初期公開日:2022年8月12日更新日:2023年9月13日

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秦野市・千村台自主防災会(QQ防災クラブ)

自主防災組織取材

取材概要

 今回取材した秦野市の千村台自主防災会は神奈川県西部の丹沢山地を臨む丘陵地にあり、小田急線渋沢駅の南側に位置しています。昭和54年に開発された高台の住宅地で、270世帯・650人が生活しています。ここでの防災活動は、災害直後の救助に重点をおいた先進的な地区防災に取り組んでおり、平成30年度に防災まちづくり大賞(消防庁)を受賞しています。
 また一部の有志者でQQ防災クラブという市民団体を作り、近隣の地域に広める活動をしています。インタビューは、受賞当時の自主防災会副会長であり、QQ防災クラブ代表である原田氏ほか4名の方から話を伺いました。
 防災活動に取り組んでおられる方に、非常に参考となる内容です。ぜひ参考にしてください。

取材の相手方

千村台自主防災会 元会長 原田 剛 様 (QQ防災クラブ 代表)

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Q1 自主防災組織の活動を始めることになった経緯など教えてください。

 平成28年度に自治会・自主防災会の副会長を引き受けたのが私の防災の始まりでした。引継ぎの際「防災倉庫のカギ」を渡されたのですが、「災害時、常に自分が開けられるのか?」と疑問に感じたことがキッカケで防災の見直しを始めました。
 自主防災会の装備や運用を確認したところ、このままでは防災として機能しない、と痛感し、「自分が助かるためにはどうすればいいのか」という視点で考えたことを役員会や総会に諮りドンドン実行しました。その結果「防災まちづくり大賞」日本防火・防災協会長賞をいただくことができました。受賞後も新しいことに取り組んでおり、 安心・安全な街づくりを目指し、長期的な計画を立てて進めております。

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Q2 千村台で想定される災害や危険なポイントなどがあれば教えてください。

 「千村台」は名前のとおり高台にあります。想定災害としては、地震・火災、それに 令和元年の台風15号の住宅地の被害を見て、「暴風」を加えました。
 地震は、近くに有名な松田―神縄断層があるため、直下型震度7を想定しています。
 危険ポイントとして最も懸念しているのは旧耐震の建物です。昭和54年の開発当時の建物が現在でも約4割残っているため、耐震性に懸念があります。それと高齢化です。敬老会で75歳以上の方をお祝いするのですが、3割以上の方がその対象になっています。災害時の避難や救助が課題です。

Q3 「防災まちづくり大賞」で評価された内容を教えてください。

自主防災会として実施した取り組みを下表に整理します。

No 着眼点 見直し策
1 『防災倉庫のカギ』の運用
災害発生時は会長や役員も被災者であり、個人でカギを持っていては災害時に開けることができない。
暗証番号式キーボックスにカギを入れて防災倉庫に取り付けた。開錠番号を全住民に周知することで、だれでも開けられるようになった。
2 『防災倉庫=救命ボックス』を身近に
防災倉庫を自主防災会エリアの端に設置していたため、災害時道具を取りに行くのに時間が掛かっていた。
道具をすぐに手に入れられるように、必要最小限の道具を「救命ボックス」に入れて、地域のあちこち(50m圏内)に設置した。要するに街角消火器の資機材版です。
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『一時避難場所』を道具のあるところに
一時避難場所は公園など広い場所に設定してあったが、家から離れていたため、助けを求める声や煙などに気付くのが遅れる懸念があった。

 50m圏にある「救命ボックス」に集まるようにした。住宅に近く、声や煙など異変にいち早く気付くことができる。
 この場所はゴミステーションであり、日頃から人の交流がある場所でもある。
4 自治会活動を『防災訓練』に
年5-6回実施している地域の一斉清掃は、自治会で設定した世帯で実施していた。
一斉清掃と一時避難場所に集まる世帯を合わせた。これにより災害時に助け合う仲間を、清掃活動で自然に知り合うことができ、その時の雑談が貴重な情報源になる。
5 安否確認を『名簿から地図に変更』
安否確認で多く使われる名簿は個人情報が入っているため、組長など責任者が管理する必要がある。そのため実際の災害時も責任者が来ないと確認作業が始められない運用であった。
Webの地図を拡大して安否確認に使用した。個人情報を含まないため救命ボックス内に置き、誰でも安否確認ができるようにした。それ以外にも以下の利点がある。
・名簿と違い変わらないので更新不要。
・どの家なのかすぐにわかる。
6 『木造集合住宅に連動式火災警報器』
木造集合住宅は1軒から火が出ると、延焼して棟全体が全焼する危険性がある。そのため、初期消火がとても重要になる。
「連動式の火災警報器」を集合住宅全世帯に2個ずつ取り付けた。万一出火すると棟の全世帯の警報器が鳴り、全員で消火や避難誘導ができるようになった。時折、料理の煙で「自主訓練」をしているようです。
7 『防災アンケート』を毎年実施
自助の啓発は実施しているが、それらが実際にどれぐらい備えられているのか把握できなかった。
全世帯を対象にした「防災アンケート」を毎年実施し、実態把握をした。普及率の低い備えに対しては対策を打ち、進捗状況を確認しながら進めた。
8 『自作感震式ブレーカー遮断器』の配布
防災アンケートの結果、普及率の低かった感震式ブレーカー遮断器について、普及策を検討した。
 簡易型の感震式ブレーカー遮断器を自主防災会で自作し、希望世帯に配布した。
 分電盤が高所にあって取り付けできない所には、取り付けまで役員で対応した。
9 『蓄光テープ』の配布
夜間に停電すると突然真っ暗になる夜間に停電すると突然真っ暗になるため、階段や段差で転倒する危険性がある。停電は、災害だけでなく平時でも発生するため、停電対策は重要である。
蓄光テープは明るい時に光を蓄え、暗くなると発光するため、階段や段差に貼っておくと深夜でも光ってくれて安全である。平時においても電気を消した後でもわかるので便利である。これを希望世帯に配布した。
10 『リアルな防災訓練』の実施
防災訓練では、訓練サイレンが鳴る前から会場に役員が集まって、テント設営や受付準備をして、訓練参加者が来るのを待っていた。
災害は突然発生する。基本に立ち返り役員も訓練サイレンを自宅で聞いてから集合することにした。それにより小人数で本部設営できるように軽量なテントの購入や安否の集計表を常設するなど工夫できた。

 

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Q4 自主防災組織の活動を行うにあたって、どのような課題がありますか。

 自主防災会は自治会の役員・構成員と基本的に同じであり、以下の課題があります。
・役員の任期が1年と短く、ノウハウ継承が難しい。
・退会される方がこの2-3年で急増し、会員が減少傾向にある。
 私が役員になった当時、会長も含め役員すべて1年任期でしたが、会長・副会長の4名の任期を2年に延長しました。住民総会に諮って決めたのですが、かなり説得に苦労しました。会長・副会長が毎年2名ずつ交代することで、前年度の経験者が常に2名いる仕組みにできました。新たに役員になる方にとって経験者の存在はとても心強いものです。それに加え、任期を設定しない防災委員を一時避難場所ごとに1名任命し、計10名の方になっていただきました。会長・副会長と防災委員の14名が自主防災会の核として運営にあたっていただいています。
 退会者の引き留めや新入会の促進には「自主防災会のメリット」が必要と感じます。
 新型コロナの影響で自治会行事がほとんど中止となり、地域コミュニティの維持が難しい状況にあります。そうした中、自主防災会としては災害時に頼りになる組織と感じていただけるのが重要だと思います。
 大きな防災倉庫が地域の端っこにあるのではなく、救助に必要な最小限の道具が身近なゴミステーション(ゴミ捨て場)にある、というのもその一つだと思います。住民の見えるところに設置することで、安心感が得られると思います。
 もう一つ、全住民の防災アンケートも実施しています。水・食料などの備蓄量の確認だけでなく、災害時の行動や共助活動でどのようなことができるかなど、そのシーンを想定して考える設問も入れました。一度考えておくことで、万一の際どう行動するべきなのか、正しく判断できると思っています。

Q5 新たに自主防災組織に参加される一般の方へのアドバイスがあれば教えてください。

 自発的に自主防災会の役員になる方は少数派だと思います。「役が回ってきて仕方なく…」というケースが大半ではないでしょうか。
 住民みんなの代表と考えるとプレッシャーを感じますが、「自分のために」と視点を変えてみましょう。そうすれば自分事として、どんな道具がどこに幾つあり、誰が使い方を知っているなど、家族や自分が生き残るための有用な情報を得ることになります。
 また、最近は通信やIT技術を使ったものが増えていますが、災害時はネットや電気などインフラが使えないことが想定されますので、ハイテクな装備より、ノコギリやバール、トランシーバーといったローテク装備が確実に使え、重宝すると考えています。

Q6 自主防災組織を活性化するためには、どのようなことが必要だとお考えですか。 県や市町村に期待することもあれば教えてください。

 防災には自助・共助・公助があり、その中で自主防災会が担当する「共助」に関する活動が停滞しているように感じています。しかし、他の自主防災会の会長・役員の方と話をすると、「何をやったらいいのかわからない」という方が意外と多くいます。
 Q3で記載した、防災まちづくり大賞で評価された内容を説明すると、その方の自主防災会の役員会に呼ばれて、改めて説明し、その地区の災害リスクなど議論しながら、防災活動が活性化し始めたところがいくつもありました。要するに「活動の方向性」と「キッカケ」、それと私という「協力者」が揃えば、活性化すると感じました。
 今回、神奈川県のホームページで本記事を載せていただけることで、「活動の方向性」を広く紹介できると思っておりますが、それだけでなくもっと積極的に自主防災会の会長・役員の方に知っていただける場ができると、より進んでいくと考えます。
 今年度、秦野市の防災指導員等研修会で自主防災会の活動に関するアンケートを実施しました。市内240ある自主防災会の7割以上の団体から回答をいただきました。設問は、防災装備に関することや防災倉庫のカギの運用、物資の配給の考え方などに加え、最後に、防災活動の支援の要否を確認したところ、3割以上の団体からQQ防災クラブの支援希望がありました。
 このように、方向性とキッカケ、そして協力者があれば活性化できると感じているところです。多くの都市に防災で活動している市民団体がありますので、行政と連携して一歩踏み込んだ支援を提案いただけるとより活性化につながると思っております。

Q7 市民団体QQ防災クラブの活動や、今後の活動や意気込みを教えてください。

 QQ防災クラブの活動の基点は、「災害時に生き残る。助かる。助ける」であり、命を救うことを中心に検討し、備えや運用を提案しています。
 当然ですが、災害直後の情報は非常に少ないです。それでも、阪神淡路大震災では消防の記録やいくつかの文献、研究報告、ネットの情報などに記録や写真が残っており、それらからようやく備えるべきものや運用が見えてきました。
 実は、震度7の地震では、自主防災会は機能しません。防災倉庫も開けられません。 地震直後すぐ動き出すのは「近隣共助」です。近隣共助と自主防災会の違いは何かというと、「道具と人」です。助ける人は、素手でヘルメットもなく、多くは単独で救助に当たっていました。ではなぜ道具がないのか、その理由は「防災倉庫のカギがない」、「何がどこにあるのか住民が知らない」、そして「無事だった人は遠く離れた避難場所」にいたのだと推測されます。
 ここから読み取れるのは、「自主防災会の装備は、近隣共助で活用できるようにする」ことで、より効率的に救助活動が進むということです。どうすればそれが実現するかというと、「キーボックス」と「救命ボックス」と「一時避難場所を50m圏に設置する」という千村台自主防災会で実施したことでした。理論的に裏付けが取れた瞬間です。
 このような方法で「安否確認」や「10分で救助するのに必要な道具は」など調べたことから導き出した内容をA6サイズの小冊子にまとめております。今までの常識が変わるような気付きが多数あり、防災啓発について考えさせられました。
 この小冊子は、秦野市役所や二宮町役場で配布していますが、ご希望がありましたら、お配り致しますので、ご連絡ください。 冊子の一部を以下にご紹介します。

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 QQ防災クラブでは、上記のような資料配布だけでなく、防災用品の配布もしております。具体的には「自作の感震式ブレーカー遮断器」や「蓄光テープのサンプル」を研修会やイベントの際に無料で配布しております(自主防災会向けに大量にお渡しする場合は材料費程度をいただいております)。
 「感震式ブレーカー遮断器を取り付けましょう!」と声高に言ってもなかなか人は動いてくれません。それなら、現物を渡せば、つけてくれるだろう、ということで自作して配布を始めました。
 先ほど説明しましように、秦野市の3割以上の自主防災会から、防災相談や感震式ブレーカー遮断器の配布などの希望がありました。秦野市の感震式ブレーカー遮断器の設置率を全国一にする、それぐらいの意気込みでがんばりたいと思っております。
 興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、作り方などお伝えしますので、ご連絡ください。

取材を終えて

 千村台自主防災会やQQ防災クラブでは、創意工夫を絶えず行い、積極的に自主防災活動に取り組んでおり、防災意識が非常に高いことに驚きました。
 救命ボックスなどの現物を見させていただきましたが、ゴミステーションは住民誰もが使用する場所であり、住民の方が身近に目につく場所に救命ボックスを設置することにより、突然災害が発生した際にも、住民の方が救命ボックスにたどり着きやすくしており、この点も、住民の命を守るためのひと工夫だと思いました。住民同士があいさつを行っている様子も印象的で、こまめにコミュニケーションをとることを意識している地域だと感じました。
 感震式ブレーカー遮断器や蓄光テープなどの手作りの防災グッズの現物も確認させていただきました。少人数でも試行錯誤しながらアイディアを出して取り組んでおり、他の自主防災組織にとっても、参考になる点が多いのではないかと思いました。
 今後も、県内の自主防災活動に積極的に取り組んでいただくことを期待しています。

 

以上

このページの所管所属はくらし安全防災局 防災部危機管理防災課です。