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更新日:2024年6月3日

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令和4年度政策研究フォーラム

令和4年度政策研究フォーラムの概要です。

令和4年度政策研究フォーラム「移住施策の推進による地域活性化~移住者がもたらす地域への変化~」結果概要

フォーラムのねらい

 当フォーラムは、移住施策や関係人口が、地域の社会や経済にどのような影響や効果をもたらし、地域が活性化していくのかを議論することを目的に開催した。有識者やパネリストからは、各地域の取組みをご紹介いただいたほか、一つの取組みがきっかけとなって新たな取組みが生まれ、地域活性化につながっていくのではないか、などの意見をいただいた。

フォーラムの動画

※ 動画の容量が大きいため、3件に分割しています。また、動画の一部について、権利の都合上
 モザイクを使用しております。

フォーラムの結果概要

1 調査報告「移住施策を通じた地域づくり」

神奈川県政策研究センター副主幹 大澤幸憲

発表資料(PDF:1,581KB)

(1)神奈川県の人口動態

 本県は人口減少局面に入ったと考えられ、また、総人口は今後も減少が予測されている。人口減少下では、経済活動や地域活動の担い手が減少し、地域の活力が失われる可能性があることから、地域活性化を図るために移住施策に注目する必要があると考える。

(2)移住先となる地域の特徴

 先行研究及びヒアリングからは、利便性が高い、他者への寛容性が高い等の条件を備え、かつ「自然」や「街の雰囲気」などの良さがある地域が、移住先として魅力のある地域と考えられる。

(3)移住がもたらすもの
 移住は、個人にとっては自己実現を、地域にとっては持続的発展をもたらすものと考えられる。移住による好循環を実現していると考えられる事例として、地域おこし協力隊を経た起業がみられる愛媛県今治市の大三島や、仕事を持った人や創り出す人を誘致している徳島県神山町の事例が挙げられる。

(4)地域の魅力を伝えるターゲット
 地域の魅力を伝えるターゲットとして、「テレワーク又は移住創業や継業により仕事をしたい人」、「良い環境で子育てをしたい人」、「アウトドアスポーツを楽しみたい人」という三つの移住者像を提示した。

(5)移住に結び付ける方法
 移住に結び付ける方法として、地域への関心や関与が弱い人が、交流の段階を経て移住へつながっていくとする「関わりの階段」の考え方を用いることを提案した。地域との関わりを深めて移住に結び付けるためには、コーディネーターの配置、オンラインでの情報発信、移住者の話を直接聞く機会の提供などの方法がある。

2 基調講演「❝マイクロ関係人口❞が拓くつながり・かかわり・ひろがりの地域づくり」

東海大学教養学部人間環境学科/大学院人間環境学研究科教授 岩本泰氏

発表資料(PDF:522KB)

 首都圏にある神奈川県で、地域活性化をしなければいけないのかと疑問を感じる方もいるかもしれないが、地域研究をしていくと、地域ごとの「まだら模様」の状況がみえてくる。県、市町村、さらに細かい地域など、どの単位でみるかによっても、地域は異なる側面を持っている。

(1)少子高齢化と東京一極集中について
 国全体で少子化、地方の過疎化の問題にスポットが当たり、予算も付いて、政策化を実行していく気運が高まっている。これからどのように地域を活性化していくかということになる。
 コロナ禍で、住環境が良いところを求めて移住する人が多く出ることが期待されたが、コロナが落ち着いてきたら、大都市圏の一極集中にもう一度戻るのではないかと危惧している。内閣府の調査によれば、若い世代を中心に、郊外への移住意識が下がっている傾向がある。地域での担い手が不足していて、様々な地域が、移住してくることを求めているというPRを続けていかなければならない。私はSDGsを研究しているが、「誰ひとり取り残さない神奈川県」であるために、どの地域に行っても、取り残される人が出ないようにすることが大事だ。
 県内をみると、辻堂駅周辺で再開発の進んだ藤沢市や、相鉄線が延伸して東京に出やすくなった海老名市では人口が集中している。それに対して、山、坂が多い横須賀市や、横浜市の郊外の区では、人口減少が表れている。先ほど「まだら模様」と言ったが、人口が極端に集中している地域と、そうでない地域との地域間格差が発生していることを危機感として共有したい。
 横浜市には、10年間限定の小学校がある。こうした期間限定の学校は、東京には結構あるようだ。この少子化の時代に、学校が足りない、ということも起きているのは東京と共通する部分ではないか。

(2)関係人口について
 関係人口は、簡単にいうと、地域との関わりを持つ人達が将来の移住者の候補になることを期待する概念である。総務省が作成したスライドによると、関係人口には、「地域内にルーツがある者」から極めて交流人口に近い「風の人(行き来する人)」まである。「関係人口」は、その地域にルーツがある人が、ライフステージの変化によって一度は出ていったが、「やはりふるさとがいい」と期待して戻ってきてもらうのが大事である。

(3)地域活性化の方策について
 本当に過疎化した地域では、移住候補者は100キロ圏内にいるとしているが、神奈川県の場合は50キロ圏内、もしかしたら30キロ圏内、もっと近い隣の行政区域に移住候補者がいるという特性があるのではないか。鉄道沿線に着目することで、どこに対してプロモーションをする必要があるかという方向性がみえてくるのではないか。
 今日の演題で「マイクロ関係人口」としたのは、物理的な距離の問題だけではなく、関わりの気軽さも含め、神奈川県の場合は、そうした日頃のつながりが関係人口の定義に当てはまるのではないかと考えたからだ。コロナで地域再発見が進んだことが好機になる。また、ライフスタイルが変化し始めており、副業が出来るようになると、日によって働く場所や住む場所を変えられるようになることも一つのきっかけにするとよい。

(4)持続可能な定住について
 「移住はスタートライン、ゴールは定住」である。「持続可能な定住」、これをどうしていくか。「うれしい、たのしい、おいしい、あんしん」ということが地域にあるかが、地域に人を惹きつけておく基本ではないか。これをいかに政策として実現していくかが一つのポイントになるのではないか。
 移住したのに、また外に出てしまうのはなぜか。地縁団体の長とも協働していかなくては、何か軋轢が生じてしまうのではないかと思う。
 この後、私のゼミの4年生の卒業研究である、シティプロモーション研究の実例を紹介する。地方は財源は十分ではないが、その中で職員が必死に取り組み、町の良いところを外にプロモーションすることにつなげている。
 まちづくりには、特に子ども、若者の参加の機会をもっと作ってほしい。小学校、中学校の「総合」、高校の「探究」の時間などで、「まちづくり」の学習をやりたい学校がたくさんある。知識を知るだけではなく、子どもたちの政策提案を聞いてほしい、評価してほしいというニーズがある。
 まとめると、あの地域は楽しいという口コミが広がって、「関係人口」が「関係人口」を呼ぶ。地域社会全体が包摂的であること、誰ひとり取り残さないこと、そして、住んでいる人こそ地域の財産であり、それをきっかけにして、つながり、かかわり、そしてひろがりのある持続可能なまちづくりにつなげていくという考え方が重要ではないか。

3 パネルディスカッション「移住者や関係人口として地域外の人を受け入れ、地域との関わりを深め、地域の活性化につなげるために求められること」

コーディネーター 東海大学教養学部人間環境学科/大学院人間環境学研究科教授 岩本泰氏

(1)パネリストによる自己紹介
<移住の当事者>一般社団法人真鶴未来塾まちこ代表 玉田麻里氏(真鶴町在住・2児の子育て真っ最中)

発表資料(PDF:690KB)) 

 真鶴町に移住してから、今年で6年目になる。生まれは大阪、兵庫県と新潟県で育ち、進学を機に埼玉に上京し、その後東京で暮らした。なかなかこれまで、地元と思えるまちに出会えていなかった。真鶴町との出会いは2012年で、高い建物がなくて、空が高くて、初めてなのに懐かしい感じ、というのが最初の印象だ。何度か通っているうちに、「自分にちょうどいい大きさの町」と感じた。二拠点居住などを経て、仕事を辞めて、2017年の夏に移住した。初めて「自分の地元」だと思える町だ。
 「一般社団法人真鶴未来塾まちこ」は、2015年に前代表理事によって立ち上げられた社団法人である。2021年4月に、真鶴町で子育てをしているメンバー6名で事業承継した。真鶴町の施設で、地域の人や子どもたちのたまり場、打合せ場所として利用されている「コミュニティ真鶴」を管理・運営している。他の活動内容は、地域の方や町内外の団体の方と一緒にワークショップなどを開催する「地域づくり」。居場所を作っているというよりは、たまり場になっているが、「子どものための地域の居場所づくり」である。2021年8月からは、真鶴町から空き家バンク事業の窓口業務を委託され、このメンバーでその仕事も行っている。

<関係案内人(地域づくりの担い手)> 築俊輔氏(東海大学教養学部人間環境学科4年生)

発表資料(PDF:1,005KB)

築氏が制作された松田町のシティプロモーションの動画は、次のリンク(外部ページ)からご覧いただけます。

日本再発見の旅、GSX-S1000GT行く神奈川、松田町(別ウィンドウで開きます)

 岩本研究室が属する「東海大学教養学部人間環境学科」は、最近よく話題になるSDGs、持続可能な開発目標を注視し、その実現を目指して研究する学科である。自然科学を主軸とする「自然環境課程」と、社会科学を主軸とする「社会環境課程」に分かれており、岩本研究室は前者に属するが、持続可能性は複合的な内容で構成されているため、当研究室は、実質、社会科学的な内容を研究している。当研究室では、持続可能な地域づくりと、エシカル消費の二つの研究を行っている。今年は、前者は神奈川県西部に位置する松田町への協力、後者はアパレル的な要素の研究目標としている。
 もう一つ、私の所属する「株式会社クシタニ」は、1950年代に日本で初めて1ピースの革つなぎを製造した、安全を重視したライディングギアの企画・製造・販売を行う企業であり、その革つなぎは、国内外多くの選手に愛用されてきた。国内では56店舗、神奈川県内では2店舗を展開している。クシタニでは、地域×バイク旅をコンセプトとした動画、「日本再発見の旅」をYouTubeで発信し、地域活性化にも取り組んでいる。ご興味があれば我々の事務所に連絡してほしい。

※ 次の資料は、フォーラム当日には時間の都合で発表することができませんでしたが、参考資料として公開いたします。

参考資料1(PDF:2,006KB)

参考資料2(PDF:3,654KB)

<行政>小田原市企画部企画政策課副課長 加藤岳史氏

発表資料(PDF:3,806KB)

 小田原市の移住施策は、先ほど話があった「関わりの階段」に沿って、関係人口や交流人口が移住、そして定住につながるという大きな流れの中で、移住において、認知から興味関心、比較検討、行動という各フェーズに様々なコンテンツを用意している。
 小田原市は多様な自然もあって、生きるチカラを与えてくれて、強くしてくれるまち、子どももよく育つまちということで、「小田原のチカラ」というロゴを作り、市全体としてブランディングを行っている。そのブランディングを具現化するために、「小田原ブック」という冊子を作り、写真を中心に、小田原市での暮らしの様子が伝わるようにしている。
 移住のPR戦略については、いろいろ議論した中で、小田原市の場合、東京との距離感が移住者にとって非常に重要な要素になっているということになった。我々も、小田原市に「移住」という言葉がなじまないと感じており、移住者の方からも、移住という感じではないという話がかなり出た。では、どのような言葉で表現しようかと考え、友達やよく行っていたお店、仕事なども含めて、今までの生活で大切にしてきたあなたの大切なものの圏内で移住してみませんか、という「圏内移住」をPR戦略としている。
 情報発信についていえば、リアルな場として、東京の有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」にブースを出している。一方、オンライン上で双方向のコミュニケーションを取れる、移住スカウトサービス「SMOUT」も活用している。プロモーションサイトの「オダワラボ」には、我々の移住促進の取組み、移住関係のコンテンツのほぼすべてが掲載されているので、ご覧いただきたい。いろいろな自治体でPR動画を作っているが、小田原市も全7話のショートムービーの移住PR動画を作成、公開している。また、移住セミナーを年3回程度開催している。移住相談も常時行っており、30代~50代の方や、東京、神奈川、千葉、埼玉に住んでいる方の割合が多い。市内のゲストハウスと連携したお試し移住の制度もあり、お試し後の利用満足度も高く、かなりの割合で移住につながっている。
 こうした取組みを支えていただいているのは、先輩移住者を中心とした移住サポーターで、セミナー等で体験談などを語っていただいている。リファラル移住制度は最近始めた制度で、市民の方が小田原の魅力を伝えて移住者を連れてきたら双方に商品券を差し上げる仕組みで、小田原市は移住者を歓迎しているという雰囲気を作り出したいと考えている。オンライングリーティングは、市と移住検討者と先輩移住者のオンライン上での三者面談で、直接話を聞きたいという移住検討者の思いをかたちにした。最後に、最近メルマガを始めた。双方向のSNSだとハードルが高いと感じる方が多く、メルマガで一方通行にすることで、ほどよい距離感を保って情報発信ができるようになっている。

<行政>神奈川県政策局自治振興部地域政策課地方創生グループリーダー 吉田政義

発表資料(PDF:846KB)

 まず、なぜ移住施策なのかについて。神奈川県は2年連続の人口減少となった。自然減が多くなってきて、社会増でカバーできなくなってきたため、人口減少が生じている。人口減少社会、来るべき超高齢社会で、経済の縮小などが生じてしまう。これらを克服するため、「人口減少に歯止めをかける」と「超高齢社会を乗り越える」という二つの課題を設定している。これらの課題の解決のため、三つのビジョンを展開しており、その内の「マグネット力の向上」で「移住・定住の促進」を掲げ、社会増を増やすことで、地域の活性化、将来にわたって活力ある地域を維持していきたいと考えている。
 移住・定住の促進に当たって、神奈川県の役割は、「都心の働く世代に向けた情報発信」と「市町村の課題解決の後押し」の二つと考えている。具体的には、「都心の働く世代に向けた情報発信」では、ウェブによる動画と、コロナ禍におけるテレワークの普及を受けて、テレワーク拠点と地域の魅力の発信をやっている。また、「ちょこっと田舎・かながわライフ支援センター」というところを設けて、小田原市のようなブースを単独で持てない市町村の移住相談等を行っている。「市町村の課題解決の後押し」として、専門家を各市町村に派遣している。
 来年度に向けて、「都心の働く世代に向けた情報発信」により、さらに関係人口を創出していきたいと考えている。「市町村の課題解決の後押し」では、移住だけではなく定着してもらう、定住の取組みについても、県として後押しできないかと考えている。
 神奈川県の役割は、地域格差がある状況を、より良い方向で、少しでも平準化していくことではないかと考える。

(2)ディスカッションテーマ1「移住者や関係人口が地域にもたらした変化」

玉田氏:真鶴町は神奈川県のほぼ西端にある町で、開成町に続いて、神奈川県で2番目に小さな町である。普段生活している中で、足りないからこそ工夫できる余地があり、選択肢が少ないからこそ、自由だと思うこともある。時間の流れがゆっくりで、一つ一つの物事の進みも時間がかかるが、その時間のかけ方が豊かだと感じることもある。

今、空き家バンクの業務以外に、真鶴町で実施している「みんなでつくる身近な公園」プロジェクトにも別の団体として参加している。これは、公民協働で真鶴町にある公園の利活用を図ろうというもので、真鶴町には公園が少なく、遊べる遊具も本当にないが、その何もない公園でいかに遊ぶかというプランを公募するプロジェクトだ。私たちとしては、「なかったら作ればいい」「あるものを生かせばいい」と思って活動している。地元の方にとっては、目の前にある、普段どおりの、当たり前にあったもので、価値がないと思っていたものに、移住してきた私たちが、価値や魅力があると伝え続けたり、それを使って活動することで、「この町にも魅力があるんだな」とか「これはこういう使い方が出来るんだな」とか、気づいてもらえるきっかけになれたらと期待している。実際にどのような変化が生じたかはまだ何ともいえないが、私たちが活動することで、少しずつ地域に変化が生じてほしいという思いで毎日活動している。

築氏:都内だと、特に縦のラインは電車がなかったり、混雑がひどかったりして移動が不便なことがあるが、神奈川は東名高速、国道246号線、国道1号線などの道路が充実していて、移動の面で優れていると感じた。そのため、多少離れていたとしても、関係人口を持ちやすい地域ではないか。

加藤氏:移住者の転入による地域の変化は、移住者の定義にもよるのではないかと思う。小田原市の場合、移住者を転入者として捉えると、毎年7,000人前後いて、人口19万人弱の中ではかなりの割合を占めるが、それが地域にどのくらいインパクトを与えているかは、正直なところ分かりづらい。転入者とイコールではない場合、移住者は数字としては把握しづらい。先ほどの調査報告の事例で出てきた瀬戸内海の島や四国の山間部の町のように、ある程度少ない人口に対して移住者が入ってくると、いろいろなインパクトはみえやすいが、一定規模以上のまちだと正直みえにくい。

とはいえ、移住サポーター、先輩移住者とのつながりがあるので、そうした方々が、地域でどのような活動をしているのかといった話や、お店をやっている、イベントを開催するというような話はよく聞く。一般的な転入者の方よりも、その地域を好きになり、小田原で暮らしたくて来ていただいている方は、地域におけるまちづくりや活動に対して積極的だという印象を持っている。

吉田氏:まさに「移住者が移住者を呼ぶ」ということがある。独自で「ふるさと回帰支援センター」にブースを設けていない市町村の職員と話をすると、先輩移住者と協働して移住者を呼び込む、という取組みが多い。人口規模が小さなところでは、移住者の占める割合、移住者の持っているパワーの割合が上がってくるのではないか。

二宮町では、「結婚したら二宮に住もう」というプロジェクトをやっていて、ウェブサイトで移住者の方を紹介している。ここまでだと、よくありそうな話だが、二宮町は、移住セミナーで新たに「農園をやりたい」というニーズを発見した。そこで、「二宮農園」として農業用の土地を用意して、農業を体験できるようにした。

移住者を呼び込むために、地域が変わるという事例もある。愛川町では、「準農家制度」があり、通常農地の借り受けには厳しい条件が付くが、この制度では条件を少し軽くして、移住した後に農地を借りたり、生きがいや趣味という理由でも農地を借りられる。「準農家制度」の目的の一つは耕作放棄地の解消だが、移住により人を呼び込むこともできるし、従来からの地域の課題、耕作放棄地の解決にもつながる。

また、国の制度で先ほど話題の出た「地域おこし協力隊」を導入した清川村は、非常にうまくいっており、稲葉さんというイタリア料理の修業をした方が、地域おこし協力隊として活動して、今は清川村で地元の食材を使ったイタリア料理店を開いている。松田さんという方もいて、清川村の「恵水(めぐみ)ポーク」の開発に携わっており、清川村で起業して、「恵水ポーク」の販路拡大をしている。

このように、移住者と地域がそれぞれ刺激し合うことで、活性化につながるという事例がある。

(3)ディスカッションテーマ2「移住者や関係人口の関わりを地域活性化につなげていく方法」

玉田氏:真鶴町に住んでいる人が、この町に住んでいることを幸せだと感じることが一番だ。そのために、空き家バンク事業を運営しているという部分もある。子どもでも大人でも、この町に関わったり、育ったりした人たちが、町への愛着、誇りをたくさん持ってほしい。例えば、一度は進学などを機に外に巣立った後も、関わりを再び持てるようにしていくことが、持続可能な地域につながっていくと思う。どの年代の人も、町に参加するきっかけを残していきたい。

例えば、真鶴町は、季節ごとにいろいろなお祭りがあり、それも町に戻ってくる一つのきっかけになるのではないか。コロナ禍でいくつかのお祭りはここ3年間開催していない状況が続き、このままだとお祭りがなくなってしまうのではないかと心配している。今までどおりのお祭りを残していくのではなくて、これからも残して伝えていくという視点で、これから町で暮らす私たちが受け継ぐことを考えていきたい。

それから、地域の自治会の活動を何とか残したい。自治会の活動も年配の方が中心になりがちなので、それを私たちが引き継ぐなら、どういうやり方で引き継げるのかを町の中で皆と話し合って考えないといけない。

司会(岩本氏):どのように残していけばいいか。自治会、町内会、PTAなどの各主体が、譲り合ってしまってなかなか決まらない、ということも地域問題になりかけているといわれている。

加藤氏:既に移住してきた人が移住を考えている人に声をかけて、そのつながりで移住してくる、移住をする前に友達ができる、お試し移住をして、泊まってまちの中を散策するだけではなく、偶発的な出会いを経て移住する、こういったかたちで移住者のコミュニティに自然に溶け込んでいくことが重要になってくる。移住者が移住者を呼ぶ流れは、今までもあるし、今後も持続可能なかたちでつながり続けていくために必要であると感じている。

ただ、その中で行政にできることは、あまり多くはないのではないかと思っている。先ほどのリファラル移住制度やオンライングリーティングの仕組みなど、移住を考えている方と既に移住された方をつなげるプラットフォームを作ることが、行政の役割の一つだと思う。行政が関わっていると一定程度の信頼感があり、そこにこれから移住しようという人や先輩移住者に入ってきていただき、つなげることが出来れば、あとは自然発生的に回っていくということをこれまでも経験しているし、これからも重要になると思っている。

司会(岩本氏):住民主体で様々なアイディアが出てきて、「こういうことをやりたい」という人がたくさんいることが地域の魅力として興味深い。
築氏:松田町はアクセス性に富んだ地域だが、町の奥の方には寄(やどりき)という、特に自然に富んでいる地域がある。ここのマス釣り場では、サクラマスを釣ってその場で焼いて食べることができるが、これが特に気にいっている。何かしら自分が好きになるもの、アピールポイントがあると、継続的に通うようになる。

司会(岩本氏):キャンプ、グランピング、サウナなどが今ブームになっているが、そういうことができる地域は魅力的に映るか。

築氏:とても魅力的な地域に映る。先ほど出てきたプラットフォームで、町のつながりで意見を集めることも可能になるのではないか。松田町は「SDGs未来都市」に認定されていて、こちらの活動の一つとして、町と住人と、町に来た人をつなげるプラットフォーム作りにこれから取り組んでいこうとしているため、こうしたものを応用すればキャンプなどにも活かせるのではないか。

吉田氏:移住者が移住者を呼ぶということは、肌感覚でもそうだし、間違いないと思う。ただ、本当に小さな市町村だと、移住者がいない。いたとしても、次の移住者を引っ張ってきてくれるような、活躍してくれる移住者がいない、という悩みを聞く。基本的には、行政がテコ入れしてうまくいくものではないと考えている。例えば、三浦市では移住学をやっていると他の市町村に言ったところで、同じようにうまくいくか、そうしたキャラクターを持つ移住者がいるかは別の問題だ。プラットフォームを作ることが行政の役割だと理解した。

現在、県では、ニーズのある市町村に、アドバイザーを派遣して後押しをしている。県としてできることは市町村の取組みの後押しだが、その中で面白いと思ったのが、松田町の事例だ。当初は空き家対策として移住相談所をやっていたが、その取組みが発展して、空き家を使って自分たちで地域活性化を図るために県のアドバイザー制度を使うようになった。一つ枠組みを作ると動き出していくことがある。そういう歯車を回すのが行政の役割だと考えた。県が主導でやる立場ではないので難しい部分もあるが、取組みを県内に広げて、地域の後押しをしていきたい。

加藤氏:先ほど、行政にできることはあまり多くはないと言ったが、移住に向けて、小田原市のことをよく知らない認知の段階から、興味関心をもって、比較検討して、実際に行動を起こして移住に近づいていくまでにはいろいろな段階があり、最初の方は行政の役割が大きいと感じる。先ほどのプロモーションサイトでも、例えば先輩移住者の体験談、様々な仕組みの紹介、オンライン相談の案内など、情報発信をするのは行政の役割が大きい。逆に、移住に近づけば近づくほど、行政職員が発する言葉よりも、先輩移住者の発する言葉の方が何倍も説得力がある。この段階になると、移住セミナーでも、行政職員はほぼ喋らず、先輩移住者の方に来てお話しいただくなど、その言葉を届ける場づくりが大事になる。

司会(岩本氏):プラットフォームを作れば人が集まるわけではなく、住民のモチベーションを上げることとセットでやらなければいけないが、小田原市はよくやっていると評価している。

加藤氏:移住者がいない自治体もあるという話があったが、把握できていないケースもあるのではないかと思う。移住者が移住者を呼ぶという流れでいくと、小田原市の先輩移住者、移住サポーターも、制度の中で、こういった移住者がいるという移住者の方の情報が集まってくる。バラエティに富んだ移住者の方がいるので、ご協力いただきながら、いろいろな方を紹介できる仕組みが整ってきている。こうした仕組みを一つ作ると、いろいろな情報が入ってきて、移住者同士もつながれるし、行政もつながれるので、良い方向にいくのではないか。

玉田氏:私は自分で情報を見つけて移住したが、移住するときに、真鶴町の子育て情報などはどこを探しても見つからず、子育てのコミュニティがあるのかも分からなかったので、町がそうした情報を発信したり、プラットフォームで一元化したりすれば、移住の参考になるのではないか。

吉田氏:加藤氏の話は、同じ行政職員としてかっこいいと思った。一度動き出せばうまく回るというのは、本当にそうなのだろうと思う。私も、例えば、担当者が1人しかいなくて、いろいろなことができない自治体を後押しするのが、広域行政である神奈川県の役割だと考えているので、小田原市のやり方も勉強しながら、工夫出来ればと思う。

4 視聴者参加型ディスカッション(質疑応答及びディスカッション)
  • 質問:ご自身の空き家探しで苦労した点はありますか。

玉田氏:空き家バンクの家探しについてお答えすると、真鶴町の空き家バンクは、まず、空き家の所有者の方に空き家を登録してもらうことから始める。真鶴町に空き家は600件近くあるが、空き家バンクに登録してもらうのが大変で、空き家があるのに登録されない。真鶴町に物件を探している方は140名近くいて、何とかして見つけたいが、なかなか見つからない、ということに日々苦労している。

司会(岩本氏):数日前の新聞に、逗子市は空き家バンクの制度をうまく活用して、逆に空き家の数が足りないと出ていた。とはいえ、知らない人に家を貸すことも含めて、地域の立場に立つとハードルがあることは、様々な調査で私も把握している。

移住者を受け入れる地域住民、移住希望者、行政などいろいろな立場があると思うが、移住や関係人口としての地域との関わりにおいて、困っていることは何か。例えば、今の空き家探しの問題も意外と移住のハードルになるのではないか。

加藤氏:今、我々の移住の取組みの中で一番課題となっているのが、物件である。都内への利便性を求めて小田原駅の周辺に住みたい方が多いが、なかなか物件がない。特に、ファミリー対象の賃貸物件はほぼない状態だ。小田原駅から徒歩20分の物件と、在来線で小田原駅から1駅先の駅から徒歩5分の物件を比べた場合、かかる時間は大差ない上に、その方が広い物件があることなどを案内して、できるだけ課題を解消しようとしている。小田原駅周辺の物件を増やしていくことは短期的に解決できる課題ではないので、移住セミナーや移住相談などで、郊外にも目を向けていただこうとしている。

司会(岩本氏):制度として、空き家を扱う、もう少し使いやすい、預けやすいプラットフォームも大事だ。

  • 質問:真鶴町(行政)と連携していることはありますか。

玉田氏:まさに空き家バンクは完全に行政と連携して行っている。基本的には、町の中で活動する中で、人間関係を広げ、つながりを作りながら空き家を登録してもらおうと動いているが、所有者が分からない物件の場合は、行政の協力で所有者を調べてもらうなど、一緒に活動している。

  • 質問:市内外の移住関連団体と連携していることはありますか。

加藤氏:市外の方に対しては、先ほどお話しした、「ふるさと回帰支援センター」のブースや、「SMOUT」という双方向のオンラインサイトなど、連携というかはともかく、各所で情報を出している。

市内には、そもそも、移住関連団体といわれるものがない。ただ、先ほどのゲストハウスと連携したお試し移住の話をさせていただいたが、移住関連団体ではないものの、ある意味そこが移住前後のコミュニティになっている。それぞれの先輩移住者の方と我々職員がつながって、移住セミナーに出ていただけないか、といったやり取りは常にしている。そうしたコミュニティや先輩移住者の方と常に連絡を取り合っており、そこはある意味連携しているといえると思う。

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