更新日:2018年7月24日

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短時間勤務のキャリア形成と働き方 2

「短時間勤務者のマネジメントが難しい」といわれる理由

 前回は育児の短時間勤務制度の充実化と制度利用者の増加・長期化が女性従業員のキャリア開発に支障を来す可能性があること、その背景に「職場の働き方」と「職場のマネジメント」があることを指摘しました。そもそも能力は研修などによる修学以上に、日々の仕事をとおした、いわゆる「OJT(OntheJobTraining)」により開発されるところが大きいといえます。短時間勤務などをしながら継続就業する従業員にどのような仕事経験を与えるかがカギになります。では、短時間勤務者たちはどのような仕事をしているのでしょうか。
 前回も紹介した筆者が参加した電機連合傘下の企業や中央大学大学院ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクトの参加企業を対象としたヒアリング調査から、短時間勤務者の仕事はフルタイム勤務時に比べ「質的」に変化していることがわかっています。たとえば、フルタイム勤務時と短時間勤務時ともにプロジェクトリーダーをしていると言っても、両者にはプロジェクトの規模に差があります。この規模の違いは収益額にとどまらず、社内外の関係者との関わり方や責任とも相関します。大規模プロジェクトでは、顧客との交渉頻度、判断する際の準備量、緊急性への対応など知識の習得、交渉力、判断力を醸成する機会が多く存在しリーダーとしての経験を積む機会につながるといえます。一方、小さいプロジェクトでは従来の知見を活用し、社内調整で対応できることも少なくありません。これらは短時間勤務者の労働時間や突発性への対処困難性を考慮した上司の配慮であるといえます。また、短時間勤務者自身も精神的負荷がなく継続就業しやすい業務であるといえます。前述のヒアリング調査で某大企業の短時間勤務者の上司がこうした仕事を「ピュアな仕事」と称していました。短時間勤務者が長期間「ピュアな仕事」しか担当しない場合、管理職としての能力開発のみならず、専門性の深化も難しいといえます。
 筆者が法政大学の武石恵美子教授と共に2014年に育児短時間勤務制度を利用した部下の上司に行ったアンケート調査でも、短時間勤務によってフルタイム勤務時の担当業務に制約が生じることが明らかになっています。具体的には「社内の他部門との会議や打ち合わせ」(「フルタイム勤務時に行っていた」と、「短時間勤務によって制約が生じた」の差:31.7ポイント。以下同様)が最も多く、「顧客など社外関係者との会議や打ち合わせ」(差:19.6ポイント)、「社外関係者との調整や交渉を必要とする業務」(差:16.2ポイント)と続いています。さらに「配置転換をすべきであるし、その可能性はある」(差:34.3ポイント)と「配置転換をすべきであるが、現実には難しい」(差:34.9ポイント)がほぼ同程度ありました。新たな仕事をする機会もなく、さらに仕事内容も交渉力や判断力を醸成する機会から遠のくとなると短時間勤務者は「活躍」がなお難しくなるといえます。

短時間勤務者の活躍に向けて

 短時間勤務者とフルタイム勤務者をすべての面で同等にするのは難しいでしょう。しかし、キャリア形成についてはマネジメント者は働き方に関わらず同等に考えなければなりません。まずは短時間勤務者と今後のキャリアについて話し合うことが必要です。前述のヒアリング調査でも今後のキャリアを上司と短時間勤務者が話し合っているケースはありませんでした。フルタイム勤務者と同じペースでキャリア開発することは難しいですが、中長期的な展望とそれに向け何をしていくかを両者が共有することは重要です。
 次に、他部署や顧客との接点も適切に経験していくことが必要です。例えば、会議や顧客との打ち合わせも「担当の○○は短時間勤務なので13時00分からでいかがでしょうか?」と顧客に交渉することも必要です。前述のアンケート結果から会議の時間帯や長さが短時間勤務者の能力開発機会を喪失させている可能性が示唆されています。会議は「判断をする場」であり情報共有の場でありません。会議の目的を明確にし然るべき担当者が出席できる時間帯、長さで運営することが重要です。
 短時間勤務者も、前もってわかる案件にはパートナーと連携し、必要な会議や出張に応じていくことも必要です。また上司がその意義を伝えることも必要かもしれません。 
 前回も指摘したとおり、まずは恒常的な長時間労働を是正することが短時間勤務制度に頼りすぎない従業員を増やすことにつながります。同時に、マネジメント者、制度利用者はキャリア展望を共有しながらOJTをとおして能力開発をしていくことも「活躍」には不可欠なのです。

(執筆:学習院大学経済学部特別客員教授 松原 光代氏)

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