農業女子プロジェクトとは
農業女子プロジェクトは、農林水産省が2013年に立ち上げた女性の農業分野での活躍を推進するプロジェクトです。①社会、農業界での女性農業者の存在感を高める、②女性農業者自らの意識の改革、経営力の発展、③若い女性の職業の選択肢に「農業」を加える――の3つを柱としており、農業界に縛られず、多様な企業や教育機関と連携しています。
構成メンバーは、「農業女子メンバー」と呼ばれる女性農業者と企業、教育機関、これらの事務をサポートする農林水産省と各地域の農政局が担っています。女性で農業に携わっていれば原則、誰でも参加できます。スタート当初の農業女子メンバーは37人でしたが、11年の歳月を経て全国で1,052人を誇ります(2024年11月29日現在)。

女性の使いやすいは、みんなの使いやすい
農業女子プロジェクトに参加する農業女子メンバー有志と企業が、協同で新たな商品やサービスの開発に取り組む「個別プロジェクト」は、設立当初から続く一大プロジェクトです。現在の参画企業は33社(2024年11月29日現在)。これまでの連携実績は、農業機材を取り扱う企業やアウトドア用品を展開する企業、国内大手ECサイトを持つ企業、国内最大手の百貨店など、枚挙に暇がありません。
農業機械総合専業メーカーの井関農機との連携では、農業女子メンバーの意見が反映された「トラクタ『しろプチ』」が開発されました。小柄な女性でも座りやすい座席サイズの調整や、座り心地の改善、可愛らしいカラーリングなどが盛り込まれています。
井関農機と農業女子メンバーの商品開発プロジェクトについて浦野崇さんは、「性差を分析に組み込んで商品開発やイベノーションを行うことを『ジェンダードイノベーション』と言います。井関農機も自社で農業従事者の声を基に商品開発を行っていますが、農業女子メンバーの率直な意見はメーカーにも強く響き、多数の商品とサービスを世に送り出すことができました」と成果を口にします。「女性にとって使いやすい、がみんなにとって使いやすい」へとつながり、社会にインパクトを残しています。

教育機関との連携で職業の選択肢に
職業選択に農業を加えてもらうことも使命に掲げる農業女子プロジェクトで欠かせないのが、教育機関と連携し、農業女子メンバーが実際に教育現場を訪れる事業の「チーム”はぐくみ”」です。第4期(2016年)の2校からはじまったこの事業は、現在は10校が参画しています(2024年11月29日現在)。
自身の出身地でもある山形県の山形大学で行われた農業女子メンバーと学生59人との意見交換会に出席した大河原綾乃さんは、「農学部の学生と話しましたが、『女性がエネルギッシュに農業に取り組んでいる事例を知れて良かった』『食に関する仕事に就きたいと思っているが、農業についても学びたいと思った』などの声を聞きました。多くの農業女子メンバーは『自分たちの背中を見て、後継者が育っていけば』という思いで活動に臨んでいます。こうした事例を知り、つながる場面を作っていくことの重要性を実感しました」と話します。

自らで考え、自走する組織へ
設立から10年目を迎え、次のステージを模索する中で生まれたのが、「NEXTラボ」です。「行政主体の事業として10年目を迎え、今後の在り方について議論しました。その結果、せっかく生まれたつながりを活かし、参加する女性メンバー自身が主体となって、事業を推進していこうという方向性が示されました。『NEXTラボ』はそのひとつの形です」と、大河原さんは振り返ります。
NEXTラボの最大の特徴は、農業女子メンバー自らが講座を企画する自走型の事業であること。本格稼働した2024年度は、生産物の売り方・見せ方を学ぶ「プロモーションラボ」、生産管理等の基礎的な農業経営を学ぶ「マネジメントラボ」、女性の健康について学ぶ「ヘルスラボ」の3つのラボで各4講座、全12講座を開いています。「プロモーションラボとマネジメントラボにくわえて、健康について学ぶヘルスラボがあるのが、女性の視点を盛り込んだ農業女子プロジェクトらしいですよね」と大河原さんはほほえみます。
セミナー後には必ず参加者同士でつながりあう交流会を企画しています。交流会のパイプ役も、企画をした農業女子メンバーが務める徹底ぶり。農林水産省が主体となるのではなく、あくまで農業女子メンバーが主体となって、女性活躍を推進していく姿が、ここにあります。

全国の農業女子が活動しやすい環境を目指して
農業女子プロジェクトを通してつながった農業女子メンバーが、自らが拠点を置く地域でグループを立ち上げる動きもある「農業女子プロジェクト」。
今後の発展に向けて大河原さんは、「プロジェクトのいち担当者として、農業女子の皆さんにはのびのびと活動をしてほしいという思いがあります。農業女子プロジェクトは全国の女性農業者に参加いただいていて、輸出を行うために自分で商社を立ち上げた方や、企業と連携してマルシェを実施する方など、多方面でご活躍されている方がいらっしゃいます。まだまだ農業分野での女性の活躍は進んでいない部分があります。農業女子メンバーに限らず、農業に携わる全国の女性の皆さんがさらに活躍できるよう、環境整備を行っていきたいと思います」と未来を見据えていました。
紹介してくれた人
農林水産省経営局就農・女性課女性活躍推進室
大河原 綾乃さん

農林水産省経営局就農。女性課女性活躍推進室
浦野 崇さん
