サクセス ストーリー
伝統を守りながら、革新を生む。
鎌倉の味と心を継承する「豊島屋」の挑戦

株式会社豊島屋
銘菓「鳩サブレ―」で知られる、創業明治27年の老舗菓子店。和菓子、洋菓子、パンの製造及び販売を行い、鎌倉市内にて喫茶およびカフェを経営する。同市内に新工場を設立し、2023年より操業開始。

代表取締役社長
久保田陽彦 様
神奈川県鎌倉市に新工場を建設した経緯
当社は鎌倉市の菓子店として創業以来、地域に寄り添いながら事業を営んでまいりました。おかげさまで、2024年には130年の歴史を刻むことができ、この鎌倉の地への感謝の念は尽きることがありません。
食品工場の衛生基準は年々厳格化し、老朽化が進んでいた鎌倉市大船の既存工場は、衛生面での課題が年々顕著になっていました。お客様に安全で美味しい商品をお届けするためには、労働環境も含めた抜本的な改善が必要な状況でした。
そこで私たちは、衛生管理をより徹底し、働く従業員にとっても快適な環境を追求した新たな工場を鎌倉市内に建設すると決意したのです。鎌倉の空気を肌で感じ、移り変わる風景を目にしながら、四季の息吹を商品に込めていく。そんな土地と一体になったものづくりこそが、我々の本質的な価値だと考えています。
和菓子づくりを続けてきた老舗として、様々な想いを込め出来た新工場は、鎌倉への感謝の気持ち、生まれ育てて頂いたこの鎌倉とともに歩みたいという決意の表れでもあります。

「セレクト神奈川NEXT」を利用した経緯と利点
お付き合いがあった銀行から「セレクト神奈川NEXT」のことを教えていただいたのは、当社にとって大きな転機となりました。コロナ禍が始まり、工場建設の計画は一時、暗礁に乗り上げるかと思われました。長期にわたり店舗を閉めざるを得なくなり、当時の売上はほぼゼロまで落ち込んだのです。それでも従業員の生活を守るために、給料を全額支払い続けました。資材の値上がりも追い打ちをかけ、それまで避けてきた銀行での借入れや融資も検討が必要な状況になっていました。そんな中、「セレクト神奈川NEXT」の支援メニューの一つである低金利かつ長期の融資を受けられる「企業立地促進融資」には本当に助けられました。
今回、当社が「セレクト神奈川NEXT」を活用できたのは、横須賀三浦地域や県西地域に限定して、食料品製造業などの業種にも対象を拡げて認める「地域振興型産業」に該当したこともありました。コロナ禍での厳しい状況の中でも「セレクト神奈川NEXT」の補助金、融資などの支援により、新工場の建設を実現することができました。
申請手続きについては、決算書や納税証明書などの必要書類を複数用意する必要があり、不慣れなために戸惑いもありました。しかし、県の担当職員の皆さんの親身なサポートのおかげで、手続きをスムーズに進めることができました。
こうして竣工した新工場は、衛生管理を徹底するため、工場内を3つのゾーンに区分けし、原材料の搬出入も明確に区分しています。清潔で快適な休憩スペースも完備され、従業員の仕事に対するモチベーションも上がっているようで、大変喜ばしく感じています。

工場の立地から生まれた効果
新工場の立地は、従業員にとって大きな利点となりました。駅から徒歩圏内という好条件にあり、通勤の負担が軽減されたのです。バス通勤では時間の読みにくさに悩まされることもあるため、駅から歩いて通える安心感は大きいようです。
また、工場の場所は、かつて資生堂の工場があった跡地であり、現在はマンションと当社の工場に生まれ変わったという経緯があります。そのため工場は住宅地に近い立地ですが、周辺住民との関係も良好です。和菓子工場は騒音や臭いも少なく、夜間稼働もないため、マンションにお住まいの方々からも好意的に受け入れていただけているようです。
工場建設をきっかけに地域との絆も、さらに深まりました。地元の警察署と協力して特殊詐欺防止キャンペーンを実施したり、消防署の訓練に敷地を提供したりするなど、地域に開かれた存在へと進化しています。地域社会への貢献という新たな価値を生み出していることも喜ばしい変化です。

今後の事業の展望
創業130年を迎えた弊社ですが、過去の実績に甘んじることなく、より美味しいお菓子を作るべく追求を続けています。「鳩サブレ―」は完成された銘菓だと言われることもありますが、私の目には、まだまだ美味しさを追求する余地があるように映ります。和菓子の美味しさにも終わりはなく、これからも一歩一歩着実に向上を続けていきたいです。
伝統とは、革新の連続です。変えるべきものは勇気を持って変えると同時に、守るべきものはしっかりと守りぬいていく。樹木の幹のように、本質的な部分は不変なものとして守りながら、枝葉は時代に応じて柔軟に変化させていく。新しい葉が芽吹いていくためにも、幹を枯らしてはならないと考えています。例えば、鳩サブレーのレシピは明治時代から一切変えていませんが、原材料は常によりよいものを追求しています。上生菓子の開発では、毎月100個もの試作品から私と製造の責任者、担当者で協議の上、店主の私自身が厳しい目で選んだ6種類を店頭に並べます。新商品の開発においても、日本の伝統的な暦を大切にし、季節の移ろいを繊細に表現することに重点をおいています。私たちの最終的な目標は、お客様に喜んでいただくことです。そして、作る側も、すべての人が笑顔になれる、そんな会社であり続けたいです。その想いが、鎌倉に住む人や働く人、訪れる人、街全体の人々の笑顔や喜びにつながっていくと信じ、地域社会への貢献が出来たら素晴らしいことだと思っています。