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初期公開日:2025年3月27日更新日:2025年3月27日

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令和6年度政策研究フォーラム テキスト版(取組報告2)

令和6年度政策研究フォーラムの取組報告の内容をテキスト版で表示します。

取組報告「身寄りなし問題の最前線と高齢者等終身サポート事業」
株式会社OAGウェルビーR 代表取締役、
一般社団法人横浜イノベーション推進機構 代表理事、行政書士
黒澤 史津乃 氏

(1)背景

私は民間事業者という立場で、過去20年以上にわたり、家族に頼らずに老後とその先の死を迎える人の支援を行ってきた。当初はNPO法人で20年程度活動し、ここ3年くらいは、株式会社OAGウェルビーRという、税理士法人を主体としたOAGグループの中の1つで仕事をしている。先ほど八木橋様の話にあったが、90年代くらいから生前契約が始まって、私もその90年代後半くらいからずっと携わっている。

現場では、身寄りのない人に関わる問題を「身寄りなし問題」とよく呼ぶが、「身寄りなし問題自体に身寄りがない」とずっと言われてきた。二、三十年前からある問題だったのに蓋をされ続けてきたということだ。身寄りなし問題に監督官庁があるかというと、押し付け合いのような状況であり、見て見ぬふりといった感じもある。ずっと身寄りなし問題に身寄りがないと言われてきたことに私は非常に危機感を覚えており、これから家族に頼れない人が増えてくるのに、福祉で助けるだけではとても追いつかないと思っていて、株式会社OAGウェルビーRで活動をしている中で、ここ1年半くらいでかなり事態が動いてきて、注目していただけるようになってきた。その中でいろいろな政府関係の委員もさせていただいている。

また、肩書きのもう1つに「一般社団法人横浜イノベーション推進機構」と載せている。先ほど八木橋様から「行政がプラットフォームからガバナンスへ」という素晴らしいお話があったが、横浜市もガバナンスへの流れがある中で、こちらの一般社団法人では、社会貢献と収益を両立させながら、民間と一緒に地域のガバナンスを行っていく立場となる中間支援組織をやっている。

(2)身寄りなし問題

そうした背景の中で、八木橋様と北見様の話にもあったが、65歳以上の単身世帯の数は2050年にかけてまだ増えていく。その中身が問題で、65歳以上で一人暮らしをしている人の中で一番多い割合が未婚であり、1度も結婚せずにずっと一人暮らしをしている人が増え続けると、おそらく子供はいないだろうから、倒れてしまったとき、認知症になったとき、亡くなったときに、面倒を見てくれる人がいない状況が起こる。

なぜこれが問題かというと、地域包括ケアシステムなどというが、やはり今の日本のいろいろな社会の制度設計が、結局のところは呼べばすぐに駆けつけてくれる家族がいることが大前提になっているということだ。年をとって一人暮らしをして90歳代半ばになったとしても、自分で自分のことを正常に判断できればよいが、自分で正常な判断ができなくなってきたときが問題だ。病気で倒れてしまったとき、認知症になったとき、それから亡くなった後は自分で自分のことを決められないので、そうしたときに、今の日本の仕組みでは、自動的に意思決定の主役が家族になる。私も父の具合が悪くて、母が認知症でというときに、私が両親のすべての意思決定をした。そのとき、私は「黒澤さん」ではなくて、「娘さん」と呼ばれ、「娘さん、お父さんのこれはどうしますか」と聞かれる。家族が意思決定の主役になる仕組みなのに、今は家族の形がこれだけ多様化しており、意思決定の主役になってくれる人がいないという問題が起きている。これが、おひとりさま問題とか、身寄りなし問題と言われている。

資料5ページはよくセミナーなどで使う図だが、真ん中に流れているのが「三途の川」で、左上に黄色い箱で「自立期」と書いてある。今日ここにいる皆さんは全員が自立期にいる。いつかは全員が三途の川を渡るということしか決まっていなくて、いつまで自立期にいられるか分からないし、病気なのか認知症なのか、どちらの方向に行くかも分からない不確実な状況である。右側に「意思の形成・表明・実行」とあるが、自分で自分のことを全部決められる、自分で意思決定を完結できる時期は自立期のうちしかない。自立期から1歩出てしまうと、三途の川を渡ったその先のことまで、自分で意思決定を完結できないので、誰もが必ず、誰かに意思決定を手伝ってもらわないといけない。終活支援で一番難しいのは、誰に手伝ってもらうか決めておけるのは今しかないのに、自立期に決めてくれないまま、自立期から出ていってしまうことだ。それでも、実は本人は困らない。この問題の特徴的なところは、困った、大変だという声が出てくるのは周辺からで、病院の方、ケアマネージャーの方や、行政など、困りごとは周りからしか出てこなくて、本人はもう分からなくなっているから困らない。そこがこの問題のすごく難しいところだと思っている。

(3)高齢者等終身サポート事業

資料6ページに終身サポート事業とある。これはもともと身元保証事業と言われていたのが、今は終身サポート事業と呼ばれるようになってきて、民間事業者が意思決定支援を代わりにやるという仕事で、自立期にいる元気なときに、三途の川を渡った先までの意思決定の実行・完結までのお手伝いをする権限をいただいておくという契約だ。そのため、元気なうちに決めて契約をしておいていただかないと、病気や認知症になったり、三途の川を渡ったりした後だともう契約はできない。このような契約自体は90年代の終わり頃から出始めているが、民間だけでやっていると、企業が丸抱えでどのようなことをしているのかブラックボックス化しがちだという問題が出てくる。この辺りのことを、今、国も問題視している。1年半くらい前から急速に動き始めた、過去の「身寄りなし問題自体に身寄りがない」ということの歴史について、お手元の資料8、9、10ページを見ていただきたい。終身サポート事業者のガイドラインができたので、今度はこれをどのように私たちのような事業者、業界側として受け止めていくかということで、実は今度この業界団体が初めてできることになり、その準備委員会が発足するという発表が近々ある見込みだ。

最後になるが、これら全部を民間事業者でやるというのはなかなか難しい。先ほど八木橋様の講演にもあったが、お金がある人は、民間事業者を使ってもらえばよい。でも、お金がない人がたくさんいて事業者を使えないという問題が出てくるので、私はやはり資産階層別に施策を考えていかないといけないと思っている。お金を自分で払って良いサービスを選びたい人は、民間事業者を選んでいただく。本当にお金がない人は、セーフティネット、生活保護などでやっていただく。中間層のところが一番難しいのだが、ここをモデル事業など、分業型・地域密着型で、官民共創などを使いながら何とか良い仕組みづくりをしていけないかということで、こうしたところは先ほどの一般社団法人横浜イノベーション推進機構で私も取り組んでいる。

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