ジャガイモは、私たちの食生活において欠かすことのできない食材のひとつで、様々な料理に重宝し、家庭菜園でも人気のある野菜のひとつです。けれども、食中毒の原因となることがあり、全国的にも小学校や幼稚園で栽培したジャガイモによって食中毒が発生したという事例がしばしば報告され、最近では2009年7月に奈良県の小学校で、神奈川県内でも2000年7月に小学校で起きています。
そこで今回は、我々が調査した結果とあわせてジャガイモによる食中毒に関する話題と、食中毒防止に向けてご家庭等で注意すべき点についてお話します。
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ジャガイモなどのナス科の植物(トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ)にはグリコアルカロイドという有毒な成分(ジャガイモでは主にα-ソラニン、α-チャコニン)がもともと含まれていますが、中毒を起こすほどの量ではありません。しかし、ジャガイモの発芽部分や表面が緑色に変わった皮の下、未成熟ジャガイモにはこの成分が多く含まれています。水溶性なので、煮たり茹でたりすることによって多少減少すると言われていますが、実際の加熱調理ではほとんど分解されません。 |
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中毒を起こす物質はどのくらい含まれているのですか?
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かながわ農業アカデミーの協力のもと、ソラニン類(α-ソラニン、α-チャコニン)の含有量を調査しました。
栽培している、男爵、アンデスレッド、キタアカリの3品種(重量100~150gの成熟したイモと重量20g程度の未成熟なイモ)について、保存期間ごとに皮、可食部、芽の部位別の違いによる含有量の測定を実施し、その結果を(表)に示しました。 |
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表 ジャガイモ中のソラニン類含有量 (mg/kg) |
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ジャガイモの芽には有毒な物質が含まれているということをご存じの人も多いと思われますが、測定した結果でもやはり芽の部分にはソラニン類が多く(300mg/kg以上)含まれることがわかります。皮や可食部にも多少含まれていることが(表)からわかりますが、どの品種でも、皮に比べて可食部の含有量は非常に少ない量(4.0mg/kg以下)となっています。未熟イモ(未成熟なイモ)については、男爵、キタアカリは成熟した通常のイモとソラニン類の含有量の差はほとんどありませんでしたが、アンデスレッドは通常のイモより多い量となりました。また、ジャガイモの品種の違いによってもソラニン類の含有量に違いのあることがわかりました。 |
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食べた直後に、苦み、えぐ味などの違和感を感じる場合もありますが、食後20分くらいから吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、頭痛、脱力感などの症状がでることがあります。一般的には軽症のことが多いのですが、まれに呼吸困難などの重い症状となる場合もありますので、このような症状が出たときには早めに医療機関の受診をお勧めします。 |
どうして学校等で栽培したジャガイモで食中毒が起こるのですか?
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市販されているジャガイモで食中毒を起こすことは、まずないと言ってもいいでしょう。
学校等で栽培したジャガイモには、成熟する前に収穫したり、日光が当たって表面が緑化したものがみられる場合があります。未成熟の小型ジャガイモや表面が緑化したジャガイモはソラニン類の含有量が多いのですが、これらの収穫したイモを茹でて皮付きのまま喫食することにより食中毒が起こっている事例がほとんどです。 |
日光を当て
緑化したジャガイモ
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☆家庭で調理する場合のポイント
- 未成熟の小型のジャガイモはなるべく食べない様にしましょう。油で揚げたり蒸したりしてもソラニン類はなくなりません。
- 芽の部分はきちんととりましょう。
- 皮が緑化している場合は厚めにむきましょう。
- 苦みやえぐ味があった場合は食べるのをやめましょう。
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☆学校や家庭菜園等でジャガイモを栽培する場合のポイント
- 芽が出てきたら1株2本を目安に芽かきをしましょう。
芽かきをしないと収穫時にイモが小さくなります。
- 土寄せ作業を行い、うねを高くしてイモの表面が土から出ないようにしましょう。
- 十分成熟したイモを収穫し、収穫時に傷をつけないよう注意しましょう。
- 収穫後でも日光に当たると緑化するので、遮光保存しましょう。
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ジャガイモを保存する時の温度が、ソラニン類の含有量に与える影響について(図)に示しました。イモは男爵を使い、光に当たらないようダンボールの中に入れました。 |
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図 ジャガイモ(男爵)のソラニン類の経時変化 |
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可食部中のソラニン類の量は、(図)からわかるように保存場所(室温、冷蔵)や保存期間(収穫後1週間~3ヶ月)の違いによる影響はほとんどありませんでした。皮については、冷蔵保存1ヶ月で減少し、その後また増加しているのは、皮の表面が乾燥し水分含量が変化したためと考えられました。芽については、室温で保存したイモは2ヶ月過ぎた頃から発芽したのに対し、冷蔵で保存したイモは3ヶ月を過ぎても発芽しませんでした。家庭菜園等で収穫したイモをしばらく保存する場合は、日に当たらないようななるべく涼しい場所に保存するのがよいと思われます。 |
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一般にジャガイモに含まれるアルカロイドの約95%はα-ソラニンおよびα-チャコニンであり、中毒量は200~400mgと言われています。今回調査したジャガイモ3品種では、皮を除く可食部は、アンデスレッドの未熟イモを除いては4.0mg/kg以下であり(表参照)、これを中毒量に換算するとジャガイモ50kg食べることに相当するため、食中毒を起こす可能性はほとんどないものと考えられます。しかし、これまでに発生した食中毒事例から子供の場合は20mg程度(100gのイモ5個程度食べることに相当)でも発症していることから、子供が食べる場合は皮をむき、多量に食べない様に心がける必要があると思われます。 |
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植物の中には、有毒な成分を含むものがあります。普段食べている野菜でも時として有毒な成分を含むこともありますが、摂取量があるレベルを超えなければ心配ありません。ジャガイモはビタミンCなどが豊富な野菜です。通常ビタミンCは熱に弱く熱を通すとほとんどが失われてしまう野菜が多いのですが、ジャガイモのビタミンCは、でんぷんにガードされているために熱に強く、安心して煮物や炒め物にできます。ジャガイモは身近で有用な野菜ですので、調理の際に少し注意していただけるだけで食中毒を未然に防ぎ、安全においしく食べることができます。 |
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(理化学部 関戸晴子) |
(リンク先) |
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発行所
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神奈川県衛生研究所(企画情報部) |
〒253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1 |
電話(0467)83-4400 FAX(0467)83-4457 |
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