専門家が経営改善を支援
この相談事業は、農業経営の法人化や経営継承、規模拡大などの経営改善を支援する協議会が運営しています。県内に拠点をもつ重点農業者に選定された農業者に向けて、中小企業診断士や税理士、農業経営コンサルタントといった経営の専門家が無料で派遣し、事業の見直しや目標策定などの具体的な課題について、農業者に寄り添いながらアドバイスを行っています。

今回は、販売売上3,000万円以上のトップ経営体の育成を図る「かながわ農業版MBA研修」で講師も務める加藤さんが派遣されました。加藤さんによれば、決算書の中で経費として処理ができる部分も知識がなければ無駄にお金を支払ってしまうことになる、とのこと。「そうした”もったいない”を専門的見地から見て、アドバイスをするのが私たちの仕事です」と柔和な笑みを浮かべていました。

三浦で1000年以上続く「くろぜむ農園」
相談に訪れていた「くろぜむ農園」は、三浦市で1000年以上続く古株です。露地栽培で育ったトマトや大根、キャベツは、三浦海岸から流れ込む潮風や海藻の栄養素を取り込んでおり、ミネラルが豊富。食塩等添加物未使用のトマト100%ジュースは、すっきりとした酸味とコクのある味わいが特徴で、国際女性会議WAW2017のディナーレセプションでふるまわれました。

このくろぜむ農園に嫁いだ山田靖子さんは、就農7年目。以前はデータの管理や顧客対応の充実などを担う事務職で働いていました。ある時、今の夫となる山田充さんの野菜を一口食べたところ「あまりの美味しさに衝撃が走った」と言います。それ以降、全くの農業未経験でありながら、現在は夫婦で肩を並べながら農作業に励んでいます。

「あれは何?なんでこれをするの?」ゴールのビジョンを共有
農業について門外漢だった靖子さんはまず、日々の農作業について充さんに尋ねました。「農業は、見て・やって、それでやり方を覚えていくものだと言われたけど、私の性格として「なんでそれをやる必要があるのか」「どんなゴールを目指してこの作業を行うのか」を知っていないと、気が済まなかったんです」と靖子さん。

徐々に農業知識を蓄えていった靖子さんは、さらに知識を深めるために神奈川県が展開する様々な事業に参加していきます。まずは、県内の女性農業者をが経営発展を目指す研修「かながわなでしこfarmars' college」に参加し、農業経営の基本の基を学びました。ここで営農計画書を作成し、5年後のビジョンを明確化させると、それを実現させるために、さらに専門的で高度な「かながわ農業版MBA研修」を受講し、農業経営について、自身の中で体系化させました。こうした経験に靖子さんは、「自分の中で徐々にできる事が増えていく感覚が楽しい。その上、同じような志を持った仲間たちが県内にいることを知れるので、自分だけじゃないと思えました」と振り返ります。

夫婦はビジネスパートナー
こうして得た知識を早速、充さんに披露しました。靖子さんの頑張りに充さんは、「自分と同じ目線で農業について考えて一緒に相談できる、まさにビジネスパートナーのようだった。それまでは経営者として孤独を感じる事があったけれども、今は二人でなら色々なことに取り組む事ができ、靖子さんが頼もしく感じられた」と話します。

「くろぜむ農園」の新商品は、靖子さんがこれまで学んできたこと詰め込んで考案した「ドライベジフル」。三浦の大地に育まれ、ミネラルをたっぷり吸収した野菜の旨味を損なうことなく作られた自信作です。今後に向けて靖子さんは、「家族とともに力を合わせて、自分自身が食べたいと思える野菜や加工食品を作り続けていきたい」とワクワクした表情を浮かべていました。1000年続く畑から、新しい時代が今まさに始まろうとしています。
