「かながわホームファーマー事業」とは
この日集まった参加者たちは、神奈川県が実施する「かながわホームファーマー事業」の体験研修生です。かながわホームファーマー事業は、農業者の高齢化や後継者不足によって増えつつある耕作放棄地を活用し、県民に農業を学ぶ場を提供することを目的とした取組です。対象は県内在住で野菜づくりに関心がある人。体験研修生になると約1年間、100㎡の区画※で作物を育てられる他、年間10回程度の座学・実技を通して栽培の基礎技術から知識までを実践的に学びます。この日の体験も、その年間カリキュラムの一環として行われました。
※体験研修修了後にホームファーマーにステップアップすると、さらに広い畑(最⾧3年間、200~300 ㎡)で耕作できます。
小さな苗に映る、それぞれの1ヶ月
この日の実技研修は、体験研修生が約1カ月間、自宅で育ててきたブロッコリーとキャベツの苗の生育発表から始まりました。同じ日、同じ土、同じ種で栽培をスタートしたにもかかわらず、持ち寄られた苗の姿は様々。青々と力強く育ったものもあれば、少しひょろりと伸びたものもあり、育てられた環境の違いが一目で分かります。
参加者たちは「3粒ずつ入れたが発芽しないポットもあった」「たまに水やりを忘れてしまった」と、この1ヶ月の試行錯誤を報告。講師は「キャベツとブロッコリーの発芽適温は20℃〜25℃。今年の夏は特に暑かったから芽が出なかったのかもしれませんね」「意識せずに水をやると中央ばかりに水がかかり、育苗ポットの中央と周辺で育ち方が変わってしまいます。ポットの端にも行き渡るよう円を描くように水をあげましょう」と的確に助言をしていました。同じ条件下で始めたはずが、環境によって全く違う育ち方を見せる。参加者たちは、植物を育てることの奥深さと難しさ、そして面白さを実感している様子でした。
大地の恵みをその手で、汗を忘れる収穫の歓声
続いては、サツマイモの収穫です。うだるような暑さの中、参加者たちは協力して畑を覆うツルを取り除き、黒々とした土を露出させました。土を掘り返すと、畑のあちこちから「あった!」「大きい!」という歓声が上がります。
土の中から現れる鮮やかな紅色のサツマイモ。品種は紅あずまです。そのずっしりとした重みを手に感じると、参加者の顔には満面の笑みが広がっていました。
未来へつなぐ農作業、猛暑と向き合う知恵
収穫の喜びを分かち合った後は、次の栽培に向けた作業です。参加者たちは2チームに分かれ、丁寧に畝を作っていきます。講師からの課題は、畝間45cm、株間40cmの間隔で定植していくこと。畝作りも定植位置の決め方も体験研修生はまだまだ経験が足りない様子で、研修補助員の力を借りながら、適切な位置に定植していきました。
さらに厳しい暑さといった気候の変化に対応するために、防虫ネットに遮光シートを重ねていきます。収穫は今年11月下旬〜12月頃。それまでじっくり育てていきます。
「同じ志の人と話せるのが楽しい」農が育む新たな絆
すべての作業を終え、参加した女性の一人は汗を拭いながらこう語ってくれました。「両親が家庭菜園を行なっているのを見て、自分もやってみたいと思ったのがきっかけです。ここは、プロから教えてもらえるだけでなく、私と同じように農業を志している仲間と話せるのが本当に楽しいです」。彼女の言葉は、この農園が単なる技術習得の場でなく、同じ関心を持つ人々が集うコミュニティとして機能していることを示しています。



