トップページ > 過去情報一覧 > 腸管出血性大腸菌による食中毒に注意しよう
2012.6.28 掲載
梅雨の時期から夏にかけては、細菌による食中毒が発生しやすくなります。食中毒の原因となる細菌のなかでも特に注意したいのが、腸管出血性大腸菌による食中毒です。
大腸菌は、家畜や人の腸内にも存在し、ほとんどのものは無害ですが、人に下痢などの消化器症状や合併症を起こす大腸菌もあります。特に、ベロ毒素を産生する大腸菌は、出血を伴う腸炎を起こすこともあり、腸管出血性大腸菌と呼ばれています。
腸管出血性大腸菌による食中毒は溶血性尿毒症症候群、脳症など重篤な症状を起こし死に至るケースもあります。食中毒を予防するためには、腸管出血性大腸菌とはどのような細菌なのかを理解することが大切です。そこで、感染経路や症状の特徴、集団事例、菌の種類や感染ルートを探るための分子疫学的解析および国の新しい基準などについて紹介します。
腸管出血性大腸菌感染症の患者報告数は季節変動が大きく、例年6月ぐらいから増加し始め、8月~9月にかけてピークをむかえています。夏季に多く発生していますが、冬季にもみられる疾患です。
腸管出血性大腸菌は牛などの家畜の腸管内に生息している場合があり、動物の糞便に汚染された食品や飲料水から人に感染(経口感染)します。
腸管出血性大腸菌は100個程度の菌数でもヒトを発症させることがあると考えられており、強い酸抵抗性を示し、胃酸の中でも生存します。
調理器具や人の手を介して感染(二次感染)するケースや、家族内の二次感染が多いことも特徴です。
腸管出血性大腸菌感染症の症状は全く症状のないものから軽度の下痢、激しい腹痛、頻回の水様便、さらに、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし死に至るものまで、様々です。
多くの場合、腸管出血性大腸菌に感染して、3日~7日(長いと12日に及ぶこともある)の潜伏期をおいて、増殖した菌が産生するベロ毒素により、激しい腹痛、下痢、血便などの症状が現れます。下痢などの初発症状の数日から2週間以内に、溶血性尿毒症症候群や脳症などの合併症が発症することもあります。
溶血性尿毒症症候群は、死亡あるいは腎機能や神経学的障害などの後遺症を残す可能性のある重篤な疾患です。特に、幼児と高齢者は十分な注意が必要です。
腸管出血性大腸菌は、菌の表面にあるO抗原(細胞壁由来)とH抗原(べん毛由来)により細かく分類されています。腸管出血性大腸菌で代表的な「腸管出血性大腸菌
O(オー)157」は、「O抗原」による分類で157番目に見つかったことを示しています。そのほかに「O26」や「O111」などが知られています。
腸管出血性大腸菌は毒素を産生し、この毒素は「ベロ毒素」と呼ばれています。ベロ毒素には、VT1とVT2の2種類があり、VT1とVT2の両毒素を産生する菌と、VT1またはVT2のいずれか一方を産生する菌があります。腸管出血性大腸菌の確認はベロ毒素を産生しているかどうかが大切なポイントになります。
(病原微生物検出情報より)
腸管出血性大腸菌感染症は感染症法に基づく患者の発生動向調査において、全数把握の三類感染症に分類され、診断した医師は直ちに最寄の保健所に届け出ることが定められています。
腸管出血性大腸菌による感染症は、全国では年間4000人近く報告があります。神奈川県ではこの数年は170人前後で推移していましたが、2011年は150人以下でした。男女別では女性がやや多い傾向です。
神奈川県感染症情報センター(神奈川県衛生研究所)
1982年に米国でハンバーガーを原因とする出血性大腸炎が集団発生し、原因菌として大腸菌O157が検出されました。日本では1990年に埼玉県の幼稚園で井戸水を原因としたO157の集団発生で園児2名が死亡し注目されました。1996年には給食や仕出し弁当を原因とする集団発生事件が起きています。その後、国内外での発生は暫増状態でした。
2011年4月には、国内で焼き肉チェーン店を原因施設とする集団食中毒が発生しました。この食中毒は溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症や、5名が死亡するなど重症例が多く、患者からはO111とO157の2つの血清型が検出されました。
また、海外ではドイツを中心とするO104による集団感染事例が発生しており、生野菜が原因ではないかと推測されています。
ドイツの大腸菌O104アウトブレイク関連情報(国立医薬品食品衛生研究所)
この菌は消毒剤や熱に弱く(食品の中心温度が75℃、1分の加熱で死滅する)、逆に低温には強いので、冷蔵庫のなかでも生存し、また、少しの菌でも感染します。
汚染された食品からの感染が主体であることに留意して、食品は十分な加熱処理などにより、食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、人から人への二次感染を予防することが重要です。
腸管出血性大腸菌の予防について(厚生労働省)
【分子疫学的解析】神奈川県衛生研究所では、腸管出血性大腸菌が検出されると、検出菌の血清型や毒素型等を確認し、さらに分子疫学的解析を行っています。この解析方法はパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)と呼ばれ、それぞれの検出菌のDNA遺伝子のパターンを比較することにより感染源が同じかどうかを推定することができます。このPFGEデータを解析することで、一見散発的に見える事例が実は同じ原因による集団事例であることを早期に探知し、感染の拡大防止につながります。 同一感染源が示唆された腸管出血性大腸菌O157感染事例―神奈川県(国立感染症研究所感染症情報センター) |
図 EHEC O157:H7のPFGEパターン |
2011年4月の焼き肉チェーン店を原因施設とする大規模な食中毒の発生を受け、ユッケなどの生食用食肉に係る新たな基準「生食用食肉の規格基準」(平成23年厚生労働省告示第321号 平成23年10月1日施行)が定められました。この基準の適用範囲は、「牛の肉であって生食用として販売するもの(内臓は除く)」となっており、具体的にはユッケ、タルタルステーキ、牛刺し、牛タタキが含まれます。この基準の細菌学的成分規格として、腸管出血性大腸菌を含む「腸内細菌科群が陰性であること」となっています。また、この基準では「内臓は除く」となっているのでレバ刺しのような牛肝臓の生食は適用範囲外でしたが、牛レバー内部からの腸管出血性大腸菌O157の検出が報告され、食中毒のおそれがあることから、平成24年7月から、牛レバーの生食用としての販売・提供は禁止されます(食品、添加物等の規格基準の一部改正 平成24年厚生労働省告示第404号 平成24年7月1日から適用)。
生食用食肉の新しい基準ができました(衛研ニュース No.149)
牛レバーを生食するのは、やめましょう(「レバ刺し等」)(厚生労働省)
(企画情報部)
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