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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.197

「食の安全」とエビデンス

2020年3月発行

「食の安全」と聞いた時、皆さんはどのような事を思い浮かべますか。情報化社会の現代において、雑誌や書籍、報道、インターネット等を通じて、私たちはたやすく、そして大量の情報を手に入れることができます。これらの入手した情報の中には「○○は危ない」等、私たちの不安を煽るような情報があります。その一方で、「△△で健康改善」等、心身の不調に悩んでいる人に光明を与えるかに見受けられる情報もあります。
では、私たちが日頃から目にするこれら様々な食の安全に関する情報に、誤りはないのでしょうか。神奈川県衛生研究所では、出前講座や公開セミナー等の催しを行い、皆さんに「食の安全」について情報を提供しています。
しかし、正しい情報があまり伝わってはいないのでは、と思われる質問や感想をいただくことがあります。そこで、今回の衛研ニュースでは、食品安全の専門家と一般消費者との間における認識の違いについて紹介させていただきます。

アンケート調査から

平成27年、内閣府食品安全委員会事務局が実施した「食品に係るリスク認識アンケート調査の結果について」によると、食品に対するリスクの認識について、食品安全の専門家と一般消費者との間には、専門知識の有無により違いがあることがわかりました。
具体的なアンケート調査の内容は、健康への影響に気を付けるべきと考える項目として19項目を示し、気を付ける必要があると思うものを、その必要性の大きい順に10位まで順位を付けてもらう(図1)、また、ガンの原因になると考える項目として23項目を示し、ガンになる大きな原因になると考える順に5位まで順位をつけてもらう(図2)というものでした。図1から、病原性微生物やカビ毒に対する反応は、食品安全の専門家と一般消費者には大きな違いはありませんが、タバコ、偏食や過食、アレルギー、飲酒、輸入食品、健康食品・サプリメントについては、食品安全の専門家の半数以上がそれぞれ2位、4位、6位、7位、8位、9位と回答しているのに対し、一般消費者は全て11位以下でした。

一方、食品添加物、食品容器からの溶出化学物質、ダイオキシン類は、食品安全の専門家の半数以上が11位以下と回答しましたが、一般消費者は、それぞれ、6位、9位、9位との回答でした。


図1 健康への影響に気を付けるべきと考える項目の順位(中央値)
(「食品に係るリスク認識アンケート調査の結果について」を改変)

注: 中央値とは、全サンプルを大きい順に並び替え、「ちょうど真ん中のデータであること」を意味します。たとえば、病原性微生物は、一般消費者の3600人の回答を1位から並べ、ちょうど真ん中の1800.5人目(1800人目と1801人目の平均)の回答が3位であることを示します。

また、図2から、ガンの原因になると考えられるものとして、食品安全の専門家はタバコ(91%)、加齢(78%)が突出して多いことに対し、一般消費者は、比較的多様なものをガンの原因と考えており、食品添加物、農薬の残留、カドミウム等については、それぞれ42%、29%、20%がガンの原因になると考えています。しかし、食品安全の専門家でこれらがガンの原因になると考えている人は、いずれも3~5%と少ない割合となっています。


図2 ガンの原因になると考えるものとして1~5位と回答した人の割合
(「食品に係るリスク認識アンケート調査の結果について」を改変)

では、なぜ、食品安全の専門家と一般消費者との間に、このように考えの隔たりが生じてしまうのでしょうか。その原因の一つとして、「情報の見分けかた」があると考えられます。

エビデンスとは

皆さんは「エビデンス」という言葉をご存じでしょうか。エビデンスとは「科学的根拠、証拠」を意味します。世の中にあふれている情報に対して、漠然とした不安を持ったときは、この「エビデンスがあるか」を確認する必要があります。例えば、その情報にはデータが付いているか、また出典や文献一覧が記載されているかを確認してみてください。出典や文献一覧が記載されている情報は、それらを科学的根拠とし述べていることを意味しますので、ある程度の信頼性が担保できるものと考えられます。

神奈川県における取組

「食の安全」は、健康にとって非常に大切なことです。神奈川県では、「健康」と「病気」の間を連続的に変化するものとして捉え、この全ての変化の過程を表す概念として「未病」という考え方を導入しています。この「未病」という考えにおいても、「食」は重要な役割を果たします。このため、私たちが、食の安全について正しい知識を持ち、健康に過ごせるよう、情報を鵜呑みにせず、他の情報との整合性やエビデンスがあるか否かについて、いったん立ち止まって考えてみてください。
神奈川県衛生研究所においては、食の安全性を確保するため、食品添加物や残留農薬、食中毒等について、様々な検査と調査研究をおこなっています。これらの検査結果や調査内容は、皆さんが食の安全について考えるとき、情報の本質を見抜き、よりよい選択を行うための科学的根拠として、きっとお役に立てるものと思います。健康にとって本当に大切なことは何か、情報に混乱されることなく冷静な判断ができるよう、エビデンスの有無を意識しながら、健やかな日を送っていきましょう。

(参考資料及び参考リンク)

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

(地域調査部 松阪 綾子)

   
衛研ニュース No.197 令和2年3月発行
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