更新日:2019年1月10日

ここから本文です。

テレワーク活用の場としてのサテライトオフィス

 現在、働き方改革が政府にも民間企業にも注目されています。少子高齢化に伴い、今後労働力人口が大幅に減少するためです。厚生労働省の雇用政策研究会は、2010年に比べ、2030年には労働力人口が950万人も減少すると予測しています。労働力人口の減少を緩和するためには、働き方を変えて、より多くの人材が労働市場に参加できることが必要です。
 働き方改革を実現するには、長時間労働の改善、正規社員と非正規社員の格差是正、多様な人材が活躍できる環境の整備など様々な手段があります。中でもテレワークは働き方改革の切り札といえます。
 テレワークとは、「情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」のことです。テレワークを場所で区分すると、在宅勤務(自営業の場合、在宅ワーク)、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務があります。これらの総称がテレワークです。在宅勤務は自宅で仕事をすることです。モバイルワークは、移動中の乗り物や客先、喫茶店、ホテルなどで仕事をすることです。サテライトオフィス勤務は本拠地のオフィスから離れたところに設置した部門共用オフィスで仕事をすることです。
 サテライトオフィスの日本での歴史は、1988年に開設された志木サテライトオフィスに始まります。富士ゼロックス、内田洋行、鹿島建設、リクルートなど民間企業が新しい働き方の実証実験の場として志木サテライトオフィスを設置しました。
 その後、1990年代に入ると、富士ゼロックスやNEC、NTTなど大手企業が自社専用のサテライトオフィスを首都圏郊外に展開しました。都心のオフィスコストが高騰したため、バックオフィスとして、オフィスコストの低い郊外に本社機能を分散し、職住近接で仕事できる環境を構築するためです。しかし、当時はネットの回線速度が遅かったり、ICT機器の性能が不十分であったりしたため、必ずしも使い勝手はよくありませんでした。また本社にも席があるダブルオフィスの社員も多かったため、オフィスコストがかえって高くなるという現象もありました。さらに、1990年代の終わりになると、ノートPCが普及しだして、モバイルワークが盛んになり、しだいに自社専用のサテライトオフィスは閉鎖されていきました。
 サテライトオフィスには専用型と共用型があります。専用型は自社や自社グループ専用で利用するサテライトオフィスです。営業活動中や出張の際に立ち寄って利用する、在宅勤務の代わりに自宅近くのサテライトオフィスで勤務する、などの働き方があります。自社の事業所の中に社内サテライトオフィスを設置する場合と既存の事業所とは別に設置する場合があります。
 共用型は、社内専用ではなく、複数の企業や個人事業主が共用するオフィスです。最近ではシェアオフィスまたはコワーキングスペースと呼ぶ場合もあります。当初は、フリーランスや起業家の利用が多かったのですが、最近は企業がこれらの施設と契約して、従業員に利用させることも増えつつあります。

 

図表1 支店内に設置した自社専用型サテライトオフィス

図表1

(出典:日本テレワーク協会「第18回テレワーク推進賞事例集」2018年2月)

 

図表2 共用型サテライトオフィス(コワーキングスペース)

図表2

(出典:日本テレワーク協会「第18回テレワーク推進賞事例集」2018年2月)

 

 近年、このサテライトオフィスが再び注目されています。起業してフリーランスで働く人が増えてきたこと、テレワークを導入する企業が増えてきて、企業の従業員も利用しやすくなったこと、などが要因です。また、本拠地のオフィスをフリーアドレスにする代わりに、コワーキングスペースなどの運営会社と契約して、共用型サテライトオフィスで仕事をすることを許容する企業も増えています。コスト削減効果もあり、従業員がすきま時間を有効活用したり、集中して業務を行ったりすることにより、生産性の向上が期待できるからです。
 国土交通省が2016年に実施した調査によると、共用型サテライトオフィス(テレワークセンターとも言います)は、全国で1904カ所あります。東京都に680カ所(36%)、政令指定都市に622カ所(33%)となっており、首都圏および大都市での立地が多いことがわかります。
 また、同調査では運営主体へのアンケートも実施しています。アンケート結果の事業開始時期を見てみると、全サンプル478件のうち、310件(65%)が2011年以降に設置されており、近年急速に共用型サテライトオフィスが増加傾向にあることがわかります。2016年は年度途中のため、実態はもっと多いと考えられます。

 

図表3 共用型サテライトオフィス(テレワークセンター)の事業開始時期

図表3

(出典:国土交通省「地域を元気にするテレワークセンター事例集」平成29年3月)


 共用型サテライトオフィスは、三井不動産のWorkStyling、東急電鉄のNewWork、ザイマックスのXYZ、外資系のWeWorkなど、多くのタイプのコワーキングスペースがあります。運営事業者の業種も多様であり、今後ますます共用型サテライトオフィスは増加すると考えられます。共用型サテライトオフィスの中には、起業家やフリーランスと企業とのコラボレーションを積極的に促すことを実施しているところもあります。共用型サテライトオフィスを拠点として、ベンチャー企業が創設されたり、新たなビジネスが創出されたりすることが期待できます。
 一方で、サテライトオフィスには、地域活性化を促進する面もあります。総務省が推進している「ふるさとテレワーク事業」では、全国に55カ所のサテライトオフィスが設置されました。首都圏から人が移住したり、地域で新たな就業機会を創出するための拠点として利用されたりしています。また、ダンクソフトのような首都圏のIT企業が地方のSEを地方のサテライトオフィス勤務という形態で雇用するという動きもあります。首都圏でのSEの採用が非常に困難になりつつあるからです。
 また、サテライトオフィスの新しい形態として、首都圏郊外の流山市にあるトリストがあります。トリストでは、子育て中の専業主婦にIT教育やビジネスマナーの教育を実施し、都心の中小企業に紹介しています。雇用された人は、都心ではなく、流山のトリストで勤務します。育児中の人は、子どもの送り迎えの時間を確保したり、子どもが熱を出した時にすぐに対応ができたりすることが可能になります。都心の中小企業は人手不足の中、優秀な人材を確保できます。
 以上のように、サテライトオフィスには様々な効果を期待できます。今後サライトオフィスはますます増加し、働き方改革、テレワークの場として活用されると考えられます。

(執筆:一般社団法人日本テレワーク協会 客員研究員 今泉 千明 氏)

「かながわ働き方改革」ワーク・ライフ・バランスコラム一覧

このページに関するお問い合わせ先

このページの所管所属は産業労働局 労働部雇用労政課です。