神奈川県衛生研究所 |
|
|
腸管出血性大腸菌の新しい遺伝子型別法
|
2021年7月発行 |
腸管出血性大腸菌感染症について
反復配列多型解析(MLVA)法による解析これまで、EHECの遺伝子解析には前述したPFGE法が用いられてきましたが、検査結果が出るまでに時間がかかることや、異なる検査機関の結果を比較することが難しいという問題がありました。そこで、2018年からEHECの血清型O157、O26およびO111による感染症や食中毒の調査で実施する遺伝子解析を、反復配列多型解析(Multi-Locus Variable-number tandem repeat Analysis:MLVA)法に統一し、その解析結果を全国で共有することとなりました。 MLVA法では、細菌のゲノム上にある同じ塩基配列が複数回反復する領域(遺伝子座)を利用して菌株の型別を行います。EHECの検査では現在17か所の遺伝子座について解析を実施しています。各遺伝子座の反復配列の繰り返し回数の組み合わせによってMLVAパターンを決定し、菌株ごとに比較します。このような反復配列は細胞の分裂に伴って繰り返し回数が増減することが知られており、同じEHECでも菌株によって各遺伝子座の繰り返し回数が異なります。菌株ごとのMLVAパターンを比較し、一致もしくは1~2遺伝子座の違いであれば同じ感染源由来である可能性が高いと考えられます5、6)。また、型別に用いるのが配列の繰り返し回数のため解析結果を数値化することができ、異なる検査機関の結果を比較することが容易です。さらに、検査にかかる時間もPFGE法に比べて短いといった利点があります。 実際の事例では、発症した患者さんからEHECが検出されることがスタートとなるため、MLVAパターンが一致する菌株が複数確認された場合は食中毒などの集団感染を疑い、発症した患者さんたちの共通点を遡り調査していくことになります(疫学調査といいます)。疫学的な関連の強い家族内感染や、共通の食品による食中毒事例では、患者さんたちから検出される菌株のMLVAパターンは一致、もしくはとても類似しています。さらに、患者さんたちが共通して喫食した食品からEHECが検出されMLVAパターンが患者由来株と一致すれば、その食品が感染源であると考える強い根拠となります。このように、MLVA法のような遺伝子解析は、一見関係が無いように見える患者さん同士を繋ぎ、感染経路や感染源を特定するための重要な情報となります。EHECの遺伝子型別法がPFGE法からMLVA法となったことで、全国の遺伝子解析の結果を迅速に比較することができるようになり、自治体を越えて発生する散在的集団発生(diffuse outbreak)の早期検知が期待されます。 神奈川県衛生研究所での取り組み神奈川県衛生研究所では搬入されたEHECについて血清型別、毒素型別、PFGE法を実施し、さらに血清型O157、O26およびO111の菌株についてはMLVA法による遺伝子型別を実施しています。解析の結果、同一の感染源が疑われる場合には各地域の保健所等に情報を提供しています。それらの情報は、保健所が実施する疫学調査で活用されています。 <参考>
(微生物部 政岡智佳)
|