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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.205

腸管出血性大腸菌の新しい遺伝子型別法
~反復配列多型解析(MLVA)法について~

2021年7月発行

腸管出血性大腸菌感染症について

腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli :EHEC)はベロ毒素(Verotoxin:VT)を産生する大腸菌で、感染すると腹痛、水様性下痢や血便を引き起こすことがあり、さらに溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome)を引き起こし、脳症などを併発して死に至ることもあります1)。EHECは、ウシなどの腸管内に存在しており、加熱不十分なお肉を食べたり、EHECに汚染された井戸水を煮沸消毒しないまま飲んだりすることで感染する恐れがあります。ほかにも、キャベツやキュウリなどの野菜が原因食品となった食中毒事例もあり、食品の取り扱いには注意が必要です2)。また、EHEC感染症は、他の細菌に比べて少ない菌数でも発症するため感染しやすく家庭内での二次感染事例も報告されています。幼稚園などでの集団感染の報告もあり、手洗いなどの基本的な感染症対策が重要です。

神奈川県では2016年に冷凍メンチカツを原因食品とした広域食中毒事例が発生しました。この事例では、患者さん宅に残されていた冷凍メンチカツからEHECが検出され、その菌株と患者さんから検出された菌株を遺伝子解析法であるパルスフィールド・ゲル電気泳動(Pulse-Field Gel Electrophoresis:PFGE)法(詳細は衛研ニュースNo.117「腸管出血性大腸菌O157集団発生事例の分子疫学調査」(2006年12月発行)をご参照ください)3)によって比較したところ、遺伝子パターンが一致し、冷凍メンチカツが原因食品であると判明しました4)

反復配列多型解析(MLVA)法による解析

これまで、EHECの遺伝子解析には前述したPFGE法が用いられてきましたが、検査結果が出るまでに時間がかかることや、異なる検査機関の結果を比較することが難しいという問題がありました。そこで、2018年からEHECの血清型O157、O26およびO111による感染症や食中毒の調査で実施する遺伝子解析を、反復配列多型解析(Multi-Locus Variable-number tandem repeat Analysis:MLVA)法に統一し、その解析結果を全国で共有することとなりました。

MLVA法では、細菌のゲノム上にある同じ塩基配列が複数回反復する領域(遺伝子座)を利用して菌株の型別を行います。EHECの検査では現在17か所の遺伝子座について解析を実施しています。各遺伝子座の反復配列の繰り返し回数の組み合わせによってMLVAパターンを決定し、菌株ごとに比較します。このような反復配列は細胞の分裂に伴って繰り返し回数が増減することが知られており、同じEHECでも菌株によって各遺伝子座の繰り返し回数が異なります。菌株ごとのMLVAパターンを比較し、一致もしくは1~2遺伝子座の違いであれば同じ感染源由来である可能性が高いと考えられます5、6)。また、型別に用いるのが配列の繰り返し回数のため解析結果を数値化することができ、異なる検査機関の結果を比較することが容易です。さらに、検査にかかる時間もPFGE法に比べて短いといった利点があります。

実際の事例では、発症した患者さんからEHECが検出されることがスタートとなるため、MLVAパターンが一致する菌株が複数確認された場合は食中毒などの集団感染を疑い、発症した患者さんたちの共通点を遡り調査していくことになります(疫学調査といいます)。疫学的な関連の強い家族内感染や、共通の食品による食中毒事例では、患者さんたちから検出される菌株のMLVAパターンは一致、もしくはとても類似しています。さらに、患者さんたちが共通して喫食した食品からEHECが検出されMLVAパターンが患者由来株と一致すれば、その食品が感染源であると考える強い根拠となります。このように、MLVA法のような遺伝子解析は、一見関係が無いように見える患者さん同士を繋ぎ、感染経路や感染源を特定するための重要な情報となります。EHECの遺伝子型別法がPFGE法からMLVA法となったことで、全国の遺伝子解析の結果を迅速に比較することができるようになり、自治体を越えて発生する散在的集団発生(diffuse outbreak)の早期検知が期待されます。

神奈川県衛生研究所での取り組み

神奈川県衛生研究所では搬入されたEHECについて血清型別、毒素型別、PFGE法を実施し、さらに血清型O157、O26およびO111の菌株についてはMLVA法による遺伝子型別を実施しています。解析の結果、同一の感染源が疑われる場合には各地域の保健所等に情報を提供しています。それらの情報は、保健所が実施する疫学調査で活用されています。

細菌検査は日々進化しており、新しい検査法が開発されています。神奈川県衛生研究所では、今後も新しい検査法の導入や様々な検査を通じて感染症の発生および拡大防止に努めてまいります。

気温が高くなる時期は、EHEC感染症をはじめとした細菌を原因とする感染症の発生が多くなります。食品の取り扱いに注意するとともに、手洗いなどの感染症対策にご協力ください。

<参考>

1) 腸管出血性大腸菌感染症 2020年3月現在,IASR Vol. 41 p65-66(2020)
2) 厚生労働省 腸管出血性大腸菌Q&A
3) 石原ともえ,神奈川県衛研ニュース 腸管出血性大腸菌O157集団発生事例の分子疫学調査,No.117(2006)
4) Furukawa I, et al.,Outbreak of Enterohemorrhagic Escherichia coli O157:H7 Infection Associated with Minced Meat Cutlets Consumption in Kanagawa, Japan, Jpn. J. Infect. Dis.,71,436–441(2018)
5) 国立感染症研究所細菌第一部,MLVA法解説
6) 石原朋子ら,腸管出血性大腸菌の分子型別IASR Vol. 35 p. 129-130(2014)

(微生物部 政岡智佳)

   
衛研ニュース No.205 令和3年7月発行
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