農地の見学から加工、販売まで
日常生活でよく見かける野菜や果物などの生産現場や販売所を見学し、就農後の解像度を高めてもらうバスツアーが、「かながわ女性就農バスツアー」です。この日は高校生を含む17名がバスに乗り込みました。
見学先は、神奈川県県西地域。このエリアは、山間部の地形を生かした「足柄茶」や、果樹の栽培が盛んな地域です。地元で採れた四季折々の旬な野菜などを販売しているJAかながわ西湘直売所「朝ドレファ~ミ♪成田店」、みかんやブルーベリーを栽培し敷地内で加工品製造までを行うあきさわ園、土づくりにこだわり、ナスやニンジンの露地栽培を手掛ける翠の丘農園を巡ります。

「お客様目線で安心を届ける」朝ドレファ~ミ♪成田店
12時20分に小田原駅西口に集まった参加者一同。緊張した面持ちですが、バスに乗り込んで数分もすると会話が広がります。「どこからやってきたの?」「どんな野菜に興味があるの?」と自己紹介をしながら会話に花を咲かせていると、朝ドレファ~ミ♪が見えてきました。
JAかながわ西湘が運営する「朝ドレファ~ミ♪成田店」で出迎えてくれたのは、黒柳勇店長です。まず簡単に県西エリアの農業の特徴と、お店の特徴を解説します。
「県西エリアは柑橘系の果樹や梅の栽培が盛んです。朝ドレファ~ミ♪成田店は大型駐車場を完備しているので車でご来場いただくことが多いです。出荷は、JAかながわ西湘に登録する農家に行ってもらっており、定休日を除いて毎日出荷と引取をしてもらっています。だから、新鮮で安心な野菜などが並んでいるんです」

説明の後は、早速お店の中を見せてもらうことに。すでに多くの来店者で賑わいを見せており、農家自らが手掛ける商品ポップも購買意欲を誘います。見学しながら農産物を購入する参加者の姿もありました。

結婚を機に就農 やりたいと思ったことを形にするため加工品にチャレンジ
バスが次に向かったのは、「あきさわ園」の秋澤恵里さんのほ場・加工場です。秋澤さんは、みかんを中心に栽培しており、キウイやブルーベリー、デコポン、湘南ゴールドなども取り扱っています。
秋澤さんは今から19年前に結婚、出産をしたのをきっかけに就農しました。嫁ぎ先は江戸時代から続くとされるみかん農家。生果生産だけなく加工品製造にも力を入れており、江戸時代に建てられた土壁の保管所で果実の熟成を待ち、最適な状態から絞りだされた果汁100%のジュースは、今や人気商品。東京・丸の内の高級レストランにも販路を広げています。

ジュースの加工場も見学させてもらうと、扉をくぐった瞬間から柑橘類の香りが鼻をくすぐります。参加者からは、「将来、加工まで手掛けたいが許認可を取るためにはどうしたらいいのか」など具体的な質問が出ましたが、秋澤さんは「地域の保健所によって対応が異なるので、分からないことがあったらすぐに相談するといいですね」と穏やかに回答していました。
直売所も敷地内に併設しており、この日も搾りたてのジュースが並んでいました。農家を目指す女性たちにとって、目標の一つである加工品製造を形にした秋澤さんに、その原動力は何だったのか質問すると、「やりたいと思ったことをやってきただけなんですよね。確かに苦労はいろいろあったけれども、やりたいを我慢しているといつまでたってもできないんです。思い立ったらすぐ、思ったようにやった方がいい」とエールを送っていました。

夫婦二人三脚で新規就農
バスツアーの締めくくりは、ニンジンやナスの露地栽培を行う翠の丘農園の石橋有紀枝さんのほ場です。石橋さんは、夫婦で農家を目指し、神奈川県三浦市で2年間修行した後、2011年にこの地・中井町で新規就農しました。石橋さんは、「親の跡継ぎとかではなく、新規参入だったため、土地探しが非常に大変でした。様々な縁の巡り合わせで偶然にもこの場所と出会うことができましたが、特に水道を引いてくるのが大変でした」と振り返ります。
参加者から「販路はどのように開拓してきましたか」と質問を受けると、「たとえば出荷先のひとつにスーパーがあります。スーパーの地場産コーナーに出荷できないか、直接交渉を持ち掛けて、出荷のルールや手数料など一つ一つ確認していきました」と地道な努力を感じさせます。

ほ場では、今年初めて栽培を行ったという「プチヴェール」に注目が集まりました。プチヴェールは、芽キャベツとケールの交配から生まれた品種で、フランス語で「小さな緑」という意味を持ちます。クセの少ない味わいで、加熱するとほんのり甘く、バラを思わせる見た目がテーブルに華やかさを添えます。石橋さんは戦略的に栽培しており、「一般的な野菜と比べると、たしかに販売数は少なくなりますが、あえてマイナーな野菜を栽培することで、物珍しさで新たな顧客を広げることができると考えています。それに、いろいろなことに挑戦するのは楽しいですよ」と微笑みながら理由を語っていました。
土づくりからこだわり抜いて栽培しているニンジンは、提携先の工場に納品し、ジュースにして販売も行っています。今では中井町のふるさと納税返礼品にも選ばれています。

100%ニンジンジュースを見せてもらうと、俄然、賑わいを見せる参加者たち。石橋さんは「新規参入で就農した場合、収穫した農作物を洗うための機材も自分で購入する必要があります。決して安くはない買い物をすることもありますので、自分の農業規模に合った経営をするのは難しいですが、楽しさもあります」と話していました。

バスツアーを終えて
ほ場見学から加工品製造、販売先までを1日で周った今回のツアー。参加者たちは数多くの知見を得ることができました。参加者からは「様々な視点から農業について知ることができ、勉強になった」「就農に向けての準備や考えなければならないことを学べて、有意義な体験でした」といった声がありました。