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初期公開日:2025年3月27日更新日:2025年3月27日

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令和6年度政策研究フォーラム テキスト版(取組報告3)

令和6年度政策研究フォーラムの取組報告の内容をテキスト版で表示します。

取組報告「医療・介護現場での課題と今後に向けた取組」
済生会神奈川県病院 地域交流室長兼支部事務局ソーシャルインクルージョン担当
鎌村 誠司 氏

(1)済生会神奈川県病院の状況

現在起きている問題として、おひとり様の患者が増加していることがある。そういった方が一人で元気に家に帰ることができればいいが、高齢の方が多く、支払いや緊急時の対応が困難であるため次のステップに進めない問題がある。

病院には、急性期病院と回復期・療養型病院という役割分担があり、以前の当院はどちらかというと回復期・療養型に重心を置いていたが、近年急性期病院としての機能も果たすようになっているため、両方の状況を目の当たりにしている。

(2)現場レベルで起きている問題

急性期病院は誰でも受け入れるので保証人の有無が問題になることはないが、次のステップである回復期・療養型病院では、手続きがスムーズにいかなくなることが、医療ソーシャルワーカーにとって一番の課題である。入院患者が退院できず入院を続けてしまうことで、病院にとっては診療報酬が下がることに加え未収金が増える可能性が高まるというデメリットがあるが、治療が終わった方の次の受け入れ先が決まらないことで病床が埋まったままになり、救急搬送を受け入れられず命を救えなくなる可能性があるということが、地域医療にとって最も大きな問題である。

私自身が苦労した事例として、退院する方の家探しがある。過去報道された事例であるが、会社の寮に住みながら仕事をしていた人が脳梗塞になってしまい、仕事も家も一度に失ってしまったということがあった。生活保護の受給が決定したので家が決まるかと思ったが、その方に緊急連絡先がないことから30件以上の物件で断られてしまった。この事例は10年以上前になるが、現場からすると、その時から身寄りなし問題は変わっていない印象がある。

単身者を分類すると、まず判断能力があるかないかに分かれる。判断能力がないと、資力の有無に関わらず成年後見制度につなぐしかない。この場合でも、成年後見がつくまでに半年から1年程度かかることから、この間は転院できないという問題が発生する。判断能力があり資力がある場合は、任意後見や民間事業者につなぐことができるが、資力がない方は今のところ支援メニューがないという現状である。

入院時に本人のお金を誰が管理するかという点も問題となる。公共料金や携帯料金の支払いをコンビニ払いにしている方が多く、長期入院で料金滞納となり電気・水道・ガスや携帯電話が止まることがある。これらは、一度止まってしまうと復旧の手続きにも時間を要し、特に携帯電話が止まってしまうと、退院後にケアマネージャーなどの支援者が本人と連絡を取ることができなくなってしまう。また、日用品の購入希望についてもできるだけ叶えてあげたいが、実際にはケアマネージャーの方が無償で代わりに買ってきてあげるような状況にある。このような仕事は「シャドウワーク」と呼ばれており、他にも入院している方が家のごみを業者に依頼して片付ける際に現場に立ち会う、などの事例があった。

日本総研の沢村氏も指摘しているが、これらの医療機関における状況として、全体としては問題が起こっていないように見えるが、実際にはケアマネージャー等の現場レベルの判断でなんとか対応しているような事例が多い。また、お金の管理などの細かい問題もすべて面倒を見る、という施設も出てきているが、こうした施設は都心部から離れた場所に位置している傾向にあるほか、体制的に問題がない施設なのか疑問が残る。

(3)医療の立場からの取組

現在、栄養摂取の方法など病院における治療や手術の方針について、本人の意思能力がなく身寄りがいないときにどうするかが大きな課題となっている。みんなで話し合って決める、ということはガイドラインで定められているが、最終的に責任を取るのが医師になってしまう。医療機関として、同意書を取ることが徹底されてきており、同意書を取得できないケースについてあまり議論されていない。

済生会神奈川県病院が所在する神奈川区だけでもこの問題を何とかしようと、関係者と勉強会を開始し、数を重ねていく中で「リビングラボ」という形にして定期的に活動している。3年ほど前に横浜市役所で発表を行ったほか、自民党の社会保障制度調査会に有識者の1人として呼ばれたことがあった。その他、すすきの団地のプロジェクトなどにも参加している。

済生会としても、研究会を立ち上げて活動している。済生会は、明治天皇が生活困窮の人や身寄りのない人のために立ち上げたものであり、今後もその理念に沿って活動していく。

これからも、亡くなった後も含めて尊厳が守られるよう医療ソーシャルワーカーとして問題に取り組んでいきたい。

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