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小俣シゲ子さん

大繁盛の直売所を営む小俣シゲ子さんの「若い人に伝えたいこと」- 女性農業者活躍表彰受賞者インタビュー -

取材対象
相模原市緑区在住
小俣園芸・小俣シゲ子さん

規格外の野菜を活用した加工品の製造販売など多くの功績を残す小俣シゲ子さん。この度、1月24日に農業振興について特に功績のあった女性農業者を称える「女性農業者活躍表彰」を受賞しました。受賞後、ご自宅のある相模原緑区でお話を伺いました。

大豆と麹の中で

茹で上がった大豆の香りで満ちる中で小俣さんは待っていました。

味噌作りは今年で20年目。農閑期にあたる1月から4月に仕込み、その量は一冬で1トンほど。麹や味噌など原料は全て相模原産にこだわっているといい、「味噌は今でも大切にされている。直売所で売り出すと結構反響があるのよ」とにっこり、人懐こい笑顔を浮かべていました。

規格外野菜は加工品に

小俣さんは結婚をきっかけに相模原に越してきました。それから54年、経営スタイルを時代や環境に合わせながら乗り越えてきました。現在の主力はトマト栽培で、露地とハウスを組み合わせて1年のうち7月を除いて栽培しています。これに加えて、20品目ほどで栽培しており、営む畑の面積は45,000㎡にもなります。

農作物を作るとどうしても出てくるのが、「規格外」。味は変わらないのに見た目がいびつな形をしていることから市場に出回りにくく、中には廃棄されてしまうこともあります。小俣さんの畑では、この規格外を活用した「加工品」もバリエーションが豊富で、味噌以外にもジャムやこんにゃく、トマトソース、きゅうりの奈良漬け、たくあんなどを製造しています。

「農家を知って」 始まりは軽トラの産直

小俣さんの野菜は、卸売市場ではなく農地に設置された直売店で販売されています。午後2時に店が開店してから5時に閉店するまで、ひっきりなしに人が訪れます。

小股さんが産直を始めたのは、約35年前のこと。その当時は都市化が進み、小俣さんの周囲の畑にも住宅街が立ち並ぶようになりました。小俣さんが栄養のある良い土にしようと堆肥をまくと、周辺住民から臭いと苦情が届けられるようになりました。「でも農家がおいしい野菜をつくるために、土は大切。周りの人たちに農家を知ってもらう必要があると思った」と小俣さん。軽トラックに野菜を詰め込み、パートさんと共に近所で売り歩くようにしてみると、次第に苦情は減っていきました。

予想以上の反響から、少量多品目に舵を切り、野菜を市場に持ち込む方式から、直接販売する手法をとるようになりました。その5年後には、農地の隣に小屋を建てて直売所を設立。小俣さんは、「例えばトウモロコシは、直売所の隣に植えてあるからそこから採ってくる。それ以外の野菜も泥が付いていても付いたまま販売する。それがお客さんにとって一番安心だし、一番美味しいっていってもらえる」と話していました。

女性だから気付けた加工品販売の重要性

もうひとつの柱である「加工品」は、息子の就農がターニングポイントでした。ハウス栽培を新規に始めると、慣れるまでに比較的多くの規格外製品ができます。それを「もったいない」と感じた小俣さんは、これを活用したトマトソースを開発。現在では、新宿の伊勢丹にも出品されています。

この加工品は、直売所でも喜ばれています。仕事終わりのパートタイマーや子どもの迎えに行く主婦にとって、一カ所で多品目が販売されていることがうれしいことだったとか。これは小俣さんが女性で、主婦で、母だったからこそ、気が付いた視点でした。

また、小俣さん一家は、家族内でも役割を明確化するために、給料制や就業時間、休日を明文化した「家族経営協定」を定めました。立会人もよび、家族全員がこの協定を結ぶことで、仕事に対してのメリハリが生まれ家族内での不和も減ったといいます。「私なんかは8時30分にみんなが作業を始められるように準備をしたりするから、ずっと働いていた感じだったね」と笑い飛ばしていました。

若い人に伝えたい・技術の継承

「今回の受賞の時、夫には『俺のおかげだな』と言われました。夫や家族の理解がなければ、ここまで活動を続けることはできませんでした。自分は、幸せ者です」と、小俣さんは授賞式でのスピーチを振り返りながら、改めて感謝を口にしていました。

その一方で、若い人に伝えていきたいことがあるといいます。それは、自分自身がトマトの加工物の製造方法などを知る時に先人から多くのことを教えてもらった農作物の育て方や加工法を伝えていくこと。小俣さんの次なる目標は、若い人たちと一緒に仕事を続けて行くことに定まっていました。