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更新日:2024年5月1日

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研究報告 第167号 摘要一覧

神奈川県農業技術センター研究報告の摘要のページです。

 気候変動下の春キャベツおよび秋冬どりダイコンにおける生育モデル手法の活用技術開発

 本論文は,生育モデルの手法を活用した2つの研究課題から構成される.いずれも世界的な問題になっている地球温暖化や気候変動がキャベツおよびダイコンの生育に及ぼす影響について,現時点では顕在化していない,或いは把握できない影響を定量評価し,「見える化」する試みである.

 春キャベツ(Brassica oleracea var. capitata L.)については,各産地が品種や作期を選択することによって回避している早期抽苔のリスクを予測する手法に関する研究である.抽苔した株は葉数が少ないことが知られていることから、本研究では,花芽分化期の結球葉数と早期抽苔の関係に着目して,日平均気温の積算値に基づく花芽分化期の推定および結球葉数の推定によって早期抽苔の発生予測を行った.その結果、花芽分化期の結球葉数(> 1 g)が概ね6.5枚以下のとき,早期抽苔するリスクが高いことを明らかにし,花芽分化期を推定するDVRモデルおよび結球葉数を推定する一次関数式から早期抽苔リスクの発生を予測する手法を開発した.

 秋冬どりダイコン(Raphanus sativus L. var. longipinnatus L. H. Bailey)については,根部新鮮重の増加を日平均気温,日日射量および播種日を用いて予測する機構的モデルに関する研究である.このモデルの構造は,日平均気温データから求める葉面積と日日射量データから植物体の受光量を求め,これを日日射遮蔽量(DIR)とし,これに日射利用係数(RUE)を乗じて日乾物生産量(TDW)を求めるものである.さらに,葉数の関数である根部分配率および積算温度の関数である根部乾物率から根部新鮮重(RFW)を求めた.この生育モデルを用い,全球気候モデルMIROC5および温暖化ガス排出シナリオRCP8.5に基づく2050年の温度条件,さらに日射量を10%増減させて,シミュレーションを行った.その結果,9月7日~10月12日播種(三浦)における2050年の収穫期は6~56日前進,29~212%増収というような定量評価ができることを明らかにした.

 ホウレンソウおよびキャベツの鮮度指標となる揮発性化合物の探索

 青果物を購入する際に,消費者が最も重要視する点の一つに「鮮度」が挙げられる.しかしながら,鮮度の定義や評価法は定まっておらず,流通関係者の目利きや消費者自らの判断に基づく主観的な評価によって行われているのが現状である.また,鮮度の指標となる内容成分の減耗度合いを,機器分析により測定して鮮度判定ができても,初発値を把握できない流通の現場などでは適用しがたい.そのため,客観的かつ定量的,さらには単回の計測で判定できる鮮度評価方法が求められている.そこで本研究では,青果物のガス代謝,特に放散される揮発性化合物の挙動に着目した.ホウレンソウおよびキャベツの鮮度低下に伴い放出される揮発性化合物の挙動を明らかにし,鮮度マーカー候補化合物を同定することを目的とした.

 第1の研究では,ホウレンソウの鮮度を反映する放散揮発性化合物を特定するために,ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC–MS)によるメタボロミクス解析を行った.5,15,25℃貯蔵時に生成される揮発性化合物をガス吸着管で捕集し,加熱脱着法によりGC–MSへ導入した.揮発性化合物量から貯蔵積算温度を推定するPLS回帰分析によって,テルペン,アルコール,炭化水素及び未同定を含む10種類の化合物が鮮度を説明する重要な物質として選択された.さらに,階層クラスター分析から,これらの化合物の構成比で貯蔵積算温度を3段階に推定できることが示された.これらのことから,放散成分プロファイリングはホウレンソウの鮮度評価に有用であることが示唆された.

 第2の研究では,ホールおよびカットキャベツの鮮度を反映する放散揮発性化合物を探索するために,ガスクロマトグラフィー・質量分析によるメタボローム解析を行った.ホールキャベツから40,カットキャベツから30個の物質がアノテートされ,そのうち20個は共通した.検出された揮発性化合物を用いたPLS回帰モデルは,貯蔵積算温度をうまく説明できた.変数重要度指標に基づいて選定された物質による階層クラスター解析では,貯蔵積算温度の増加に応じてそれらのプロファイルが異なった.以上のことから,選定された物質はホールあるいはカットキャベツの鮮度マーカー候補であり,それらのプロファイリングによる鮮度評価の可能性が示された.

 本研究の結果からホウレンソウおよびキャベツの鮮度指標となりうる物質を揮発性化合物から見出した.これらの化合物単独での消失あるいは出現を検出することによって,あるいは複数の化合物の構成比率によって,鮮度状態を評価できる可能性が示された.

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