が複雑に絡み合って成り立っている」2)などと述べている。

このことから、オーバーハンドスローでボールを遠くに投げるためには、そのための動きを意図的・計画的に教えることが必要であり、岩田の言う「いくつもの課題」を解決するために、「多様な動きをつくる運動」が貢献できると考えた。

そこで、「多様な動きをつくる運動」を構成する「体のバランスをとる」、「体を移動する」、「用具を操作する」、「力試し」の各運動で、投動作の指導を体系的に整理した宮崎の「投動作指導の7つの観点(投げ手腕、バックスイング時体幹後傾、足の踏み出し、体重移動、体幹回転、投げ手反対腕、フォロースルー)」3)を踏まえ、特定した動きを学ぶ分習法的教材を活用することで、組み合わせる運動としてのオーバーハンドスローの基本が身に付くと考えた。

 

【内容及び方法】

1 研究の目的 

オーバーハンドスローの基本を身に付ける「多様な動きをつくる運動」のあり方を教材を中心に検討する。

2 研究の仮説

小学校4年生の「多様な動きをつくる運動」において、7つの観点を踏まえ特定した動きを学ぶ分習法的教材を活用することにより、動きを組み合わせる運動としてのオーバーハンドスローの基本を身に付けることができるであろう。

3 検証授業

(1)期間 平成26年9月8日から25日(全6時間)

(2)対象 横須賀市立池上小学校 4年3組(35名)

(3)単元目標

体のバランスや移動、用具の操作などとともに、それらを組み合わせることができるようにする。

(4)教材

対象が4年生であることから、投動作指導の7つの観点を踏まえ、特定した動きに加え、「握り方」「投射角度」「体の向き」も指導できる教材を選定した。

<教材例>

ア バンダナボール投げ4)

バンダナボールは、運動会で玉入れや鈴割に使うボールにバンダナを巻いてゴムで止めたものである。このボールを上方に投げ上げる運動を通して、「バックスイング時の体幹後傾」「投げ手反対腕(動き:斜め上に上げる)」を指導するとともに、人差し指と中指でバンダナを挟む3本の指による「握り方」の指導をした。

イ Gボール投げ

大きい物や重たい物を投げるには、肩・腰の回転を利用した動作が必要になると考え、Gボール(重さ1.1kg)を遠くに投げる運動を通して「体幹回転」の指導をした。

(5)単元計画 注)計画したサイドステップ投げは未実施

 

【結果と考察】

1 動きの改善

児童のオーバーハンドスローの動きの変容を検証するため「投動作指導の7つの観点」に対応している高本他が作成した「投運動の観察的動作評価基準」5)をもとに、第1時と第6時に行った遠投大会でのオーバーハンドスローの動きを、VTRにより3名で5段階評価をした。

表1 7項目の得点及び総合得点の平均値、標準偏差、分散分析の結果

表1は、評価項目ごとの動作得点を表にしたものである。7項目のうち、男女ともに有意な改善が認められたのは「体幹後傾」「足の踏み出し」「投げ手反対腕」であった。「体幹後傾」「投げ手反対腕」については、両方の動きの指導に活用したバンダナボール投げが、有効に機能したと考えられる。なお、「足の踏み出し」については、今回は、ステップの指導ができなかったため直接的な指導の影響は少ないと考える。

2 動きの改善と遠投距離

図1は、第1時と第6時の動作合計得点と遠投距離をプロットし、児童ごとの変化を矢印で示したものである。男女で比較すると男子に比べ、女子の特に下位層は、急勾配な矢印が多くなっており、少しの動作改善で距離が伸びたと考えられる。


図1 動作合計得点と遠投距離の児童ごとの変化(男子・女子)
注)体育館での実施のため、23m付近を満点とした。

3 形成的授業評価6)

図2は、男女別形成的授業評価の推移を示したものである。男女とも意欲・関心、学び方、協力は高い評価となっているものの、唯一「成果」項目が低い結果になっている。理由としては、児童が自分の動きを簡単に評価できなかったことや、動きの原理についてなどの説明が不十分であったこと、またポイントを教えるための教材数が多く、成果を確認する時間をとれなかったこと、ゲーム性を持った教材を用意できなかったことなどが考えられる。

一方、事後アンケート「ボールを遠くへ投げるための動きが上手くなったと思いますか」では、男子で約6割、女子で約9割が肯定的な回答をしている。このことから、多くの児童は、6時間の単元としては、動きのレベルアップを感じることはできていたと考えられる。


図2 男女別形成的授業評価の推移

 

【まとめ】

検証の結果、次の4つの授業改善の視点が浮かび上がった。

  1. 優先すべき動きのポイントの精選・改善
  2. ゲーム性を持った教材の吟味
  3. 児童が動きを評価できる仕組み作り
  4. 投動作の獲得に努力を要する児童への具体的な手立て

以上のことから、授業改善の視点1・2を踏まえ、表2 動きのポイントと教材(修正版)を作成してみた。 

今後は、さらに、表2に対応した授業改善の視点3・4について検討し、授業に臨みたいと考える。

表2 動きのポイントと教材(修正版)<抜粋>

優先順位の高い順に ◎ ○ △

本研究では、オーバーハンドスローを学習内容の柱とし、授業で学んだ複数の動きが、どのようにオーバーハンドスローにつながっているかについて、分習法的教材による“見える化”を図ることとなった。そして、必然的に動きの持っている意味を、教師も児童も考えることとなった。このことから、「多様な動きをつくる運動」においては、児童が喜んで行う運動をバランスよくやらせるだけではなく、その運動により身に付けるべき動きが、将来どのように活用されるかなどの意味を踏まえることが大切であると、授業を通して感じることができた。

動きの意味、そして構造や原理を十分に考え、理解した上で、教材を解釈し、開発していく必要があると言える。

 

【引用・参考文献】

1)平成25年度体力運動能力調査の結果について(報道発表資料) 文部科学省2014年 10月

2)岩田靖『体育の教材をつくる』大修館書店 p.62 2012年

3)宮崎明世「中高生の投能力を高めるために」『体育科教育』p.32大修館書店2014年2月

4)野口潤也「バンダナボール投げと落下傘ボールで投動作の習得を促す」『体育科教育』pp.28-31大修館書店、2012年6月

5)高本恵美他「小学校児童における走・跳および投動作の発達:全学年を対象として」『スポーツ教育学研究』第23巻 第1号pp.1-15 2003年

6)高橋健夫他「体育の授業を観察評価する」高橋健夫他編『体育の授業を形成的に評価する』pp.12-15明和出版 2003年

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参加意欲を高めて技が達成できるマット運動の授業
ー「安心感」「仲間意識」「自己効力感」を持ち、段階的に学習に取り組める教材・教具の開発、工夫を通してー

厚木市立厚木中学校 宮崎友子

 

【はじめに】

平成20年1月の中央教育審議会答申において「学習意欲」への課題が挙げられ1)、学習指導要領の保健体育科の目標には「生涯にわたって運動に親しむ資質や能力を育てる」2)ことが示された。この資質や能力を育てるためには、授業を通して運動の楽しさや喜びを味わわせ、運動に対する意欲を喚起していくことが大切であると考える。しかし、マット運動のような「技達成型の運動」3)では、「できる」「できない」がはっきりしているため、できないと生徒の意欲が低下する傾向がある。

中学校第1学年の生徒に、マット運動に関する実態調査を行ったところ、参加意欲が低下する主な原因として「こわい」、「はずかしい」、「できるようにならない」という3つのことが挙げられた。

このことから、マット運動では心理的な側面への配慮が必要なのではないだろうかと考える。また、水島(2010)が、「学習者に器械運動を行う上で必要な能力が身についていない状態であっても、技自体が学習課題になることから、いきなり技を練習する指導がとられがちである」4)と述べているように、これまでの授業では、技の完成形を身に付けることが重視され、そのために必要な能力や体の動かし方を十分に指導しきれないまま学習が進んでしまったことが問題であったと考える。

こうしたことから、参加意欲を低下させている3つの心理的要因を解消し、技に必要な能力や体の動かし方を段階的に指導することができる教材・教具を開発、工夫することで、参加意欲を高め、技が達成できるようになると考える。

 

【内容及び方法】

1 研究の仮説

中学校1年生のマット運動の授業において教材・教具を開発、工夫し、生徒に「安心感」「仲間意識」「自己効力感」を持たせ、段階的な学習を行うことによって、参加意欲が高まり、技が達成できるようになるであろう。

2 分析の視点

3 検証授業

(1)期間 平成26年9月9日(火曜日)から9月30日(火曜日)

(2)場所 厚木市立厚木中学校

(3)対象 第1学年5・6組女子(37名)

(4)単元名 B 器械運動(マット運動)

(5)指導の工夫

ア 「安心感」「仲間意識」「自己効力感」を育む手

イ 段階的な学習

学習内容を段階的に示し、生徒が目標を明確に持って取り組むことができるようにした。

 

【結果と考察】

1 参加意欲の向上について

参加意欲については、事前アンケートから意欲がわかない時に生徒が何を求めているかという観点で「安心感群」「仲間意識群」「自己効力感群」の3つに分けた分析と、全員の参加意欲について分析した。

<結果>

(1)安心感群(15人)について

ア 安心感は高まったか

「今回の授業は、こわくなかったか」(事後)という質問に対して、13人(87%)の生徒が肯定的な回答であった。

イ 「こわい」という気持ちを取り除く上で役に立ったか

「『パネルマット』、『動きづくり体操』は、こわさを取り除く上で役に立ったか」(事後)という質問に対して、どちらも全て(15人)の生徒が肯定的な回答であった。

(2)仲間意識群(16人)について

本研究においては「はずかしい」という感情を「他人からの否定的な評価に対する恐怖」5)と捉え、「はずかしさ」を軽減できたことを「仲間意識は高まった」と捉えた。

ア 仲間意識は高まったか

「今回の授業は、はずかしくなかったか」という質問に対して、15人(94%)の生徒が肯定的な回答であった。

イ 「はずかしい」という気持ちを軽減する上で役に立ったか

「『(スモールステップ表を使って)仲間と教え合ったこと』、『(認め合いカード等を使って)仲間とプラスの言葉かけを行ったこと』は、はずかしさを軽減する上で役に立ったか」(事後)という質問に対して、それぞれ15人(94%)、16人(100%)の生徒が肯定的な回答であった。

(3)自己効力感群(5人)について

本研究においては「技ができそう」と思えたことを「自己効力感は高まった」と捉えた。また、その前段階として「技ができるようになりたい」という気持ちを育てることが大切であると捉えた。

ア 自己効力感は高まったか

「今回の授業で、技ができそうと思ったか」(事後)という質問に対して、すべて(5人)の生徒が肯定的な回答であった。

イ 「技ができるようになりたい」という気持ちを高める上で役に立ったか

「『スモールステップ表』、『動きづくり体操』は、技ができるようになりたいという気持ちを高める上で役に立ったか」(事後)という質問に対して、どちらも全て(5人)の生徒が肯定的な回答であった。

(4)参加意欲は高まったか(全員36人)

「マット運動に対する意欲は高まったか」(事後)という質問に対して、35人(98%)の生徒が肯定的な回答であった。その理由として、「技ができるようになったから」「仲間が声をかけてくれたから」「練習方法が安全だったから」などが挙げられた。

<考察>

参加意欲が高まった要因として次の3点が考えられる。

  1. 安心できる場で安全な体の動かし方を身に付けたこと。
  2. 教え合うポイントを理解して、認め合いながら学習したこと。
  3. 小さな成功体験を積み重ねたこと。

2 技の達成について

<結果>

(1)技ができるようになったと思えたか

「今回の授業で技ができるようになったと思ったか」(事後)という質問に対して32人(89%)の生徒が肯定的な回答であった。

(2)技が達成できたか

グループ発表会において、演技構成で選択した技の技能の評価結果は表1のとおりであった。

表1 演技構成で選択した技の評価

(3)抽出生徒は側方倒立回転ができるようになったか

事前調査から、体育の授業があまり好きではなく、マット運動が苦手な生徒Jを抽出し、「おおむね満足できる」状況(B)の足の高さの平均値(身長の約1.09倍)を通過できたかを分析した。初めて取り組んだ3時間目は腰ほどまでしか上がっていなかった足(107.7cm)が、5時間目には基準値となる174.4cm(抽出生徒の(B)の足の高さ)を超え、9時間目の発表会では178.7cmまで上がるようになった。

<考察>

技ができるようになった要因として次の7点が考えられる。

  1. 動きづくり体操で「支える」「転がる」「逆さま」「バランス」の動きを身に付けたこと。
  2. 接転技では「支える」「転がる」など成り立ちを理解し、練習することができたこと。
  3. ほん転技では「支える」力によって、補助倒立ができるようになり、倒立姿勢ができるようになったこと。
  4. やさしい技から段階を追って練習したこと。
  5. スモールステップ表を活用して、技のポイントを理解したこと。
  6. ポイントを押さえた上で、手の着き方やリズムを身に付け、体の動かし方やリズム感を習得したこと。
  7. 仲間と、ポイントに沿って教え合いながら学習を進めたこと。

 

【研究のまとめ】

マット運動においては、「できる」「できない」ということに目が向きがちだが、生徒が感じている不安などについても教師が適切に把握し、手立てを講じていく必要があると考える。また、技の達成の喜びは、単に「ある技ができるようになる」ことに留まるものではない。スモールステップも立派な技だと捉え、生徒の「できた」という感覚の幅を広げることが達成の喜びをより多く感じさせることにつながると考える。

本研究で開発、工夫した教材・教具の中から、特に有効であったと思われるものを次に挙げる。

 

【引用・参考文献】

1)「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」中央教育審議会 2008年1月

2)文部科学省『中学校学習指導要領』 2008年3月

3)高橋健夫「新しいマット運動の授業づくり」『体育科教育』大修館書店 2008年11月p.87

4)水島宏一「器械運動が苦手な子のための指導法3つ」『体育科教育』 2010年1月p.28

5)加藤諦三『「はずかしさ」の心理』 三笠書房 1995年2月pp.38-39

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仲間と連携したパスによる攻撃でゲームが展開できる高等学校2年生のサッカーの授業
ー生徒の実態を把握し、それまでの学習内容(パス)を復習する機会を確保した単元計画ー

神奈川県立津久井浜高等学校 有働貴行

 

【はじめに】

現行の高等学校における学習指導要領解説保健体育編では、小学校から高等学校までの12年間を見通した指導内容の体系化が図られ、「技能」では、具体的な動きが示されている。

現在の高等学校2年生は、中学校3年と高等学校1年の2年間は現行の学習指導要領に基づき学習しているが、それまでの8年間は、従前の学習指導要領に基づいた学習をしてきた。そのため、現行の学習指導要領で示された技能の中で身に付いていることと、身に付いていないことがあると考えられる。

そこで、本研究では、球技ゴール型(サッカー)において、当該学年の学習内容を身に付けさせるために、生徒の実態を把握し、身に付いていないことを復習的に学習することが必要であると考えた。

サッカーのゲームで大切なことについて、西沢は「相手にボールをキープさせないこと」1)であり、ボールを保持した際、「味方から味方へパスをつなぎ、チャンスをみてゴールへシュートし、得点をあげる」1)こととしている。また、高等学校の球技では「作戦や状況に応じた技能や仲間と連携してゲームが展開できるようにする」2)ことが求められている。

これらのことから本研究では、パスの技能について一定期間、復習的な学習を確保した単元計画を作成し、授業を実施することにより、高等学校2年生以降の学習への接続が円滑に図られ、仲間と連携したパスによる攻撃でゲームが展開できると考えた。

 

【研究の仮説】

高等学校2年生のサッカーの授業において、生徒の実態に応じて復習する機会を確保することで、当該学年の学習への接続が円滑に図られ、仲間と連携したパスによる攻撃でゲームが展開できるであろう。

 

【研究の内容と方法】

1 生徒の実態把握

表1は、ハンドボール授業で観察・調査した結果である。

表1 生徒の実態把握(技能)
技能(ゲーム観察から)

攻撃の際、1人でドリブルしたり、特定の2人で相手ゴール前へ侵入したりするといった動きに留まっていた。

注)態度、知識、思考・判断についても実施

2 パスに関する学習内容とそれに即した学習活動の設定

生徒の実態把握から、学習する必要がある「ボール操作」と「ボールを持たないときの動き」を明らかにし、学習内容を、復習から高等学校2年生の内容となるよう段階的に設定し、それに即した学習活動を設定した。(表2、表3)

表2 「ボール操作」の学習内容と学習活動の設定
学習内容(例示) 取り扱う段階 学習活動
ボール操作 復習 得点しやすい空間にいる味方にパスを出すこと 中1・2 FWパスゲーム
見方が操作しやすいパスを送ること 中3・高1 パス&ラン
高2 見方が作り出した空間にパスを送ること 高2 ゲット・ザ・スペース
2対2+フリーマンゲーム
パス&ゴーゲーム
表3 「ボールを持たないときの動き」の学習内容と学習活動の設定
学習内容(例示) 取り扱う段階 学習活動
ボールを持たないときの動き 復習 パスを出した後に次のパスを受ける動きをすること 中3・高1 マイボールゲーム
ゴール前に広い空間を作りだすために、守備者を引き付けてゴールから離れること 引っぱがしゲーム
ボール保持者が進行できる空間を作りだすために、進行方向から離れること 3グリッドゲーム
高2 ボール保持者がプレイしやすい空間を作りだすために、必要な場所に留まったり、移動したりすること 高2 パス&ゴーゲーム(2対1)

3 単元計画

4 検証の方法

5 検証の視点

表5 検証の視点及び具体的な分析の観点
検証の視点 分析の観点
基本的なボール操作(パス)が身に付いたか (1)チームごとのパス回数の推移
(2)一人当たりのパス回数の推移
ボール操作が身に付いたか 復習

(1)得点しやすい空間にいる味方にパスを出すことができたか

ア 技能の知識の正答率
イ 成功回数

(2)味方が操作しやすいパスを送ることができたか

ア 技能の知識の正答率
イ 成功回数

高2

(3)味方が作りだした空間にパスを送ることができたか

ア 技能の知識の正答率
イ 成功割合

ボールを持たないときの動きが身に付いたか 復習

(1)パスを出した後に次のパスを受ける動きをすることができたか

ア 技能の知識の正答率
イ 成功割合

(2)ゴール前に広い空間を作るために、守備者を引きつけてゴールから離れることができたか

ア 技能の知識の正答率
イ 成功割合

(3)ボール保持者が進行できる空間を作りだすために、進行方向から離れることができたか

ア 技能の知識の正答率
イ 成功割合

高2

(4)ボール保持者がプレイしやすい空間を作りだすために、その場に留まったり、移動したりすることができたか

ア 技能の知識の正答率
イ 成功割合

仲間と連携したパスによる攻撃でゲームが展開できたか

(1)ゲーム中に見られた連続したパスの変容

ア パスの連続本数の推移
イ パスの成功本数と成功確率の推移

(2)生徒Aのゲーム中に見られた変容

ア 生徒Aとチームのゲーム中(攻撃)に移動した時間の変容
イ 生徒Aがゲーム中にボール保持者がパスしやすい空間を作りだすために、その場に留まったり、移動したりすることができた回数の変容

 

【結果と考察】

結果と考察は、検証の視点から以下を抜粋することとした。

1 基本的なボール操作(パス)が身に付いたか

パス&コントロールでは、パスの回数が4.7回から5.9回と1.2ポイント増加した。パス&コントロールにより、基本的なボール操作(パス)を身に付けることができたと考えられる。

図1一人当たりのパス回数の推移

2 ボール操作が身に付いたか

(1)得点しやすい空間にいる味方にパスを出すことができたか(中学校第1学年及び第2学年の学習内容)

基本的なボール操作(パス)を身に付けながら、復習的な学習活動(FWパスゲーム)を実施したことにより、味方の「前方」に、「インサイドキック」でパスを出すことの理解が深まり、技能で発揮できた割合が、指導始めの58.3%から、指導終わりでは91.7%と、33.4ポイント増加させることができた。

図2技能の知識の正答率

図3成功割合

(2)味方が作りだした空間にパスを送ることができたか(高等学校2年生の学習内容)

復習的な学習活動を実施したことにより、高等学校2年生の学習活動であるゲット・ザ・スペースでは、指導始めで技能を発揮できた割合が46.7%となっていた。

引き続き、ゲット・ザ・スペースを指導したところ、移動した味方が作りだした空間に走り込む味方の動きを見て、タイミングよくパスを送ることの理解が深まり、技能で発揮できた割合が、指導終わりでは93.3%と、46.6ポイント増加させることができた。

図4技能の知識の正答率

図5成功割合

3 ボールを持たないときの動きが身に付いたか

(1)パスを出した後に次のパスを受ける動きをすることができたか(中学校第3学年及び高等学校入学年次の学習内容)

復習的な学習活動(マイボールゲーム)を実施したことにより、パスを出した後に、守備者の後ろや空いているサイドに、素早く走り込んで、パスを受けることの理解が深まり、技能で発揮できた割合が、指導始めの58.3%から、指導終わりでは83.3%と、25ポイント増加させることができた。

図6技能の知識の正答率

図7成功割合

(2)ボール保持者がプレイしやすい空間を作りだすために、その場に留まったり、移動したりすることができたか(高等学校2年生の学習内容)

復習的な学習活動を実施したことにより、高等学校2年生の学習活動であるパス&ゴーゲーム(2対1)では、指導始めで、技能を発揮できた割合が37.5%となっていた。

引き続き、パス&ゴーゲーム(2対1)を指導したところ、ボール保持者がプレイしやすい空間を作りだすために、ボール保持者が守備者を抜けないときはその場に留まったり、守備者を抜いたときは移動したりすることの理解が深まり、技能で発揮できた割合が、指導終わりでは62.5%と、25ポイント増加させることができた。

図8技能の知識の正答率

図9成功割合

4 仲間と連携したパスによる攻撃でゲームが展開できたか

復習的な学習活動が進んだ6時間目で、パスの成功確率が71.4%に増加し、高等学校2年生の学習活動を終えた14時間目では、パスの成功確率が85.7%となり、ゲーム中にパスが途切れることなくつながった様子が見られた。

図10パスの成功本数と成功確率の推移

以上のように、基本的なボール操作を身に付けながら、「ボール操作」と「ボールを持たないときの動き」で、復習的な活動を行ったことにより、高等学校2年生の学習への接続を円滑に図ることができ、仲間と連携したパスによる攻撃でゲームが展開できたと考えられる。

 

【研究のまとめ】

高等学校2年生のサッカーの授業において、生徒に当該学年の学習への接続を円滑に図るためには、生徒の実態を把握することが必要であることが分かった。今後、数年間は、従前の学習指導要領による学習を経験した生徒が入学してくることから、生徒の実態把握を重視し、復習の機会を設定して、指導する必要があると考える。

 

【引用・参考文献】

1)西沢宏・編 「ボールけりゲームからサッカーへ」明治図書 1988年11月

2)文部科学省 『高等学校学習指導要領』 2009年3月

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仲間にボールをつなぐバレーボールを目指す授業
ー全体指導計画の共有と学習形態の工夫を通してー

神奈川県立相模原養護学校 荒井佑輔

【はじめに】

知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校高等部の各教科「保健体育」の目標には、生徒の仲間意識や、集団意識に関する内容が記載されている。1)

しかし、「多くの発達障害児は、成長するとともに大人とは比較的良好な関係を持つようになるが、他児と相互的な関係を持つことは難しく、青年期に達してもなお、仲間との相互作用に著しく障害されたままにとどまる(Baltax&Simon、1983)」2)ことが明らかにされている。これは、相模原養護学校高等部の体育授業での生徒同士のコミュニケーションの様子にも見られ、例えば、風船バレーでは、チーム内でのパスの様子があまり見られず、比較的運動能力の高い生徒が中心となって1対1で相手コートに返球し合うゲームの様相が見られるなど、集団的活動において、生徒自身が「仲間意識を持ち、集団意識を自覚」した活動になっているかどうかは不明な点が多い。私自身の指導を振り返ってみても、生徒が仲間と関わることよりも、個人技能の経験や習得に重点を置いて指導してきていた。

これらのことを踏まえ、特別支援学校のすべての生徒に、学習形態を工夫することで役割を与え、楽しさを共有できる全体指導計画を考案し、実践すれば、仲間との関わりを自覚して運動することができるようになると考えた。

 

【内容及び方法】

1 研究の仮説

いろいろなスポーツ「球技」バレーボールの授業において、仲間との“つなぎ”を意識した全体指導計画の共有と学習形態の工夫によって、生徒が仲間との関わりを自覚して運動する集団的活動を経験したり、その行い方を習得したりすることができるであろう。

2 分析の視点

項目 具体的な視点
(1)全体指導計画の共有について 教師が指導内容を明確にすることができたか
(2)仲間との関わりを自覚した集団的活動の経験・その行い方の習得について 生徒に仲間との関わりを自覚させることを教師が個別指導で実践できたか
生徒が仲間との関わりを自覚して集団的活動を経験、またはその行い方の習得ができたか

3 検証授業

(1)期間 平成27年1月19日(月曜日)から2月2日(月曜日)

(2)場所 神奈川県立相模原養護学校

(3)対象 高等部第2学年(33人)

(4)単元名いろいろなスポーツ「球技」バレーボール

(5)指導の工夫

ア 生徒の役割分担

役割

ロケットG

(うつ)

電車G

(つなぐ)

忍者G

(ひろう)

主な活動 発射台に転がされたボールを打つ 味方からボールを受け取り、発射台の上を転がす 相手コートから打たれたボールをキャッチして、セッターに渡す

※Gはグループ

イ 学習形態

学習形態 目的
グループ別個別学習 グループ別学習において個別の支援を行う個別学習を展開し、個人技能の定着を図る。

部分統合学習

手立てを工夫しながら2つのグループの“つなぎ”を学習する。
統合学習 クラスの仲間で自分の役割を自覚できるルールを工夫したゲームを通して、チームを基に学習する。

 

【結果と考察】

1 全体指導計画の共有ついて

分析の視点を基に、高等部2学年の体育の指導を担当する教師14人のアンケート調査結果を分析した。

(1)指導内容の明確さについて

<結果>

ア 打合せについて

事前(事後)アンケート「普段(今回)の体育の授業に関する打合せは、十分だと思いますか」について、事後に「十分だと思った」の回答が増えた。(図1)

イ 全体指導計画の活用について

事前(事後)アンケート「単元の全体指導計画の活用によって、教師相互の共通理解が図られると思いますか(図られたと思いましたか)」では、14人中、事前は11人、事後は12人が、共通理解が図られることに肯定的な回答をした。

ウ 全体指導計画の個に応じた手立ての有効性について

事後アンケート「単元の全体指導計画の提示によって個に応じた手立てが取りやすいと思いましたか」では、14人中、12人がその有効性に肯定的な回答をした。

エ 指導内容の明確さについて

事後アンケート「今回の体育の授業において指導内容は明確になっていたと思いましたか」では、14人中、13人が明確になっていたことに肯定的な回答をした。

<考察>

  • 全体指導計画や、それを用いた打合せによって、指導内容が明確になり、共通理解を図ることができると言える。
  • 全体指導計画の個に応じた手立てへの有効性については、全体の中での個別指導の位置付けを把握する上で有効であると捉えられているようである。

2 仲間との関わりを自覚した集団的活動について

分析の視点を基に、高等部2学年の体育の指導を担当する教員14人のアンケート調査結果の分析と、仲間との関わりをVTRから分析した。

(1)生徒に仲間との関わりを自覚させることを教師が個別指導で実践できたか

<結果>

ア 仲間との関わりを自覚させる指導について

事後アンケート「生徒が仲間との関わりを自覚するよう自分自身は指導したと思いましたか」では肯定的な回答が部分統合学習で最多となり、統合学習ではやや減少した。(図2)

図2仲間との関わりを自覚させるよう指導できたか

イ 仲間との関わりを自覚させる有効な手立てについて

事後アンケート「生徒に仲間との関わりを自覚させる手立てとして何が有効であったと思いますか」では、最も多かった手立ては「生徒の特性に応じた役割を分けたこと」、次いで「学習形態を工夫したこと」であった。

ウ 生徒が仲間との関わりを意識したかについて

事後アンケート「生徒は仲間との関わりを自覚して取り組めていたと思いましたか」では、14人中、11人が肯定的な回答をした。

エ 仲間との関わりを自覚させるための個別指導について

個別指導カード「本時の学習活動の様子」から、仲間との関わりを自覚させるために実践した個別指導の記録をまとめた。ロケットGは、動作を覚えるための身体操作から入り、徐々に呼びかけによって活動できるようになっていく様子が見られた。電車Gは、成功体験を褒めることによって理解させ、徐々に呼びかけによって活動できるようになっていく様子が見られた。忍者Gは、一般的な見本や言葉かけによる指導で当初より、仲間との関わりを自覚しながら取り組める様子が見られた。

<考察>

  • 教師が生徒に仲間との関わりを自覚させるよう指導することで、生徒は仲間との関わりを自覚して取り組むことができるようになったと考えられる。
  • 「個別」、「部分統合」、「統合」と段階的に学習形態を変えることで、個に応じた指導の手立てや、ルールの工夫などにつながり、「仲間との関わりを自覚」させることができたと考えられる。

(2)生徒が仲間との関わりを自覚して集団的活動を経験・その行い方を習得できたか

<結果>

ア 仲間との関わりの達成状況について

「本単元における『仲間との関わり』の分析の視点」(表1)を基に生徒33人中、授業に参加できなかった3人を除いた30人分の各グループの「態度」をVTRから分析を行った。

表1本単元における「仲間との関わり」の分析の視点

イ 抽出生徒の変化の状況について

(ア)ロケットグループDさんの変化

教師がDさんの身体に触れることなく活動を成立させていた時間の割合の変化は上昇し、最終のゲームでは、教師の言葉かけのみで自立して活動に取り組むことができた。

(イ)電車グループHさんの変化

教師の言葉かけによる支援がなくても役割を行うことができた割合の変化は上昇し、最終ゲームの後半は完全に自立して取り組むことができた。

<考察>

  • それぞれの生徒の特性に応じた役割分担をし、学習形態を工夫することにより、生徒が仲間との関わりを自覚して集団的活動を経験し、その行い方を習得できたと考えられる。

 

【研究のまとめ】

全体指導計画を立案し、共有することにより、教師間で指導内容の共通理解を図ることができたこと、学習形態の工夫として、生徒の特性に応じた役割分担により仲間との関わりを自覚させることができたこと、個から集団へと緩やかに学習形態を変化させるよう工夫したこと、以上のことから、いろいろなスポーツ「球技」バレーボールの授業においては、仲間との“つなぎ”を意識した全体指導計画の共有と学習形態の工夫によって、生徒が仲間との関わりを自覚して運動する集団的活動の経験やその行い方の習得の可能性が広がると考えられる。

今後、全体指導計画の内容を精選し、打合せの効率化を図ることで、個別指導計画の内容を全体指導計画の中に反映できるようにしていく。また、小学部から高等部までの12年間の段階的な指導内容を設定し、児童生徒が仲間との関わりを効果的に経験・習得できるよう工夫することで、生涯スポーツへの参加の態度に結び付けていきたい。

 

【引用・参考文献】

1)文部科学省『特別支援学校学習指導要領解説 総則等編(高等部)』2009年12月p.455

2)金彦志ら「発達障害児における社会的相互作用に関する研究動向―学童期の仲間関係を中心に―」東北大学大学院教育学研究科研究年報 第53集・第2号 2005年

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