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初期公開日:2025年3月6日更新日:2025年3月6日

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子ども支援WEB講座(「地域の居場所づくり」をどうデザインするか?)

子ども支援WEB講座

「地域の居場所づくり」をどうデザインするか?~こどもの居場所づくりに関する指針を踏まえながら~

<筆者プロフィール>

加賀大資先生プロフィール写真

加賀 大資(かが だいすけ)氏

元こども家庭庁成育局成育環境課 居場所づくり専門官

認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ

公共政策領域 プロジェクトリーダー

 

令和5年4月1日にこども家庭庁が発足し、同年12月22日、「こどもの居場所づくりに関する指針」(以下、「指針」という。)が閣議決定されました。子どもの居場所づくりを所掌する省庁が設立されたのは初めてであり、国としてもこの取組を積極的に推進しようとしています。本稿では、この指針の内容を踏まえ、地域における居場所づくりをどのように進めていくべきか、その考え方を解説します。

子どもの居場所づくりの必要性

指針では、「居場所とは本人が決めるものであり、子どもが過ごす場所、時間、人との関係性全てが、こども・若者にとっての居場所になり得る」としています。一方で、居場所づくりは第三者が中心となって行うものであるため、「居場所と感じること」と「居場所づくり」には隔たりが生じ得ると指摘されています。この隔たりこそが、居場所づくりの難しさです。「あの子のために」と願い、懸命に居場所づくりを試みても、その子どもが全く利用しないという現実に直面することもあります。どうすればその子どもが利用し、その場を居場所だと感じるのかといった子どもの視点に立って居場所づくりを進めることが、この隔たりを埋める鍵となります。こうした試行錯誤は居場所づくりの一環であり、日々の工夫が不可欠です。

内閣府の調査(※1)によるとwebkoza-siryo_1、居場所の数が多いほど自己肯定感や将来への希望が高まる傾向があることが示されています。また、こども家庭庁の調査(※2)では、地域に居場所があると感じる子ども・若者は、生活満足度や幸福感が高いことが統計的に明らかになっています。これらのデータは、居場所の有無が子どもの健やかな成長に深く関わっていることを示しています。

 

 

 

 

 

しかし、現代社会において、子ど webkoza-siryo_2もが“自然に”居場所を見つけることは容易ではありません。かつては、駄菓子屋の前でお菓子を囲んで賑わう場や、自由に遊べる空き地、公園などが子どもたちの居場所となっていましたが、これらは急速に減少しています。例えば、駄菓子屋の数は約7割減少し(※3)、自由に遊べる空き地もほとんど姿を消しました(※4)。さらに、公園では遊び方に制限が設けられ、大きな声を出すだけで注意されることもあり、子どもたちが気軽に遊ぶことすら難しくなっています。一方で、不登校の増加や子どもの自殺者数は増え続けています。多くの子どもが長い時間を過ごし、居場所になり得るはずの学校を「居場所ではない」と感じ、社会の中での居場所を失っている現実があります。

こうした社会環境の変化により、かつて子どもたちが集い、居場所として機能していた場は消えつつあります。また、子どもたちの騒ぎ声を許容していた地域社会も縮小しています。地域において“自然に”居場所を見つけることが難しくなった現代だからこそ、第三者が“意図的に”居場所づくりを進めることが求められています。しかし一方で、この変化を日々の暮らしの中で実感し、地域で子どもの居場所づくりに取り組む人々が増えているという希望もあります。例えば、こども食堂の数は10,000箇所を超え(※5)、自主的な民間の活動が広がりを見せています。また、困窮世帯の子どもへの学習支援や居場所づくりなど、公的な支援を通じた取組も拡充しています。“意図的な”居場所づくりをより効果的に進めるためには、行政、NPO、企業、地域住民などが連携し、子どもが安心して過ごせる場を確保することが重要です。

地域という「面」で捉える居場所づくり

先に示したとおり、居場所とは本人が決めるものであり、それぞれが感じる居場所は異なります。この子にとっての居場所が、あの子にとっての居場所になるとは限りません。居場所は個人的なものであるため、子ども自身が地域の中で自分に合った居場所を選べることが重要です。「ここが合わなければ、あっちへ」といったように、選択肢があることで、子どもは自分にとって安心できる居場所を見つけやすくなります。そのためには、多様で多数の地域の居場所が必要です。

居場所づくりには、特定のニーズ(貧困、不登校など)を抱える子どもを対象とするターゲットアプローチと、利用制限を設けず誰でも利用できるユニバーサルアプローチの2つがあります。居場所づくりを進める際、特に居場所がない子どもに目を向けることは重要です。地域の中で「居場所がどこにもないと感じている子どもがどこにいるのか」という視点を持つことが求められます。

webkoza-siryo_3こうした視点が大切な一方で、先に示したデータのとおり、子どもにとって複数の居場所があることも重要です。昨日はあの居場所、今日はこの居場所といったように、その時々の状況に応じて使い分けることが望ましいのです。つまり、居場所がない子どもが地域の「どこかに」居場所を持てるようにすることと同時に、地域の「あちこちに」居場所があることも大切です。

特定の子どもに向けた支援と、地域のどの子どもでも利用できる居場所づくりの両方を進める必要があります。しかし、こうしたアプローチはどちらか一方に偏りがちです。だからこそ、居場所づくりを子どもの視点で捉え、「多様な場が存在し、子ども自身が選べること」を意識することが大切です。居場所を個々の「点」としてではなく、地域全体の「面」として捉え、包括的な視点での居場所づくりを進めることが求められます。

地域づくりにつながる居場所づくり

例えば、こども食堂の主な目的は、「こどもの食事提供」と「子どもの居場所づくり」であることが分かっています(※6)。地域の子どものためにと活動する方々が多くいますが、多くの運営者にとっても、活動を続けるうちにエネルギーをもらえる場となり、いつしか自身の居場所になっていることが少なくありません。

一方で、利用する子どもたちに目を向けると、みんなで楽しそうに食事をし、食べ終わると異年齢の子ども同士で元気に遊んでいます。子どもを連れてきた保護者は、こども食堂のスタッフや年上の子どもたちと遊ぶ我が子の様子を安心して見守りながら、近くの保護者と談笑を楽しんでいます。

では、この場は誰のための居場所づくりと言えるのでしょうか?

webkoza-siryo_4どの視点から見るかによって、「誰にとっての居場所であり、誰のための居場所づくりなのか」は異なります。例えば、こども食堂の運営スタッフの約4割が65歳以上の高齢者であることを考えると、高齢者の活動の場という視点からは、高齢者の居場所づくりになります。一方で、利用者の中で最も多い小学生に着目すれば、子どもの居場所づくりとなります。また、保護者に目を向ければ、子育て世代の居場所づくりとも言えるでしょう。

つまり、一つの場をどの角度から見るかによって、居場所づくりの目的や対象は変化します。これは、山をどの方向から眺めるかによって見え方が異なるのと同じです。このように、一つの場に多様な人々が交わり、関わることは、単なる居場所づくりにとどまらず、地域づくりの取組でもあります。子どもの居場所づくりを推進することが、結果的に「みんなの居場所づくり」につながり、地域を形作ることにもつながる。そうした居場所づくりの特徴を捉えながら、取組を進めることが求められます。

 

子どもの居場所づくりは、地域づくりそのものでもあります。「誰かのための居場所」をつくることが、結果的に「みんなの居場所」につながり、地域の活力を生み出します。本稿で述べたように、多様な視点を持ち、子どもたちが自由に選べる場を整えていくことが重要です。すでに地域で広がりつつある居場所づくりの取組をさらに推進するためには、担い手となる人々と、それを支える行政や企業などが連携することが不可欠です。

<参考文献等>

※1 「子供・若者白書」内閣府(2021年)

※2 「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」こども家庭庁(2023年)

※3 「駄菓子屋、20年で7割減 少子化で」日本経済新聞(2017年)https://www.nikkei.com/article/DGXLZO20163540Z10C17A8TJE000/

※4 「青少年育成に関する内閣府特命担当大臣と有識者との懇談」第1回仙田 満氏説明資料 内閣府(2007年)

※5 「こども食堂全国箇所数調査2024年度版」認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ

※6 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ「第2回こども食堂全国実態調査」 (2024年)

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