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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.166

水道水の水質基準について

2015年1月発行

水道水は、飲用だけではなく、料理、食器の洗浄、洗濯、風呂、トイレ等に使用され、私たちの生活になくてはならないものです。水道水の安全性を確保することは、私たちの健康を維持するためにとても重要なことです。そのため、水道水の水質基準は最新の科学的知見を取り入れて、常に新しいものになっています。今回は、水道水を安全で生活上支障なく使用できるように設定されている水質基準とこれに関連する項目について説明します。

水道水の水質基準とは

水道は昭和32年に制定された水道法により管理されています。水道水は水質基準に適合するものでなければならず、水道法により水道事業者等に水質検査が義務づけられています。現在の水質基準は平成15年に大幅に改正されたもので、図に示すように水質基準(①)の他に、水質基準を補う項目として、水質管理目標設定項目(②)及び要検討項目(③)が付け加えられています。改正は約10年毎に行われてきましたが、平成15年の改正後は最新の知見により常に見直しされる逐次改正方式になり、項目の追加、削除、基準等の改正がほぼ毎年行われています。


図 水質基準及びそれを補う項目 (項目数は平成26年度)

① 水質基準

水質基準としては、水銀、鉛、ヒ素など人の健康に関する31項目と、味、におい、色、泡立ちなど生活上の不具合及び水道施設への影響に関連(生活上支障関連)する20項目の計51項目について基準が設定されています(表)。人の健康に関連する項目は、体重50kgの人が毎日2リットル生涯飲み続けても健康に影響しない基準が設定されています。また、水道水は水系感染症を防止するために水道法で塩素消毒が義務づけられていますが、これにより生成するトリハロメタンなどの物質を消毒副生成物と呼び、健康関連31項目中11項目で基準が定められています。平成27年4月からは消毒副生成物のジクロロ酢酸及びトリクロロ酢酸の基準がより厳しい値に改正される予定です。

表 水質基準項目と基準値 (平成26年度)

② 水質管理目標設定項目 (「農薬類」が含まれる)

水質管理目標設定項目は、毒性の評価値が暫定的であったり、検出される可能性が低いために水質基準にはならないが、水質管理を行うときに注意すべき項目で、26項目の目標値が設定されています。人の健康に関連する項目として「農薬類」など13項目、生活上支障関連項目が13項目となっています。生活上支障関連項目の中には水質基準と同じ項目がありますが、より質の高い水道水を供給するための値になっており、水質基準より厳しい目標値が設定されています。水質管理目標設定項目は、検査の義務はありませんが、水質基準の検査に準じた検査を実施することが求められており、水道事業者等は実情に合わせて検査を実施しています。逐次改正方式により水質管理目標設定項目も目標値の改正等がほぼ毎年行われており、平成27年4月にはフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等の目標値の改正が予定されています。

人々の関心が高い農薬については、平成15年の改正前は、水質基準項目に4種類、監視項目に15種類、ゴルフ場使用農薬にかかる水道水の水質目標に26種類の計45種類が指定されていましたが、これらの農薬は、水道水、水道原水からほとんど検出されないか、検出されても十分低い濃度であることがわかりました。その結果、平成15年の改正では農薬は水質基準項目の中ではなく、水質管理目標設定項目の中に「農薬類」として1項目にまとめられ、「農薬類」の種類は対象農薬リストに示されました。それぞれの農薬については、目標値が設定され、各農薬の検出値を目標値で割った値の和が1を超えない総農薬方式となりました。対象農薬リストの農薬数は平成15年に101種類でしたが、平成19年に102種類、平成25年に120種類に見直しされています。水質基準と水質管理目標設定項目には、基準値、目標値とともに標準検査法が設定されています。しかし、「農薬類」の中には検出困難なものや、標準となる検査法がまだ設定されてない農薬があるため、当所では国に協力して検査法が未設定の「農薬類」についての検査法開発や開発された検査法の検証を行っています。

③ 要検討項目

要検討項目は、毒性評価や、水道水中の存在量が明らかでない等の理由から水質基準項目及び水質管理目標設定項目のいずれにも分類できないが、情報・知見の収集に努める必要がある項目でダイオキシン類等が指定されています。そのため、目標値が暫定であったり、設定されてない項目が多くあります。また、逐次改正方式により項目数が平成15年当時の40項目から現在は47項目に増加しています。要検討項目も検査の義務はありませんが、一部の水道事業者等で検査や調査が行われています。

衛生研究所の取り組み

当所では、神奈川県水道水質管理計画等に基づき、水質基準項目、水質管理目標設定項目及び一部の要検討項目の検査を実施しています。また、標準となる検査法がない農薬や水道水に関連する化学物質について検査法の検討、県内水道水源の実態調査及び浄水処理工程での挙動の解明等の調査研究を行っています。そのほか、水道法に基づく水質検査を実施している検査機関を対象に精度管理を実施しています。一定濃度に調製した同一試料を検査機関に配布し、その検査結果を報告してもらい、検査データのばらつき等問題点を解析し、技術改善を図ることで常に正しい測定結果が得られるよう検査機関の検査精度の向上及び検査担当者の技術向上に役立てています。
水道法の制定以来、水道を取り巻く状況は大きく変化し、受給者の好みや水道水の使い方が変わりつつあり、これに対応するように水質基準等も改正されてきました。今後も安全でおいしい水を確保し、緊急時には迅速な対応ができるよう、最新の情報や知見を収集し、暮らしに役立つ検査・調査研究を進めてまいります。

 
(参考リンク)

(理化学部 長谷川 一夫)

         
   
衛研ニュース No.166 平成27年 1月発行
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