更新日:2018年7月24日

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新たな社会的リスク「ダブルケア」

女性の晩婚化と高齢出産の増加にともない、子育てと親の介護に同時に直面する「ダブルケア」の問題が表面化してきています。内閣府の平成27年(2015年)版少子化社会対策白書によると、日本人の平均初婚年齢は、1980年は夫27.8歳、妻25.2歳でしたが、2013年には夫30.9歳、妻が29.3歳で、ほぼ30年間で夫は3.1歳、妻は4.1歳、平均初婚年齢が上昇している、つまり、晩婚化が進んでいます。また、出生した時の母親の平均年齢は、1980年は第1子26.4歳、第2子28.7歳、第3子30.6歳であったのが、2013年においては、第1子30.4歳、第2子32.3歳、第3子33.4歳であり、上昇傾向が続いている、つまり、晩産化が進んでいることが分かります。

 「ダブルケア」という言葉は、横浜国立大学院准教授相馬直子氏及び英国ブリストル大学講師山下順子氏が名付けました。そもそもダブルケアとは突然現れた新しい現象ではなく、以前から子育てと介護の同時進行は女性を主な担い手として行われてきました。しかし、現在のダブルケアを取り巻く状況は、兄弟数の減少や近所付き合いの減少など、ダブルケアに直面している人を支える人々との関係性が変わってきていたり、2000年前後に介護支援・育児支援が相次いで制度化されたことにより、公的な支援サービスを利用しながら子育てや介護をするようになってきた点で以前とは異なり、「ダブルケア」という言葉で概念化されたことで、日本社会が抱える社会的リスクとして問題化されるようになってきました。

 私は相馬氏らが取り組むダブルケア調査研究に協力し、2012年から2014年、3回にわたって横浜市、静岡県、京都府、香川県、福岡県などで6歳未満の末子がいる女性を対象にアンケート調査を実施しました。この調査で集まった1,894人の回答によると、ダブルケアに「現在直面している」または「過去に経験がある」がそれぞれ約1割、「数年先に直面」が約2割で、計4割のダブルケア人口が見えてきました。「現在直面している」の平均年齢は41.13歳で団塊ジュニア世代にあたり、「現在直面している」の約4割が仕事に従事していることが分かりました。

 また、内閣府が今年4月に発表したダブルケア調査によると、ダブルケアの推計人口は約25万人で人口の割合的に見ると0.2%です。しかし先述のダブルケア調査研究では、日常生活のケアはできないけれども経済的にケアをしているケースや、電話で愚痴を聞くなどの精神的な支えも介護行為として捉えているのに対し、内閣府の調査は、日常生活の着替えやトイレ、食事の手助けと言った身体的ケアのみを介護行為としていますので、実際にはもっと多くの人がダブルケアを抱えていることが考えられます。

 内閣府の調査で興味深いのが、ダブルケアに直面する前に就業していた人のうち、ダブルケアに直面したことにより「業務量や労働時間を変えなくてすんだ」人は男性で約半数であるのに対し、女性では約3割に留まっているという点です。また、「業務量や労働時間を減らした」人は男性で約2割、女性で約4割、そのうち離職した人は男性で2.6%、女性で17.5%となっています。ダブルケアに直面した場合の就業への影響は女性の方がより大きくなることが分かります。

 家族主義的な規範が根強い日本では介護や育児は家庭内で主に女性によって担われてきたことから、現在、介護保険の導入や市場を活用した保育サービスの拡大がはかられ、介護や育児を「社会化」する動きが進行してはいるものの、母であり娘である女性にかかるダブルケアの精神的・体力的・時間的・家族的責任による負担はとても大きく、複合的な課題を抱えています。

(執筆:一般社団法人ダブルケアサポート 代表理事 東 恵子氏)

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