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初期公開日:2025年3月27日更新日:2025年3月27日

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令和6年度政策研究フォーラム テキスト版(基調講演)

令和6年度政策研究フォーラムの基調講演の内容をテキスト版で表示します。

基調講演「単身高齢社会における官民連携のあり方」
高崎経済大学地域政策学部 教授 八木橋 慶一 氏

(1)導入

地域政策学部は、行政だけではなくNPOや地域住民など様々な団体が、空き家、中心市街地、高齢化、中山間地域の過疎など、様々な地域の課題の解決について考えようということで、今から30年近く前に、日本で最初に高崎経済大学にできた学部である。

私の専門分野は、行政も含めた様々な主体が支え合って地域の問題を解決していく「ローカルガバナンス」という、直訳すると「地域での皆様による統治」である。それからもう1つ、社会的に「ソーシャルビジネス」と言われている、社会貢献と事業性の両立を図って問題を解決していこうという事業者の研究を専門としている。横浜市もソーシャルビジネスにかなり力を入れており、本日はそれも絡めてお話をさせていただきたい。

(2)孤独・孤立

既にいろいろなところで報告書や調査結果が出ているが、今までの家族観などが通用しない時代が目の前に来ており、いよいよ待ったなしの状況である。一般総世帯数に占める65歳以上の単独世帯の割合は、25年後の2050年には20%台まで増加すると予測されている。高齢者が単独世帯に占める割合も年々増えているが、現時点でも既に男性は3分の1で、2050年には6割になる。単身高齢者が増える中で、どのような社会がありえるのか真剣に考えなければいけない時代がきているのだと思う。

そのような単身高齢社会が目の前に迫ってきている、又は既にそうなっているが、更に進行すると考えた時に、その背景では、特に単身高齢者が地域において社会的に孤立している、又は孤独感を持っているというケースが浮かんでくる。かつては家族がいた意義があったのかもしれないが、NHKの調査で、親族や職場、あるいは地域コミュニティの中でのつながりもどんどん希薄化しているというデータがあり、昔ながらの、がらっと戸を開けて「醤油を貸して」と言って隣の方が来るような、そういう付き合いの形から、形式的なつき合いを望むような方向になってきている。そうなると、単身高齢者が増えている地域社会、地域コミュニティにおいては、家族のサポートや周囲との関係は減っていくであろうと想定される。これはあらゆる世代に起こっていることだが、単身高齢者、特に頼れる身内がいない又は遠方にいるようなケースでは、この状況は非常に象徴的な話になってくる。つまり実際の単身高齢者の問題、終活支援の問題の背景に、大きな問題として孤独感や、社会・コミュニティから孤立してしまっている問題があろうかと思う。

本日のパネリスト3名のお話にもこの問題が絡んでくると思うので、そのことを前提に、孤独・孤立の問題について簡単にお話しさせていただく。既に日本では、孤独・孤立の問題に取り組む法律が一昨年に制定されている。また、「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会」や、みんなが支えつながりあうという先ほどの神奈川県政策研究センターの報告にもあった「包摂型コミュニティ」を国がうたっており、別の表現では「地域共生社会」という言葉もある。

それでは誰が孤独・孤立を感じているのかというと、内閣府の調査では、データ上は20代から30代の若年層の孤独・孤立感が比較的高くなっている。しかし、単身世帯は、他の世帯形態より孤独・孤立感が高くなっており、若年層に単身世帯が多いことからこれは当然かと思われる。孤独を感じる原因は、「家族との死別」、「一人暮らし」、「心身の重大なトラブル」などであり、これらは単身高齢者、特に身寄りのないケースの場合には、非常に気をつけなければならない点である。これらの原因を含めて考えれば、やはり孤独・孤立の問題について単身高齢者は特に注意しなければいけないということが言えるのではないか。

(3)国における取組

そうした中で、本日は官民連携の話もテーマの1つであるので、行政の取組の事例を資料7ページに簡単にまとめた。国は、先ほどの法律や、孤独・孤立の対策も作っている。また、終活支援そのものではないが、終活やそれに関わる問題、例えば亡くなった方が遺された遺留金や御遺骨の問題について、総務省が調査報告書を出しているほか、内閣官房でも、終身サポート事業者ガイドラインの話を既に出している。さらに、広い意味での終活支援になるが、身寄りのない高齢者の生活上の課題について、国としても放置はできないだろうということで、モデル事業が進められている。資料9ページは国の資料から抜粋したもので、実施予定も合わせて9の自治体でモデル事業が行われている、という内容である。

(4)日本における孤独・孤立問題の経緯

資料10ページだが、孤独や孤立が一番厳しい形で表れてくるのは孤独死であり、そうなる前に終活支援が必要な時代になっている。先ほどから述べているとおり、社会の在り方が確実に変化しており、昭和の時代に比べると、平成を経てこの令和で完全に変わっていると思う。葬儀や、死後の家財道具をどうするかなどという話については、かつてはコミュニティで解決するか、家族や親族又は個人が自分で何とかするというのが当たり前だった。90年代で若干単身世帯が増えていて、ここで孤独・孤立の問題が出てきたのかもしれない。葬儀の生前契約の話について、90年代ぐらいから研究されている方もいらっしゃるが、それも「自分がどうしたいのか」がメインテーマだったので、周囲がどうだったかというものではなく、孤独とか孤立も特に強調されているわけではなかった。

概ね2000年代以降、孤独死、行政用語だと孤立死と呼ぶ方が多いと思うが、その対策が厚生労働省の「孤立死防止推進事業」のように政策化されていった。背景にあるのは、家族や地域が機能しなくなったということだ。先ほど「自分で何とかする」と言ったのは、生前契約のケースに当たる。これも30年前の研究の段階ですら、孤独死対策の生前契約に必要な金額が100万円を超えており、事前に本人が準備すべきだという論調もあったことから、生活が厳しい方の場合はどうなるかという課題があった。

その後2010年代になって、メディアや研究者が孤独死について「そろそろ危ない」ということを強調するようになってきて、孤独や孤立の結果、終活というあくまで個人的な行為と思われたものも十分に行えずに、その中で孤独死が発生してきた。さらに言えば、無縁状態、つまり頼れる身内がいないような方だったとしたら、最近聞くようになった無縁墓地に入り、死後に存在すら忘れられるような事態になる、という時代を迎えている。社会問題としての孤独死の認識が2000年代以降徐々に高まってきて、2010年代以降「さすがにまずい」という時代を経て、今2020年代であるが、自治体や公共性の強い団体、例えば社会福祉協議会でも対応を迫られる状況になっている。

(5)地方自治体や公共団体における取組

頼れる身内がいない又は単身である高齢者は、身元保証、日常の生活のサポート、お亡くなりになった後の事務的な対応などが問題になる。この点については、早いところでは2003年から2005年頃から取組が始まっていたが、2010年前後ぐらいから社会福祉協議会が先駆的な事例に取り組み始めている。メディアでもよく取り上げられているのが、福岡市の社会福祉協議会や、近隣だと東京都の足立区社会福祉協議会である。その他にも、残されたお金や御遺骨をどのように保管するかという、このあたりは市区町村が困っている問題だと思われるが、このような問題を受けて横須賀市の終活支援の事業化が始まっていったのだと考える。

行政でも、背景に孤独・孤立の問題を含めて明確にこの終活支援に関する現実が表れてきたということで、終活支援と言われる取組を行っている自治体がどれくらい存在するかを、ホームページ検索で調べたところ、2023年時点の情報で、今は状況が多少動いているが、大体20の自治体が取組を実施していた。基礎自治体すなわち市区町村が全国で1,741存在するので、大体その1%ぐらいに当たる。データの取り方によって微妙に数は違うが、取り組んでいる自治体はそれぐらいの割合だということで、問題が起こっていることは分かっているけれども、実際にはそれほど取組を行っていなかったというのが、2~3年前の状況だった。本日のパネリストである北見様の横須賀市の事業についても、マスメディアで盛んに取り上げられて、いろいろなところから視察が来たと聞いているが、実際に取り組んだ自治体はそれほど多くない、という現実がある。ただ、先ほど資料7ページ目で紹介した国のモデル事業が始まったので、何らかの形での終活支援事業は増えていくのではないかと思われる。ただし、モデル事業というのはいつまで続くか分からない上、国の方向性によっては、そこまで力を入れないということになるかもしれない。そうなった場合に神奈川県や各市町村がどのように考えるのかという話が出てくるものと思われる。

孤独・孤立の問題の対策については、終活支援以上にもっと幅広くなってくるので、社会福祉協議会のような公共性の強い団体だけではなく、NPOなど多様な主体・団体との連携も視野に入ってくると考えられる。そうすると、先ほど神奈川県政策研究センターから報告があった包摂型コミュニティや、基調講演の表題とした官民連携のような、官と民がどう協力していくかという話になってくる。

ではその孤独・孤立、その一番先鋭化した形である孤独死問題、それを防ぐための終活支援として、まず行政としてどのような役割を果たしていったらいいのかというと、基本的なイメージはサポート役である。資料14ページは国の資料の抜粋だが、厚生労働省ではこのような官民連携のプラットフォームのイメージを持っている。ほかには、実際にサポートできる団体を紹介したり相談を受け付けたりする窓口、又は民間業者の監視役の役割なども出てくるかと思う。そうすると、まず前提として行政は組織が縦割りになっているので、企業統治のコーポレートガバナンスと同じような意味で役所内部の「ガバナンス」を行ってうまく縦割りを超えていく必要があり、そのような指摘を既にされている研究者もいる。後は孤独・孤立や終活の支援など様々な支援において財政的な裏付けはどうなるかという話もあろうかと思うが、ここも今後大きな論点になるかもしれない。予算がなくても十分できるという意見もあれば、やはり一定程度財政的な支援がないと難しいという意見もあろうかと思う。

(6)民間における取組

そうした中で、NPO法人や一般社団法人など、いろいろな非営利の組織があり、それから冒頭に述べたソーシャルビジネス、コミュニティビジネスとも言われるが、こういった社会貢献と事業の両立を目指す団体が、制度がまだうまく対応できていないところや、行政がまだ気づいていない新しい社会問題に取り組み始めている。加えて、労働者協同組合という、2022年から施行された労働者協同組合法で定められた、働く人たちが自分たちで仕事を起こして事業を行っていく新しいタイプの協同組合が出てきている。最近ソーシャルビジネス又はコミュニティビジネスの分野において労働者協同組合が活躍していると厚生労働省が考えているため、国の資料にも記載されている。

資料15ページについて、孤独・孤立や終活支援関係で事例を調べたり、又は私自身が取材に行ったりする中で、私の地元の群馬県で、高齢者の見守りの活動や居場所づくりについて、若者と高齢者をどうつなぐのか、地域で自治会をどう動かすかなど、特定のエリアの中でいろいろな人たちを動かして、特に若者と高齢者を結びつけて居場所づくりを行っている群馬県のNPO法人を知った。その他、東京都の団体で、先ほど述べた労働者協同組合で終活支援に近いサービスを既に提供しているところがある。

このような、孤独・孤立問題で非常に興味深い事業に取り組んでいる事例があるが、やはり事業規模がそれほど大きくない。これはソーシャルビジネス・コミュニティビジネスの全般的な傾向としてもそうである。非常に大きい団体もあるが、小さい事業規模の団体が多いので、孤独・孤立問題、あるいは終活問題について、特定のエリアでは何とかできるかもしれないが、それ以外のエリアでできるのかどうか、という課題を常に抱えている。全国で同じような団体が増えていけばいいが、人がいなかったり、地域の風土的なものがあって進まなかったりで、なかなか規模を広げるのが難しい状況にある。

(7)行政と民間の連携

そうなると、もっと踏み込んで考える必要があると私自身も考えているが、現状では、まず民間の活躍が前提にされているのではないか。つまり、頼れる身内のいない方も含めた単身高齢者へのサポートは、まずは民間で取り組んでもらおうという意識があるのかもしれない。そうすると、資料16ページに書いたが、金銭的に余裕がある方であればまだ対応できると思うが、中間層、又は生活が厳しい層はどうなるか。最終的には行政に生活保護の仕組みがあるが、すべてには対応できないかもしれないので、行政の支援が仕組みづくりだけでよいのかという課題は、常に出てくるのではないか。

孤独・孤立の防止や終活支援について、近しい団体や人との話の中で事前にこういう風にやったらいいと教えてもらって対応できるとしたらすばらしい話だが、孤独感を抱えたり社会的に孤立したりしている人の場合はそうした相手と関わらない可能性がある。そこには実は生活困窮とか厳しい高齢時の生活・金銭事情が絡んでいるかもしれず、イギリスのある研究者は、生活の基本的なニーズを満たすことが大切なのではないかと言っている。ただ、今から年金とか様々な福祉サービスを拡大させていくのかというと、日本の現状では厳しいかもしれないので、国民的な議論をしていく必要があるのではないか。地域で生活しやすい状況をどう作るのかとなったら、行政が今までのサポートだけではなく、資料で少し見えていた「私」の面だけではなく、「共」という共に助け合って生きていくという面も少し考えていく、もしくはそういう視点こそ必要ではないかと思う。

これは私の研究グループで言っていることだが、プラットフォームという「みんなで話し合いましょう」という場づくりだけではなくて、「みんなで治めていきましょう」という「ガバナンス」の方向に変えていかないといけないと思っている。国から地方、官から民というように丸投げすると、結局小さな事業規模の団体が全部やるという形での地域課題解決になりかねない。地域のつながりを強調するためではなく、行政の方には耳が痛い話かもしれないが、行政が実質をもって管理しなければいけないのではないかと思う。なかなか厳しいとは思うが、地域の舵取り役として地域で一番情報や資源を持っているのは行政であり、いろいろなアクター・団体をうまく調整して仕切るというのは非常に重要だと思う。

ある地域福祉関係の研究者が言っていたのは、地方自治体、特に市区町村に求められるのは、活動主体に援護やアドバイスする機能だということであった。「プラットフォーム」というぼんやりとしたものではなく、本当に集まったりできる場、拠点を用意する。そして、行政は何らかの活動をしている人の緊急連絡先のバックアップや情報管理に関して、他の機関に比べて信用ができるので、その役割を担う。行政では官民連携と言うが、そのための前提条件を整理することが必要であり、NPOやソーシャルビジネスの事業者を含め、先ほど言った「共」すなわちガバナンス、一緒に地域を治めていこうという創出を行っていく必要があるのではないかと思う。

(8)まとめ

最後に、本日のテーマの「安心して暮らせる地域社会」を考えたときに、孤独や孤立というのは、単身高齢者に限らず、安心して暮らせる社会にとって非常に大敵だと思う。孤独・孤立の最悪の結果は孤独死だろうと思うが、そこからさらに無縁の御遺骨になってしまう、つまり生前の様々な希望が叶わなくなる。そうしたことから、今、終活支援を考えないといけないと言える。もちろん、この孤独や孤立をどう減らすのかが緊急避難的には必要になり、形式的な仕組みづくりから踏み込んで地域を共に治めていく舵取り役を担う覚悟というのが、これからの行政に求められるのではないかと思っている。

やはり我々人間は、今の技術の段階では必ず死ぬので、自分が最後どのように生きていくか、その希望を叶える社会というのは地域社会にとって大切であり、それは誰かの記憶に残ることにもなるため、それを大切にしておかないと、地域社会が成り立つのかという話になりかねない。みんなが安心して暮らすことができ、亡くなっても誰かが「あの人いたね」と思い出せるような社会に向けて、行政に舵取りしていただければと思う。

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