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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.177

咽頭結膜熱に気をつけよう!

2016年11月発行

子供の頃、せっかくの夏休みに「夏かぜ」をひいてしまった経験は、誰にもあると思います。小学生以下の子供たちに流行する「夏かぜ」には、手足口病(てあしくちびょう)、ヘルパンギーナや咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)等があります。今回は、咽頭結膜熱における病原体の特徴と発生状況等について、ご紹介します。

咽頭結膜熱とは

咽頭結膜熱は別名「プール熱」とも呼ばれ、アデノウイルス(Adenovirus: AdV)の感染によって引き起こされる感染症です。一般に、夏季に流行しますが、最近では、秋~冬にかけても小流行が見られます。
症状は、5~7日間の潜伏期(感染後、発症するまでの期間)を経た後、発熱、咽頭炎、結膜炎、呼吸器症状等が認められます(図1)。多くは軽症で、約1週間で治癒しますが、新生児が感染すると重篤化する場合があり、注意が必要です。咽頭結膜熱の発生は、国・地域またはその発生年によって流行するAdVの型、流行の規模等が異なります。

アデノウイルスの特徴

AdVには少なくとも51種類の血清型があり、さらに遺伝子型によってA~Gの7種類の亜属に分類されます。本ウイルスは、感染力が強く、環境中において比較的長く感染力を保ったまま存在します。感染経路は飛沫感染や感染媒介物を介する接触感染です。咽頭結膜熱の原因となるAdVでは患者のくしゃみ、多くの人が利用するプールの水、タオルの共同使用等によって感染します。AdVは、その種類によって呼吸器症状、結膜炎、胃腸炎等様々な症状を引き起こし、小児において重要な病原体の1つです。

咽頭結膜熱の発生状況

2013~2015年の全国及び神奈川県域(横浜市、川崎市及び相模原市を除く)における咽頭結膜熱の発生動向を図2に示しました。全国及び神奈川県域ともにこの3年間の患者報告数はほぼ同様に推移し、4月頃(第18週)から増え始め、6~7月(第23~29週)にピークとなっています。その後減少していますが再び増加に転じ、11~12月(第49~52週)に小規模なピークが見られ、二峰性の流行を示しています。したがって、咽頭結膜熱は年間を通じて気をつける必要があります。

アデノウイルス検出状況

咽頭結膜熱患者からどのようなAdVが検出されているのでしょうか? 2013~2015年に全国及び神奈川県域の咽頭結膜熱患者から検出されたAdVを表1に示しました。この3年間、全国においてはAdV3型、AdV2型が多く検出され、次いでAdV4型、AdV1型、AdV5型等が検出されています。神奈川県域も同様にAdV3型、AdV2型が多く検出されています。以上のことから、日本における咽頭結膜熱の流行の原因は、主にAdV3型の感染によるもので、ときに、他のAdVの流行によることが推察されます。

2013~2015年に神奈川県域でAdVが検出された154名のほとんどは10歳以下の小児であり、特に1~5歳が最も多く71%を占めています(図3)。21歳以上の大人も8%認められますが、大人では咽頭結膜熱に感染したお子さんの看護をした際に感染した事例が多く、看護の際には気を付ける必要があります。

咽頭結膜熱の治療・予防法

咽頭結膜熱には直接有効な治療薬は無く、症状を和らげる対症療法が行われます。一般に軽症で治まることも多いですが、症状がひどい場合には速やかに病院で診察を受けましょう。最も重要なことは予防することです。これには手洗い、うがい、マスク等が有効です。タオルの共用も、特に家族に咽頭結膜熱患者がいる場合は避けるべきです。また、プールや人が大勢集まる場所で感染する機会があることから、体調が優れない場合は、これらの場所に行くことを避けたほうが良いでしょう。なお、現在、国内においてAdVに有効なワクチンはありません。

あとがき

今回は、咽頭結膜熱について、病原体の特徴と発生状況を主に紹介しました。咽頭結膜熱はときに重篤例の発生や大規模に流行する可能性があるため、感染症法の五類定点把握疾患に指定され、年間の発生動向が監視されています。また、学校保健安全法の第二種の感染症にも指定され、罹患した子供に対し、主要症状の消失後2日間の出席停止とする措置がとられます。神奈川県衛生研究所では、咽頭結膜熱を含め、様々なウイルス感染症の原因ウイルスの調査を行い、発生状況を継続的に監視することで、皆様の健康を守ってまいります。

(微生物部 嘉手苅 将)

 

参考文献

   
衛研ニュース No.177 平成28年 11月発行
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