ホーム > 産業・働く > 労働・雇用 > ワークライフバランス・メンタルヘルス > かながわ働き方改革ポータルサイト > デジタルエコノミーの進展と仕事・働き方の変革(第2回)

更新日:2023年12月8日

ここから本文です。

デジタルエコノミーの進展と仕事・働き方の変革(第2回)

働き方改革,デジタルエコノミー,AI,RPA,労使

 今後、日本ではAI等(AI、IoT、ビッグデータ、ロボット等)の新たな技術に代表される第四次産業革命が進展し、仕事・働き方の変革が避けられないだけでなく、人口減少の加速と「人生100年時代」における職業生涯の長期化によって、一つの組織で同じ仕事を続ける労働者の比重は低下することが見込まれる。こうした中、労働市場の機能を高めていくことが重要な政策課題となる。
 こうした認識のもと、昨年6月27日に厚生労働省の労働政策審議会労働政策基本部会は、技術革新(AI等)の動向と労働への影響について、中長期的な労働政策上の課題を整理した報告書「働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために」を発表した。
 4月に開かれたこの部会の会合で、私も参画した当機構の「AI等の技術革新が雇用・労働に与える影響に関するヒアリング調査」の結果を報告した。調査対象はすでにAI等の技術革新を進めている企業で、導入に伴って、「職務の再編・配置転換」「人材開発のあり方・見直し」「労働組合に対する説明・事前協議」などが行われているかを直接、聴取することだった。結論からいうと、ヒアリングに応じていただいた約10社では技術革新の進展によって、雇用・労働に大きな影響が生じたという事例はいまのところ見当たらなかった。

着実に進むRPAを活用した仕事の省力・効率化

 とはいえ、ヒアリング調査では、RPA(ソフトウェアロボットによる自動処理)による事務作業の省力・効率化は着実に進展する気配をみせていた。
 通常、雇用・労働をめぐるヒアリング調査の対象は、人事・労務部門だが、今回の調査では、ほとんどが経営企画部門だった。新たな技術革新は、企業の経営戦略のなかに位置付けられる。その手始めとして、業務に精通した少数の専門スタッフがその任務を担い、RPA等に移管できそうなルーティン業務を切り出す。そして、ブラックボックスになっていた業務を可視化し、自動処理に向けた実証実験を重ねつつ、システムに新たな機能を組み込んでいく。この「実装」の段階になってから、人事案件である新たな技能の習得や配置転換が発生してくる。こうした経路を見越すケースが大半を占めた。

働き方改革の推進に活用――労組は労使協議を求める

 職場ではAI等の普及によって、仕事が奪われるのではないかとの懸念は当然生じてくる。調査の中でも、企業から社員の不安が紹介された。しかし、調査の中で、業務を奪われ、雇用問題が生じたケースはみられなかった。その背景は、働き方改革の推進がある。RPA等の導入により、定型業務が省力化・効率化されることで、残業の抑制や年休の取得促進につなげているケースや、長時間労働の背景にある人手不足をRPA等によって軽減し、付加価値を高めようとする動きもみられた。
 こうしたなか、労働組合の先駆的な動きとして、2019年春闘で産業別組織のUAゼンセンが、デジタル技術革新への対応として、「AI三原則」を策定した。デジタル技術革新に労使で取り組むため、生産性三原則(雇用の維持・拡大、労使の協力と協議、成果の公正な配分)の再確認を求めた。

必要な中長期ビジョンと政労使間の対話

 こうしたヒアリング調査や部会での議論を踏まえて、まとめられた厚労省の報告書には、今後対応すべき課題として、プライバシーの保護、企業の責任と倫理、労働移動の支援、政労使コミュニケーションなどをあげる。
 AI等の発展が中長期的には、働き方や雇用に大きな影響を与えることが想定される中、良質な雇用機会の確保が重要になる。しかし、こうした課題は個別の企業の内部だけでは対応しきれるものではなく、業種・産業・地域ごと、あるいは社会全体で、変化が差し迫る前にビジョンを固めていくことが必要となる。このため、報告書は、時代の変化を見据えて、業種・産業レベル、地域レベル、全国レベルで政労使間の対話を継続的に行い、中長期的な視点から対応を検討していくべきだと提起している。

(執筆:独立行政法人労働政策研究・研修機構 リサーチフェロー 荻野 登 氏)

このページの所管所属は産業労働局 労働部雇用労政課です。