更新日:2023年8月25日

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装着型サイボーグ HALについて

装着型サイボーグHALについて

 西岡さんが患っている筋ジストロフィーという病気は全身の筋肉がだんだん弱っていく病気です。現在西岡さんは定期的に装着型サイボーグHAL(下肢タイプ)を使ったトレッドミルでの歩行練習など、HALによるプログラムを継続されています。
 

装着型サイボーグHAL

 HAL®(Hybrid Assistive Limb)は、人の意志を反映した生体電位信号に基づいて、意志に従って人と一体化して機能する世界初の装着型サイボーグです。医療分野では、脳神経、筋系疾患(※)の機能改善を促進するサイバニクス治療として活用されています。福祉分野では、身体機能の回復を促すことで自立度を向上させたり、介護者の介護作業を支援したりするなど、様々な分野で活躍しています。

※脳卒中(脳梗塞、脳出血)に代表される脳血管疾患、脊髄損傷、筋ジストロフィーやALSなど神経難病 

HAL利用の様子

  電極を皮膚に貼り付け、皮膚表面から漏れ出る微力な信号(生体電位信号)をロボットが読み取り、西岡さんの意思に従って、HALが歩行をアシストします。

 

 HAL使用中の写真

 HAL使用中の写真 HAL使用中の写真

 

【利用者の声】

 西岡奈緒子さんにお話を伺いました。

 HALを使うことで、筋肉に負担をかけることなく、自分の意思で足を動かすことができます。歩けたという感覚が心地よくて、筋肉や脳が喜んでいるように感じます。できなかったことが、できるという快感はなんともいえないです。 この経験を通じて、テクノロジーの進化によって、未来にあるのは大変なことばかりとは限らないのかもしれないと思えるようになりました。

hal

HALの生みの親 CYBERDYNE山海社長(左)と西岡さん(右)

【支援者の声】

 湘南ロボケアセンター粕川隆士さんにお話をお伺いしました。

ー西岡さんの生活とテクノロジーによる未来開拓についてー

 私たち湘南ロボケアセンターは社会課題に対するテクノロジーの積極活用を目指して2013年12月から神奈川県藤沢市において装着型サイボーグHAL®︎を適用した身体機能の維持向上プログラムである「Neuro HALFIT®︎(ニューロ・ハルフィット)」の提供を開始しました。西岡さんが初めてHALをお知りになられたのは今から15年ほど前の2006年頃。HALという新しい技術が神経難病に対して適用される可能性がある事を初めて知られました。それから約8年、私たちと西岡さんの出会い(再会)は湘南ロボケアセンター開所当時からとなります。

 筋ジストロフィーは原因不明で根治困難な進行性難病であり先が見えないという不安については計り知れないものがあると察せられます。そうした状況を傾聴・共感する人としての繋がりと共に、如何に快適に過ごしていけるか、社会との繋がりをいかに保ち拡げていけるかやという面において(QOL向上)、人の身体機能や意思伝達機能を維持・向上そして、拡張してゆく事を支援してゆくうえでテクノロジーの活用は欠かせないものとなってきています。

 西岡さんの場合、テクノロジーの活用により仕事(働き方)や患者コミュニティーの構築と運営という人との繋がりが実現されてゆく中で、障がいに伴う制限をテクノロジーにより克服し人と繋がる活動自体がこれからの未来を考える上での支えに繋がっているのだと思います。現在のコロナ禍(移動や接触の自粛に伴う仕事・生活環境の変化)において誰もが先の見えない不安を抱えるなか、非接触でのサービスの活用が進み多くの方たちがデジタルシフトし、それまで障がいを持たれている特定の方(マイノリティー)が集う特定の環境から社会の多くの人たちがシフトして来たことで、これからはより一人ひとりのライフスタイルに寄り添う形でテクノロジーが使われることで多様な個々が協働・共生する環境基盤が始まり出していると感じます。

 そもそも生産的な活動の中では障がい自体がその活動の目的に対して異質なのではないと言う事が重要であると思います。 西岡さんはその障がいのため、人や社会との関係性を築く上で、テクノロジーを率先して活用し、コロナ禍の現在においてはその活用を牽引されて来たと言う点において正に未来開拓型人材だと考える訳です。

ーテクノロジーの活用について ー 

 人を支援するテクノロジーとは、人々が関わる環境において、目的を持ってそこに集う人たちがもつ多様性をそれぞれに応じて最適化してゆくことを目指して支援してゆくものだと思います。例えば、それぞれの人が必要とする健康の意味とそれに応じた一人ひとりのライフスタイルに寄り添う形で使われるテクノロジーが登場し活用される未来に進んでゆくと考えます。西岡さんは骨格筋の萎縮に伴う運動機能障害などの症状が進行してゆく筋ジストロフィーと言う希少疾患の当事者となります。週に1回ほどの頻度で合計30分くらいの歩行を中心としたHALによるプログラムを利用されているなかで、身体の血流そして代謝が向上し身体の動きが良くなると感じられており、体調の維持向上などを目的にご利用されております。西岡さんはこれを「自分の意思で歩けた感覚が心地よく、筋肉や脳が喜んでいると感じる」と表現されています。

 HALは人の脳神経系とロボットを繋げ、装着するだけで体の一部のようにロボットを機能させることができ、その特徴から「装着型サイボーグ」と呼ばれています。人が動こうとすると、指令信号が脳から神経を通じて筋肉へ送られ、その動作を実現するように筋肉が動きます。 指令信号が伝達される際、非常に微弱な 「生体電位信号」が皮膚表面から漏れ出てきており、これを皮膚に貼ったセンサを介してHALが読み取ることで、脳神経系・身体系の機能に障がいを有する多岐にわたる課題を持つ身体状況にある方に対して、その意思に従った動きを実現することができる仕組みになっており、Neuro HALFITはHALを装着してその動きを繰り返してゆく事で、脳・神経・筋系の機能の改善を促すプログラムとなります。HALのベースとなるテクノロジー領域のサイバニクスとは人・ロボット・情報が融合複合した技術領域を示すものでありますが、私たちの思う未来のありたい姿とも融合した考えであることが大切であると考えます。(人とテクノロジーの共生社会)

 障がいにより生じる課題は多岐にわたります。目的地へ向かおうとする人の感情は社会における場所の移動のような物理的空間における移動だけではなく、人との関わり、社会的空間における移動性や流動性が確保されることも重要な要素のひとつです。しかし、障がいを有する方はしばしば特定の社会的空間に閉じ込められてしまうことがあります。物理的空間ばかりではなく、人が自由に活動する環境を選んだり好きな場所で好きな人達と一緒に何かに取り組んだりする社会的空間における繋がりを確保することは重要です。

 多様性を持つ人を繋いでゆく。それを支援するうえでテクノロジーもその一翼を担う時代であると共に多岐にわたる課題を解決して行くために先進的な異分野技術の連携と融合がこれからのテクノロジー共生社会の前提になってゆくと考えます。

 最後に、西岡さんが現在のコロナ禍において先の見えない不安への共感そして、未来への希望などの思いをつづったエッセーのお言葉をお借りして多くの方たちと未来を築く力としてゆきたいと思います。

 先のことなど、想像できない。

 未来には、想像できないような、医療技術や科学技術の進化が起きる可能性だって、あるのだから。

 たまには未来のことを想像するのも楽しいかもしれない。

 その先へ。あなたとともに、未来を築きたい。

(第55回NHK障害福祉賞 西岡奈緒子さんの作品「その先へ」より抜粋)


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このページの所管所属は福祉子どもみらい局 共生推進本部室です。