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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.151

夏かぜにご用心!

2012年7月発行
  ”かぜ”というと冬にかかるイメージがありますが、夏に流行するウイルスに感染することにより風邪様の疾患を起こすことがあります。これを一般的に“夏かぜ”と呼んでいます。夏かぜを起こすウイルスは主に乳幼児に感染し、手足口病てあしくちびょう、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱いんとうけつまくねつ(プール熱とも呼ばれます)といった疾患を引き起こします。
  ここでは各疾患の特徴や対処法などをご紹介します。
 
手足口病
   手足口病は、手のひら、足のうら、口の中に小さな水ぶくれ(発疹)ができる病気です(写真1)。熱はあまり高くならず、多くの人は1週間ほどで治り予後は良好ですが、まれに髄膜炎や急性脳炎、心筋炎等を起こすことがあります。乳幼児や学童の間で流行しますが、大人がかかることもあります。
  主に夏に流行しますが、近年では春や秋にも発生がみられます。原因ウイルスは「エンテロウイルス」と呼ばれる腸管で増殖するウイルスの仲間で、人に疾患を起こすものは64種類以上あると言われています。手足口病はその中でもコクサッキーウイルスA(CA)16型、CA10型、エンテロウイルス71型により多く引き起こされます。年によって流行するウイルスが入れ替わり、流行規模にも違いが見られます(図1)。他のエンテロウイルスの型によっても同様の症状を呈することがあり、昨年(平成23年)は全国的に、主としてヘルパンギーナの原因ウイルスであるCA6型によって、手足口病の大きな流行が起こりました。当所においてもCA6型の検出が全検出例数の54%を占め(表1)、症状は手、足、口以外に体やおしりにも発疹が出現したとの報告があり、従来とは異なっていました。

写真1  手足口病の発疹(加藤小児科医院ホームページ(HP)より)

  また他府県では、手足口病が治った約1カ月後に爪がはがれる症例(爪甲脱落症)や大人にも強い発疹症状が出た例なども報告されました。本年もCA6型による流行が起こるのかに注視しています。


図1  神奈川県域での手足口病患者報告数の推移
(2003年~2011年)

表1  手足口病患者からのウイルス検出状況
(2011年1月~12月)

*1 
定点当たり患者報告数:1週間における指定された医療機関当たり(定点当たり)の患者報告数を表す数値で、この数値によって感染症の流行が把握できます。
*2 
警報レベル:大きな流行が発生する指標になる数値です。

ヘルパンギーナ
  ヘルパンギーナは、高熱(38~40℃)とのどの奥に小さな水疱ができる病気です(写真2)。熱は2~3日続き、のどの水疱は1週間ほどで治りますが、痛みが強いため、飲んだり、食べたりができなくなることもあります。主に夏の時期に、乳幼児の間で流行します。
   原因ウイルスは手足口病と同じ「エンテロウイルス」の仲間で、その中のコクサッキーウイルスA(CA)2型、CA4型、CA5型、CA6型、CA10型などにより多く引き起こされます。年によって流行するウイルスが入れ替わるため、毎年のように流行が起こっています(図2)。昨年はCA10型が全検出例数の52%を占めましたが、手足口病で流行したCA6型もヘルパンギーナにおいて19%検出されました(表2)。

写真2 ヘルパンギーナ
のど奥の水泡
(加藤小児科医院のHPより)

図2 神奈川県域でのヘルパンギーナ患者報告数の推移
(2003年~2011年)

    

表2 ヘルパンギーナ患者からのウイルス検出状況
(2011年1月~12月)

 
 
咽頭結膜熱(プール熱)
  咽頭結膜熱は高熱(39~40℃)やのどの痛み、目の充血などの症状を示す病気です(写真3)。夏~初秋にプールを介して、ウイルスが口や目の結膜から侵入して感染し、学童の間に流行することが多いので、プール熱とも呼ばれます。ただし、プールに入らなくても、日常生活においてくしゃみなどでもうつります。熱は3~4日で、その他の症状は1週間ほどで治まります。原因ウイルスは「アデノウイルス(Ad)」と呼ばれる呼吸器や腸管で増殖するウイルスの仲間で、人に疾患を起こすものは50種類以上あると言われています。一般的にはAd3型、7型、11型の感染によって症状が引き起こされると言われていますが、当所では2型、3型、4型、5型が検出されています(表3)。近年では小さい流行がたびたび起こっています(図3)。



写真3 咽頭結膜熱
結膜炎(上)と咽頭炎(下)
(加藤小児科医院のHPより)
図3 神奈川県域での咽頭結膜熱患者報告数の推移
(2003年~2011年)
 
表3 咽頭結膜熱患者からのウイルス検出状況
(2011年1月~12月)
 
夏かぜの対処法

  夏かぜの原因となるウイルスには有効な薬はないため、症状をやわらげる治療(対症療法)が行われます。夏かぜを起こすウイルスは腸でもよく増殖するため、下痢や腹痛などの症状が現れることもあります。

 ☆  栄養価が高く消化の良い食事をとり、しっかり睡眠をとって、からだを休ませましょう。
 ☆  熱があるとき、下痢をしているときは特に水分の摂取が大切です。
脱水症状に気をつけて、十分に水分をとるようにしてください。
 ☆  通常の夏かぜは1週間くらいで回復しますが、高熱がある場合や発熱やその他の症状が続くような場合には、医師の診察を受けてください。
   
予防について
  夏かぜの原因となるウイルスは主に口などから入って感染します(飛沫感染、接触感染)。症状が治まった後も1カ月くらいは便にウイルスが排出されることがあります。また、夏かぜの原因となるウイルスの種類が多いので、何度も同じ病気にかかることもあります。
    ☆  予防には、手洗いとうがいが重要です。
 

患者本人だけでなく、家族もまめに手洗いをしましょう。

  洗濯物は日光に当てて乾かすようにしましょう。
  プールに入った後は、シャワー、うがい、洗眼をしっかり行いタオルの共用は控えましょう。

衛生研究所での取り組み
  衛生研究所では、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく感染症発生動向調査において、病原体定点医療機関から依頼された手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱の患者検体について、培養細胞を用いたウイルス分離検査(写真4)やウイルス遺伝子増幅検査(写真5)を行い、流行ウイルス株の調査を行っています。
   また、当所の神奈川県感染症情報センターでは、手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱やインフルエンザ、感染性胃腸炎などの患者情報を毎週集計し、神奈川県感染症発生情報(週報)としてお知らせしています。
   さらに、感染症の流行状況や流行ウイルス株の解析情報なども掲載しておりますので、是非一度ご覧ください。

写真4 アデノウイルスが増殖し、培養細胞が崩れていく様子

写真5 ウイルス遺伝子増幅装置
参考リンク:

神奈川県感染症情報センター

(微生物部 佐野 貴子)

   
衛研ニュース No.151 平成24年7月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
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電話(0467)83-4400   FAX(0467)83-4457


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