ホーム > 産業・働く > 業種別情報 > 水産業 > 神奈川県水産技術センターコラム > 神奈川県水産技術センターコラムno.36

更新日:2020年2月7日

ここから本文です。

神奈川県水産技術センターコラムno.36

2020年2月7日号

1 台風通過後のヒラメの水槽(栽培推進部 相川英明)

2 マサバの回遊経路(栽培推進部 中川拓朗)

1 台風通過後のヒラメの水槽(栽培推進部 相川英明)

 私は「バイテクを活用したヒラメの種苗生産技術開発」を担当しており、3倍体のヒラメや生殖細胞を移植したヒラメなど、稚魚から成魚までさまざまな成長段階のヒラメを飼育しています。
 昨年9 月に三浦半島に上陸した台風15 号では、飼育室の窓ガラスが破損して室内がめちゃくちゃになったり、停電に見舞われたりと大きな被害を受けました。中でも、停電は9 月9 日の0 時30 分から10 日の7 時40 分までと31 時間にも及びました。今までも台風や地震の際にはしばしば停電が発生していましたが、最長記録は東日本大震災の時の約10 時間でしたから、今回の停電はいまだ経験したことのない長さとなりました。
 停電が発生し海水の供給が停止すると、直ちに非常用発電装置を電源としてブロアーを稼働させて各水槽には空気を送り込みますが、6~7時間を超えると空気の送り込みだけでは水質の悪化が心配になります。そこで、9 日は台風後の後付けと並行して昼前からヒラメの様子を見ながらバケツリレー方式で各水槽に海水を供給していきました(この海水も、非常用電源で簡易ポンプを動かして目の前の海からくみ上げた濾過していない現場海水です)。
 こうした職員総出の献身的な努力で、何とか水質悪化によるヒラメの斃死を発生させることなく切りぬけることができました。台風に備えて8 日の夜から泊まり込んでいたので、2 晩徹夜状態となったのはさすがにしんどかったですが、ヒラメが死なずに何よりでした。
 しかし、それから数日後、白点病(当センターでの発生は非常に稀)、エラムシ病(当センターでは特定の水槽のみで稀に発生)、ハダムシ病(屋外池で散発的に見られる)の3種類の寄生虫症が水槽ごとに次々と発生しました。台風が来る前は病気発生の兆候などは全くなかったのですが、2日間にわたる海水供給の停止により、水槽内の環境が大きく変化してしまったようです。
 これまで当センターでのヒラメの病気の発生は春や秋の季節の変わり目に、また特定の水槽に限られていましたが、今回は、今まで発生の履歴のない水槽にも次々と発生し、かつて経験したことのない異常な事態となりました。なにがきっかけになったのかはよくわかりませんが、長時間の停電による水質悪化がヒラメたちにとって大きなストレスとなり、寄生虫への防御が弱くなってしまったのかもしれません。

 幸いなことに、今回はいち早くヒラメの異変に気付き、ただちに淡水浴や水槽交換等の措置を施したため、死亡数は少なくて済みましたが、ここ数年、地球温暖化の影響でしょうか、確かに本県に接近する台風は大型化しています。今回の台風15 号による三浦市の最大瞬間風速は気象台の風速計では約41mでしたが、当所の風速計(気象庁検定済)では54mを記録していました。今後、大きな台風の通過後はこのような寄生虫症が発生するものと警戒して、種苗生産技術の研究にあたっていきたいと考えています。


 台風15号による飼育室窓ガラスの破損

台風15号による飼育室窓ガラスの破損

2 マサバの回遊経路(栽培推進部 中川拓朗)

 今年も「さばたもすくい漁」のシーズンがやってまいりました。水産技術センターでは、漁業調査指導船「江の島丸」で「さばたもすくい漁」による漁獲調査を行い、産卵のため伊豆諸島海域に来遊するさば類の成熟状況や回遊経路を調べています。
 これまでの知見では、太平洋系群のマサバは秋~冬になると北海道や三陸沖から南下してきて、1~6月には伊豆諸島海域を主体に、紀南、室戸岬、足摺岬周辺で産卵しているとされていました。ところが近年、資源増大に伴う産卵場の拡大が推測されています。宮崎県や鹿児島県といった、これまでゴマサバを主体に漁獲していた海域で、大量のマサバが漁獲されるようになってきたのです。このことは、マサバの南下回遊の南限が更新されている可能性を示しています。
 一方で、本県沿岸域におけるマサバの漁獲状況は、マサバ資源が増加しているにも関わらず減少傾向にあります。本県沿岸域のマサバ漁の盛期は5月以降であり、産卵を終えた北上群が漁獲の主体であると考えられています。その資源状態と、水温や海流をはじめとする環境要因が漁獲状況を左右しますが、来遊のメカニズムについて詳しい部分はわかっていません。
 そこで、現在当センターではマサバの回遊実態を調査するために標識放流調査を実施しています。標識放流とはその名のとおりで、漁獲された魚に個体識別できる標識を取り付けて、海域に放流するという調査方法です。標識をつけた魚がどこかで再捕獲されば、その移動距離と期間がわかる仕組みです。
 これまで神奈川県が行った調査では、伊豆諸島で放流したマサバが九州の方まで南下した例はありません。資源が増えている現在、マサバの回遊範囲は変化しているのでしょうか?また、今後本県沿岸への来遊は増えていくのでしょうか?本調査によって、その真偽を解明したいところです。

 

 神奈川県で使用しているスパゲッティタグ
図 神奈川県で使用している標識(スパゲッティタグ) 
 

標識を打つ瞬間 
図 標識を打つ瞬間

背鰭の付け根に、タグガンと呼ばれる器具で打込みます。 


このページに関するお問い合わせ先

水産技術センター

企画研究部企画指導課

このページの所管所属は 水産技術センターです。