初期公開日:2025年3月27日更新日:2025年3月27日
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令和6年度政策研究フォーラムの取組報告の内容をテキスト版で表示します。
現在、10人の住民が亡くなると、そのうち1人が引き取り手のない御遺体になってしまっている自治体が全国に存在する。横浜では30人に1人という割合である。PTAも解散するところが出てくるなど、地域の崩壊が懸念されている。また、後見人になっても役割を果たせないという問題も発生しつつある。これは、認知症になった高齢者に後見人が付く場合、今は家族が後見人にならない場合がほとんどであり、代わりに専門職後見人が増えている。そうすると、後見人が付いたはいいが、その後見人は本人のことを知らない、ということが増えることになる。
資料5ページのグラフは、横須賀市の明治時代からの家族1世帯当たりの平均人員数を表している。横須賀市は、戦時中に重歩兵連隊が来たため、その期間の平均人員数は急激に増えているが、基本的には一直線に減り続けている。これは日本全体でも、またアメリカでも同じ傾向にある。人口は増えても、家族の人員数は減り続けている。このままいくと、2065年には横須賀のすべての家族が1人になってしまう、という状況である。
ペリーが浦賀にやってきて以降、浦賀にはいろいろと面白い歴史があるが、その1つに、町が繁栄してきたために無縁納骨堂ができた、ということがある。全国では無縁納骨堂を持っていない市町村が圧倒的に多いが、横須賀市は持っていた。資料8ページに、職員が地下の無縁納骨堂から御遺骨を出している写真があり、壺にガムテープが張ってあるのがご覧いただけると思うが、昔はここに番号しか振っていなかった。御遺骨のほとんどが身元不明者のものばかりだった。ところが、この作業の際に、フルネームが書いてある御遺骨、つまり身元は分かるが引き取り手のない御遺骨が多く出てきて、非常に驚いた。
資料9ページは1963年からの横須賀市の統計で、青い点線は身元不明者の数を表しているが、数は大きくは変わっていない。赤い線は身元判明かつ引き取り手がない御遺体であるが、1993年から増加し、さらに2003年になると急増している。1993年はバブル崩壊後、また平均世帯人員数が3人を割り込んだ時期ということになるが、2003年問題が皆さんに関わる問題だということが分かった。このことについては後で説明する。
資料10ページの大阪市のところをご覧いただきたい。2006年度と2015年度の、引き取り手のない御遺骨の比較であるが、大阪は260万都市で毎年1.2%が亡くなるので、3万人が亡くなりそのうち3千人の御遺体に引き取り手がないという計算になる。現状では、大阪では3万人が亡くなったうち、4千人近くの御遺体に引き取り手がないという事態になっているとある新聞社からは聞いている。
亡くなった後に引き取り手がない御遺体・御遺骨になるということは、実は本人は生きているうちから想像できている。資料11ページの手紙には、「私は死亡の時15万円しかない」、「火葬・無縁仏にしてください」ということが書いてあった。実はここに市役所のある部署の名前が書いてあったが、その部署では受け取っていなかった。なぜ受け取らなかったかというと、これは墓地埋葬法という昭和23年に制定された法律と関係があり、第9条に「引き取り手のない、火葬してくれる人のいない遺体は亡くなった場所の市町村長が火葬すること」とされている。亡くなる場所がどこになるか分からないから、亡くなる前に死後に関する手紙を受け取れないということである。福祉がそういう発想でよいわけがない。法改正もなく、昭和23年の法律がそのまま生きてしまっている状況である。
それでは医療はどうだろうか。インフォームドコンセントといって、「あなたはがんです、余命は3ヶ月です、どういう治療がよいですか」と、そこまで情報提供しなければならない。福祉はどうかというと、亡くなった後の相談をしたくても窓口すらない。これは問題だと思っている。
もちろん相談だけでは意味がなく、解決策が必要になるということで、「エンディングプラン・サポート事業」という事業を横須賀市で始めた。計上された予算は、初年度総事業費2万2千円であり、人件費も認めてもらえなかったので、課長である私と係長が兼務した。これは、亡くなる御本人がお金を遺していくのだから、死後事務委任契約で、先に葬儀に関するお金を払っていただこうという事業である。その代わり、そのままいくと墓地埋葬法第9条の「誰も引き取り手のない御遺体」になる可能性の高い方だけに対象を絞った。この事業において市役所は何をするのかというと、亡くなるまで対象の方を訪問し、亡くなったら本人の選んだ宗教で葬儀を行い、骨を拾って納骨する、ということであり、いろいろな宗教・宗旨・宗派を取り揃えられ、かつ最低費用の25万円で埋葬までできる協力葬儀社の方々に手を挙げていただいた。現在、従来なら墓地埋葬法第9条の適用を受けて無縁仏になっていた方のうち約2割の方が、その適用を受けずに、御自身のお金で、御自身の好きな墓に入っていただいている。
もう1つの問題だが、資料15ページの上のグラフの赤い線、これは日本における携帯電話やスマホの契約数、青い線は固定電話の契約数である。先に述べた2003年問題はこのことであり、携帯電話の契約数が固定電話の契約数を上回った後に身元判明かつ引き取り手のない御遺体が増加している。
人間が倒れると、携帯電話にロックがかかって、どこに連絡したらいいか分からなくなってしまう。皆さんのスマホには、メディカルIDが登録してあるだろうか。スマホか、スマホのケースの中に、緊急連絡先は書いてあるだろうか。市役所の職員たちは、人が亡くなってすぐに家族が分からない場合、住民票を調べたり戸籍を調べたりすることはできるが、電話番号は調べられず、調べた住所に手紙を出すしかない状況である。このため時間がどんどんかかってしまう。先日テレビ番組で、日本で母親が亡くなっているのにオーストラリアにいた娘さんに全然連絡が届かず、結局娘さんが帰ってくる前に火葬されてしまった、という話が取り上げられていた。
アメリカで2015年に火葬と土葬の割合が入れ替わった時は、同様に携帯電話のみの世帯と固定電話と携帯電話の双方がある世帯の割合が入れ替わる時期と重なっている。ここから、固定電話がないため連絡先が分からず葬式に友人を呼べない、そのため棺箱をかつぐだけの人数がない、だからコンパクトに火葬するという状況が想定される。また、墓がどこにあるのか分からないという問題が増えている。子供のいない夫婦で、夫が先に亡くなって、妻が納骨した後に妻が亡くなって、墓がどこにあるのか分からないため、市役所の納骨堂に毎年5~6人、妻の遺骨だけ入れているという状況である。墓には住民票がないため、墓の所在が分からなくなる。
それではどうすればいいかというと、緊急連絡先や、どの身元保証事業者と御自身が契約しているのかが分からなくならないよう、市役所でその情報の登録を受けつけるという話である。「わたしの終活登録」という制度だが、これは年齢制限や所得制限は設けておらず、市民だったら誰でも登録できる。昨年の暮れに、ようやく市内の登録者数が千人を超え、それで何十人も救えたのが嬉しかった。
市役所というのは普段は苦情しか来ないところだが、はがきで市役所に感謝状が届いたことがあった。はがきを書いたのは90歳近くの方で、救急センターから病院に搬送されて、家族がいないことを伝えたら、最初は入院できないと言われたとのことである。病院としても、受け入れた10分後に患者が亡くなった場合、誰に連絡したらいいのか分からずに困り果ててしまうという事情がある。横須賀市の終活登録の制度では、緊急連絡先等を記載したカードを登録者に持たせることとしており、そのカードに山形県にいる親戚の携帯電話番号が書いてあり、それでその病院に入院できたとのことで、「助かりました」とはがきにびっしり書いてあった。大した事業をやっているわけではなくて、今、両方の事業を合わせて年間総事業費8万円くらいで実施している。人件費は別で、現市長になってからは、専従の職員が4名も配属された。横須賀市の事業は今市民から「魂の事業」と呼ばれるようになって、嬉しく思っている。
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