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初期公開日:2025年3月27日更新日:2025年3月27日

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令和6年度政策研究フォーラム テキスト版(ディスカッション)

令和6年度政策研究フォーラムの基調講演の内容をテキスト版で表示します。

ディスカッション

(1)単身高齢社会で安心して暮らしていくための取組について

八木橋氏:本日のディスカッションは、「単身高齢社会で安心して暮らしていくための取組」をテーマに、黒澤様、鎌村様の順でお話しいただき、それを踏まえて北見様からお話しいただきたい。

 

黒澤氏:特に身寄りのない方を中心にした単身高齢者の問題では、地域の特性も考えなければならない。横浜市を中心とした都市圏での対応と、例えば地方の過疎に近いような地域とでは全然対応も違ってくるので、地域特性によっても施策は変わってくるのではないか。もう1つ、先ほどお話しした資産階層別の施策というところも非常に大きいと思う。最初に八木橋様の講演でも、自己責任という言葉が出てきたが、頼れる身寄りがないときに、自分に適したサービスを、お金を払って選んで備えようと考える層については、私が事業としてずっとやってきている民間事業者の利用を視野に入れていただく必要がある。

その中にもやはり課題があり、今一番大きなものは、今までまったく規制のなかった終身サポート事業者の業界にようやくガイドラインができた状態に過ぎず、監督官庁もないため、契約として対応を丸抱えすることになり、内容がブラックボックス化しがちであるという点である。どこが自分に合った事業者なのか、きちんと対応してくれるところなのか、そういったことを選択できるようになる必要がある。そこに大きな課題感があるので、今一生懸命頑張っているところであり、業界団体ができていく道筋ができた。後は、監督官庁がついてくれるか、それから行政とどうやって連携していくかというところである。

しかし、このようなサービスは、ある程度金銭的に余裕があり、サービスに対してお金を払う意識がないとなかなか難しいため、お金を払うことが難しい中間層の方々に対して、どのように対応していくのかが次の問題になる。このことについて、横浜市でモデル事業を実施してきており、これについても様々な課題が出てきている。こういったところをすべて税金で賄うことは難しいと思うので、ある程度民間の力で対応していく必要があるが、この問題の難しいところは、先ほど申し上げたように、本人が困っておらず、当事者意識を持ちにくいことにある。そうすると、家族に頼れないので代わりにやってもらうことに対してお金がかかるという意識をなかなか持ってもらえない。私自身、こうした事業にずっと携わってきたが、事業としての競争相手は、何でも無償でやってくれる家族になる。家族であればお金がかからずすべて無償でやってくれることも、家族ではない他人に頼むとお金がかかるということをなかなか理解してもらえない。

これは難しい問題だが、だからといって社会問題なので行政が税金を使ってすべて無償でやるのは難しい。そうであれば、ある程度お金がかかるものとして、どのくらいの価格が適切なのか、介護保険のように1割負担でできるものなのか、今はそうした保険もないので、こうした自己負担をどうするのかという問題がある。

さらに、民間がいくら頑張っても個人情報の問題があり、契約者が倒れてしまった、又は急に亡くなってしまった際に、亡くなった後の対応について契約してあっても、結局、我々に情報がうまく回ってこないという問題が出てくる。こうした問題の解決については、横須賀市の取組が大きな効力を発揮すると思う。

 

八木橋氏:次に鎌村様からお願いしたい。

 

鎌村氏:医療に関してはまだまだ未成熟であり、医師や看護師等、医療者の教育課程の中で、こうした身寄りがない人に対してどうするのかという話は全然出てこない。仕組みづくりの議論は、まだまだ深まっていないと感じている。先ほど、北見様のスライドの中で、インフォームドコンセントの話が出てきたが、今までの「医者の言うとおり」というパターナリズムな面が是正されて、そうした考え方が入ってきたことはよいことだが、今は逆にそれに縛られてしまって、とにかく説明をして同意を得る、サインをもらうことばかりに偏ってしまっていて、そういう人がいない時はどうするのかという議論はまだまだこれからだと思っている。先ほど黒澤様からも高齢者等の終身サポート事業についてお話があったが、現場としてはニーズも増えてきており、私自身としては今後の日本の社会にとって絶対的に必要なサービスだと思う。

ただ、病院側として言いたいことは、この契約自体はやはり相当複雑かつお金も掛かり、それを病気にかかったり入院したりして、能力があるにしても心身ともに気力が低下している状況でいろいろ考えて契約することは、難しいのではないか。そのためにも準備をするのは今しかないと黒澤様がおっしゃっていたが、元気なうちに備えることが一般的な社会になっていくとよいと思う。最近だと学校教育の中の家庭科の授業で金融の勉強が始まったということであり、お金の話と人の生き死にの話は、日本の文化としてあまりお茶の間でしてはいけないということを聞くが、そこはだんだんオープンに話せる機会が増えるとよいのではないか。

 

八木橋氏:それでは、実際にソーシャルビジネス、NPO、そして病院で活動をされている黒澤様や鎌村様のお話を受けて、行政の立場として、終活支援に積極的に取り組まれている横須賀市の北見様からお話しいただきたい。

 

北見氏:行政がどこまでやるのかという問題は常に存在している。どこまでもやる、となれば税金の税率を上げるしかないが、行政が最も底辺の基盤のところで支えの制度を用意しているのかということがまず大切なことだと思う。例えば、黒澤様の会社と契約した方がいるとして、その方が路上で倒れていて、その倒れた本人を救おうとした警察官や救急隊員が本人に尋ねても本人が意識を失っており、契約の証明になるような小さな携帯カードも持っていない、そういう時に誰が黒澤様の会社と契約していることが分かるのか。今、この問題は我々市役所の最前線で頻繁に発生している。

先ほどの統計を御覧になっていただくと分かるように、今後も一人暮らしの方は増えていく。そうすると、どれほど黒澤様のような事業者がサポートしてくれるサービスを作っても、倒れた方がどの事業者とつながっているかが分からないと意味がないので、横須賀市では「わたしの終活登録」制度を作った。しかし制度を作ったのは良いが、まだ1,000人しか登録がない状況である。

高齢者はそれほど住居移動をしないだろうと思っていたが、実際には高齢者は結構引っ越しをするものであり、先日も私の先輩が横浜市に引っ越した。横須賀市の事業に登録しており、横浜市にはまだ無いとおっしゃっていたが、横浜市ももうじき終活登録ができるようになるのでよかったと思う。

 

黒澤氏:来年度に向けて横浜市でも「おひとり様情報登録」というような名前の事業を検討しており、「終活」という言葉は使っていないようである。横須賀市の北見様のところにも伺って参考にしながらそういった制度を作っていくと聞いている。

 

北見氏:本当は県単位でやるべきだが、県をまたいで転居する方もいるので、住民基本台帳法を大改正するか、マイナンバーに自分で10項目ぐらいカスタマイズできるようにして、自分でパソコンにマイナンバーと暗証番号を入れて、自分で項目を作って情報を入力できる、というようにしていただけたらよいと思う。その方がマイナンバーカードの価値が上がるのではないか。そうすれば、自分が準備しておけばどこで倒れても大丈夫となる。ところが、今は自分が準備をしても、それを受け止めてくれるかどうかに不安があるままであり、そこが一番問題だと思っている。どんなに努力して、サービスや病院や社会を良くしていこうとしても、倒れた本人をどこにつなげたらよいかが分からないのだ。

横須賀市の終活登録では、100人が登録すると、そのうち93人は緊急連絡先を書くことができるが、7人は緊急連絡先を書くことができない。実際に今まで70人の方が緊急連絡先を書けておらず、意味のない登録となってしまっている。その70人について、何とか別の方策を考えないといけないことが浮き彫りになるだけでも、終活登録事業が必要だと考えている。統計すらなく、何人の人が日本中で緊急連絡先を持っていないかなど、今までは分からなかったわけだが、横須賀市で事業をしてみたらそのような割合だと分かった。ほかにも、寺離れと言われている中で、登録された数が多い項目の第3位には寺があること、エンディングノートだと叫ばれているのにエンディングノートを書いている人は13%しかいないと分かった。横須賀市の登録事業は、若い人も登録したがっており、国家的な登録にしていただきたいと思っている。

(2)情報の管理・登録について

八木橋氏:終活登録などの終活支援をここ何年もされている北見様からいろいろなお話が出てきたが、いよいよ単身者が増え続けている現状が、行政や、病院、民間事業者からたくさん見えた。

その中でさらに踏み込んだ、住民基本台帳やマイナンバーについて、黒澤様や鎌村様は実際どのように考えられたか。

 

黒澤氏:目指すところは本当に北見様と同じで、私自身もエンディングノートについては、「事前に備えてください」と常日頃から言っている。

セミナーなどで、エンディングノートを持っている人はいらっしゃるか、手にしたことがある人はいらっしゃるかと聞くと、ご高齢の方は大体皆さん手を挙げられる。では、書き終わった人はいらっしゃるかと聞くと、ほとんどいない。今日も、皆さんに聞いてみたい。エンディングノートを手にしたことがある方(挙手を促す)。結構いらっしゃるようである。では、書き終わったという方(挙手を促す)。0人である。

これはなぜだろうと考えると、完成させないといけないから手を付けられない、後は情報が変わってしまうから今は書けないということで、書き終わらないのではないか。ただ、北見様がおっしゃるのは、誰かに聞けばその人のエンディングノートの情報も含めて分かるということさえはっきりしていれば、つまり私の先ほどの話でいうと誰に託すかを決めておけば、つながるということである。やはり「つながる」ということが非常に重要で、行政で関わってエンディングノートの情報を把握してくれたらよいし、国全体であればマイナンバーも含めて、例えばノートではなくいつ変わっても大丈夫なようにクラウドなどで自分の情報を自分で管理できていたら、一番よいのではないかと思っている。そのような話をしていたら、実は2024年の「骨太の方針」にも情報登録プラットフォームについて少し載っていたりするが、それが今後につながっていくとよいと思う。

それは自分の病気や認知症や死亡といった場合だけでなく災害にも役立つ。本日のフォーラム参加申込者の方から事前にいただいた質問の中で、災害に関する内容が出てきていたが、避難という具体的な行動だけでなく、災害のときに情報が閉じ込められていると非常に問題になってくると思う。単独世帯になって情報が単独化し、自分のスマホの中にしか情報がないと、病気、認知症、死亡に加えて、大規模災害が発生したときにも困ってくる。単身社会に合わせた個人の情報登録システムは絶対に必要になってくると考える。

 

鎌村氏:病院としても、登録事業があると助かると思う。私たち病院としては、身元が分からない方がどこかに倒れていて、救急外来に運ばれてくる際、搬送の連絡を受けて何をするかというと、申し訳ないが手袋をつけてその方が持っていた鞄などの中身を改めさせてもらうしかない。すでに救急隊の方がそうしたことをやっていることも多く、保険証が出てきた、カードが出てきたなどとなる。

北見様がおっしゃったように、全く名前も分からないという方は、今はそれほど多くない。かつ、身寄りがないといっても、天涯孤独の人はまずいない。今運ばれてくる80歳代、90歳代の人だと、一人っ子はまずいない。ほとんどの皆さんはきょうだいがいるし、きょうだいが他界されていても、甥や姪が結構いる。ただ、ずっと疎遠だったり、ずっと音信不通だったりという方が非常に多く、そのような場合、病院はすぐに役所に連絡するしかない。そのときにまったく情報がないと、何人もの人が右往左往することになる。登録事業があれば、そうしたことが少しでも解消されると思うし、緊急連絡先になってくれている人が家族のような動きをしてくれるかは分からないが、それでもこの事業がスタートするだけで、自分は緊急連絡先をどうしようかなど、考えたり備えたりする1つのきっかけになるという点でも、非常に有益な事業になると思う。

(3)孤独・孤立について

八木橋氏:北見様がおっしゃるような情報管理をいかに変えていくのか。実際に様々なケースを見ておられるパネリストの方々からすると、やはり情報登録事業のような方向に向かうべきだということであった。一方で、私も最初に言及したところだが、単身高齢社会だと必ず出てくるだろう孤独・孤立という点についても、お話をいただければと思う。

 

黒澤氏:単身で、特に頼れる身寄りがないという方にとっては、孤独・孤立という、切っても切り離せない問題が出てくる。そこでやはり、地域社会とどのようにつながっていくかが非常に大きな課題になってくると思う。私が感じているところでは、居場所づくりがいろいろな所で行われているが、それに積極的に関わる方というのは、おそらく孤独・孤立ではない。そこになかなか出てこない方を孤立させないことが、これから重要になってくると思う。

私がたくさんのご高齢の方と話している中で、居場所として用意されたカフェなどでは、「してもらっている感」が強く、そこを求めているわけではないという声を多く聞く。「社会に何かしてもらっている」よりも、どんな形でもよいから、「自分が何か社会の役に立っている」と感じたい。だから、支援する側とされる側が明確になるのではなく、今は終活の準備をしていながらも、まだ支える側でいたいという方々がたくさんいらっしゃる。「居場所」を作って、「高齢者の方はここに来てください、そうすれば支援します」という形ではなくて、支援する側とされる側をもう少し曖昧にすることで、より備える方に進むと思う。

 

鎌村氏:孤独・孤立に関して、イギリスで担当大臣ができたというニュースがあったが、あれは医療費対策だと思う。孤独・孤立は健康に良くない影響があり、そのためのコストが増大する。病院で働くソーシャルワーカーとしても、その地域での活動に参加される方や、地域の仲間と一緒に活動する機会を持って生活されているのはとても良いことだと感じる。そういう場を済生会でも作っていけたらと思う。また、おひとりさま勉強会に参加されている方同士でも、勉強会後にお茶を飲みに行くなどのつながりが生まれており、そういう雰囲気ができてくるのは良いと思う。ただ、そういうコミュニティとは別に、もう少し踏み込んだお金のことや入院手続きについては負担が大きくなってくると思うので、しっかりした仕組みづくりが必要なのではないかと思っている。

 

北見氏:エンディングプラン・サポート事業は、孤立・孤独で低所得である高齢者専用だが、今まで160人が葬儀会社に自分のお金で25万円、現在は27万円を払って、既に80人が亡くなった。私は孤独死自体が問題だというよりも、孤独死に至るまでの孤立・孤独が問題だと思っていて、亡くなるまでの間、ずっと市で訪問できたのが良かったと思う。

今後取り組みたい事業が2つある。1つ目は、横須賀市役所の私の部署で5年前からフードバンクに取り組んでいる。子ども食堂に食料品を供出するほか、なかなか生活保護の決定が受けられないなど、緊急に援助が必要であるが、行政はお金をすぐには支出できないという事情にも対応している。今朝もお一方に10日分の食料を一気に提供してきた。行政はそうしたいろいろな支援ができると思っている。このような考えで、シニア食堂をこれからできないかと思っている。2つ目は、徐々にエンディングプラン・サポート事業の対象者に単身者が増えて、現在80人となっているが、この方々への訪問について、市の職員ではなく、シニアのある程度の資格を取った方、例えば市民後見人の講座を卒業された方に行っていただこうかと考えている。市民参加型の、協調的な終活支援として、こちらは新年度から市の予算3万円で実施しようと思っている。横須賀市はお金がないが、市役所の看板を使うといろいろなことができる。なんとか多くの人々を救えるよう取り組んでいきたい。

(4)まとめ

八木橋氏:皆様、ありがとうございました。最後になるが、やはり終活支援を考えたときに、今後情報管理がいかに大切かということが、実際に現場を見てこられたパネリストの方々からは見えている。情報管理への取組を、今度は国・地方を含めた行政がどうやっていくかというのが、おそらく本日の着地点であると思う。

もう1つ、孤独・孤立は、単身社会が必ず抱えている問題なので、そこにおいては黒澤様がおっしゃった、「社会に役立つ」と思えるシニアサポートのような、してもらっているのではなく自分も関わるという部分がもっと出てくればと思う。もともと自分から積極的につながることができたら孤独ではないと思うので、それをなんとか乗り越えていくということになっていくのではないか、と感じた。皆様ありがとうございました。

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