毎年、夏の時期に子どもの間で流行を繰り返している“かぜ様疾患”には、「手足口病」、「ヘルパンギーナ」、「咽頭結膜熱」があり、子どもの「三大夏かぜ」と呼ばれています。その中でも、今年の夏は手足口病が大流行し、秋に入ってからも流行が続きました。手足口病は、子どもだけではなく大人もかかり、また、何度も発症することがあります。ここでは手足口病について、症状や原因、流行状況、予防対策などについてご紹介します。 |
手足口病とは?
手足口病とは、手のひら、足の裏、口の中に小さな水疱性の発疹ができるウイルス感染症です(図1)。発熱もありますが、熱はあまり高くならず、多くの人は1週間ほどで治ります。まれに無菌性髄膜炎や急性脳炎、心筋炎等を起こすこともあるので、高熱が続く場合には注意が必要です。手足口病の原因となるウイルスに感染したことがない割合の高い、乳幼児や学童の間で流行しますが、大人が発症することもあります。主に夏に流行する病気ですが、近年では春や秋にも発生がみられます。感染経路は、咳やくしゃみに含まれるウイルスを吸い込むことで感染する「飛沫感染」、ウイルスが付着した物を触った手で自分の眼や鼻を触れて感染する「接触感染」、水疱液や便中に排泄されたウイルスが口から入って感染する「経口感染」があります。ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期間は3~5日が多いです。
図1 手足口病による水疱性発疹
(加藤小児科医院(石川県金沢市:現在閉院)加藤 彰一先生よりご恵与)
原因となるウイルス
手足口病の原因ウイルスは「エンテロウイルス」と呼ばれる腸管で増殖するウイルスの仲間です。エンテロウイルスはピコルナウイルス科に属しています。ピコルナウイルス科のウイルスは1本鎖プラス鎖RNAを遺伝子に持ち、エンベロープと呼ばれる脂質膜を持たず、直径約30nmと小さくて、正20面体構造で球状の形をしています(図2)。 |
図2 EV-A71の電子顕微鏡写真 |
手足口病の流行状況
手足口病の原因ウイルスが複数あることによって、年によって流行する原因ウイルスが入れ替わり、流行規模にも違いが見られます(図3)。2000年からの流行状況を見ますと、2010年まではEV-A71とCV-A16による流行が多かったのですが、2011年以降はCV-A6による流行が多くなっており、新型コロナウイルス感染症による行動制限の大きかった2020年、2021年を除いて、1年おきに流行が見られています。
図3 神奈川県域の手足口病の流行状況と原因ウイルス(2000~2024年第42週)
*神奈川県域:横浜市、川崎市、相模原市を除く **グラフは参考文献6を基に作成
近年、手足口病の主因ウイルスとなっているCV-A6ですが、以前はヘルパンギーナと呼ばれるエンテロウイルス感染症の原因ウイルスとされていました。
しかし、2008年にヨーロッパでCV-A6による手足口病が報告されて以来、同じタイプのCV-A6が世界各地に拡がり、2011年には日本でも大流行を引き起こしました。それ以降はCV-A6が手足口病の主な原因ウイルスとなっています。CV-A6による手足口病の症状は、手、足、口以外に体幹部にも発疹が出現したり(図4)、回復期に爪が剥がれたりすること(爪甲脱落症)もあります(図5)。
同じシーズンにCV-A6と一緒にEV-A71やCV-A16も検出されると流行規模が大きくなる傾向にあります。EV-A71は無菌性髄膜炎などの中枢神経系の合併症を併発し、重症化する例もあることから注意が必要です。
図4 CV-A6による体幹部の発疹 |
図5 CV-A6による爪甲脱落症 |
手足口病の対処法
手足口病の原因となるエンテロウイルスには有効な治療薬はなく、症状を和らげる治療(対症療法)が行われます。エンテロウイルスは腸でも増殖するため、下痢や腹痛などの症状が現れることもあります。
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予防について
手足口病の原因となるウイルスの感染経路は飛沫・接触・経口感染です。感染予防には「手洗い」が一番重要ですので、日ごろから心がけましょう。手洗いは流水と石けんで十分に行い、タオルの共用は避けましょう。エンテロウイルスは脂質膜を持たないため、アルコール消毒は効果的ではありません。テーブルやおもちゃなどの消毒には次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)を希釈して用います。また、症状が治まった後も1か月くらいは便中にウイルスが排出されるので、排せつ物の処理には注意が必要です。 |
衛生研究所での取り組み
衛生研究所では、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく感染症発生動向調査において、病原体定点医療機関からご提供いただいた手足口病患者さんの検体を用いて、微生物部で培養細胞を用いたウイルス分離検査(図6)やウイルス遺伝子解析(図7)を行い、流行ウイルス株の調査を行っています。
また、当所の神奈川県感染症情報センターでは、手足口病などの疾病の発生数を毎週集計し、神奈川県感染症発生情報(週報)として報告しています。当所のウェブサイトに掲載しておりますので、是非一度ご覧ください。
図6 ウイルス分離検査 (左)正常なRD-A細胞 |
図7 CV-A6の遺伝子配列(一部) |
【参考文献】*参考文献は2024年10月30日時点
注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。
- 厚生労働省 手足口病
- 国立感染症研究所 手足口病とは
- Kobayashi M, et al. Clinical Manifestations of Coxsackievirus A6 Infection Associated with a Major Outbreak of Hand, Foot, and Mouth Disease in Japan. Jpn. J. Infect. Dis. 2013, 66, 260-261. DOI: 10.7883/yoken.66.260.
- Zhenfeng Xie, et al. Epidemiology of Enterovirus Genotypes in Association with Human Diseases. Viruses. 2024, 16, 1165. DOI: 10.3390/v16071165.
- 神奈川県衛生研究所 感染症情報センター
- 神奈川県衛生研究所 感染症情報センター 感染症発生動向調査(バックナンバー)
(微生物部 佐野貴子)
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