不妊治療と仕事の両立の現状と必要性について

掲載日:2019年3月20日

決して他人ごとではない「不妊」

 5.5組に1組。何の数字だと思われますか?

 これは日本で何らかの不妊治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦の割合です(*1)。不妊は今や特別な人の課題ではなく、身近なものであるといえます。近年は男性不妊も少なくなく、不妊は今や男女を問わず深刻な問題となっています。

 不妊治療施設の増加に伴い、治療によって子どもを授かる人も増えています。日本では長年少子化が課題とされ、出生児減少が取りざたされる中、それに反して、体外受精などの高度な不妊治療により誕生した赤ちゃんは年々増え、2016年は年間54,110人(*2)を数えました。この年の出生児の約18人に1人にまで達しており(*3)、この比率は年々高くなっています。

両立できずに約2割が退職

 これだけ身近でありながら、不妊治療を受けていることを話したがらない人は多く、その大半は知られていません。特に職場においては同僚や上司などに知られることを嫌がり、ひっそりと治療を受ける人が多くいます。

 ここで生じるのが「不妊治療と仕事の両立」の課題です。2017年に実施したNPO法人Fineの調査「仕事と不妊治療の両立に関するアンケートPart2」では、働きながら不妊治療をしたことのある人の約96%が「両立は難しい」といい、そのうち約40%が「不妊治療のために働き方を変えた」と答えています。さらにその約50%が退職をしたという結果が出ました。つまり、仕事をしながら不妊治療をしている女性のうち、5人に1人が両立できずに退職したということになります。このアンケートの回答者は5,526名で、最も多かったのは35歳~39歳で約33%、次いで30歳~34歳が約29%。その次が40歳~44歳で約23%です。まさに働き盛りの女性が、不妊治療のために二者択一を迫られ、仕事をあきらめざるを得ない現状がここに浮き彫りになっています。

不妊治療が仕事と両立しづらい理由

 では、なぜ不妊治療と仕事が両立しづらいのでしょうか。

 その理由は治療の特殊性にあります。不妊治療は女性の生理周期に合わせて注射や投薬が行われるため、突発的な通院が必要で、先の予定が立てられないのです。前回同様の治療を行っていても、その時の体調により、ホルモン剤の効き目が変わってくるので、頻回な通院も必要になります。大切な会議や出張の予定も、入れたくとも入れられない状態が続きます。しかも、最も高度な治療を行ったとしても、妊娠・出産できる確率は12%程度にとどまり(*2)、いつ妊娠できるか(=通院が終わるか)予測がつかないのです。

 「周囲に迷惑をかけてしまう」「責任のある仕事を全うできない」と、周囲への心苦しさから、自ら退職を選ぶ女性もいれば、残念なことに、周囲や上司からのプレ・マタニティハラスメントを受けて、退職せざるを得なくなる人もいます(*4)。またその多くが「不妊治療のため」とは明かさないため、この現状が企業側に見えていないことも課題です。

「不妊退職」はどうしたら防げるか

 こうした「不妊退職」を防止するためには、何が必要なのでしょうか。

 前出のアンケートの結果、不妊治療をしている従業員が職場に求めるサポートで最も多かった声は、「(特に管理職への)不妊治療についての啓発・研修」、ついで「柔軟な有休制度」「休業や再雇用制度」でした。実際に不妊治療について何らかのサポート制度がある企業は、まだわずか6%程度にとどまっていますが、不妊治療休暇や休業制度を設けるなどして、両立しやすくする環境を整える企業も出てきました。また「不妊治療と仕事の両立」のために制度を設けた企業に対して助成金を出すという取り組みを始めた自治体もあります。このように少しずつですが、不妊治療と仕事の両立のための環境が変わり始めていることは、一当事者として大変ありがたく喜ばしいことだと思います。

 しかし「制度があっても使っていない」と答えた当事者が約40%いました。制度とともに、それを使いやすくする「風土」こそが必要なのだということでしょう。

 不妊治療と仕事の両立への取り組みは、まだ始まったばかりです。多くの方に当事者の現状をご理解いただき、仕事も妊活も諦めずにすむ社会環境が確立されることを願っています。


(*1)国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」(2015年6月)より
(*2)日本産科婦人科学会『日産婦誌』70巻9号より
(*3)「人口動態統計」(厚生労働省)より
(*4)「不妊白書2018」(NPO法人Fine発行)より

(執筆:NPO法人Fine 理事長 松本 亜樹子 氏)

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