急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infections :ARI)とは、「急性の上気道炎(鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、咽頭炎、喉頭炎)又は下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)を指す病原体による症候群の総称」と定義されます1)。1つの疾患を指す言葉ではなく、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、ヘルパンギーナなど複数の疾患が含まれます。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく感染症発生動向調査において、令和7年4月7日から全国でARIサーベイランスが始まりました。今回は、当所で行っている検査についてお伝えします。
ARIサーベイランスとは?
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継続的・系統的にデータを収集・分析・評価し、公衆衛生対策の向上のため、国民や医療関係者へ情報提供することをサーベイランスといいます。ARIサーベイランスは、流行しやすいARIの発生動向を把握し、未知の呼吸器感染症が発生し増加し始めた場合に、迅速に探知する体制を整えることを目的としています。咳や喉の痛み、呼吸困難、鼻水や鼻づまりのうち1つ以上の症状を10日以内に呈して、何らかの感染症が疑われる症例を患者定点医療機関から報告いただくことで、国内のARIの発生状況について情報収集しています。患者定点医療機関のうち約1割を病原体定点医療機関として選定し、患者さんからの検体採取にご協力いただいています。 |
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検査について
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当所の微生物部では、病原体定点医療機関で患者さんから採取した検体(鼻咽頭ぬぐい液等)からウイルス遺伝子の検出を行っています。鼻咽頭ぬぐい液は図1の器具を用いて採取します。患者さんの鼻に細い綿棒を入れ、鼻の奥を数回擦ることで鼻咽頭ぬぐい液を採取し、ウイルスを保存する液体に綿棒の先を浸して当所に運ばれます。その後、12種類のウイルス(表1)を対象として、リアルタイムPCR装置(図2)を使用してウイルス遺伝子の検出を行います。 |
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※ライノウイルス/エンテロウイルス:この検査では2つのウイルスを判別せず検出します。

検査結果について(令和7年4月~8月まで)
令和7年4月~8月までに589検体の検査を実施し、328検体(55.7%)からウイルス遺伝子を検出しました。検出されたウイルスの種類を月別に見ると、4月に採取した検体からはライノウイルス/エンテロウイルスが最も多く検出された他、ヒトメタニューモウイルスやRSウイルスも検出されました。6月になるとヒトパラインフルエンザウイルス3型の割合が増加しましたが、7月には新型コロナウイルスが、8月にはRSウイルスの割合が増加しています。
ARIサーベイランスが始まり5か月間の集計ではありますが、一般的に「かぜ」として捉えられる症状の患者さんからは様々なウイルスが検出されており、各病原体の全体に占める割合は経時的に変化していることがわかります。

図3 令和7年4月~8月に検出されたウイルスの割合(nは検出数を示す。)

衛生研究所での取り組み
当所では、インフルエンザウイルスが検出されると亜型の検査、新型コロナウイルスが検出されるとゲノム解析の実施など、検出されたウイルス遺伝子によって追加で検査を行います。当所の感染症情報センターでは、ARIや他の疾患の患者数を集計し、神奈川県感染症発生情報(週報)2)として毎週情報発信しています。また、検出された病原体の情報は、ARIについては「ARI情報」3)、その他の疾患については「微生物検査情報」4)としてホームページで掲載していますので、是非一度ご覧ください。
(参考リンク)
注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。
| 1) | 厚生労働省ホームページ感染症情報・急性呼吸器感染症 |
| 2) | 神奈川県衛生研究所 週報 |
| 3) | 神奈川県衛生研究所 ARI情報(41週) |
| 4) | 神奈川県衛生研究所 感染症情報センター微生物検査情報 |
(微生物部・荒木美緒)
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