ホーム > 産業・働く > 労働・雇用 > ワークライフバランス・メンタルヘルス > かながわ働き方改革ポータルサイト > 在宅勤務導入の失敗&成功例から学ぶ中小企業のテレワーク導入のポイント
更新日:2025年1月27日
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「子育て中の女性社員のために在宅勤務を導入したのに、結局辞めてしまった。」
ある中小企業の社長が、残念そうに言いました。
その女性はとても仕事ができ、重要な仕事を担当していました。数年勤めた後、結婚・出産・育児休業を経て、職場に復帰。フルタイム勤務と子育ての両立は大変だろうと、短時間勤務になりました。毎日、夕方の4時には退社するので、子どものお迎えと夕飯の支度ができます。
ただし、働く時間が減るので、お給料は4分の3になります。しかしそれ以上に、悩ましいことがありました。仕事熱心な彼女にとっては、短時間勤務になったことで、以前のような責任ある仕事ができなくなりました。また、早く帰ることで周りの人に迷惑をかけてしまうことが、気持ち的につらくなっていったのです。
そしてとうとう、「中途半端に仕事をするより、子育てに専念したほうがいいかもしれない」と退職を考え始めました。相談を受けた社長は、その社員に仕事を続けてほしい一心で、彼女のために、テレワーク制度を導入することにしました。
社長からの「〇〇さんのために在宅勤務制度を」という号令のもと、人事担当の男性が、いろいろ調べながら、数週間で作ったテレワーク制度は、以下の通りでした。
・子育て中の女性が対象
・テレワークの形態は、在宅勤務のみ
・利用限度は、週1日
・自宅で可能な仕事を事前に申請
・仕事を始めるときと終わるときに、上司にメール
女性社員は、ルールに従い、在宅勤務を始めました。確かに、自宅で仕事ができると、往復の通勤時間、2時間はまるごと、保育園の送迎や家事に使うことができます。体力的にも助かります。でも、しばらくすると課題が見えてきました。
「家でできる仕事が少なく、出社日の仕事が増える」
「自宅でずっと仕事をしていると孤独になる」
自分のために導入してもらった「テレワーク制度」ですが、悩んだ結果、彼女は退職の道を選んでしまったのです。
社長は、「わが社に、テレワーク導入は、無理だった」と、結論づけてしまいました。
社長がテレワークを導入しようとしたことは、決して間違ってはいません。
テレワーク、中でも「在宅勤務」は、人材確保という視点から、中小企業にとって、大きなメリットをもたらします。では、何に問題があったのでしょうか。
まず、「彼女のために」とした時点で、人事担当者や他の社員は、「自分事ではない」と思い、できるだけ手間をかけず、無難な制度を導入しようと考えたのではないでしょうか。テレワークは、特別休暇などの「休む」制度ではなく、「働く」ための制度です。制度の内容を決めるだけではなく、仕事の見直しから始めなくてはいけません。決して簡単ではないのです。
しかし、人材が少ない中小企業では、専任者を置いたり、プロジェクトチームを組むことは難しいです。では、どうすればいいのでしょうか。ポイントは、以下です。
「〇〇さんが働き続けるようにするため」ではなく、「会社がこれからの時代を生き抜き、社員のみなさんと一緒に長く働きたいから」であることを、トップがしっかりと語ることが重要です。
「責任ある仕事ができない」「周りに迷惑をかけたくない」「給料の減額がつらい」といった、本人の課題をどうすれば解決できるか。たとえば、短時間勤務と在宅勤務を組み合わせたらどうか。共に考え、トライアルを繰り返すことができれば、彼女は辞めずに済んだかもしれません。
中小企業では、まだまだペーパーレスが進んでいるところが少ないです。パソコンでできる仕事を探すのではなく、今の仕事のやり方をどう変えれば、何をデジタル化すれば、どんなツールを使えば、離れていても仕事ができるようになるか。社員全員が、現場で意見やアイデアを出し合うことから始めましょう。
よく似たケースでテレワークを導入したある中小企業では、以下のような形で、子育て中の女性社員が仕事を続けることに挑戦しました。
毎日、会社に出社し早く帰宅しつつ、朝と夜に自宅で、2時間、パソコンを使って定期業務をします。時間管理のICTツールを使って、過剰労働にならないようしっかり管理します。
毎日のことなので、周りの人も仕事のルーチンができ、終業時間までに連絡をしておくと、翌日彼女からの返事が届き、仕事がスムーズに流れるようになったそうです。
また、自宅でできるよう、紙だった書類を少しずつデジタル化したことで、他の業務も効率的に進められるようになりました。
引き続き、業務の改善やデジタル化を続ければ、いずれ週に何日かは終日在宅勤務も可能になるかもしれません。もちろん、他の社員も、親の介護や、怪我などのときに、利用できるようになります。
中小企業は、大きな所帯ではないぶん、大企業よりも、融通がききます。最初から無理をするのではなく、将来、社員全員がどう働きたいかというゴールを全員で目指しつつ、「今、必要としている社員から」「まずできることから」、進めましょう。
(執筆:株式会社テレワークマネジメント 代表取締役 田澤 由利 氏)
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