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更新日:2022年11月18日

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産業人材育成フォーラム「進めよう障がい者雇用!~障がい者の活躍がもたらす働きやすさ~」【終了しました】

産業人材育成フォーラムに関するお知らせです。

県内企業の障がい者雇用の理解促進のため、企業経営者や人事担当者等の皆様を対象に、基調講演、雇用事例発表、パネルディスカッションなどを行うフォーラムを開催しました。
今回は、企業が障がい者を雇用し、その能力を発揮するために配慮した職場環境を整えることが、障がい者を含む多様な人材の活躍や職場全体の働きやすさにもつながることをテーマとしました。

開催日時

  • 令和4年9月7日(水曜)13時から16時30分まで

開催方法

  • オンライン(YouTubeでのライブ配信・事前申込制)

内容

障害者雇用優良事業所等表彰式独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構神奈川支部主催)

知事あいさつ

「ともに生きる社会かながわ」の実現に向けた取組の紹介(神奈川県)

基調講演

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(はじめに)

・本日のテーマは「進めよう障がい者雇用!障がい者の活躍がもたらす働きやすさ」であるが、私の人事労務の仕事の経験や学びと、障がい者雇用に取り組む中での支援者の方、当事者の方、職場で担当されている方の経験や学びとが共通していると感じている。

・いつも私の資料の冒頭には、ヒューマン・リソーシズ・マネジメント(HRM)(人事労務管理)とダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)という言葉を入れている。大きい企業では、人事労務担当部署と「多様性」について所管する部署を設けるところもある。今の人事労務はダイバーシティ&インクルージョンと表裏一体だと実感するのが、障がい者雇用だと思う。

(自己紹介-弁護士の新しい仕事-)

・人事労務の役割は広がってきており、社員の心と体の健康問題が一般雇用の中でのトラブルの半分を占めている。

・社員は多様化している。障がい者だけではなくて、病気と仕事の両立支援という課題もある。病気になった社員の仕事の両立と、障がい者雇用は共通するところがある。

・企業が人との関係について取り組むべきことを支援するのが、私の役目であるが、新しい支援の形は、紛争処理から紛争予防へ進んできている。早い段階で外部に状況を見てもらい、一緒に解決を話し合い、「これから」の部分の行動を変えるという解決のしかたを、企業は取り組んでいかなければならないと思う。

・外部の専門職のどなたかに、ぜひ日常的につながって欲しい。まずは、自分の苦労を共有して、知恵をいただける支援者を見つけてつながるのが、障がい者雇用ではとても重要。

(会社と社員の関係がコロナ禍で変わった)

・コロナ禍で相当職場は変わったと思う。これまでは、家庭や私生活を職場に持ち込まないというのが不文律として社員が求められていた。ところが、コロナによって、人々は健康・生命への脅威を感じるようになり、テレワークになった職場では、雑談をする機会が無くなった。また、最近、若いひとり暮らし女性のメンタル不調が増えてる。今まで、職場でメンタル不調になった人と違うタイプの人が不調になる傾向が出ている。家族・私生活も仕事との境界線がなくなり、テレワーク、在宅勤務により「公私融合」となってきた。

・境遇が異なり、接触が減ると人間は自然と利己的、無関心になる。また、ウイルスへの感染の不安、そのことから来る緊張感やストレス等もある。

・コロナ禍での最大の危機は、孤立と分断である。これが、実は発達障がいの方たちが抱えている苦労と非常に似ているということを感じる。

・発達障がい者の方は特性として、社会性の欠如とかコミュニケーションの苦手さが言われるが、もうひとつ、自分自身をとらえきれないという困難を抱えている。この状況が、一般化しているように思う。

・家族や家庭を抱えて仕事をしている中で、職場はどうすれば個々の自立や結束ということが回復できるか。1つは、弱さを受容できる組織でなければならないと考える。それが、人間が弱さを自覚したゆえに家族や社会を必要とし、人間の強みだったはずだ。

・また、心理的安全が保たれる、本当の自分をさらけ出せる環境であるかどうかも重要。これこそが、ダイバーシティ&インクルージョンだと思う。集団にとって標準的なところから外れている人でも、その人らしく行動できるところ。これがインクルージョンである。インクルージョンがあって初めて、ダイバーシティは機能し、組織にイノベーションという成果をもたらす。

・これから我が国の労働者が減ってくるなかで、生産性を高めて生き残っていくためには、多様性を活かさなければならい。そのためには、ダイバーシティ経営と同時に健康経営が必要だと確信している。

・心と体がある生身の人間が働いており、働いている社員も社会の中で生きていて、休んだり寝たり食べたりしなければならない。障がい者雇用とは、ここまで全部に向き合うものだと考える。

・生活リズムを整えないと、精神、発達の方はなかなか働くことはできない。プライバシーは大切にしながらも、相談相手になったり、時には指導したり、支援者も活用したりしていただきたいと思う。

・めざすべき「働き方」として強調したいのは、「居場所」があること、「出番」があること、「没頭」できること、「発揮」できることである。「出番」がないと、居辛くなるので、「居場所」と「出番」はセットである。うまく「居場所」が得られて「出番」があるために、「没頭」できることと、「発揮」できることが重要である。「没頭」できるということは、制約に気をとられずに、目の前の仕事に向き合えるかということだ。この環境を作るのが健康経営である。自分のありのままを出してもいい状況をつくるのが、障がい者雇用をはじめとするダイバーシティ経営である。

(病気や障がいのある社員と共に働くことがすべての社員を自立させ、結束させる)

・女性、外国人をいくら増やしても、日本の職場は岩盤のように変わらない。なぜかというと、日本の職場に適応できる女性や外国人を選んで雇っているから。

・インクルージョンの決め手は、病気や障がいのある社員を受け入れるところである。障がい者の方に職場に入ってもらうと、無駄やリスクが見えるようになるし、業務をマニュアル化、ビジュアル化したり、仕事を構造化して整理することができる。そうすると、様々な業務面でのメリットがある。また、職場のコミュニケーションや情報共有が改善でき、自立と助け合いが促進される。

・障がい者を職場に迎え入れることで、全員が変わっていく。ただし、社長が承知した上で、担当者をバックアップして、支援していくという取り組みが必要。一部の職場がやっていればいいのではない。変わることは非常に難しいことであるので、すぐに結果は求めないようにして欲しい。同時に、企業にとっての強力な処方箋になるので、ぜひ会社ぐるみで取り組んでほしい。障がい者雇用は成功させるべくして取り組まなければならない。難しいことであるが、成功する方法はある。

(成功すべくして成功させる障がい者雇用)

・障がい者雇用には、特別な雇用管理があるわけではない。本来はどの社員に対しても必要なこと、あたりまえのことをあたりまえにやるということである。

・1人の労働者として認め、所属感を持てる環境とする。これが無いと、慣れる段階に進まないし、慣れなければ覚えられず、覚えて初めてできるようになる。また、一人でできるようになるには、最初は一緒にやる必要がある。しかし、このプロセスを経ることによって、周りの人たちのパフォーマンスが変わっていき、上司の教育指導能力が飛躍的に高まることになる。

・うまくやるためには、採用が重要であるが、これは良い人、楽な人を選ぶという意味ではない。まずは、自分の会社にあった人を探すのが重要である。それには、自社の社風やどんな社員が働きやすいか等会社としての自己理解が必要。その時に、就労移行支援事業所につながっていると、自分の会社に合いそうなひとを助言してもらえることもある。

・障がい者本人についても、自己理解をして、支援機関と信頼関係を作っているかを見極める。就労移行支援だけではなくて就労定着支援を受けると、働き始めてからも支援者に関与していただける。企業実習やトライアル雇用を活用することで、うまくいっているケースもある。

・職場側で大事なのは担当者をつけることである。発達障がいの特性として、色んな人に言われると混乱してしまうというものがある。また、その担当者を支援する別の担当者を付けるというのも大切。最終的には、職場の責任者がバックアップをして、相談相手になる、このような体制をつくるのが重要。

・不調の兆しをみつけたら、すぐに対処する。これを本人がまず気付けるか。

・同時に、働く周囲のみなさんも、それが気付けるかも重要になるが、これも仕組みを作っていくことがとても重要。ICTを活用するのも一つの手段。例えば、SPISというものもある。企業担当者と外部相談者が見守り、当事者とコメントをやりとりするものである。

・第三者に見守られているなかでの対話で、自分の気持ちを開示したり、相手に介入して行ったりということもできるようになる。障がい者、病気の人、トラブルメーカーも含めて困っている同僚と上司の間に入っていける人が、社内にも必ずおられる。経営者や人事はそういう目に見えない働きをする方をぜひ気を付けて見極めて、評価して、認めて欲しいと思う。それこそが、組織を守って成長させていくもの。障がい者雇用はそういったことにも気づかせてくれるものだと思う。

(「発達障がい」を知ることは、人間理解に必須)

・現在、障がい者雇用を進めようとすると、精神・発達の方が半分以上を占めていることから、精神・発達障がいの方を想定して話をしたが、精神障がいのうつとか、適応障がいとか様々な精神疾患ベースに発達障がいの特性があって、その苦労から精神疾患になっておられる方がかなりいる。最後に発達障がいの話をするのはそういう理由からである。

・発達障がいは、ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、LD(限局性学習障害)とあるが、便宜上分けたもので、重なっていることが多い。社会性がない、コミュニケーションがとれない、想像力がないなどというが、それは表面的なことで、本質は、感覚過敏にあると思う。

・発達障がいの方とうまく付き合うには、自分にもある発達障がいの特性に気付き、受け容れることである。「共感」などというが、人の気持ちななど、わからないもの。多少そういうことが上手にできるだけで、本当の相手の気持ちはわからないことが多い。

・発達障がいの人にとって、宇宙は一つしかない。発達障がいの方が苦労しているのはそこである。私たちも、逆に銀河が当然に様々あるという前提でいると、1つの宇宙しか見えていない方の見え方や苦しみは理解できない。もう一回その方の主観に入ったらどう見えるかという想像力をめぐらせると、例えば奇異な行動をする人に嫌悪感をもったり不信感を持ったりすることなく、伝達方法の模索の手がかりになったりする。

・私たちは、うまくできていると自分のなかのでこぼこを忘れてしまう。追い詰められたり、大事なものをないがしろされたりすると、自分の中のこだわりにとらわれることがある。発達障がいの方はそこで苦労している。客観的に自分を俯瞰してみることができるようになるためには、相手だけの問題でなくて、自分自身の問題に気付けるかということになる。

・障がい者の雇用をするときには、ご本人が精神科の主治医とどのような関係を築いているかにも関心を払って欲しい。

・発達障がい特性を具体的に把握することと同時に、現場で困っていることとのつながりを捉える。同時に、失敗を繰り返したためにご本人の心が前向きになれず、孤立感を深めていることに思いを馳せることができるかが大切である。

雇用事例発表

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・当社は2011年9月に設立され、2015年の初めより障がい者雇用に取り組み始めた。障がい者雇用を「キャラバン隊」という店舗商品陳列チームで行っているが、導入のきっかけとして、会社の成長スピードに法定雇用率が追い付かなかったことと、小売業ならではの人手不足の課題があったことがある。そこで、店舗数拡大に併せて障がい者雇用を拡大できる取組として、商品陳列を選定した。
・障がい者雇用を導入した一番の効果は、社内のノーマライゼーションが浸透したことだと思う。現在では、障がいがある方と一緒に働きたいという声が多数上がっている。また、人手不足という大きな課題の解消にも大きく貢献した。
・キャラバン隊は、1チーム約4人から7人で、毎日同じ2店舗を徒歩又は電車で移動するという形態をとり、店舗の従業員と協力しながら品出し作業を実施してる。
・当社の障がい者雇用では、採用から定着支援まで人事の担当者3名が全て対応している。人事が採用を行って、実際働く現場は店舗という企業もあるかと思うが、その形だと、店舗の従業員の意識が低かったり、店長の無理解等があって、中々うまく定着ができないという企業が多いとも聞く。当社では、そうしたことを避けるために、採用から定着まで、全て人事の3名が対応している。
・キャラバン隊の19チームのうち、8チームに同じ障がい者社員でチームリーダーとなっている方がいる。リーダーに、人事の担当者から、伝達事項を伝えそれをリーダーがチームメンバーにもれなく伝えている。また、リーダーがいないチームでも、必ずリーダーシップをとれる方がいるのでその方を中心に、人事から指示をするという形をとっている。
・基本の就業時間は、1日6時間からスタートしていて、間に30分の昼食休憩、午前と午後に10分間の小休憩をとっている。障がい者雇用を始めた当初は、午前と午後の10分休憩は元々なかったが、チームのみなさんと人事の担当が話し合った結果、午前と午後に10分、心と体を休める時間を設けることで、配慮している。
・仕事内容は、大きく分けて3つあり、毎日店に届く「商品の仕分け」、賞味期限を確認しながら新しいものを後ろに、古いものを前に出す「商品の品出し作業」、お客様が商品を手に取りやすいように商品のパッケージをお客様の方に向けていただく「商品の前陳」をお願いしている。
・当社の障がい者雇用の採用は主に就労支援移行事業所からで、一部、特別支援学校からも行っており、今年も5名の高卒の方が入社した。
・障がい者雇用を未経験の企業等に強くお勧めしているのが、実習制度である。当社では、まず、店舗の見学に来ていただいたあとに、5日間の体験実習により既存のメンバーと一緒に、当社の社風に合うかや業務がご本人に向いているか、チームで働くことに問題がないか等を確認する。体験実習が終わった後に、必ず人事担当からご本人にフィードバックをする時間を設け、その中で課題点が無く本人も希望した場合には、入社を前提とした雇用前実習に案内する。雇用前実習では、体験実習で伝えた課題を解決できているか、週5日を2週間という負荷の大きい中で体力や自己発信力の確認を行っている。雇用実習が終わった後も、必ず人事担当からご本人にフィードバックをするので、大きな課題がなければ、最後面接に案内している。
・当社には現在122名障がい者社員が在籍しているが、障がい種別は、知的障がい者が36%(44名)、精神障がい者が38%(46名)、発達障がい者が22%(27名)、身体障がい者が4%(5名)となっている。このように、種別に関係なく、人物本位での採用となっている。障がい者雇用の採用者と退職者の推移について、昨年2021年過去最高の30名の採用となり障がい者社員数が増える一方、退職者は増えていないところは、当社の誇れるところではないかと思う。
・実習制度を入れた2018年度以降の職場定着率は、知的の方は94.1%、発達の方は100%、精神の方は94.3%が1年後も変わらず勤務を継続している。2018年以降の入社数は108人いて、1年未満の退職者は3.7%に抑えております。特に勤怠が不安定とされがちな精神や発達の方でこれだけの高い数値を維持しているというのは、やはり、実習制度の大きな効果ではないかと思う。
・障がいに配慮した工夫としては、1つ目に「チームリーダーの配置と柔軟な支援体制の確立」である。何か思い悩んだとき、チームリーダー、3名の人事担当、ご本人の支援者の5通りの相談窓口を設置している。3名の人事の担当については、原則的に月曜日から日曜日まで9時から19時の間、いつでも電話連絡可としている。2つ目の「業務単位での作業依頼」は、作業を色分けしており、例えば8月10日水曜日のAさんのには『「白」のジュースやお酒売り場が担当』と指示をしている。3つ目の「作業手順書の活用」は、年間100名の体験実習を受け入れていく中で、主に知的障がいの方に写真と絵と図になったマニュアルがあると良いという話があり、今年の6月に完成させたもの。4つ目の「実習生用チェックシートの活用」は、実習生の作業状況をチェックする項目を記載しているシートで、身だしなみ・清潔感に関することや自己の体調管理等様々な項目がある。体験実習の受入れでは教育は人事ではなくチームリーダーが行っているので、実習生に対しチームリーダーがこのチェックシートでフィードバックを行っている。
・入社後は週4日、1日6時間からの勤務をスタートし、慣れてきて課題点もない場合週5日、毎日30分ずつの延長をする。最終的にはキャラバン隊のリーダーを目指していただく。また、チームリーダーになった後も、新しいチームでのリーダーを目指していただくことで、モチベーションにつなげられたと考えている。また、定着面談も実施しており、会社から作業拡大依頼をする際は、必ず本人の意思を確認している。
・まいばすけっとはコンビニサイズの小さいスーパーマーケットであり、店舗では健常者社員が障がい者社員7、8名と一緒の狭い空間で働くということになる。私たちから最低限配慮して欲しい点として伝えているのは、「障がい特性上コミュニケーションが苦手な方もいるという点」、「追い立てられるように仕事をすることは苦手であるという点」、「健常者に比べて、休憩がとても大切であるという点」である。店長が交代したタイミングで、これらは文面化して伝えている。店舗では、高校生から上は70代くらいの方まで働いており、初めて障がい者と接する方もいるので、この3点は最低限配慮して欲しいと伝えている。
・当社では、障がいのある方とともに7年間歩んで来た。障がい者雇用に取り組んでいなければ、就労移行支援事業所との関わりもなかったし、本日のようにフォーラムでお話をする機会もなかった。私は1年前から障がい者雇用に携わるようになって、今122名いる障がい者社員全員の、名前も顔も特性も全部頭に入れているつもりでおり、大変なことも沢山あるが、障がい者雇用という場で関わる機会があったのは良かったと思う。障がい者雇用にまだ取り組んでいない企業様に、この講演がお役に立てれば嬉しい。

 

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・当社は小田原市に本社を置き県内外に4つの営業所を持ち、工場、倉庫の清掃、緑地、環境管理を行っている。私の在籍するペストコントロール事業部は、クリーンエリア内の防虫管理を行っている。
・当社の障がい者雇用のきっかけであるが、障がい者雇用が進まない、どのように採用したらよいかもわからないということから始まった。まず、神奈川県主催の障がい者雇用のための「企業交流会 はじめの一歩」に参加したところ、近隣に所在する障害者支援センターぽけっと(以下「ぽけっと」という。)に出会った。
・ぽけっとに相談しながら、障がい者への配慮ができる受け入れ先を検討したところ、独立した事務所で少人数で作業を行っており、作業の内容も障がい者の方を迎え入れるのによいのではないかということから、当事業部が選ばれた。
・当事業部は、当時は私を含めて女性1名と男性2名の3名であった。業務内容は、現場に出向いて作業を行うものと、事務所内でパソコンを用いて行う作業というものがある。そこで、「データ整理などのパソコン作業ができる人」を探してみるのがよいという話になり、ぽけっとに紹介をしてもらうことになった。
・受入に際しては、ぽけっと担当者と就労希望者による事務所への訪問があり、現場の実習を行い、実際パソコンにも触ってもらった。
・本人からは、ぜひ働いてみたいと意思が示され、就労・雇用の取り決めを行ったうえで、チャレンジ期間ということで、お互いに様子を見る期間とした。期間中は、ぽけっとの担当の方が来所して、状況確認しフォローをしてくれた。
・入社した障がい社員は発達障がいで、幼少期に家族が特性に気付き病院で診断を受けており、自身の障がいについて理解をしたうえで、日常の生活を送っている。本人からは自己の特性として、1つのことに集中し過ぎていて、時間を忘れて没頭してしまうこと、コミュニケーションが苦手ということも伝えられた。
・障がい者を受け入れるにあたり、私の方から部署内の社員に「この部の中で障がい者社員を受け入れる考えである」旨伝え、担当してもらう業務について皆で話し合いながら、了解を得た。
・実際受け入れをしてみたところ、気遣いをし過ぎてしまうという問題が起こった。本人が嫌だと思ったら、ハラスメントになるのではないか、ということを意識してしまった。障がい者主導の日常になってしまい、丁寧に指導を行うことであらゆることに時間がかかってしまっていた。部署内の社員からも不満が出て、「障がい者を特別視しすぎて、その方に意識がいってしまってたのではないか。」と考えた。
・そこで、改めて検討したのは、障がい者社員にも慣れてもらうように工夫するということである。
・例えば、本人から申し出のあった、「集中すると時間を忘れてしまう」について、それまでは周りが気遣ってフォローしていたが、本人に自覚をもってもらうようにした。具体策として、昼休みの前に本人に自覚をもってタイマーをセットしてもらい、必ずその時間になったら手を止めてもらうことにした。今までは口頭で声をかけていたが、決まり事として休んでもらうことにした。
・また、コミュニケーションが苦手という点であるが、仕事の進み具合を確認しながら全員で声掛けを行い、朝礼で自身の今日の予定を発表してもらったり、自発的な発言はなくても本人は人の話に興味があるようなので、相槌をうつように促した。そして、皆で空間を共有しているということを意識してもらうようにした。
・声がけは、「なにがあったの?」とか「わからないところある?」など返事しやすい言葉を選ぶよう意識している。説明や指示は具体的に行っており、「適当に」「やっておいて」「あれ・それ・これ」等の言葉も使わないようにしている。また、空気を読むという抽象的なことは求めない、作業内容や行動を文字や絵にして指示する、「ありがとう」「よく気が付いたね」「助かった」感謝を声にするということも意識して行っている。報告会が終わった後には、「今月も無事に終えたね」といった声掛けも行った。
・これらの取組みは、実は全員で共有するとよい内容であるということも気づきの一つであった。おかげで日々の業務がスムーズに進み、私たちのコミュニケーションも更にとれるようになった。
・受け入れから、5年が経った現在の状況であるが、パソコンを使用したデータの作成、報告書の土台作成が一人で全部できるようになった。また、報告書やデータ管理の自発的な提案も行うようになり、事務所にかかってきた電話の応対を行っている。業務のファイリングも行い、新しく部署へ配置された者へのパソコン業務の指導も任せている。最近は、一週間ごとの持ち回りで朝礼の司会を行っている。責任を持ったことで、成長したと感じる。
・障がいのある方と一緒に働き、気が付いたことは、沢山あった。的確な「指示と声掛け」を行うことで、言わなくてもわかるはず、という勝手な思い込み、こういったものが今まで多くあったんだなということに気付かされた。日常にある「気を使って言わない」「言えない」こういったことは、障がいのある方にはわからないことが多い。お互いにもやもやしないように、ルールを決めたことで、毎日がスムーズに進んでいる。
・障がいのある方は成長する。皆様の職場にも素晴らしいご縁があることを願っている。

パネルディスカッション

パネリスト

コーディネーター

 

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(就労支援機関の活用について)
黒川氏)障がい者社員とともに働く健常者社員の障がい者雇用理解の程度が様々である上で、現場から寄せられる困り事について、支援機関が障がい者社員の話も聞く中で、一緒に解決策を考えていただいている。是非今後も継続してお願いしたい。
安方氏)障がい者社員を直接、障害者支援センターぽけっと(以下「ぽけっと」という。)に紹介してもらったが、当初聞いていた特性と受け入れた後の実感が違うことがあり、再度ぽけっとに確認した経験がある。
恩蔵氏)企業に100パーセント伝えたと認識していても、実は企業側が半分にも満たない受け止め方になっている現実もあると感じる。就労支援機関は発達障がい等の特性を熟知していることで、割愛してしまっている部分があるので、企業への伝え方をについて事前準備が必要であると思う。

(障がい者社員の個性や特性について)
小島氏)採用にあたりお互いを知るのは重要なことであるが、働き始めて初めてその方の特性の現れ方とか、個性の見え方が分かることもあるかと思うがいかがか。
黒川氏)当社では比較的長めの実習を実施しているが、それでも10日程度なので、本質的なコミュニケーションの得意不得意や相性は一緒に仕事をしていく中で確認をしている。その上で、ある行動が気になるとか、自身のやり方を貫き通してしまったりなどがあった場合には、就労支援機関に相談をしながら解決に向けて取り組んでいる。また、もし障がい者社員からなにか発信があった場合は、隙間時間を見つけて、必ず会いに行くようにしている。
小島氏)恐らく障がい者社員と信頼関係をしっかり作っているのだと思う。障がい者本人が自身の状況を気づかない中、不調になったりトラブルになることもあろうかと思う。そのあたり、どのように気を付けているのだろうか。
安方氏)私は、障がい者社員のすぐそばで仕事をしているが、いつもとは違うなと思うと、「喉が痛いの?」とか「調子悪い?」などと声を掛け、会話をしてその方の声を聞くようにしている。「大丈夫?」という言葉は使わないようにしている。
小島氏)障がい者本人が自分の状態を把握して伝えられる力が付くと良いが、どのようにすると本人がそれを発信出来たり、うまく引き出せたりするようになるだろうか。
恩蔵氏)今回の登壇企業は採用前に実習を行っているが、メリットがあると思う。障がい者本人も自分に合っている業務かという分析ができるということと、企業に関しては、面接以上にその方の能力やコミュニケーション能力も含めてある程度マッチングしているかどうかを評価できる。雇用後に顕著な特性や性格が出てくるというところは就労支援機関と連携をしながら、どう改善していくのかが一番ではないか。
小島氏)支援機関側は、障がい者本人から不満等も聞くのではないか。
恩蔵氏)傾聴等しながら、企業にフィードバックをしている。ただ、その企業からは「なぜこちらに言ってくれないのだ」と言われることもある。その様な時「思っていることを一緒に企業の相談の窓口の方に言ってみよう」と後押しすることもある。障がい者社員本人が、発信力の経験を積むことが一番ではないかなと思う。

(発達障がい者について)
小島氏)発達障がいの特性について「こだわりの強さ」という言い方があるが、個人によって違いが分ったり、最初の見立てと異なった経験があったら教えて欲しい。
黒川氏)商品の陳列の業務では、各々担当の区画の仕事をするのだが、冷蔵庫の担当であっても別のところがやりたくて、そちらに行ってしまう障がい者社員がいた。その社員には決まり事としてしっかり決めていくとか、決められたところをやりたいという気持ちにさせていくことで、今日はここが出来て明日はここというのを楽しみに仕事をしてもらえるようになった。特性だけでまとめて、この人はこうだからと終わらせることがないようにしている。
小島氏)発達障がいの方にとって、ルールにこだわったり、人がルールを破ることがよろしくないという気持ち、あるいは自分がルールをとても大切にするという傾向があるかと思うが、逆にそのルールを決めて自身がそれを守ることで、安定するということがあるのだろう思う。
恩蔵氏)発達障がいに関しては、「どういう障がいなのか」と問われたときに一言で答えることが難しい。色んな特性がある中で、やはりその当事者のことをどれだけ知るかが一番ではないかと思う。就労支援機関としても、全体的にその方を知り、企業にお伝えして、雇用になった段階で見立てをしてこういうトラブルが起こりえるので、その時はこういう風にしようという連携をしていくのが大切なのではないか。

(雇用主として就労支援機関に望むこと)
黒川氏)特性というより、その方がどういう方かという情報をいただきたい。そうすると、何かあったとき「こういう話があったので、このように対応しよう。」という用意ができる。
安方氏)障がい者社員の雇用後、ぽけっとの方のフォローアップの訪問があった。その時に、事務所でずっとその方の後ろに居られて、それが少々負担となったといことがあった。もちろん、フォローアップは大切であるが、随時相談に乗ってくれると分かっているので、ぽけっと側にフォローアップ自体はもっと頻度が低くてよい、とお話した。
恩蔵氏)就労支援機関として、良かれと思ってやっているところが、企業と認識のズレが出てきてしまうということもある。その辺りは企業としっかり意思疎通をしていかないと、当事者の方がうまく定着できないことがあると思う。
小島氏)必要があって、後ろで見ておられたと思うのだが、フォローアップを担当された職員はどういうところを見ておられたのだろうか。
恩蔵氏)想像であるが、職員としては本人の後ろに居るとある程度パフォーマンスが出せるという見立てをしていたと考える。そして、本人の集中力だとか、実際の作業の流れを遠目で見ながら、気になったところがあればポイント毎に声を掛けていくというスタンスを持っていたのではないかと思う。
小島氏)支援の仕方もその人なりの方法があるのだろうと思った。

(障がい者社員の受け入れの工夫について)
安方氏)障がい者社員を受け入れるにあたっては、部員全員で話をした上で準備をした。パソコンについては、すべての手順を書いたものを紙ベースにした。
小島氏)ぽけっとには、パソコンができる方の紹介を受けたかとおもうが、どこをマニュアル化したのか。
安方氏)パソコンも自分のものと人のものは違うので、スタートボタンの位置から始め、この仕事のときにはこのフォルダで何を当てはめるというところまで記載した。また、完成したマニュアルを渡した後、障がい者社員はそのマニュアルを作り直し、わかりやすいように更新している。
小島氏)ご自身にとってもマニュアルは自分の仕事をやりやすくするものとして、必要なのだろうと思った。
安方氏)現在は本人はマニュアルを見なくても仕事を進められるのだが、何か不安なところは古いマニュアルを確認したり、自分の作ったものを見直したりしている。

(指導側の社員に対するサポートについて)
小島氏)比較的頻繁に店長が変わられるということだが、店長をサポートしていくにあたりどのようなことに気を配っているのか。
黒川氏)例えば、障がい者社員が特定の店長がいるときには出勤ができにくくなってしまったり、逆に店長からなにか気になる点があったときは、人事担当に連絡をするよう依頼している。直接的な指導については、人事担当から支援員さんも含めて課題の部分を、明確にお伝えしていく。店長によって求めているレベルは様々違うのだが、そこを人事担当から直接伝えることで明確な基準も統一することができ、障がい者社員が取り組みやすい状態を作ろうとしている。
小島氏)要求の水準と本人の理解のギャップが大きいと、一般的にもパワハラをされたように感じてしまうものである。障がい者社員が省略したことが店長側としては困ることだった、ということが起きたりはするのか。
黒川氏)陳列作業のなかで、一番間違いが起きやすいのが在庫管理である。在庫管理で賞味期限の順番を間違えてしまったり、同じ箱に同じ種類のものをまとめていれることになっているが、「片づければいい」で終わってしまうことがあった。その時は、店長として片づけることができていればよしとするのか、種類別に賞味期限順にしっかりと分けて入れる必要があるのかを確認した上で、該当のチームのレベルにあった対応を取り解決した。このように困り事があったら、一つ一つ店長からの報告を受けつつ解決している。
恩蔵氏)就労支援機関も店長さんの交代があると、まず店長さんを知るというところから始まる。
小島氏)当事者だけではなく、雇う側をアセスメントして、併せて障がい者社員本人に伝えていくということですね。

(発達障がい者の理解について)
恩蔵氏)発達障がいの当事者は、我々と全く違う視点を持っていると認識しており、その方の風景はどのようなのだろうと毎日模索している。
小島氏)理解しがたい行動やどうしても言うことを聞いてくれずに困るときに、その人にはどんな風に世界が見えているのか実感として持ちたいと思うのだが、どうすればよいのだろうか。
恩蔵氏)当事者の成育歴からまず聞き取りをしたり、その方の文章をみて色んな想像をしてみる。1つの想像が違った場合には、2つ目を更に大きくしてみたり、色々な部分を交差しながら、その人の風景を想像している。その方を知ろうしながら、雇用につなげるということはまた非常に難しいと思う。やはり発達傾向が強い方、いわゆる個性が強い方に対してどのような雇用を定着したらいいのかになると、合理的配慮という部分がポイントであると考えている。色々な企業と関わる中で、企業として人材育成や教育が人事と現場がしっかり連動できているところは障がい者雇用もしっかりやっておられ、当事者が働きがいを持っていると感じる。

(合理的配慮について)
小島氏)合理的な配慮は法律の概念で、もともとアメリカで生まれたものであり「リーズナブル アコモデーション」と言うが、合理的配慮という日本語はわかりにくい。本来、合理的配慮というのは、負担が重い話では無いのだが、恐らく何を配慮したらいいかわからないのではと思う。自分が何に困っているかわからない人が多いが、それを一緒に見つけることで、本人もそれを見つける力が付いてきて、こちらも見つける力が付いてくるという、プロセスのような気がする。
黒川氏)合理的配慮は、雇用する側される側、お互いに歩み寄る部分としっかり線を引く部分とが必要であると思う。苦手なことに対して、働きやすくするための配慮が合理的配慮だと思うが、苦手な部分についても、会社側としてはここまではやって欲しいという部分もある。複数指示が苦手であっても、優先順位を付ければできるようになって欲しいというような話し合いを、就労支援機関や当事者としていきながら、その方の働きやすい状況と企業が求めているところをすり合わせをしていくことが、一番合理的配慮のなかで大事なことかと思う。
小島氏)元々本人が持っている力を発揮するのに、障壁となっているものを調節して仕事ができるようになるための配慮なので、やらなければならないことをやらなくてよいというものではない。ただ、仕事というものの中には、気を遣うとか、愛想を言うというところもある。どこまでが仕事なのか、本質をつきつめる機会になると思う。

(障がい者雇用に取り組み自身が得られたこと。今後期待していること)
小島氏)障がい者雇用をまさに担当しておられる、皆さんがご自身が得られたことは。
安方氏)最初は、軽い気持ちであったが、実際受け入れてみたら、その方のためにと実施したことが負担になったことも多かった。最終的には互いの合点がいくところまで寄せたのが、良かったのだと思う。現在、なにも問題がないわけではないが、障がい者社員が職場で一生懸命仕事をして、朝もいつもの時間に出勤することが日常になっていると思う。このフォーラムに登壇しているが、あまり障がい者の方の雇用という意識はない。障がい者社員自身の成長が楽しみである。
小島氏)特別に意識して取り組むという面も大事かもしれないが、お互いに特別に感じなくなる状態にまでなっているのが素晴らしいと思う。
黒川氏)私自身が少し不安に思う事柄を、障がい者社員は大きなこととして受け止めることが多いが、それ以外の部分は健常者と変わらないと捉えている。障がいという枠ではあるが、仕事を一緒にしている、というのを実感したことが障がい者雇用の担当として得たものである。
恩蔵氏)当事者の方の表情が生き生きしていて、やりがいを感じているなと思ったとき、一番わくわくする。障がい者社員が生き生きするためにどうやって取り組んでいくか、我々就労機関をうまく活用していただきたい。
小島氏)これからもぜひよろしくお願いしたい。障がい者雇用こそ我々自身が成長する機会になると思う。ぜひ、支援機関と連携して二人三脚でやっていただきたい。

主催等

【主催】神奈川県 神奈川労働局 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構神奈川支部

【共催】公益財団法人はまぎん産業文化振興財団

【後援】神奈川県障害者雇用推進連絡会 横浜市 横浜銀行 株式会社浜銀総合研究所

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