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更新日:2023年11月27日
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かながわ障害者雇用優良企業である株式会社ベストの障害者雇用取り組み事例です。
弊社はビルメンテナンス業をしています。障がい者には主に分譲マンションの共用部の清掃業務や、オフィスの清掃業務をお願いしています。
現在、知的障がい者5名が清掃業務に就いています。清掃業務以外の仕事として給与計算などの事務作業に精神障がい者1名が従事しています。
ファミリーレストランなどで昼食を一緒に取ったり、カラオケに行ったりするなど和やかな懇親会的なものです。なぜそのような会が必要かと言えば、その理由の一つは障がい者本人としっかりとした人間関係を築くためだと言えます。
障がい者を募集するとその履歴書には、既に何度も転職を繰り返してきた過去が書かれていることがほとんどです。その理由として「一身上の都合により」という定型の言葉が使われていますが、私はその言葉の裏側に実は本当の退職理由が隠されているのではないかと思うのです。例えば私はその中に「会社で不愉快な行為を受けたので辞めた」という理由が相当数あると感じています。そうした本当の離職理由をきちんと把握し、原因となったものが何だったのかを理解しなければ、障がい者を雇用しても職場に定着することはありません。本人をよく知るためには、しっかりした人間関係を築くことが一番の近道だと思いますから、定例会を一つのきっかけにしてコミュニケーションをとるようにしているのです。
障がい者とはくだらない話も含めて本当に色々な話をします。またどんな話をしてもいいと私は思います。そうやって徐々に打ち解けていき何でも話せる関係が出来てくると、次第に家庭や仕事での辛かった過去の体験や経験なども話してくれるようになります。聴き手としてはそれを真摯に受け止めるようにしています。こちら側が聴こうという態度をきちんと示すと案外障がい者も心をオープンにしてくれるものです。もちろんそうした関係になるまでには、こちらも心をさらけ出さないといけません。ですから、障がい者雇用は表面的な付き合い方をしていたら成功しないと思っています。
そうです。なにも言いにくい話は離職理由に限ったものではありません。学校生活や家庭での生活環境などの話もそうです。私は学校での教育と家庭での過ごし方が障がい者の人格を形成していると考えています。会社という「社会」に接した時、「学校でどんな教育を受けてきたか」「家庭でどんな生活を送ってきたか」を知ることは、その人を理解する上で非常に重要な要素になると思います。そういったことも定例会や現場への行き帰りの車中で雑談をしながら知り、障がい者との人間関係の構築に役立てるようにしています。
教育は一つ大きなポイントだと思います。
私は「障がい者だから何か欠点があってもいいんだ」という風には考えていません。ですから弊社では障がい者の教育に力を入れています。現場に出て働くには「周囲と人間関係が築けるようになる」ことが特に大事ですから、入社して最初の1ヶ月から1ヶ月半くらいは「返事」「挨拶」「謝ること」をしっかり教えています。「返事」や「挨拶」は当然だと思われるでしょう。何故「謝ること」を教えているかというと、作業中に仕事のことで誰かに指摘を受けた時に、初めから自分のしたことを当然のように主張してしまうと障がい者は「あいつは生意気だ」と思われてしまいがちです。そうならないように、現場で指摘されたらまずは一旦謝って、それから主張すべきは主張する。そうすれば話もこじれず、自分の意見も聞いてもらいやすくなる。そういう対応方法も実社会では時に必要ですが、学校では教えていませんから会社が代わりに教えているのです。
障がい者に教える時は「やって見せる」ということを基本としています。特に知的障がい者には教える側が「こうやったら出来るよ」と実際にやって見せた方が本人の理解に繋がり易いようです。知的障がい者は普段やっている作業以外のことは苦手ですが、現場では必ずしも教えられた基本作業だけで済むわけではありません。そういった時に指導する人が「何で出来ないんだ」とか「早くしろ」とか言っても、障がい者はどうしていいかわからないので、ただその場に立ち尽くしてしまうだけです。そんな時は指導する人は言うだけではなく、実際にやって見せないといけません。その辺りの障がい者理解や気遣い、思いやりがないと障がい者もすぐに辞めてしまいます。そうしたちょっとしたことを障がい者は敏感に感じ取っているようです。
障がい者と普段から接していて思うのは、彼らは「健常者に認められ、責任ある仕事に就きたい」と思い、望んでいるということです。ですから障がい者雇用を考えるのであれば、雇用率の数字としてだけではなく、障がい者を立派な戦力として考えて欲しいのです。弊社ではそのために教育に力を入れていますし、きちんとした業務マニュアルも作っています。障がい者一人ひとりがその仕事をしなければ「会社の利益が出ない」という就労に位置づけていますので、そのことが「やる気」に繋がっているように思っています。
また弊社では、障がい者同士にあるライバル意識にも着目しています。例えば清掃業務ではポリッシャーや高圧洗浄機などの機械を使用しますが、使用するにはそれなりのノウハウが必要です。モップがけやドア拭きといった家庭でも行うような清掃作業とは違います。機械を使った作業が出来るようになるために日々訓練をしていますが、現場でやる機会があったりすると障がい者の仲間内では「今日はポリッシャーがけをやった」などと話題になるようです。そうした中では「私もやってみたい」という者も出てきますから、希望する人には現場で少しずつ経験させるようにしています。実際、機械が使えるようになると現場責任者にもなれますし、賃金も上がる仕組みになっています。
障がい者雇用は「雇用したら終わり」というのでは決してありません。むしろそこからが本当のスタートです。障がい者にとってどうしたら働きやすくなり長続きするかをしっかりと考え、実行しないといけません。
例えば大きな会社では、面接する担当者と実際に働く現場の担当者が違うことが多いと聞いています。こうしたことはたぶん普通のことなのでしょう。しかし私から言わせてもらうならば、それは単に働きにくくしているだけのように思えます。と言うのも、障がい者は短期間のうちに複数の人と信頼関係を築くことが難しいからです。また、色々な人から別々の指示を受けて障がい者が混乱してしまうこともあります。そうならないためにも、まずは最初の窓口となる面接担当者が障がい者を当面全面的に担当し、難しいかもしれませんが、例えば時折飲み物などを買って現場を訪問して障がい者をフォローしていくことも大切なのではないかと思うのです。
(近藤 彰 ジョブコーチ)
インタビュー後、2階の事務所から階段を下りると、清掃業務の準備作業をしていた知的障がい者の方たちとお会いました。こちらが軽く会釈するとみなさん「お疲れ様でした」とにこやかに挨拶をしてくれました。
その言葉の背景をほんの少し前に伺ったばかりでしたので、何度も繰り返し練習を重ねたであろうその言葉に、何の変哲もない挨拶の言葉ではありますが、言葉以上の重みを感じることが出来ました。
(平成26年1月20日取材)
このページの所管所属は産業労働局 労働部雇用労政課です。