サクセス ストーリー
神奈川・相模原で、行政連携と地域との共創を通じ、
食の安心安全を独自の先端技術で支える「アルトリスト」の挑戦

アルトリスト株式会社
2008年に東京都で設立。食の安心安全を最新技術・最先端の設備で支えることをビジョンに食品加工の後工程(注)に特化したロボットの開発、製造を行っている。2021年にファブレスからの脱却を目指し、さがみロボット産業特区である神奈川県相模原市に自社工場を新設。行政内との連携や地域工業団地との共創を通じ、独自の技術で他社にはないユニークな製品を開発している。
代表取締役社長 CEO
橋田浩一 様
(注)食品加工の後工程:充填包装、加熱殺菌、冷却、製品検査、包装、保管・出荷などの工程を指します。
躍進を目指し、ファブレス体制から“自分達でつくる”企業へと脱却を図る
当社は、2008年創業時はファブレス体制で事業を展開していましたが、ノウハウの蓄積と顧客からの信頼獲得を目的に、2021年、神奈川県相模原市に自社工場を新設しました。この転換には、いくつかの理由があります。第一に、製造工程における資材選定や詳細設計など、重要な知見が外注先にとどまり、社内に蓄積されにくい構造に課題を感じていたこと。第二に、実際にものづくりを担う体制がないことが、顧客からの信用面において不利に働く場面があったこと。そして第三に、利益率の改善や将来的な株式公開(IPO)を見据えた場合、自社で製造拠点を保有することが競争力強化につながると判断したことです。
内製化によって、工程ごとの調整力や技術資産の蓄積が進み、メーカーとしての信頼性が向上しました。その結果、顧客からの案件数および発注頻度も増加し、設備投資も加速しています。

支援制度が背中を押した、相模原の工業団地への進出
製造拠点の新設にあたり、最大の課題は「適切な立地探し」でした。当社は本社を東京都調布市に置いており、そこから1時間圏内でアクセス可能な場所というのが立地への必須条件でした。加えて、大型ロボットを組み立てる広い敷地と、周辺との物流環境の良さも考慮しました。中々条件に合致する物件に出会えない中、付き合いのある地元金融機関から紹介を受けたのが相模原市の「清水原工業団地」です。団地内物件への進出を希望する会社が複数社ある中、プレゼンを通じ自社のビジョンを伝えたところ工業団地協働組合に選んで頂き無事に進出成功、2021年に工場が稼働を開始しました。
この拠点整備において大きな役割を果たしたのが、神奈川県・相模原市の補助制度です。拠点整備への投資に対し補助金が10年にわたり交付されることで、運転資金に余裕が生まれ経営判断の幅が狭まるリスクを低減できると予測できたことも、今回の脱ファブレス化に挑戦する大きな後押しとなりました。
補助制度を活用するにあたり、行政の担当者が非常に丁寧で、申請書類の雛形の用意から書類の書き方や申請手順など手厚くサポートしてくださった結果、外部コンサルタントの支援がなくとも独力で申請することができました。また、制度情報も金融機関を通じてスムーズにアクセスでき、県と市、および金融機関の連携による迅速な審査対応が印象的でした。

“横のつながり”が生む、製造基盤の強化と地域との共創
新設した工場が立地する清水原工業団地には、金属加工をはじめとする複数の製造企業が集積しています。団地内では、毎月の定例会などを通じて企業間の距離を縮めるネットワークが機能しており、移転後すぐに「横のつながり」が生まれ、開設直後から部品加工や搬送などの協業が自然に始まりました。その結果、物流コストの削減や納期短縮といった実務面での効果が得られただけでなく、関係性の深化を通じて、自社の製造基盤の強化や共創機会の増加につながり、当社のものづくりに厚みが出ました。こうした地域内での連携は、補助金や立地環境と同等の大きなメリットであったと実感しています。
また、神奈川県の産業技術支援機関であるKISTEC(神奈川県立産業技術総合研究所)と連携させて頂き、プラスチック加工企業の紹介や、地域製造業とのマッチング支援を受けたことで、自社だけでは実現できなかった製造技術を柔軟に取り込むことができました。

顧客目線での情報発信で、“さがみロボット産業特区”全体での躍進を目指す
神奈川県相模原市を含む県内12市町は、ロボット産業の集積地として「さがみロボット産業特区」に指定されており、行政・支援機関・企業間の情報連携も活発です。当社もこの地域特性を活かし、さらなる事業展開を計画中です。実際、食品工場の後工程におけるロボット化ニーズは急速に高まっています。気温変化・衛生管理・作業者の負荷といった課題がある中、食品業界全体が「人から機械へ」の変革を求めています。
当社が開発した「段ボールを上から被せるロボット」は、こうしたニーズに応える製品の一つです。特許技術を用いたこの装置は、導入先の食品工場において、単なる効率化だけでなく、社会とのつながりを生み出す役割も果たしています。実際に、このロボットが導入された工場では、小学生が製造の様子を見学できる通路を整備し、“見せる工場”として社会に開かれた施設へと進化しています。
こうした社会的な波及効果を生むロボットを、自社で一貫して製造している点も、お客様からの信頼を得る上で大きな強みとなっています。受注件数や頻度の増加に加え、自社工場の新設を契機に社内の若返りや人材の定着も進んでおり、ロボット製造企業としての基盤が着実に強化されつつあります。今後は、製造・導入で得られた知見をもとに、分野ごとの専門性に基づいたロボット情報の発信にも取り組んでいく方針です。
お客様もすでにロボットを導入し使用しているケースが多く、ロボットに関する知識も豊富です。そうしたお客様が求めているのは、“ロボットが作れます”などの一般的な情報ではなく、“食品の後工程ならこのロボット”といった、分野ごとのロボットの専門性を明確に伝える情報です。こういった、お客様が求める情報を顧客目線で提供する体制を、県・市との連携を通じて推進することで、さがみロボット産業特区の認知度を広げ、地域全体でロボット産業におけるさらなる競争力の向上を目指していきたいと考えています。
“企業誘致施策「セレクト神奈川NEXT」”
神奈川県では、県内経済の活性化と雇用の創出を図るため、企業誘致施策「セレクト神奈川NEXT」により、県外・国外から企業を誘致するとともに、県内企業の再投資を促進しています。県の企業立地促進補助金は、県内市町村の企業立地に関する補助金と併用できます。詳細は、次の県ウェブページをご覧ください。
「セレクト神奈川NEXT」のご案内


