“筋肉痛”というと運動した後に起こるイメージがありますが、ウイルスの感染によっても筋肉痛が引き起こされることをご存じですか。神奈川県では2016年と2017年の夏季に、筋肉痛を主訴とする「流行性筋痛症/ウイルス性筋炎」(以下、流行性筋痛症)の患者から「ヒトパレコウイルス3型」を検出しました。今回は、流行性筋痛症の症状、神奈川県での発生事例やヒトパレコウイルス3型の特徴についてご紹介します。 |
流行性筋痛症って?
“流行性筋痛症”という病名を多くの方はご存じないかと思いますが、NHKの医学系番組で取り上げられたこともある感染症です。ウイルス感染後、数日の潜伏期の後に、発熱や咽頭痛などのかぜ様症状とともに筋肉痛が出現します。筋肉痛は痛みが強い人から比較的軽度な人まで様々ですが、通常は数日で軽快します。
日本での流行をみますと、1999年に愛知県でコクサッキーウイルスB群による流行性筋痛症の報告がありました。このウイルスは夏季に小児に流行する代表的な疾患である手足口病やヘルパンギーナを引き起こすエンテロウイルスの一種です。過去にデンマーク領ボルンホルム島でこのウイルスによる筋痛症が流行したことから、ボルンホルム病とも呼ばれています。
2008年には山形県において、20~40歳代の若年成人を中心に発熱や咽頭痛に加え、腕や足の筋肉の痛み、脱力を訴える患者が多発しました。初めはコクサッキーウイルスB群を中心としたウイルス検査が実施されましたが、これらのウイルスは検出されなかったため、さらに詳細な検査を行った結果、ヒトパレコウイルス3型が検出されました。これらの調査は山形県衛生研究所を中心としたグループにより実施され、世界で初めてヒトパレコウイルス3型による成人の流行性筋痛症の報告となりました。また、2014年にも山形県において、小児の筋痛症患者からヒトパレコウイルス3型を検出したと報告されています。
筋肉痛は、コクサッキーウイルスでは前胸部、背部および上腹部に、ヒトパレコウイルス3型では四肢近位筋(上腕や大腿)に多く出現します。
神奈川県での流行性筋痛症事例
神奈川県では2016年に初めて、ヒトパレコウイルス3型による小学生と成人の流行性筋痛症事例が発生しました。その事例について紹介します。 |
ヒトパレコウイルス3型感染症
ヒトパレコウイルス3型は、ピコルナウイルス科に分類され、小児の夏かぜの代表的な疾患である手足口病やヘルパンギーナの原因ウイルスであるエンテロウイルスと同じ科に属しています。ピコルナウイルス科のウイルス属はエンベロープと呼ばれる脂質膜を持たず、直径22-30nmと極めて小さく、正20面体をしています(図3、図4)。ヒトパレコウイルス3型は2004年に愛知県衛生研究所の研究員が世界で初めて報告した、比較的新しいウイルスです。 |
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対処法と予防法
通常、ヒトパレコウイルス3型による流行性筋痛症は数日から1週間くらいで回復しますが、脱力や歩行困難などの症状が出現することもあるため、症状が続くような場合には、早めに医師の診察を受けましょう。 |
(参考文献/参考リンク)
- NHK「総合診療医 ドクターG」(2014年9月5日)
- 志水哲也ら,ボルンホルム病の流行-愛知県,IASR 2000;21:31-32.
- 山形県衛生研究所:パレコウイルスと流行性筋痛症
- 山形県衛生研究所衛研ニュース No.181:パレコウイルス3型による流行性筋痛症(筋炎)への関心の高まり
- 山川達志ら,ヒトパレコウイルス3型感染に伴う成人流行性筋痛症17例の検討,臨床神経 2017;57:485-491.
- 佐野貴子ら,小学生および成人の筋痛症事例からのヒトパレコウイルス3型の検出-神奈川県,IASR 2017;38:127-128.
- 国立感染症研究所病原微生物検出情報
- 神奈川県感染症情報センター
(微生物部 佐野貴子)
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