人材確保に向けた働き方改革の推進(第1回)

掲載日:2019年12月25日

厳しさを増す人材確保

 昨今人事に関しては、「有給休暇取得義務化」「HRtech」などが話題となることが多いが、なかでも群を抜いているのは「人材不足」であろう。中小企業を中心に人材確保が難しい状態が続いている。
 一口に人材不足というが、それはいくつかのタイプに分けることができる。まず、そもそも従業員の採用ができないというタイプである。次に採用はできるが退職してしまう従業員が多いというタイプである。最後に、従業員の採用もできるし、退職もしないが、従業員の仕事に必要な能力・スキルが不足している、もしくは仕事に必要な能力・スキルを持っている従業員が限られているタイプである。当然ながらタイプによって、取るべき対策は異なるが、働き方改革は人材不足のいずれのタイプに対しても、部分的かもしれないが、課題を解決しうる。

様々な人材不足のタイプに対する働き方改革からの提案

 「従業員が採用できない」というタイプの人材不足に対する働き方改革からの中核的な提案は、「長時間労働の削減や働き方の多様化を通じて、今まで活用してこなかったタイプの人材を採用しよう」というものだ。「必要な時にいつでも働ける従業員」を採用したいという企業に対して、「時間等なんらかの制約がある従業員も積極的に採用しよう」と伝える、すなわち企業に対して求める従業員像の拡大をせまる。
 「従業員は採用できるが退職してしまう」というタイプの人材不足に対して、働き方改革は最もダイレクトな解決策を提示する。従業員の退職理由に関する調査の多くでは、「労働時間、休日等の労働条件の悪さ」が退職理由の上位に来る。長時間労働や休暇取得の難しさはそれ自体が従業員の心身の健康に悪影響を与えると同時に、職場の恒常的な忙しさが職場の人間関係を悪化させることを通じて、従業員の退職をもたらす。長時間労働の削減や有給休暇の取得促進は、従業員の主要な退職理由の削減に直接アプローチするものである。
 「従業員は採用でき、退職もしないが、仕事に必要なスキル・能力が不足している(もしくは不足した従業員が多い)」というタイプの人材不足に対して、働き方改革は解決策というよりも、「労働時間の短縮で能力開発が難しくなる」という新たな課題を生み出すと捉えられることが多い。この点は確かに大きな課題だ。
 しかしながら、この主張で見逃されがちな大きな問題は、現時点で従業員の中に十分に能力開発をされてこなかったために仕事に必要なスキル・能力を獲得できずにいる人たちが存在することだ。もちろんそれなりの理由があってのことだろうが、長時間労働の削減や有給休暇の取得促進といった働き方改革をきっかけとして、今までの仕事配分や能力開発を見直し、能力向上につながる仕事の再配分をすることができるのではないだろうか。
 個々の従業員でとらえた場合、働き方改革は確かに労働時間を短縮することで育成を難しくするが、従業員をマスでとらえた場合、働き方改革は、今まで以上に能力開発が可能な一群への仕事の配分の見直しや能力開発を通じて、従業員全体の底上げのきっかけとなる。

経営の観点からみた働き方改革の推進を

 働き方改革の難しさは、会社の仕組みや仕事の進め方を一切変えずに、単純に労働時間を短くし、有給休暇取得を長くしたら、職場は回らなくなることにある。「個々の従業員が心身ともに良い状態で、仕事上の目標を実現する」ことが、従業員に着目した際の働き方改革のゴールである。働き方改革のゴールを法律対応だけにしてしまうと「個々の従業員が心身ともに良い状態だが、仕事が回らない」になってしまう。一方で、長時間労働を放置すれば「従業員が心身共に疲弊しながら、仕事上の目標を実現する」となってしまう。「個々の従業員が心身ともに良い状態で、仕事上の目標を実現する」ためには、経営という観点からの働き方改革の推進が不可欠だ。経営層にいる方々にしかできない働き方改革を、是非推進していただければ幸いである。

(執筆:法政大学キャリアデザイン学部 教授 坂爪 洋美 氏)